ブラック・ブレット 贖罪の仮面   作:ジェイソン13

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エールとリエンのウワサ

口喧嘩が長引くと大乱闘スマッシュブラザーズで決着をつけるらしい。


ミナミの女帝

 リエンの邸宅でエール、壮助、詩乃はソファーに腰掛ける。

 

 壮助は屋敷の主人(リエン)に座る所作を見られているような気がしてならなかった。自分が育ちの良い子なのか悪い子なのか見定められているのかもしれない。口八丁でインテリヤクザ達を手玉に取った女傑を不機嫌にさせまいと考えると緊張が高まる。

 そんな壮助の緊張とは裏腹にエールは足を組み、背もたれに手を乗せ、不遜な態度でリエンに挑む。リエンも承知の上なのだろう。眉を顰める様子はなく、ただ微笑んだ。

 

「ドールメーカーの原材料ねぇ……興味のそそられる話ではあるけど、まずそこの2人を紹介してくれない? 」

 

「ウチの新入りさ。失業して行く当てが無いって言うんでな。引き取ってやった」

 

「義塔です」「森高です」「「今後ともよろしくお願いします」」

 

 リエンには「灰色の盾の新入り」と紹介することでエールとは打ち合わせしていた。壮助と詩乃の正体を知っているか否かでリエンがこの件についてどこまで情報を持っているのか測る魂胆だ。

 下手に興味を持たれないよう淡白な自己紹介を済ませる。一瞬、リエンの目に不審の色が浮かび上がったが、すぐにエールに視線を戻した。

 

「へぇ~。なんでわざわざウチに連れて来たの? 」

 

「こいつらがガーデンのリエン様を一目でも見たいって言うんでな」

 

「……部下のワガママに応えてあげるなんて、お優しいボス様だこと」

 

 リエンが足を組み直し、「ふぅん」と何か言いたげな目で3人をまじまじと見つめる。

 

「こうして見ると十代で子供を産んだ二児の母みたいね。貴方」

 

「誰がママだ」

 

「子育ての予行練習には良いんじゃない? 貴方って硬派ぶってるくせして早々に結婚して、次に会った時には赤ちゃん抱いてそうだし」

 

 その時、壮助と詩乃の頭上に電球が浮かんだ。

 

「ママー帰ろうよーアニメ始まっちゃうよー」

「ママーおなかすいたー今日の晩ごはんなぁにー?」

 

 2人が猫撫で声で両サイドからエールの服を掴み、互いに取り合うように引っ張る。

 

「あははははっ。さすがはエールちゃんのお眼鏡に適った子達ね。まともじゃないわ」

 

「テメェら……後で覚えてろよ……」

 

 冗談抜きでエールの睨みが壮助と詩乃に刺さる。ママと呼ばれたことが嫌だったのか、リエンのいじりに2人が便乗したことに怒ったのか、その両方だろう。壮助は「向こうを楽しませたんだから良いだろ」と心の中で言い訳しつつも懺悔し、詩乃は何を考えているのか分からないポーカーフェイスになる。

 

「それじゃあ、つまらないコントは終わりにして本題に入りましょうか。まずドールメーカーの件、それは貴方達が厚労省の護送車を襲撃した件と関係があるのかしら? 」

 

 ――そういえば、世間的には灰色の盾が姉妹を拉致したことになってたな。

 

「ああ。勿論さ。ちなみに訊きたいんだが、どこからどこまで知っているんだ? 」

 

「警察と厚労省が把握している部分なら概ね知ってるわ。ウチの常連には警察関係者や省庁の幹部が多いの」

 

 リエンの視線が壮助と詩乃に向けられる。扇子で口元を隠し、上向き曲線の眼を向ける。

 

「勿論、貴方達が灰色の盾の新入りではなく、日向鈴音の護衛を務めていた民警ということもね」

 

 壮助は肩を落とし、ため息を吐いた。自分が鈴音の護衛をしていることは報道されていない。ニュースには義塔壮助の名前は一切出て来ていないのだ。リエンがそれを知っているということは、警察か厚労省かその両方の幹部がベッドの上で口を滑らせたということだ。情報管理の甘さに思わず落胆する。

 

「私の前で身分を偽るのはご法度だけど、エールちゃんを弄れて楽しかったから、今回は不問にしてあげる。次は無いわよ。()()()()()()()()()()()()()

 

 壮助は息を呑んだ。義搭ペアが里見事件に関与していたことを知っているのは聖居と自衛隊の一部関係者――その筈だったが、彼女はそれを知っていた。ガーデンの顧客層は壮助が思う以上に口の軽い富と権力を持て余した人々に満ちているようだ。

 彼女の怪しく艶かしい表情と仕草が勝ち誇る様に向けられる。「貴方の事は全てお見通しよ」というメッセージが込められているようだった。

 

 ――これは……下手に隠し事したまま話を通せる相手じゃねえな。

 

「お望み通り、全部話してやるよ。女帝様」

 

 それから、壮助はスカーフェイスによる護送車襲撃からタウルス・チルドレンに至るまでのあらましをリエンに話した。「今日のニュースについて話す日向姉妹」の動画を見せることで2人が今も平然と生きていることを証明する。ティナ、我堂民間警備会社、司馬重工がこちらの側に付いていることも話したが、特に驚く様子は見せなかった。こちらが情報を公開するというよりも公開することで相手に誠意を見せる儀式のようだった。

 

「――で、辿り着いたのがこの植物だ。俺達が手に入れた資料だとこいつがドールメーカーの原材料だとされている」

 

 スマートフォンにタウルス・チルドレンの画像を写し、リエンに見せる。彼女は相変わらず「ふぅん」と冷めた目で画面を見ていた。

 

「お前の()()()にあったよな」

 

「まさか、私がドールメーカーを作ったなんて思ってないでしょうね? 」

 

「思っちゃいねえよ。だからこうして堂々と来てるんだ」

 

 リエンとエールがじっと睨み合う。眼で互いの意思を確認し、何かが通じ合うと同時にふっと鼻で笑う。その直後、ほんの一瞬、リエンは壮助をちらりと見た。

 

「来なさい。タウルス・チルドレンを見せてあげる」

 

 リエンが立ち上がり、続いてエール、壮助、詩乃も立ち上がる。彼女に連れられて屋敷の廊下を歩くと隣接する旧・植物園に入った。

 屋敷の倍ほどある全面ガラス張りのハウスに太陽の光が直接射し込む。内部は熱帯の気候を維持するためか多数の空調設備が部屋を暖めるために稼働している。無論、そこで育成されている植物も本来は熱帯のジャングルで自生しているものたちだ。

 映画でしか見たことのない自分より太い樹木や鮮やかな花、囀りながら頭上を飛ぶ小鳥や未踏領域でも見かけない派手な昆虫に壮助は目を奪われる。

 

「お疲れ様です。リエン様」

 

 農具を持った少年がハウスの奥から出て来た。手袋と長靴、オーバーオールが土で汚れており、日に焼けないよう帽子を目深に被っている。服装からして、ここで雇われている庭師だろう。声は若く、壮助と同じくらいの年齢だと思われる。

 リエンへの礼儀として少年が帽子を外し、顔を見せた。面長な顔立ちと生来の黒い瞳、オールバックで後ろに束ねた長い黒髪が露わになる。つり目と顔の傷のせいか、庭師というよりは戦場帰りの兵士に見える。

 帽子を上げ、壮助たちの顔を見た瞬間、少年の顔色が一瞬で変わった。

 

「どうかしたの? 」

 

「……少し日に当たり過ぎたようです。休んできます」

 

「お大事に」

 

 庭師の少年が去る。リエンは彼の変容を特に気にすること無く、植物園の奥へと案内する。

 到着した場所は植物園のほぼ中心、周囲のジャングルに似つかわしくない鋼鉄の箱の前だった。人間4~5人が入ればそれで一杯になる程度の大きさだ。

 

「この中にタウルス・チルドレンがあるわ」

 

 壮助達に背を向けていたリエンが振り向く。彼女は不敵な笑みを浮かべている。

 

「実を言うとね。私もドールメーカーのことを追っていたの。この中の子がその原材料だということも知っていたわ」

 

 騙された気になり、3人の表情に怒りが滲み出る。エールはリエンに聞こえる大きさで舌打ちした。

 

「私らがドールメーカーを追ってること知ってただろ。何で教えなかったんだよ」

 

「教える義理も無ければ、メリットも無かったから。――けど、今は違う」

 

 リエンの首が傾き、彼女の視線は壮助に釘付けになる。壮助は蛇に睨まれた蛙のように緊張で心拍数が上がり、汗が頬を流れる。

 

「義塔くん。私から()()()があるの。貴方がそれを聞き入れてくれたら、私が知る全てを話してあげる。この中で、2()()()()()()()()()()()()

 

 エールがジャケットの裏にある9mm拳銃をチラつかせ、グリップを握る。詩乃も目を赤く輝かせ、拳を握って構える。

 

「安心して。獲って食べたりはしないわ。私って、お花より重い物を持ったことがない可憐な乙女なのよ。エールちゃんと詩乃ちゃんを怒らせたら確実に死んじゃうわ」

 

 西外周区最強の武闘派ギャング、序列元50位と互角に戦ったイニシエーター、この2人を相手にしてリエンが勝利するとは思えない。自分にもしものことがあれば、詩乃は怒り狂って彼女をミンチにするだろう。更に言えば、壮助自身も機械化兵士であり、並大抵の呪われた子供に倒されるほど弱くはない。

 リエンの目的は「2人きりの秘密の話」だ。壮助は誘いに乗っても大丈夫だという理由を自分の中で挙げていき、自分を納得させる。

 

「詩乃。もし15分で俺が出て来なかったら、この箱をぶっ壊せ」

 

「……了解」と不服そうな顔で詩乃は答えた。

 

「ふふっ。15分で話が済めば良いのだけれど」

 

 リエンが扉のセンサーに網膜、静脈をスキャンさせ、パスワードを入力する。扉が開き、リエンが入った後、壮助を手招きする。2人が入った後、扉は再び閉まった。

 内部は銀色の壁で囲まれており、太陽光を模した白色LEDライトで明るく照らされている。土と草と虫と小鳥――有機物に溢れた外とは対照的に内部は実験室のように無機物がほとんどを占めていた。奥のガラスケースにタウルス・チルドレンが鎮座していた。

 虹色の花に目を奪われる壮助の襟首をリエンが掴み、壁に叩き付けた。一瞬、怯んだ隙に彼女は壮助の両頬に手を当てて、顔を自分に近付ける。香水の香りとお互いの吐息がかかり、今にも接吻しそうな距離で。

 

「不思議ね……。5年前のあの時と同じ眼をしてるわ」

 

「アンタとは初対面のはずだぜ」

 

 

 

 

 

「ええ。貴方のことじゃないわ。――――天童木更のことよ

 

 

 

 

 

 その名を聞いた瞬間、壮助の瞳孔が開く。まさか、ここで、彼女の名を聞くとは思わなかった。

 

「貴方に私のフルネームを教えてあげる。名はグウェン・チ・リエン。生まれはベトナム・ハノイエリア。8歳の時、赤目を理由に親に売られて、天童家に雇われたブローカーを経由してこの国に()()()()()()。変態の遊び道具としてね」

 

 イクステトラの特訓の時、ティナに聞かされたことがある。天童家の一人、天童和光は途上国から少女を買い取り、権力者への賄賂として使っていたと――。賄賂として使われた少女達の顛末をティナは語らなかった。語るまでもなく想像に容易かったからだ。

 

「60も70も歳上の爺さんに抱かれて、その息子に抱かれて、その孫に抱かれて、鞭で叩かれて、ナイフで切り刻まれて、銃で撃たれて、連中の下卑た笑い声を聞く毎日だったわ。私は自分の心を殺して、人形になるしかなかった。それしか自分を救う手段が無かったの。

 

 

 

 

 

 

 ――でもある日、彼女は殺戮を以って私を地獄から救ってくれた。

 

 

 

 

 

 天童木更はね……私にとっての女神なの」

 

 

 

 




オマケ 前回のアンケート結果

鈴音・美樹「「お願い」」エール「駄目だ……。いくらお前達の頼みでも――

(6) 天誅レッドのコスプレなんてやらないぞ!
(1) 天誅ブルーのコスプレなんて(略)
(2) 天誅バイオレッドのコスプレなんて(略)
(2) 天誅プリンセスのコスプレなんて(略)
(2) 天誅ダークネスのコスプレなんて(略)
(1) 天誅レッドカスタムのコスプレなんて(略)
(1) 天誅フルアーマーのコスプレなんて(略)
(9) 天誅ファイナルのコスプレなんて(略) ←

※0票は省略。


エール「つーか、私に合うサイズなんて無いだろ! ! 」←身長186cm

鈴音「天誅ファイナルなら大丈夫ですよ」

美樹「天誅ファイナルならむしろ身長あった方が良いよね」

ティナ「天誅ファイナルの衣装が完成しましたー」

説明しよう。天誅ファイナルとは天誅ガールズ第五期「幕末剣客伝」の最終話で登場した9代目天誅レッドの最終フォームである。過去・現在・未来問わず全ての天誅ガールズの衣装をかき集め、力を結集させた最強の天誅装束である。
そのサイズは最早、衣装ではなく巨大ロボであり、アメリカ合衆国海軍東インド艦隊の蒸気船(黒船)と合体したアルティメット吉良上野介MkⅢと巨大ロボットガチンコバトルを繰り広げた(江戸城をぶっ壊した)。

エール「重い……。動けねえ……」←着た。

鈴音・美樹「「本当に着ちゃった……」」

ティナ「デンドロビウムみたいですね」

朝霞「小林幸子ごっこですか?」


次回「共犯者」

どのママに育てて貰う?

  • エールママ
  • リエンママ
  • 詩乃ママ
  • ティナママ
  • 朝霞ママ
  • 鈴音ママ
  • 美樹ママ

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