ブラック・ブレット 贖罪の仮面   作:ジェイソン13

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皆さんお待たせしました。
ティナ先生のドキドキお泊りレッスンの完結編です。

※普段の倍以上の文章量になっていますので、通勤・通学のちょっとした時間や暇潰しに読んでいる方はお気をつけ下さい。


銃と暴力とピザに塗れた90日 後編

「ああ――――クソッ。まだ痛ぇ。さっきのガチ殺し用の技だろ。俺が斥力フィールド張って威力落としてなかったら死んでたぞ」

 

 司馬重工の多目的施設“エクステトラ”にあるトレーニングルーム(という名の元・倉庫)で壮助はモップがけしていた。訓練の間に流した汗、自分が吐き出した血や何かよく分からない体液を水で拭き取る。訓練が終わった後、ティナがピザを作っている間に壮助がトレーニングルームの掃除を行うのが決まりとなっており、それは訓練終了時にモップを握れない身体になったとしてもお構いなしだ。

 

「っていうか、今日どうするんだ? 先生のIDが無いとこことシャワー室とトイレしか行けねえんだけど」

 

 掃除用具を洗っていると背後にある鉄製の自動扉が開く音がした。壮助は一瞬、ティナが戻って来たのだと思った。何もない部屋とトイレを往復するしかない退屈な1日を過ごさずに済む喜びとトラウマを刺激してガチギレ中のティナにボコボコにされる恐怖が同時に顔に出る。

 

「あ! ! おったおった! ! 義塔ちゃん。すぐ来て! ! 」

 

 しかし、トレーニングルームに入って来たのは司馬未織だった。半月前、ここの来た時に会った彼女は余裕に満ちたはんなり京美人だったが、そのイメージが崩れるくらい彼女は慌てた様子だった。その和服姿で走り回ったのだろう。着物は汗が滲み、髪のセットも崩れて頬にベッタリとひっついている。

 

「俺、ここから出られないんすけど」

 

「んなもんウチの権限で出したる! ! 」

 

 当然のことながら、司馬重工第三技術開発局長という肩書を持つ彼女のIDはエクステトラ内部を自由に行き来することが出来る。

 未織は壮助の手を掴むと事情が全く把握できていない壮助を引っ張り、彼をトレーニングルームの外へ引っ張り出す。半月前、ここへ来る時に通った廊下を逆に辿り、正面ロビーまで連れて来られた。

 そこは半月前に見たロビーとは違っていた。半月前は司馬重工の最新技術を集めた施設らしい未来的なデザインのロビーだったが、今はその面影を残さず、見るも無惨な光景になっていた。

 中央の受付兼インフォメーションセンターは砲撃でも食らったのか原形を留めないほど崩れ、床や壁の随所にはクレーターが形成されている。ふと地面を見ると砲撃で吹っ飛んだ受付の破片や空薬莢が転がり、エクステトラお抱えの警備員や民警たちが倒れている。

 

「君はもう包囲されている! ! 大人しく投降しなさい! ! 」

 

 ライオットシールドを構えた警備員たちが一人の襲撃者を取り囲む。

 取り囲まれた襲撃者は身構えることなく、今の状況を危機とすら思っていない余裕を見せる。しかし、目標となる人物がまだ姿を現さないことに苛立っているのか包囲する民警たちを睨みつけている。

 壮助は警備員たちの陰に隠れて襲撃者の姿が見えなかったが、ライオットシールドの隙間から覗くことが出来た。

 襲撃者は、どこをどう見ても壮助のイニシエーター・森高詩乃だった。彼女は右手に30式7.62mm小銃のグリップを握り、左手には人質にしているのだろうか気絶したイニシエーターの首を握っている。30式7.62mm小銃は司馬重工が製造して自衛隊に卸している銃器であり、壮助たちの持ち物ではない。おそらく司馬重工の民警や警備隊から奪ったものだろう。

 詩乃もライオットシールドの隙間から壮助が見えたのだろう。赤く輝く瞳を壮助に固定する。

 

 ――あ、これガチで怒ってるやつだ。

 

 壮助は身の危険を感じ、逃げ出そうとするが未織に襟首を掴まれる。

 

「なに逃げようとしてるん? あないに可愛い女の子甲斐甲斐しゅう会いに来てくれたのに」

 

「司馬さんにはあれが可愛い女の子に見えるんすか? あれは、どう見ても汎用人型決戦兵器っすよ」

 

「自分のイニシエーターになんて言い草や。ほら、自分の女のご機嫌取りぐらい自分でしたらええ」

 

 襟首を掴んだ未織の手に振り回され、壮助は詩乃の前に押し出された。未織に尻を蹴飛ばされた勢いやティナの訓練による疲労もあってかスライディング土下座するように詩乃の前に倒れ込む。

 

「ねぇ? 壮助。何日経った? 」

 

「え? 」

 

「ティナと密室でイチャイチャするようになって何日経った? 」

 

「じゅ、15日です! ! サー! ! 」

 

 ――と土下座形態だった壮助は直立し、軍隊式の敬礼をしながら返答する。

 突然、詩乃は左手に握っていたイニシエーターを投げつける。壮助は咄嗟に回避たことで宙に浮いたイニシエーターの身体は背後にいた警備員たちのライオットシールドに叩きつけられる。誰か彼女を受け止めてあげろよと心の中で思うが、何人もの男達が薙ぎ倒される光景を見るとシールドで受けたのは正解だったと思える。

 

「2~3日で出て来るって言ったよね? なんで帰って来ないの? 何で15日もティナと一緒にいるの? 何で私の傍にいてくれないの? 」

 

「いや、その……あの人の強さが想定外だったっていうか、メチャクチャ強いっていうか……。正直、今でも目途が立ってないっていうか……はい」

 

 壮助は正座し、しどろもどろになりながら仕事で大きなミスを犯したダメ会社員のような弁明を繰り返す。目は完全に泳いでおり、詩乃を直視できていない。

 

「…………」

 

「森高さん? お願いだから何か言って? 黙ってる方が恐ぇよ! ! 」

 

 壮助は詩乃の両腕に縋りつく。その光景を詩乃は冷ややかな目で見た後、彼を足蹴りして引っ繰り返す。

 詩乃は30式7.62mm機関銃の銃身を両手に握ると「ふんっ! ! 」と言って折り曲げ、真っ二つにする。自社製品を発泡スチロール製のハリボテのように壊される光景に司馬重工職員たちは顔が真っ青になる。ライバル企業によるヘイトパフォーマンスを見ている気分だ。

 

「私が……、私が、壮助のいない15日をどんな気持ちで過ごしたか分かる? 誰もいない部屋で起きて、誰もいない部屋で朝ご飯食べて、誰もいない部屋に向かって『行ってきます』って言う私の気持ちが分かる?

朝は一人で登校して、学校では教科書読むだけで十分な内容のつまらない授業を受けて、昼は食堂で私のために作られた特別メニュー・日替わりランチ特盛(4人前相当)を食べて、午後の授業では居眠りして先生に怒られて、放課後は友達と一緒にラーメン食べに行って盛々軒の替え玉チャレンジの最高記録を更新して、夜は大角か空子か松崎さんの家を転々として夕食をご馳走になって、夜になったら自宅に戻って誰もいない部屋に向かって『ただいま』って言う私の気持ちが分かる? 」

 

「いや、お前けっこう一人暮らし満喫してるよね? 」

 

 ドォン! !

 

「ひぃっ! ! 」

 

 壮助の言葉を消し飛ばすかのように詩乃は地面を踏みつけ、床にクレーターを作る。

 

「昔は良かったよ。毎晩、壮助が抱きしめて身体を温めてくれた。絶対に忘れられないくらい情熱的に愛してくれた。身体があの温もりを覚えているのに、今の私はずっと一人。クローゼットから壮助の服を全部取り出して布団代わりにしても虚しさしか出て来ない」

 

「そんなことした覚えは無えし、会った時から今までずっと布団は別々だっただろうが! ! この変態イニシエーター! ! とんでもねえ嘘ついて俺との関係を捏造しやがって! ! 」

 

「あともの凄く暇だったから、暇潰しに壮助のノートパソコンのパスワード解除した」

 

 その言葉を聞いた瞬間、壮助は硬直した。

 

「あ、あの……森高さん? まさか……」

 

「『Laocoon製品のインストールファイル』の中身も全部見たよ。勿論、その中に隠されていた()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「   」

 

 目の前が真っ白になった。もう何も考えられない。考えたくなかった。

 

「うわああああああああああああああああああ! ! ! ! ! ! ! ! 殺してくれ! ! ! ! ! ! ! ! いっそのこと殺してくれえええええええええええええ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! 」

 

 頭を抱え、衆人環視の中で壮助は慟哭する。

 この瞬間、壮助はその場にいた女性職員全員を敵に回した。彼女達は汚物を見る様な視線を壮助に向ける。対して、男性職員は壮助に同情し「御愁傷様」とボソリと呟いた。

 詩乃は壮助に歩み寄り、彼の肩を軽く叩いた。

 

「でも安心して。

 ――代わりに私のエッチな自撮り画像をたくさん入れたから。これでオカズには困らないね。いや、そもそも私がいるんだから、そんな画像すら必要ないよね。大丈夫。壮助がその中にどんなに倒錯した性癖を持っていたとしても私は受け入れるから」

 

 詩乃は誇らしげに語り、ガッツポーズを決める。

 

 その後、壮助は女性職員から「変態」「最低」「ロリコンヤンキー」と罵られながら袋叩きにされ、男性職員からも「俺達の仕事邪魔してまでイチャコラしやがって」「羨ましいぞ」「その画像寄越せ」と袋叩きにされた。

 

 これほどまでに酷い公開処刑があっただろうか。

 

 ティナの訓練に15日耐えた壮助の心は遂に折れた。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 未織に中断されたトレーニングルームの掃除の続きを2人でやりながら、壮助はこの15日間のことを詩乃に話した。ティナにナイフを当てないとクリア出来ないこと、赤目の力が無くても彼女は強いこと、食事はピザばかりだったこと――

 

「それで、正攻法じゃ勝てないと悟った壮助はティナに色々と酷いことを言って精神攻撃して、ずっと隠していた機械化兵士の力も使ったけどボロクソに負けたんだね」

 

「大正解だよ。俺の服に盗聴器でも仕掛けてたのか? 」

 

「まさか。感情的にさせて理性の仮面を外したい相手、本音を引き出したい相手に壮助がそういう手段を使うのはよく知っているから。それで――ティナの本音は聞けたの? 」

 

 壮助は図星を突かれたのか、視線を逸らして詩乃から顔を隠す。見えていなくても背後から彼女の視線が突き刺さるのが分かる。

 しばらく黙り込むと目配せして自分と詩乃以外、誰もいないことを確認する。

 

「…………このこと、誰にも話すなよ」

 

「了解」

 

 詩乃は静かに笑みを浮かべる。

 壮助はモップがけする手を止めると大きく溜め息を吐いた。

 

「ガキの頃、俺が初めて里見に会った日のことは話したよな」

 

「会ったっていうか、見たが正しいけどね」

 

 揚げ足を取る詩乃に少しムッとするが、気にしないように努める。

 

「俺にとって、里見蓮太郎はヒーローなんだよ。空港の戦いであいつの弱さを見ても、闇を見ても、絶望を見ても、熱々のバラニウムで内臓を消炭にされても……。どうしてなんだろうな。俺はまだあいつを見限っちゃいないんだ。

 里見事件はまだ終わっていない。あいつの魂はまだ地獄の中だ。あいつはまだ全てを失ったままだ。このままだとあいつは牢獄の中で腐って終わる。あいつが信じたものも、あいつを信じた連中の想いも、今度こそ本当に無駄で、無意味で、無価値なものになる。

 ――どうにかしてあげたい。救いたい。けど、残念なことに俺に出来るのは喧嘩を売るぐらいで、俺の手元にはあいつを救うためのカードが無いんだよ。

 そんなところに来たのがティナ・スプラウトだ。あいつが藍原や天童さんと一緒に名前を挙げた人がウチに来て、俺を訓練するとか言い始めた時は何事かと思ったよ。けど、昔の里見を知っている人と話をするチャンスが出来るのは嬉しかったし、ティナ先生が里見のことをどう思っているのか、俺と同じように里見を救いたいのかどうか知りたかった」

 

「彼女の真意は聞けたの? 」

 

「あの人が里見のことを見限っていないのは確かだ。昔話するだけで見てるこっちが辛くなるような顔して、ちょっとこっちが里見の話をしただけで動揺して、ガチの殺人術使うぐらい未練残りまくってる」

 

 蓮太郎を救いたいけど救えない壮助の前にそれを可能とするティナが現れたのだから、それはきっと喜ぶべきことなのだろう。しかし、彼の目は、言葉は、モップのハンドルを握る手は、溢れそうな憤りを必死に抑えているように見えた。

 

「それなのにあのクソアマは半月もこんなところで何やってるんだよ! ! ティナ先生が今やるべきなのは里見に会うことだ! ! あいつに会って、あいつを救うことだ! ! それなのに半月も俺なんか鍛えることに費やしやがって! ! 」

 

 壮助は怒りに身を任せてモップを壁に叩きつける。詩乃はそれに驚くことなく、冷ややかに、しかし温かく見守る。

 

「壮助はティナに嫉妬してるんだね」

 

「どういう意味だよ」

 

「そのままの意味だよ。本当は、()()()どうにかしたかった。()()()憧れのヒーローを救うことで認めて貰いたかった。けど、自分にはそれが出来ないと分かって、更にそれが出来る人が目の前に現れたから、壮助は嫉妬に狂いそうになりながらティナに里見を救わせようとしている」

 

 壮助は閉口する。パソコンやスマホの中だけでなく、心の中まで詩乃に把握されてしまっているのではないかと考えるくらい彼女の言っていることは的を射ていた。もう自分は身体も魂も森高詩乃から逃げられないのではないかと、そう感じてしまっている。

 心の中ではもう認めている。自分はティナに嫉妬している。今日の発言だって、そうだ。ティナを怒らせないように、悲しませないように蓮太郎に対する想いを聞く上手い手段はあった筈だ。それを選ぼうとしなかった。いや、()()()()()()()()()()()()()()

 

「まぁ、壮助の気持ちはともかく、悪口言ったことは謝った方が良いよ」

 

「出来るかよ。そんなこと」

 

 壮助はそっぽ向いた。理由なんてない。反論の余地なんて無い。捻くれた性格のせいで素直にしていれば簡単だったことをルーブ・ゴールドバーグ・マシンのように複雑にしてしまったことなどいくらでもある。そこまで分かっていても、子供じみたプライドだけが彼を動かしていた。

 

「分かった。じゃあ、こうしよう」

 

 詩乃は握り拳を作ると壁を殴った。凄まじい轟音と共にコンクリート製の壁に穴が空く。穴から拳を抜くと亀裂が広がっていき、天井にまで到達する。彼女の一撃でエクステトラが倒壊するのではないかと考えてしまう。

 

「言わないなら今日はティナの代わりに私が壮助を殴る。言っておくけど、私だって半月も放置プレイされてけっこう怒ってるからね。手加減なんて出来ないよ」

 

 壮助は首を縦に振った。命惜しさに子供じみたプライドを捨てた。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 エクステトラから飛び出したティナは施設から出て行き、警備員の制止を振り切って敷地からも飛び出した。腕で涙を拭いながら足が動くままに歩き続ける。こんなにも感傷的で、女々しいことをしたのは何年振りだろうか。

 当てもなく足が疲れるまで歩いたティナは広場のベンチに腰掛けた。

 広場は噴水を中心にベンチや芝生が円形に広がる西洋式のものだ。今日は休日なのか芝生でシートを敷いてちょっとしたピクニックを楽しむ家族、健康のためにジョギングをしている老人、近くのグラウンドに遊びに行く中学生たちの姿が見える。

 広場の中心にある噴水から霧散する水飛沫が火照った身体を冷やしてくれる。同時に熱くなっていた頭も冷えていき、自分の行いを冷静に振り返られるようになる。

 

 ――何をやっているんでしょうか。私……。

 

 ティナはベンチで頭を抱える。壮助に蓮太郎のことを指摘されて感情的になった挙句、彼を殺しかけ、(一応、「今日は終わり」と言ったものの)訓練を途中で投げ出したのだ。元はと言えばティナを傷つける意図で蓮太郎のことを話した壮助が悪いのだが、コンバットインストラクターを名乗り、松崎にも依頼された手前、感情論だけで訓練を投げ出した自分を肯定することは出来なかった。

 

「おや。今日はお休みですか」

 

 頭上から初老の男性の声が聞こえる。その声調は穏和でティナを優しく包みこむようなものだが、ティナにとって出来れば今は逢いたくない人の声でもあった。

 

「松崎さん……」

 

 顔を上げると杖をついた初老の男性が目の前に立っていた。小さな丸眼鏡を鼻にかけ、声と同じように穏和な笑み浮かべる。

 

「どうしてここに……?」

 

「近くに用事がありましてね。いつもここを通っているんです。お隣、良いですかな? 」

 

「大丈夫です」

 

 松崎は「よっこらせ」と爺臭い言葉を発しながら、ティナの隣に座る。

 

「ところで、訓練は順調ですか? 」

 

 壮助のことを松崎に正直に話そうか、取り繕うか悩んでいた。しかし、取り繕ったところですぐにボロが出る。壮助が話せば辻褄が合わなくなることは明白だった。それ以上に東京エリアでの生活でお世話になっている松崎に嘘を吐くのは強い後ろめたさがあった。

 ティナは訓練のことを全て話した。エクステトラに監禁して嬲り殺しにしたこと、蓮太郎のことを話に出した壮助に激昂して殺しかけたこと、訓練を投げ出してここまで歩いて来たこと――。

 

「義搭くんがそんなことを……」

 

「はい……」

 

 松崎は「戦闘は素人なので」と訓練内容の是非は問わなかった。彼が注目したのは壮助の言動だ。特に驚いた様子はない。ティナの表情や腫れた瞼から既に事情は察していたのだろう。

 

「彼のことは、見損ないましたか? 」

 

「いえ。ただ、彼の言葉が想定以上に痛かっただけです」

 

 ティナは微かにふふっと鼻で笑う。

 

「彼は意外と鋭いですね。もう気付いているんですよ。私が今でも蓮太郎さんから逃げていることに――――」

 

 “私は、蓮太郎さんが恐いです。”

 

 その言葉から、ティナは5年前、蓮太郎と袂を別った時のことを振り返る。

 まるで延珠と木更の後を追うように自殺同然の戦いを繰り広げた蓮太郎を諫め、満身創痍になっても戦い続けようとする彼を止めようとしたあの日、ティナは死の恐怖に支配された。

 聖天子暗殺未遂事件の時のように壮絶な戦いになると覚悟はしていた。もう元の関係には戻れないだろうと覚悟していた。蓮太郎を止めることが出来るのなら、何もかもが壊れても構わないと思っていた。

 しかし、心のどこかで蓮太郎は自分を殺したりしないだろう、また元に戻れるだろうと根拠のない甘えがあった。故に彼女は恐怖した。本気で自分を倒そうとする蓮太郎に、暗殺未遂事件の時とは比べ物にならない執念で戦い続けた彼に――。

 

『来ないで……ください。近づかないで下さい。私は……お兄さんが、怖いです』

 

 武器を手放し、懇願し、年相応の少女のように泣きじゃくる。敗北したティナに出来る事はそれだけだった。

 そして、IP序列50位の里見蓮太郎とティナ・スプラウトのペアは解消された。

 ティナが東京エリアを離れて過ごした5年を要約すると、逃避という単語で済まされる。

 蓮太郎と袂を別った後、IISOは元高位序列者ということもあり、彼女の能力を最大限発揮できるプロモーターを特別に選定しペアを組ませた。

 

 サーリッシュグループ会長 “オッティーリア・サーリッシュ”

 

 ガストレア大戦期に混乱するアメリカ社会を駆け抜け、小さな採掘会社だったサーリッシュをアメリカ第三位の巨大民警企業に押し上げた「女傑」だった。

 IISOの思惑通り、オッティーリアは企業総出でティナのバックアップを行った。シェンフィールドの機能拡張、人工知能のアップデートによるティナの負担軽減、新たなドローン指揮系統構築による独立武装機動群構想の実現、etc……。幾多ものアップデートを繰り返したことでシェンフィールドは一晩で数千体のガストレア群を殲滅する“たった一人の海軍(ワンマンネービー)”の名に相応しい火力を手に入れた。

 その能力でティナは戦場を渡り歩いた。大陸をガストレアの屍で埋め尽くし、いくつものエリアを大絶滅から救ってきた。

 

 

 

 本当に救いたい人から目を背けて、何十万、何百万もの人を救ってきた。

 

 

 

 そうやって逃げ続けた彼女に転機をもたらしたのは聖天子だった。「東京エリアで里見蓮太郎の目撃情報あり」と直筆の一文が綴られた手紙と共に東京エリア行きの航空券がクアラルンプールエリアのホテルに送られて来たのだ。

 

『蓮太郎さんから逃げるなと、そう言いたいんですか』

 

 ホテルの部屋の番号まで突き止めて送られてきた航空券を見て、ティナは呟いた。

 この5年間で自分は変わった。単独で数千体のガストレアを倒す能力、そして実績を積んだ今の自分なら蓮太郎に臆することは無い筈だ。彼を止めることが出来る筈だ。そう思い、彼女は東京エリアへと向かった。

 だが、現実は理想を裏切った。理論上不可能とされるBMIネットワークへの介入により、シェンフィールドの制御権を奪われ、小比奈と一時的に共闘してもその圧倒的な力に敗北した。

 

 “弾丸も、刃も、言葉も彼には届かなかった。”

 

 “強くなったのはシェンフィールドだけで、自分は何も変わっていなかった。”

 

 その現実が受け止められず、ティナは再び逃避した。シェンフィールド全滅を理由に民警を休業し、かつて天童民間警備会社があった場所に入り浸った。何の為に生きてきたのか分からない。これから何の為に生きればいいのか分からない。思い出の残り香を消費するだけの日々を過ごしていた彼女にとって、壮助の言葉は古傷に塗られた劇薬だった。

 松崎はティナがこうなると最初から分かっていたかのように笑みを浮かべた。

 

「少しばかり私の用事に付き合って頂けませんか? 」

 

 唐突なお願いにティナは困惑した。松崎の意図が分からなかったが、首を縦に振った。

 

 

 

 

 松崎の荷物を持ちながら、ティナはエスコートされてとある施設に辿り着いた。

「ひまわりの庭」と名付けられたその施設は四方を壁で囲まれ、出入り口には警備員のような制服に身を包んだ男女が立っている。男は30代ぐらい、女は見た感じ、ティナとそう年齢は変わらない。制服の胸に入っている「我堂民間警備会社」の刺繍のお陰で2人がプロモーターとイニシエーターであることが分かった。

 松崎が民警ペアに挨拶すると民警ペアもにっこり笑って返した。松崎の後をティナが付いて行くとイニシエーターに止められる。どうやら何度も来ている松崎は顔パスで通れるが、ティナは色々とチェックを受けないといけないらしい。荷物の中身を見せ、イニシエーターからのボディチェックを受けてティナはようやく門をくぐることが出来た。

 物々しい警備とは裏腹に中は朗らかな雰囲気だ。姿はまだ見えないが、子供たちの遊ぶ声が奥から聞こえてくる。

 入口近くの職員室から50代ぐらいの女性が姿を現す。私服にエプロンを付けたラフな格好をしており、世話焼きおばさんといった印象を受ける。

 

「あら。松崎さん。いらっしゃい。そちらの方は? 」

 

「私の知人です。ここを見せたかったので」

 

「ティナ・スプラウトです。小さい頃、松崎さんのお世話になりました」

 

 松崎はティナに持たせていた紙袋を自分で持つと職員の女性に差し出す。

 

「あと、これ、つまらないものですが皆さんでどうぞ」

 

「あらまぁ~。いつもありがとうございます。ごめんなさいね。貰ってばかりで。寄付金だけでも助かっているのに」

 

「いえいえ。こちらこそ、子供たちの世話をして貰っていますから。まだ足りないと思っているくらいですよ」

 

「あ。松崎のおじさん」

 

 挨拶を交わし、互いに謙遜する2人の下に2人の少女が歩み寄る。顔が似ているので姉妹だろう。姉は10歳かそれより少し上ぐらいだろうか。短くさっぱりと切られた髪は彼女の活発な雰囲気を窺わせる。5歳ぐらいの妹は姉の手にしがみ付いている。恥ずかしがり屋なのか姉の背に隠れながら片目でじっとティナを見る。

 

「今日もお菓子を持って来てくれたの? 」

 

「ええ。みなさんで食べてください」

 

「やった~。今月、お小遣い全部使っちゃったから欲しかったんだよね」

 

 姉がお菓子を取ろうと紙袋に手を突っ込むが職員に手を叩かれて遮られる。

 

「いった~い。暴力はんたーい」

 

「ちゃんと松崎さんにお礼を言いなさい」

 

「へーい」

 

 姉が松崎に頭を下げてお礼を言っている間も妹はじっとティナを見つめる。

 ティナは屈んで妹の方と視線を合わせる。

 

「どうかしましたか?」

 

「汗くさい」

 

「うっ……」

 

 そういえばシャワーも浴びず、トレーニングウェアのまま外に出たんだった――とティナは今更ながら自分の格好を思い出す。それほど露出は多くない(と思う)が、この格好のまま外をずっと歩いていたと思うと顔から火が出そうになる。

 

「あなたは()()()()()()()()? 」

 

「入ってる? 」

 

「保有因子のことですよ」

 

 一瞬、ティナは自分が呪われた子供だと見破られたと思った。無意識の内に瞳が赤くなっていたのではないかと焦る。

 

「ティナさんのことをここの新入りか何かだと思ったのだと思います。2人は貴方と同じ呪われた子供(赤目)なんです。更に言えば、ここはそういった子供たちを保護するための施設ですので、子供のほとんどが呪われた子供ですよ」

 松崎の説明を聞いて、児童養護施設にしてはやけに物々しい警備に納得がいった。呪われた子供を保護するための施設が街中に堂々と存在し、テロに見舞われていないのはガストレア新法がただの文章ではなく、法としてしっかり機能している証だった。

 

「私はフクロウの因子を持っています。遠くのものが見えたり、真夜中でも昼と同じくらいの明るさでものを見たりすることが出来ます」

 

「すごーい。私はね。このまえの検査で初めて分かったの。ライオンだって」

 

 彼女は「がおー」と言って指を立てると少しだけ爪が鋭く伸びた。関東会戦で共に戦った布施翠のものと比べればかなり短い。

 

「亜衣! ! 奈子! ! 今日の掃除当番忘れてるでしょー」

 

 奥の方からまた別の少女が大声で姉妹を呼ぶ。

 

「あっ。やべえ。忘れてた。松崎のおじさん。お菓子あざっす」

 

「ごめん! ! 今行くー! ! 」と言って、姉の亜衣は妹の手を引いて奥へと戻っていった。

 

「少し案内しますよ」――そう言って、松崎はティナを連れて施設を歩いて回る。

 この施設には30人ほどの呪われた子供が暮らしている。赤い目を理由に親から虐待されていた子、ストリートチルドレン、ギャング、元イニシエーター、違法風俗で働かされていた子もおり、そういった子供たちが普通の人として社会に入れるように支援することを目的としている。

 呪われた子供を保護するための施設という名目の通り、子供達は皆が女の子だ。その年齢層は赤子からティナとそう変わらない年齢の子まで幅広い。和気藹々としているところもあれば、気難しいお年頃なのか喧嘩して取っ組み合いになっているところもある。目が赤くなければ普通の人間と見分けがつかない活気ある少女たちの姿が見える。

 

 しかし、それとは正反対にこの世の全てを恨めしそうに睨む少女もいる。親や反赤目主義者に酷い仕打ちを受けて人間不信に陥っているのだろう。ぬいぐるみを抱きしめ、じっと部屋の隅でうずくまっている。若い男性職員が昼食の乗ったトレーを持ち、少女に食べるように説得する。職員は何度も彼女の赤目の力に晒されたのだろうか、顔にはガーゼ、腕には包帯が巻かれており、エプロンの下には市販の防弾チョッキを着こんでいる。それでも諦めずに心を開かせようと何度も話しかける彼の姿には強い意志が感じられる。

 

 普通の人間ではない。その身の中にガストレアの力を宿した少女の人権を認め、守り、人間社会へと適応させていくことの尊さと難しさ、理想と現実がこの施設には同居していた。

 

 一通り案内された後、2人は中庭のベンチに座った。

 

「ここはとても良い場所ですね。明るくて、温かくて、優しさに包まれています」

 

「アメリカにはこういった場所は無いのですか? 向こうでも一部のエリアで呪われた子供の人権を認める州法が施行されたとニュースで聞きましたが」

 

「あることにはありますが、大半は民警企業が将来の戦力確保のために経営するイニシエーター養成所といった側面があります。ここみたいに普通の人として生活させようとしている施設も徐々に増えているのですが、まだ少数派ですね」

 

「そうですか」

 

「松崎さん。どうして私をここに? 」

 

「以前から、一度、ティナさんにここのことをお見せしようとは思っていたんです。私がこの6年の間で何をしてきたのか、あの子たちの死と向き合って、今何をしているのか。その成果をお見せしたかった。

 ガストレア新法が施行されて6年、まだ差別は無くなっていません。外周区のスラムで暮らす子供たちはいますし、イニシエーターを酷使する民警企業は後を絶ちません。ストリートチルドレンや赤目ギャングのように犯罪者にならないと生きていけない彼女達の現状は今でも続いています。

 それでも、時代は変わってきています。呪われた子供を受け入れることを正式に発表した学校も出て来ましたし、イニシエーターに就学の機会を提供する民警企業は増えてきました。ここみたいに彼女達を保護し、生活を支援する施設や法人、ボランティアも増えてきました。

 それはとても小さな1歩で、吹けば飛ぶような変化ですが、それでも世界は良い方向に向かっていると私は思っています」

 

 落ち込んでいる時期があった。逃げている時期もあった。しかし、今こうして過去と向き合い、先へ進もうとしている松崎の姿をティナは喜ばしく思いながらも、再び蓮太郎から逃げようとしている自分と比較してしまう。

 

「松崎さんは……強いですね。私は違います。IP序列38位とか、殲滅の嵐とか呼ばれて、それで自分が強くなったと勘違いしたバカな女なんです。銃の撃ち方とガストレアの殺し方が上手くなっただけで、シェンフィールドを奪われたら何も出来ない……大切な人を思いとどまらせることも……振り向かせることも出来ない」

 

 ティナの目から大粒の涙が零れる。涙は頬を伝うことなく、俯く彼女の目から直接、太腿に、その上に乗せた手の甲に落ちていく。決壊したダムのように涙も自己否定も止まらない。

 

「もう意味なんて無いんです。東京エリアに残っていることも、義塔さんを鍛えていることも……あんなの訓練じゃありません。私の嫉妬から生まれた八つ当たりです」

 

「そうですか。ですが、貴方がこのままアメリカに帰ってしまったら、義搭くんは更に怒り狂いそうですね」

 

「え?」

 

「先程の話なのですがね。義塔くんは、貴方に里見さんを救って欲しいと思って、そういうことを言ったんだと思いますよ。彼はまた違う意味で里見さんを愛していますから」

 

 松崎の言葉にティナは困惑する。訓練の時の暴言はどう考えてもその逆だった。救える立場にいて、チャンスがあって、それでも蓮太郎を救えなかった自分に対する叱責にしか聞こえなかった。だが、松崎に言われ、今冷静になって彼の言葉を考えるとそれはティナの背中を押す言葉とも捉えられる。「自分に構っていないで、さっさと蓮太郎を救え」とそう言っているようにも聞こえる。

 

「私に……出来ますか? 5年前も、3ヶ月前も、失敗して、負けて、今でもこうして逃げている私に……お兄さんを救えますか? 」

 

「甘いこと言わないでください。まだ2回負けただけではないですか。私なんてもっと負けています。大戦前に病で妻を亡くし、大戦で娘夫婦と孫を亡くし、大戦後は青空教室であの子達を亡くしました。それでも、この老いぼれはまだ戦っているんです」

 

 松崎の口から出るとは思わなかった厳しめの言葉にティナは内心驚かされる。その風貌から伺い知れなかった失い続けた過去、それでもまだ希望を抱いて生きている彼の強さが滲み出ているような気がした。

 

「ティナさん。失ったものはたくさんありますが、まだ貴方の戦いは終わっていません。最後に勝てば良いんです。勝たなければ、失ったものたちへの言い訳すら出来ません」

 

 

 

 その老人の言葉はどんな弾丸よりも重かった。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

『ひまわりの庭』での用事が終わり、ティナがエクステトラに戻って来たのは夕方5時のことだった。今更ながら身体のラインがはっきり出るトレーニングウェアのまま出歩いた恥ずかしさから人目につかないように帰り、エクステトラに戻る時も裏口から入った。

 

「遅かったっすね。てっきり見捨てられたのかと思ったっすよ」

 

 見慣れたトレーニングルームで見慣れた顔がティナを待っていた。

 

「別に、忠犬ハチ公みたいに待たなくても良かったんですよ」

 

「待ちたくて待ってた訳じゃないっすよ。俺をここから出れないようにセキリュティ設定したの先生でしょうが。――まぁ、色々とトラブルがあったお陰で一時的に出れたんすけどね」

 

 裏口から入ったティナは詩乃が破壊した正面の惨状を見ていない。停電かシステムトラブルでもあったのだろうかと考える。

 壮助は悪態をつくのを止め、皮肉屋な笑みを浮かべていた顔は真剣な面持ちになる。品格も教養も感じられない、下賤とも感じた仕草と表情で今まで隠れていたが、黙っていれば絵になるような甘い顔をしていることに気付かされる。

 真っ直ぐとティナを見つめる。何かを言おうとはしている。しかし、恥ずかしさか、口から言葉を零し、それを押し留めるのを繰り返す。

 

「先生。その……昼間は――――「謝らないで下さい」

 

 彼が何を言おうとしているのかは分かっていた。目は口程に物を言っていた。昼間のことを彼が「悪い」と思っていたのはその表情だけで読み取れた。しかし、彼にそれを言わせてしまう訳にはいかなかった。

 

「義塔さん。貴方の言う通りです。私は蓮太郎さんが壊れていくのを止めなかったどころか、剰え海外に逃げ続けた臆病者です。空港でもまんまと利用されて、無様に負けて生き恥を晒した愚か者です。こうして貴方達の前に姿を現したのも天童民間警備会社があった場所に入り浸る理由が欲しかっただけです。

 

 こんな私でも、もう一度、蓮太郎さんの前に姿を現す資格があると思いますか?」

 

 それは壮助への質問ではない。例え、壮助が何と答えようとティナの意志はもう決まっていた。ただ、松崎の言っていた壮助の意図が本当に彼の言う通りだったのか、確かめたかった。

 壮助はそれを察すると「へっ」と鼻で笑い、再びクソガキチンピラ民警の仮面を被る。

 

「俺が『てめえにそんな資格無ぇよ。さっさとアメリカに帰りやがれ』って言ったら、先生は帰るんすか? 」

 

「まさか。意地でも残りますし、アメリカに帰ることになったら、誘拐してでも蓮太郎さんを連れて帰ります。ただ――――私一人ではまた負けるかもしれませんので、義塔さん、()()()()()()()()()()()

 

 そう語るティナの優しそうな顔に壮助は一瞬ドキリとする。訓練室と言う名の処刑場で思い浮かべる鉄のように固く冷たい彼女の表情からは考えられない、金色の髪と同じように太陽のように眩しく温かい表情をティナは浮かべていた。

 詩乃と出会っていなかったら確実に恋に落ちていただろうと壮助自身が確信するくらい、彼はティナ・スプラウトという女性に魅了されていた。

 

 

 その笑顔一つで今までの暴力を許してしまいそうだから、彼女はズルい。

 

 

「明日もご指導お願いします」

 

 

 

 

 

 それからも訓練は続いた。メニューもルールも変わっていない。ティナが圧倒的有利な状況も変わっていない。変わったところがあると言えば、壮助が積極的に斥力フィールドを使うようになったことだろう。最初に使った日と同様、皮膚の上に展開することで攻撃を逸らし、槍のように展開してティナを弾き飛ばす。

 しかし、それでもティナに勝つ決定打にはならない。斥力フィールド発生に使えるリソースが限られているのは本当のことのようで、フィールドを大きくすればするほど、防御力は下がっていく。酷い時は素手のパンチにすら破られる。

 機械化兵士としての性能は蛭子影胤の劣化版としか言いようが無かった。しかし、壮助は展開範囲の縮小、必要最低限の出力でそれを克服しようとしている。他にも何かしらの工夫を試している節があり、ティナはそれがいつ発揮されるか警戒しつつ戦うやり辛さを感じるようになった。

 

 もう一つ変わったことと言えば、訓練が終わる頃になると詩乃が来るようになったことだ。彼女は未織から研究・開発に関わる重要区画以外を自由に出入りできるフリーパスを手に入れたようで、放課後の寄り道感覚で訓練場に姿を現すようになった。

 訓練終了後は3人でピザを食べ、ティナが片付けている間に壮助と詩乃は訓練場に戻り、就寝時間まで秘密の特訓をするのが新たな日課として加わった

 ティナは2人の特訓を覗き見るつもりは無かった。「おそらく最弱の機械化兵士」と菫に判を押された彼がどんな工夫を凝らすのか、それが楽しみに思えて来たからだ。

 

 そして、訓練開始から30日が経過した。

 

 いつもの部屋で、いつもの格好で、いつもの2人が向かい合う。

 

「今日が節目です」

 

「節目? 」

 

「この訓練は3つのステージに分けてスケジュールを組んでいます。1つのステージにつき1ヶ月、計3ヶ月で修了させることを想定しています」

 

「じゃあ、今日勝てば、俺は先生の想定通りの素質だったってことっすね」

 

「負ければ、貴方は想定以上に雑魚だったということになります」

 

「ぜってー勝つ」

 

 壮助は右手に握ったナイフの切っ先をティナに向ける。今までと違ったフェンシングの突きのような構えにティナは警戒する。

 今まで壮助は居合の構えで向かっていた。自分の身体でナイフを隠し、どちらの手で握っているか分からないようにする。居合のように抜けば、フェイントをかけることもある。隠し、騙し、奇策で切り抜けようとした彼から考えられない真っ直ぐな構えだ。

 壮助の足が力む。足の親指に力が入り、地面を踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 黒膂石代替臓器“賢者の盾” 斥力空間発生器官 起動

 

 

 

 

 濃縮斥力点――解放! !

 

 

 瞬間、硬質ゴムがぶつかり合う鈍い音がした。壮助のナイフとティナのナイフがぶつかり合う。爆発的に加速した勢いに押され、彼女の足は床にブレーキ痕を残す。シューズと床の摩擦熱で靴底が焼け、匂いが鼻につく。

 1歩目の踏み込みは見えた。しかし、2歩目が来る前にナイフは眼前に迫っていた。2人の間には10メートルほど距離があったが、一瞬で詰められる。距離も時間も、優れた瞬発力だけでは、人間の筋力では説明がつかない。

 一瞬、考え事をした瞬間、もうティナの目の前に壮助はいなかった。

 背後から空を切る音が聞こえる。音が聞こえた瞬間、ティナは振り向きざまにナイフを横に薙ぐ。思考する余裕など無い。動物的な反射神経で彼女は動いている。そこに身体が壮助の攻撃位置を記憶していたことによる経験則が繋がり、間一髪のところで攻撃を防ぐ。

 壮助は舌打ちした瞬間、再びティナの視界から消えた。予備動作など無い。手も足も一切動かないまま、彼の身体は動いた。

 そして、ティナを嘲笑うかのように彼女の死角から壮助の攻撃が続く。何メートルも離れた場所にいるかと思えば、吐息のかかる距離まで詰められる。触れ合えるほど近くにいたかと思えば、離れた対面の壁際に立っている。

 手足の動きとまるで一致しない移動方向は予測がつかず、翻弄される。ティナと壮助の立場は初日と逆になっていた。

 再び壮助が背後から急速に迫り刃を突き立てた。しかし何度も同じ攻撃に翻弄されるほど、IP序列38位は甘くない。ティナはナイフで防ぐことなく、合気道の技で受け流した。

 ティナの視野の中で壮助は一瞬、体勢を崩しそうになりながらもすぐに立て直す。そして、仕切り直すように再び距離を取った。

 その時、ティナの目はようやく壮助の移動を捕捉した。

 彼の足は全く動いていなかった。それでも身体は動いている。姿勢を維持したまま、まるでスケートのようにトレーニングルームの中を縦横無尽に滑走する。動きも目で追うのが精一杯だ。

 

 ――斥力フィールドの応用、これが特訓の成果ですか。

 

 ティナは今の壮助が人間リニアモーターカーになっていると推測する。リニアモーターカーはレールと車体の間に磁界を形成し、S極とN極が生み出す引力と反発力を推進力に変換している。彼は磁界の引力を重力で、反発力を斥力フィールドで再現し、更に斥力フィールドから発生する運動エネルギーの量や向き(ベクトル)を調整することで自由な移動を実現しているのだろう。急加速も急減速も急停止も思うがままだ。

 しかし、ティナは脅威とは思わない。攻撃がナイフのみと限定されているこの戦いで高速移動はそれほど意味を成さないからだ。攻撃するためには壮助がティナに、ティナが壮助に近付かなければならない。近接戦闘が確実に発生する中でティナは走り回って壮助を追う必要は無い。ただ、身構えて壮助から仕掛けて来るのを待てば良い。目も動きに慣れて来た。後は壮助が攻撃を仕掛けてきたタイミングに合わせ、カウンターで彼を潰せば何ら問題は無い。

 

「初日とはまるで逆っすね! ! ティナ先生! ! 1ヶ月ボコられ続けた恨み、今日ここで晴らしてやんよ! ! 」

 

 始めてティナを翻弄出来たことに彼は調子づいているのだろう。リソースが少ないと自分で言っておきながら斥力フィールドによる滑走で無駄に動き回る。

 ティナはじっと待つ。首を回し、眼球を動かし、彼が近づくその瞬間まで捕捉し続ける。

 そして、その時は来た。壮助はティナの周囲を滑走しながら徐々に近づいて行く。斥力フィールドという見えない力場によってタイミングが決まる突撃は予測が出来ない。いつ彼が来るのか、その一瞬を見逃さない為に精神を研ぎ澄ませる。

 部屋の中の風向きが変わり、自分に向かってくる風を肌で感じた。

 

「そこです! ! 」

 

 ティナは左後方を振り向いた。

 視線の先には斥力フィールドの応用で急接近した壮助が切っ先を向けていた。自分が接近するタイミング、方角を完全に予測されたことに彼は驚きを隠せていなかった。

 ティナが振り向いたのは勘でも無ければ予測でもない。れっきとした()()だ。壮助の滑走で押し退けられた大気中の分子は風となって流動する。ティナはそれを肌で感じ取っていた。例え見えなくても風が壮助の位置と移動を教えてくれる。

 ティナは壮助の刺突を軽くかわすと彼の腕と服を掴み、柔道の投げ技で彼を遥か後方に投げ飛ばす。壮助はティナに急速接近した時と同じ速度で床を転がり、全身を叩きつけられながら壁に激突する。

 受け身を取る余裕も無かっただろう。頭から壁に激突したようにも見える。斥力フィールドで自分を守っていなかった彼は脳震盪を起こしているかもしれない。

 しかし、それでもティナは容赦しない。「病み上がりだろうと死にかけだろうと徹底的に追い詰める」と当初の言葉通り、壁に手をつきながらようやく立ち上がる壮助に近付き、留めの貫手を刺そうとする。

 

 

 ビュン! !

 

 

 ティナの左耳から僅か数センチのところをナイフが飛んだ。壮助の腕に投げる様な動作は見られない。自分の手とナイフの柄尻の間に斥力点を作ることでナイフを飛ばしたのだろう。

 予備動作無しの投擲に一瞬冷や汗をかいた。反応が少し遅れていれば今の一撃で終わっていただろう。

 

 ――残念でしたね。あと一手あれば結果は変わっていました。

 

 今のは破れかぶれの中で繰り出した最後の一手だ。ナイフを当てることが勝利条件だった彼にとってナイフを手放すことは勝つことを手放すことと同じだ。

 ティナは勝利を、そして訓練が延長されることを確信した。

 

 

 

 

 

 

 壮助の手首に結ばれた糸を見るまでは―――

 

 

 

 

 

 

 斥力フィールド形成 線形流動装甲――――“詐蛇(イツワリヘビ)”! !

 

 

 ティナは咄嗟に振り向いた。何かある。それが何かは分からない。ただ戦いの中で培われた勘が彼女に振り向けと警鐘を鳴らす。

 

 彼女の背後、振り向いた先の開けた視界の中で糸に繋がれたナイフはUターンし、彼女に迫っていた。

 

 刃を頭、糸を身体に見立てた無色透明の蛇は海中を泳ぐウミヘビのように横に、縦に蛇行しながら迫る。

 それが何か考えている余裕は無い。ティナは首めがけて飛んでくるナイフを弾く。一瞬、ナイフは浮くがすぐに蛇の動きを取り戻す。

 糸に繋がれたナイフは急降下し、生きた蛇のように足から胴へ、胴から腕にかけてティナに巻き付き、彼女の全身を締め上げる。無理に身体を動かそうとすると細い糸が肉に食い込み激痛が走る。糸が千切れるより前に身体がバラバラになりそうだ。

 動けなくなった獲物を前に舌を舐めずる蛇のようにナイフはティナの顔の前に浮遊し、切先を向けた。

 

 

 

 トン……

 

 

 硬質ゴムのナイフは、ティナの頭を小突いた。

 いつか負ける日が来るだろう。そう思っていたティナだが、まさか全身を縛られて頭を突かれるとは思っていなかった。あまりにも理解できないことが起き過ぎて、敗北に実感が湧かない。

 

 

「当てた……マジで当てた……。よっしゃああああああああ! ! ! ! 一発かましてやったぞおおおおおおお! ! ひゃっほおおおおおおおおい! ! 」

 

 突然、テンションが上がった壮助は飛び上がり、ティナの背後で小躍りする。ナイフと糸で出来た蛇も先程の動きを逆再生するかのように戻り、彼の身体の一部のように小躍りする。

 

「ちょ、ちょっと待ってください! ! 」

 

 ティナの一言で喜びの舞を踊っていた壮助の手足が止まる。

 

「え? 何すか? 油断したからノーカンとかは無しっすよ」

 

「いえ、負けは認めます。けど、最後の、あれは一体何ですか? 」

 

「何ですかって言われても斥力フィールドの応用としか言いようが無いっすね」

 

 そう言うと壮助は面倒くさそうにため息を吐きながら、部屋の隅に置かれていた水の入ったペットボトルを取り出す。キャップを開け、逆さまにして水を出す。重力に従って地面に零れる筈だった水はボトルの口から出た瞬間、壮助の掌の上で一つの球体になる。無重力空間で浮遊する水を宇宙飛行士が小突いて遊ぶ戦前の動画が目の前で繰り広げられている。

 壮助が手の向きを変えると、斥力フィールドで覆われた水はそれに呼応して変形し、浮遊する。

 

「知っていると思うんですけど、斥力フィールドって自由に形を変えられるんですよ。詩乃は、『運動エネルギーを内包した無色透明の固形物を自由自在に形成する能力』って言ってたっすね」

 

 その言葉通り、壮助の手の周りで浮遊する水は球体、立方体、三角錐、蛇――と次々と形を変えていく。

 

「それは知っています。貴方の前の使用者もドームや壁、槍、鎌などに変形させて多彩な攻撃をしていましたから」

 

「室戸先生に昔の映像記録を見せて貰ったけど、そいつは予め形を作ってから出していたじゃないっすか。俺は、()()()()()()()()()()練習をしたんすよ」

 

「なるほど……。最後の攻撃は、ナイフと糸を斥力フィールドでコーティングして、斥力フィールドを変形させることで疑似的に動きを作り出していたんですね」

 

「正解」

 

 ご褒美と言わんばかりに壮助は球体上になった水をティナに放り投げる。タネも仕掛けも分かっているが浮遊する水という神秘的に思える光景に思わず目を奪われ、頭上に来たそれを指で突こうとする。

 しかし、指が触れる前に斥力フィールドは崩壊し、弾けた水がティナの顔にかかる。

 

「まぁ、俺から離れるとフィールドはすぐに崩壊しちゃうんすけどね」

 

 壮助はずぶ濡れになったティナを舐めるように見る。洗濯が間に合わなかったのか、今日は白いシャツを着ていた彼女は濡れて黒いスポーツブラが透けて見えていた。

 

「先生、そのペッタンコおっぱいにもブラジャーって必要なんすか? 」

 

 壮助はティナに殴り飛ばされた。

 

 ティナは「第一ステージクリアおめでとうございます」と言うつもりだったが、そんな気は失せた。

 

 

 

 

 

 

 その翌日からティナ先生のドキドキお泊りレッスン第二ステージが始まった。

 第二ステージは主に銃の訓練だった。映画や海外ドラマ、ネットの動画で見たことがある軍隊式の訓練となっており、ようやく訓練らしいことが始まったと壮助は感じていた。ハンドガン、アサルトライフル、ショットガン、スナイパーライフル、グレネードランチャーなど、ほぼ全ての銃器を対象に使い方を再教育された。

 しかし、ティナが最も得意とする狙撃に関しては常軌を逸した内容となっていた。いつ出て来るか分からない標的を狙撃姿勢のまま24時間も待ち続けた時は頭がおかしくなりそうだった。

 

 加えて、第二ステージになっても食事はピザのみだったことは壮助をより精神的に追い詰めた。

 

 朝はピザの匂いを嗅ぎながら起きた。

 昼食もピザだった。トッピングの種類が違っていたがピザだった。

 夕食もピザだった。

 次の日の食事もピザだった。

 そのまた次の日の食事もピザだった。

 次の次の日もピザだった。

 朝食はピザだった。

 昼食もピザだった。

 夕食もピザだった。

 ピザを食べた。

 ピザを食べた。

 ピザを食べた。

 ピザを食べた。

 ピザを

 ピザ

 ピザ

 ピザ

 ピザ

 ピザ

 

 

 

 

「ひゃっはー! ! ピザだぜえええええええ! ! 俺はこいつを喰うために生きている! ! 身体はチーズとトマトで出来ているんだあああああああああああああああああああ! ! ! ! 」

 

 訓練40日目の壮助は餓えた獣のようにピザを貪った。

 

「嫌だあああああああああああああ! ! ピザは嫌だああああああああああ! ! 消えろ! ! この悪魔の食物めええええええええええええええええええええええええええ! ! ! ! 」

 

 訓練45日目の壮助は割りばしで作った十字架をピザに向けて悪魔払いをした。

 

「嗚呼! ! ハレルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥヤ! ! ピザを食べている瞬間だけ、俺は生きていると実感出来る! ! 」

 

 訓練49日目の壮助は眠れる遺伝子が発現し、実の父親のように己が人生を賛美した。

 

「ピザ神様に心臓を捧げよおおおおおおおおおおおお! ! ! ! ! ! ! ! 」

 

 訓練50日目の壮助は皿で祭壇を作り、跪いてナイフとフォークを自分の胸に突き立てた。

 

「これは……ピザじゃない。トマトとチーズとその他諸々を乗せたパンだ。ピザじゃない……。ピザじゃない……ピザじゃない……ピザじゃない……ピザって何だ? そもそも何を以ってピザをピザとして定義するんだ? ピザがピザであることを証明するためにはピザがピザであることを観測しなければならず、まずはピザが……ピザが……」

 

 訓練52日目の壮助はピザ哲学に目覚めた。

 

「凄いや! ! ママ! ! このピザ、11次元の味がする! ! 」

 

 訓練55日目、ピザの食べ過ぎによるストレスで壮助は一時的に幼児退行した。

 

ゴキブリたん、おいちい

 

 訓練59日目の壮助は人の目をしていなかった。

 

 

 

 ピザの過剰摂取はいかなる違法薬物よりも危険だと学んだ。

 

 

 

 そして訓練開始から60日が経過、ティナのスケジュール通り、第二ステージが終わった。

 射撃訓練場の一角にある休憩室で壮助はベンチに腰をかけ、大きく息を吐いた。そんな彼の頬にティナからキンキンに冷えたスポーツドリンクが押し当てられる。

 

「概ね、予想通りのスケジュールで進みましたね」

 

「正直、気が狂いそうと言うか、リアルに何回か狂ったんですけどね」

 

「次は最終ステージですから辛抱して下さい」

 

「もうこれ以上こんなこと続けたら、俺、頭がクルクルパーになりますよ」

 

「クルクルパーなのは最初からじゃないですか。それに最終ステージはそんなに難しいことではありません。今まで学んだことの復習と応用です。ボーナスのようなものだと思って、気楽に考えてください」

 

 

 

 

 そう言って、翌朝――彼女は低空飛行する小型飛行機のキャビンから壮助を蹴落とした。地上は悪鬼羅刹、魑魅魍魎が跋扈する“未踏領域”、ガストレア以外の生存が許されない世界だった。

 無論、パラシュートなどという人道的な装置を付けて貰えるはずがない。

 

「1ヶ月後、迎えに行きますのでそれまで頑張って生き延びてください」

 

「畜生! ! 生きて戻って来たら覚えてろよ! ! ティナ先生のツルペタ! ! ペッタンコ! ! 断崖絶壁! ! ブラジャー要らず! ! ピザしか作れないから里見にフラれるんだよ! ! 全自動ピザ製造機! ! ピザ・スプラウト! ! ピザ狂い・コーラ中毒のファッキンアメリカン! ! 空飛ぶピザモンスター教信者! ! チーズとトマトに埋もれて溺死しろおおおおおおおおおおおおおおおお! ! ! ! ! ! 」

 

 壮助は両手の中指を立て、落下しながらひたすら叫んだ。落下して距離が離れているのだからどうせ聞こえないだろう。向こうもエンジン音でまともに声など届いていないだろう。そう思い、上空を飛ぶ飛行機に向けて、今は思いつくばかりの悪口を叫び、未踏領域の密林の中へと落ちていった。

 

 しかし、彼の言葉は全てティナに届いていた。音が届いていなくても裸眼で数キロ先の物体を捕捉できるティナの目は壮助の口を捉え、その動きもしっかりと見ていた。砲火の飛び交う戦場で仲間の指示を聞き取る為に会得した読唇術で罵詈雑言を全て観測した彼女は東京エリアへとUターンする飛行機の中で拳を握りしめた。

「この訓練が終わったら顔の形が変わるまで彼を殴ろう」と、そう心に誓った。

 

 

 

 

 1ヶ月後、未踏領域サバイバルから無事に生還した壮助はティナにボコボコにされた。

 

 




ティナ先生のドキドキお泊りレッスン編……完!!

タイトルと同じように執筆がリアルに90日経ってしまいました。
本当は壮助が斥力フィールドの新しい使い方に目覚めるちょっとした修行回にする予定が、ティナさんの精神がボロボロだったり、松崎さんが修羅の道を歩んでいたりと色々と想定外のことがエピソードが飛び込んだせいでこんなに長くなってしまいました。


これでようやく第二章の本筋に入れます。

次回、「敵がいない護衛任務」

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