ブラック・ブレット 贖罪の仮面   作:ジェイソン13

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そうすけの レベルが あがった!


「ロリコンヤンキー」
から
「同い年の女の子をSM風俗に連れ込んで服を脱がして身体を洗おうとした変態ヤンキー」
に進化した。


存在しないはずの家族

 アルマーニのスーツに身み、自慢のカイゼル髭を蓄えたブルジョワ風の男、優雅小路 蔵人(ゆうがこうじ くらうど)は誰よりも早く自分の仕事場に姿を現した。仕事場は自分がオーナーを務めるビルの3階にある事務所。ガラス扉を開いてまだ誰もいない受付を通り過ぎると、インテリアデザイナーに特注で作らせた機能美に溢れたオフィスが広がる。

 まだ誰も出勤していない優雅なひととき。蔵人は仕事前に一杯のコーヒーを口につけながら、取り寄せた英字新聞を広げて記事を眺める。

 ガストレア急襲によるシカゴエリア全滅とそれに伴うニューヨーク市場の株価暴落、東亜連合党大会を目の前に北京エリアで頻発する爆弾テロ、難航する大阪エリアと博多エリアの経済会議、ロンドンエリアで勃発した数百人規模のパンデミック――相変わらず世界は混沌としているなと記事を俯瞰しながら、蔵人は一杯目のコーヒーを飲み干した。

 

 ――おっと。興味深い記事があったから、ゆっくりし過ぎてしまった。そろそろ準備に取り掛かろう。

 

 

 

 

 

「おい!ブルジョワ気取りのドM風俗オーナー!シャワーと服と飯よこせ!!」

 

 

 

 

 

 風俗ビルオーナーにして複数の風俗店を経営している“情報屋”の優雅なひとときはヤンキー少年、義搭壮助の突入によって破られた。ただでさえ、そこに存在するだけでトラブルを引き起こす彼が、血まみれでボロボロの少女を背に抱えている。カモがネギと鍋とコンロを持ってくる要領で疫病神が更に厄介事を抱えて来たのだ。

 

「また君かね。今度は何を持ち込んできたんだ?家出中の不良娘か?ヤクザの女か?赤目ギャングか?それとも凶悪犯罪者か?」

 

「テロリスト」

 

 平然とヤバすぎる女を自分のところに連れて来た壮助に愕然とし、蔵人はがっくりと膝から崩れ落ちる。スーツが汚れることなんて考える余裕もなかった。

 

「君はあれか。僕のところに来れば、とりあえず何やかんや解決してくれる便利屋だと思っているのか?四次元ポケットを持った猫型ロボットみたいに」

 

「思ってねえよ。とにかく事情は後で話すから、シャワーとこいつに合う服をくれ」

 

 哲己はしばらく頭を抱えると、顔を上げないまま隣の店の入口に指をさした。

 

「シャワー室ならすぐ隣のテナント“女王の教室”にあるから、そこを使いたまえ。洗濯機も使って構わない。服と口止め料が効く医者も用意しよう。ほら。これが鍵だ」

 

「分かった。ありがとう」

 

「使用料と迷惑料はキッチリと君の会社に請求させてもらうからね」

 

 蔵人から鍵を受け取り、小比奈を抱えたまま壮助は事務所を出て、隣のSM風俗“女王の教室”に行こうとする。

 

「ちょっと、待て」

 

「何だ?」

 

「君がその子の服を脱がして、身体を洗うつもりか?SM風俗に連れ込んで?」

 

「あ……」

 

 蔵人に指摘されて、ようやく壮助は自分がやろうとしていることに気付いた。さっきまで、小比奈をどうにかしようと必死になっていて気付かなかったが、「16歳の少年が意識を失っている同い年の女の子を風俗に連れ込んで服を脱がして体を洗おうとしている」状況を自分が作り、実行しようとしている。相手がテロリストとはいえ、性犯罪者として牢獄直行コースだった。

 手に伝わる女の子の太腿の柔らか、背中に感じる膨らみと温かさは、(詩乃を除いて)女の子と接触のない壮助にとって刺激的なものだった。

 彼は思わず赤面すると、蔵人から顔を逸らし、ポケットから携帯電話を出した。

 

「ごめん。詩乃。裏の階段上って、2階にある事務所に――「来たよ」

 

 電話してから、10秒も経たずに詩乃が事務所の扉を蹴破って突入してきた。そして、目の前の状況を見て、硬直する。彼女も写真で蛭子小比奈の顔は見ている。彼女がボロボロになり、壮助に抱えられている状況は理解ができなかった。

 

「何がどうしてそんな状況になったのか分からないんだけど」

 

「俺だって分かんねえよ。いきなり現れたと思ったら、仮面野郎に裏切られたとか何とか言って、ぶっ倒れたんだから」

 

「警察に突き出す?報酬の3割ぐらいは貰えるかもしれないよ」

 

「そうしたいけど、わざわざ俺に会いに来たっぽいし、サツに出すのは話を聞いた後でも良いだろ。あと、こいつ、血の臭いがヤバいし、汗とか血とかがベトベトして気持ち悪い。――っていうことで、こいつ隣のテナントのシャワー室に放り込んで、洗ってくれ」

 

「了解」

 

 壮助は詩乃に隣のテナントの鍵を渡すと、背中に抱えていた小比奈を詩乃に託す。詩乃は片手で軽々と小比奈を抱えると、隣のSM風俗の中へと入って行った。

 壮助が近くにあったオフィスチェアに腰をかけ、大きくため息を吐く。彼の目の前にココア入りのマグカップが置かれる。

 

「なんとなくだが、事情は察した。口止料が通じる医者も呼ぼうか?」

 

「いや、あの程度なら赤目の治癒力でどうにかなるだろ。そんなことより――」

 

「“里見蓮太郎に関する情報が欲しい”だろう?」

 

 これから言おうとすることを一語一句違わずに言い当てられ、壮助は一瞬、硬直する。

 

「どうして、俺が言いたいことが分かったんだよ」

 

「君の前にも何人もの民警が尋ねて来たからね。しかし、残念だ。私は君に話すことなど何も無いのだよ」

 

「情報が無ぇってことか?」

 

「あるにはある。広く一般的に知られていて、わざわざ情報屋を訪ねる必要もない程度の情報ばかりだがね。知りたいなら、わざわざ私の所に寄らずとも、室戸菫に聞けば良いじゃないか。当事者だろう」

 

 壮助は、どうして蔵人が自分と菫が会っていること、背負っていた少女がひるここひなであることを知っているのか、尋ねようとはしなかった。彼の情報屋としての武器は、幅広い人脈だ。大学のような多数の人間が集まる場所なら、自分が大学に来て菫と会っていたことを蔵人に伝える人間が一人や二人いてもおかしくはなかった。

 

「ゾンビドーナツの洗礼が無かったらな。それにリアルタイムの情報を手に入れるなら、引きこもりの室戸先生より蔵人の方が良いだろ」

 

「成程、誉め言葉だけは受け取っておこう。褒めたところで何も出せないがね」

 

「ああ。何も無さそうだから、貰うもん貰ったらさっさと退散させてもらうわ」

 

「そうだな。服を渡したら、さっさと出て行ってくれたまえ。あと、請求書はキッチリと君の会社に送らせてもらうからね」

 

「出来れば、安く頼むぜ。これ以上、出費が重なったら空子に殺される」

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 壮助に小比奈を洗うことを命じられた詩乃は、隣のテナントのシャワー室に小比奈を運んだ。脱衣所で彼女を背中から落とし、ボロ布のようになった彼女の服を脱がそうと襟元に手を伸ばす。

 しかし、彼女の手は服に届く前に止められた。目を覚ました小比奈が詩乃の手を掴んでいた。額から汗を流し、満身創痍の中で途切れそうな意識を繋ぎ止め、彼女の赤い目は詩乃を捉えていた。

 

「良かった。目が覚めてるなら、自分で身体を洗って欲しいんだけど」

 

 詩乃は小比奈が目を覚ましたことに動揺を見せなかった。小比奈に強く腕を掴まれているが、平常心のまま対応する。彼女でなかったら骨が折れていたであろうくらいに強く掴まれていたとしても。

 

「貴方……何者?」

 

 小比奈は1度目のガストレアテロの際、ドローンで詩乃の姿を見ている。彼女を「斬りたい」とまで言った。目を開いて、目の前の人間が義搭壮助のイニシエーターであることは十分に理解していた。

 しかし、それ以上に詩乃から溢れ出る“ヤバい”感覚が彼女に焼き付いていた。本能の奥底から詩乃を危険と感じ、彼女の意思や感情が自分に向けられるだけで全身を刃で斬り刻まれる感覚に襲われる。

 6年ぶりの感覚だった。彼女が16年の生涯で唯一恐怖したヤバい女“天童殺しの木更”と同等か、それ以上のヤバさを詩乃は放っていた。

 

「何者?って、義搭壮助のイニシエーターだけど」

 

 詩乃は小比奈の手の握力が緩まず、視線も警戒したままなのを確認する。

 

「それだけじゃ、納得しないよね。“勘の良い貴方”は」

 

 詩乃は軽くため息を吐き、再び小比奈に冷たい視線を向ける。

 

「私には貴方の疑問に答える義務は無いけど、多分、壮助は貴方と同盟関係を築くつもりだろうから、お互いの信頼のためにも話してあげる。まぁ、丁度いい機会だしね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――初めまして。姉さん」

 

 

 

 

 詩乃が放った言葉に小比奈は目を見開いた。

 何故なら、自分をそう呼ぶ人間は10年前に一人残らずこの手で殺したはずだからだ。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 風俗ビルで小比奈にシャワーを浴びせ、ボロ布同然だった彼女に新しい服を与えた。蔵人に請求書を叩きつけられながら追い出されるようにビルを出た3人は近くのファミレスに来ていた。白昼堂々、テロリストが民警と一緒に外を出歩いていたが、テロの一件が主犯の蓮太郎のことばかり報道され、小比奈については全く触れられていなかったことから、誰も彼女がテロリストとは思わなかった。彼女がジーンズと黒いフード付きのパーカーというよくあるファッションに着替えていたことも彼女の日常へのカモフラージュに役立った。

 むしろ、相変わらず不良然としていた壮助が危険人物として視線を浴びていたぐらいだ。

 端のテーブル席に壮助と詩乃が隣りあわせで座り、対面に小比奈が座る。テーブルの上には各々が頼んだ定食が並び、中央には数人盛りのポテトの大皿が置かれていた。

 

「風呂に入れたぞ。服も新しい奴に着替えた。飯だって俺の奢りだ。さぁ、これから俺たちの質問に答えてもらおうか」

 

「お腹空いてるから、食べた後で良い?」

 

「え?まぁ、良いけど」

 

 壮助は、自分達が小比奈のペースに巻き込まれているような気がしてならなかったが、彼女に根掘り葉掘り聞くのは長くなりそうだし、食べ終わってからでも良いかと思った。

「いただきます」と言って手を合わせ、壮助が箸を手に取ろうとした時だった。彼のポケットの中にあるスマホに着信が入り、マナーモードのバイブレーション機能のせいでポケットの中が震える。壮助がポケットの中からスマホを出し、発信者を見ると「バカ鳥」と表示されていた。無論、飛燕園ヌイのことである。

 壮助は無視して着信を拒否してスマホをテーブルに置く。再び箸を持とうとするとまた「バカ鳥」から着信が入る。「どうせ諦めるだろ」と思って着信を無視し続けていたが、遂に折れて食事の前にスマホを手に取り、ヌイからの電話に応答した。

 

「ブーブーブーブーうっせえんだよ。何か用あんのか。鳥頭」

 

『誰が鳥頭よ。アンタが出ないから何度もかけてるんでしょうが。今どこにいんのよ』

 

「どこって、22区のファミレスだけど――」

 

 壮助がふと目を下に向けると、豚の生姜焼き定食についていた味噌汁が空になっていた。それどころか、メインディッシュの皿すらなくなっている。「まさか……」とふと目を向けると、そこには堂々と自分の料理を横取りする詩乃の姿があった。

 

「おい。ちょっと待て。それ俺の飯なんだけど」

 

「ごめん。ここ最近、壮助がお金を無駄遣いしたせいでご飯が少なかったから」

 

「勝手にタウルスジャッジとか爆薬とか買いまくったのは謝るけど、大元を辿れば、お前の食費が家計を圧迫しているのが原因だろ。どんだけ燃費悪いんだよ。食ったものはどこに消えてるんだよ。お前の胃袋は四次元空間か」

 

 詩乃と壮助が言い争いをしている間、小比奈もそろ~りと壮助のお盆からご飯を掠め取り、さも当然のようにそれを食べ始めた。

 

「おい。待て。お前まで食うな」

 

 壮助たちのランチ争奪戦に呆れたのか、電話越しにヌイのため息が聞こえる。

 

『ねぇ……今、どんな状態か知ってる?』

 

「俺の昼飯がピンチ」

 

『アンタの個人的な事情なんて知るかあああああああああああああああ!!!!』

 

 それからスマホ越しに罵詈雑言の嵐が吹き荒れるかと壮助は思ったが、そんなことはなく、しばらく向こうが静かになるとキンキンと耳に響く少女の声から厳つく野太い男の声が聞こえて来た。

 

『おう。壮助。お楽しみのところ悪いんだが、お待ちかねの里見廉太郎がご登場だ。ニュース見てみろ』

 

 大角に促され、通話状態を維持しながらニュースアプリを開く。アプリを開くと、TOP画面に堂々と「ガストレアがアクアライン空港を占拠」とテロップが出てくる。そのリンク先を開くと、生中継でガストレアの山に埋め尽くされたアクアライン空港の空撮が小さな画面に映される。しばらくすると蓮太郎の犯行声明も流れ、「五翔会構成員リストの譲渡」「天童文書の公開」という彼の要求が3人に伝わった。

 

「なんだよ……これ。マジかよ。あの野郎……。どこまで……」

 

 驚愕する壮助とは裏腹に詩乃は顔色一つ変えずニュースを見る。

 

「ねぇ。小比奈。貴方はこのこと聞かされてた?」

 

「まさか。裏切って処分する予定だった私に本物の計画を言うと思う?空港にガストレアけしかけるのも、五翔会構成員リストと天童文書を要求するのも初耳だよ」

 

「要するに、貴方は賢者の盾を餌にホイホイ釣られて利用されて、肝心の賢者の盾すら奪われて始末されそうなところを命からがら逃げて来たってことね」

 

 詩乃と小比奈が睨み合い、2人の赤い目の間に火花が散る。元々、敵だったのだから仕方ない部分もあるが、やけに小比奈にはきつい言葉を吐く詩乃にも原因はある。「頼むから仲良くしてくれよ」と願いつつも火花散らせる2人に目を向けた。

 

 ――こいつら、何か似てるよな?

 

 何がどう似ているのか、上手く説明は出来なかったが、何となく直感的に壮助はそう思った。残念ながら、その理由を考える時間などなかった。

 

『事態は分かってくれたと思う。今からお前達を拾って空港に向かう。安心しろ。お前たちの分の武器も持ってきた』

 

 壮助がスマホを手に取り、もう一度、ガストレアだらけの空港の中継を見る。ガストレアの群れの相手をしたことは何度かあったが、今回は桁違いに数が多い。軽く「空港に向かう」と言っているが、心のどこかでは逃げたい気持ちがあった。

 

「大角さん。マジで行くんすね」

 

『ああ。おそらく、空港のガストレア掃討は他の会社の連中や自衛隊と共同になるが、このビッグウェーブ乗らないわけにはいかないだろう?今からお前達を向かいに行く』

 

「了解っす。後で地図送ります」

 

 勝典と話す中で、壮助はふと思った。

 

 ――小比奈のことを大角さんにどう説明しようかなぁ……。こいつも一緒に空港に行くだろうから、隠すわけには行かないし、まだ情報を聞き出せていないし、……あ、でも序列元134位が味方にいるのは心強いな。

 

「そうだ。大角さん。車に乗せる奴、一人増えるんすけど、良いっすか?」

 

『悪いが、戦場への直行便だ。戦力にならない奴なら置いていくぞ』 

 

「大丈夫ッスよ。めっちゃくちゃ戦力になる奴だから」

 

 ちょっとしたイタズラ心が芽生えたのか、小比奈を見た時の2人を反応が楽しみで仕方がなかった。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「――――っていう感じで、今に至る」

 

 ヌイがテーブルに乗り上げたことで店内の注目を浴びてしまった一行は、早々と会計を済ませてファミレスを出て行き、空港へ向かう途中のバンの中で小比奈を連れるまでの経緯を聞いていた。勝典が運転し、助手席にヌイ、後ろの席に壮助、詩乃、小比奈の3人が詰め込まれていた。

 壮助が語り終えた後、勝典とヌイから感想が告げられることなく、少し静かな時間が続いた。

 

「何か言えよ」

 

「アンタの馬鹿さ加減とアウトローぶりに呆れてんのよ!同い年の女の子をSM風俗に連れ込んで服を脱がせようとした変態ヤンキー!」

 

「それは未遂だって言ってんだろうが!」

 

「「うるさい」」と勝典と詩乃が同時にそれぞれのパートナーに拳骨を食らわせる。2人は頭を抱えてうずくまった。

 

「壮助。そいつは、信頼出来るのか?」

 

「少なくとも蓮太郎をぶっ倒すっていう目的は同じっすよ。賢者の盾に関しては、敵対不可避ですけど」

 

「里見を倒すまでの一時共闘か。良いじゃないか。ハッキリしていて」

 

「でしょ?」

 

 男だからなのか、全く違うようでどこか根っこの部分では共通する2人のズレた価値観にヌイと詩乃はため息を吐いた。

 しばらく空港の連絡通路に向けて車を走らせると検問所が見えて来た。警察の検問かと思ったが、迷彩柄の人間と簡易ゲートに並ぶ装甲車から、それが自衛隊によるものだと分かった。

 

「自衛隊の検問所か。ヤバいな」

 

 追われている身の小比奈はフードを深めに被って顔を隠す。

 勝典はブレーキペダルを軽く踏み、徐々にゲート前に停まるように車の速度を落とした。

 ゲートにいる自衛官がバンの運転席に近づいた。

 

「ここから先は、ガストレア大量発生により立ち入り禁止区域となっています。引き返してください」

 

 勝典が窓を開けて、民警のライセンス証を見せる。

 

「ガストレアがたくさん出て来たって聞いたんで、仕事しに来たんだが、通してもらえないか?武器もたんまり持ってきた」

「アクアライン空港の一件は自衛隊に一任されています。現在のところ、アジュバントシステムも適用されておりますが、空港から出て市街地に潜り込んだガストレア掃討が任務となります」

「ああ。そうかい。邪魔して悪かったな。俺達の仕事がないことを期待してるぜ」

 

 勝典は自衛官に軽く敬礼すると、自衛官も姿勢を正して敬礼で返す。

 車をUターンさせ、勝典は来た道を引き返す。

 

「なるほどな。空港のガストレア殲滅、沿岸部の防衛は組織戦術に長けた自衛隊、市街地にまで入り込んだガストレアは単独で動き易く、場数慣れしている俺達にやらせるわけか。合理的だな」

 

「マジかよ。自衛隊が出るなら俺達出番ねえな」

 

「どうするの?勝典。せっかく武器集めたのに肝心の仕事がないじゃない」

 

「無いとは決まったわけじゃないだろう。市街地まで入り込んだガストレア掃討がある。これも立派な仕事だ。だが、これ聖居との契約とかどうなるんだろうな……。ちょっと考える」

 

 インターチェンジで下の一般道に降りた勝典たちは高架下の駐車場に車両を止める。金網に囲まれた30台ほど停められる簡易な場所だ。全員が一度、車両から降りて座りっぱなしで曲がった背筋を伸ばす。

 勝典は懐からタバコを出し、それに火を点ける。

 

「さーて、これからどうする?一応、仕事はあるが……、個人としちゃ今回のために色々な方面に借りを作ったからな。ここでデカい仕事一発当てないと、採算が合わねえ」

 

「私はこのまま市街地のガストレア掃討参加に1票。自衛隊と事を構えてまで里見を追う必要無いでしょ」――とヌイが手を上げるが、壮助、詩乃、小比奈からの視線が突き刺さる。

 

「て、訂正。やっぱり空港に行きます。お小遣い少ないし」

 

 ヌイが日和って意見を変えた途端、小比奈はバンのトランクを開けて、自分の刀を取り出した。抜き身の刀身が露わになり、彼女の目が赤く輝く。

 

「え!?空港行くって言ったのに!?」

 

 詩乃も小比奈の行動に気付き、バンの上に乗っかって、サーフボードのように車に括りつけられていた自分の重槍を手に持つ。彼女の目も赤く輝き、車の上から周囲を見渡す。

 

「え!?詩乃様も!」

 

「いい加減気づけ。バカ鳥。誰かが俺達を狙ってる」

 

 壮助も司馬XM-08AGの安全装置を外し、マガジンを装填する。

 勝典はとっくの前に気付いて大剣を手に持っていた。ヌイも不服ながら壮助に言われて、レイピアを構え、目を赤く輝かせた。




少し中途半端な感じですが、今回はここまでです。

詩乃の言葉の意味、彼女と小比奈は本当に姉妹なのか、それとも比喩表現なのか、その真相については、いずれ先の話で語るつもりです。

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