【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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セシリア視点

狼牙が戦っている間、こんなことになってました


蒼い雫と高貴なる義務

『いいかい、セシリア…ただ思うがままにしてごらん』

『大丈夫だよ…キミは僕の…』

 

 

 

 

「んん…」

 

少しだけ身じろぎして、わたくしはゆっくりと目をあける。

少しだけ薄暗いのですが、それでも目の前には見慣れた殿方の身体が見える。

キャノンボール・ファスト前日、わたくしは柄にも無くレースを前に臆してしまい狼牙さんにお願いして添い寝をしてもらったのでした…。

子供の様な物言いだったかもしれません…それでも、わたくしは狼牙さんのそばの方が安心できると思ってしまったのです。

まるで父の様な包容力…ラウラさんの気持ちがよく分かってしまう。

 

「ん…目が覚めたか、セシリア?」

「はい…おはようございます、狼牙さん」

「あぁ、おはよう…ゆっくり眠れたか?」

 

狼牙さんは挨拶を返すと優しく頬を撫でてくれる。

大した事は無いはずなのに、あまりの心地よさにわたくしは目を細めて笑みを浮かべてしまう。

ゆっくりと時間をかけて撫でられれば、堅い掌がゆっくりと離れていく。

 

「あ…」

「どうした?」

「な、なんでもありませんわ!」

 

少し恥ずかしくなって、わたくしは慌てて身体を起こしシャワールームへとパタパタと駆けて行く。

うぅ…恥ずかしくなってしまうなんて…。

ともあれキャノンボール・ファスト当日…目指すは一位!

レースに勝って狼牙さんにご褒美を強請るといたしましょう!

 

 

 

 

 

楯無さんはいらっしゃいませんでしたが、皆さんと楽しくも火花散る朝食を堪能した後、わたくし達は学園の手配したバスにて市内にあるキャノンボール・ファスト会場である専用アリーナへと移動。

ピット内で機体の最終チェックと共に二年生のレースを観戦する。

母国の代表候補生…わたくしの先輩にあたるサラ・ウェルキンさんが活躍しているのを見ると、気が引き締まる思いがします。

 

「あら、皆やる気満々じゃない?」

「ども、白蝶…さ…んん!?」

「い、いいい一夏は見るな!」

「…くっ!」

 

声がした方を見ると恋敵…ではなく、わたくし達のアドバイザーである白蝶さんが所謂レースクイーン姿で歩いて(?)くる。

出るところは出て引っ込むところは引っ込む…同性から見てもその脚は長く美しい…羨ましい…。

一夏さんはどうやら年上がお好みのようで、白蝶さんの姿を視界に入れると耳まで茹蛸のように顔を赤くしている。

そんな様子を見た箒さんは一夏さんの目を手で覆い隠し、鈴さんは白蝶さんの胸と自分の胸を見て悔しそうに呻る。

わたくしも白蝶さんくらいあったら…と言うことを鈴さんの目の前で言うべきではありませんわね…。

これが所謂隣の家の芝生は青いと言う事なのでしょうか?

 

「白蝶さん…その格好は…?」

「楯無ちゃんが提案してね…どうせなら私だって楽しみたいじゃない?」

「自由ですわね…」

「フフ、楽しめることは楽しまないとお婆ちゃんになったときに後悔するもの」

 

ポーズを決めながら爽やかな笑みを浮かべる白蝶さんは、まるで花の様に可憐で蝶のように儚く見える。

いえ、立体映像ですから儚いと言えば儚いお姿なのですが…。

 

「白蝶さんは楽しむことのスペシャリストだよね。僕は恥ずかしくてできないかなぁ」

「シャルロットちゃん、その一歩が大変だけど何ごともチャレンジよ。貴方達は色んなことが出来る年齢なんだから」

「えへへ、なんだかお母さんみたい」

 

シャルロットさんが照れたように言うと、ほんの少しだけ…僅かな時間ですが白蝶さんの顔が曇る。

お母さん…に反応したのでしょうか?

 

「皆、ロ…狼牙の分まで楽しんでちょうだいね?」

「もっちろん、あいつが羨む様な話してやるんだから」

「あぁ、父様と飛べないのは残念だが、その分楽しむ」

 

白蝶さんは穏やかな笑みを浮かべてそれだけ言うとピットから出て行く。

なんでしょう…会場の熱気が高まった気がしますわ…。

 

「ねぇ、セシリア…白蝶さんは狼牙の所に居なくていいのかな?」

「狼牙さんも一人になりたいこともあるでしょう。それにあの方も楽しんでいるようですし」

「そう、だけど…」

「簪さん、今日のレースに勝った方が狼牙さんを『好きにできる』と言うのは如何でしょうか?」

 

わたくしは簪さんの詮索から意識を逸らす様に一つの提案をする。

楯無さん…?

いつも部屋で独り占めしているのですからいいんです。

 

「負けないよ、セシリア…」

「グッド…では、狼牙さんには悪いですが…」

「二人とも…何だか怖いぞ…」

「そ、そうだね…ラウラ…」

 

フフフ…と簪さんと笑いながら火花を散らしていると、ラウラさんとシャルロットさんは若干引き気味の顔で此方を見てくる。

決闘をするのですから、怖くもなると言う物ですわ!

 

「お、そろそろ準備できるみたいだしコースに出ようぜ!」

「置いて行くな一夏!」

「待ちなさいよ!」

 

一夏さんは場の空気に耐えられなくなったかのように慌ててピットから飛び出して行き、その後を紅椿を纏った箒さんと甲龍を纏った鈴さんが追いかけていく。

 

「二人とも、早くしないと銀君どころじゃなくなっちゃうよ?」

「その話、私も噛むからな…負けんぞ?」

 

シャルロットさんと大胆不敵にも宣戦布告してきたラウラさんも続いて出ていく。

負けられませんわ…娘といえども女なのですから!

…コホン。

昂ぶる気持ちを抑えつつ、打鉄弐式を纏った簪さんと共にわたくしはブルー・ティアーズを身に纏いピットから飛び出す。

少しだけ遊び心を見せて、簪さんと共にマニューバーを披露しつつスタート位置に付く。

会場のボルテージは最高潮。

わたくしも意識を切り替えブルー・ティアーズの装甲を一撫でする。

…わたくしと共に…飛んでくださいな。

そう、狼牙さんと白蝶さんの様な関係で無くともいい。

身に纏っている今はわたくしのかけがえの無いバディなのですから。

 

『それではお待たせいたしました…一年生専用機持ちによるレースを開始いたします!』

 

白蝶さんがコースの真ん中で微笑みながらそうアナウンスするのを聞けば、軽く息を吐き出し視線を鋭くする。

そう…狼牙さんならきっと…。

 

「いきますわよ、ブルー・ティアーズ…このレースの覇者となるために」

 

[―――――]

 

声を掛けた瞬間、誰かが応えてくれたような気がして思わず笑みが零れる。

これは、負けられませんわ!

シグナルがゆっくりと点滅し、グリーンが点灯。

わたくしは最高のスタートを切り、一気に先頭へと躍り出る。

高機動パッケージストライク・ガンナー…これは全てのBT兵器をスラスターへと換装してしまっている為、加速性と小回り両面で融通が利くのですが、手数と言う一点においてどの機体よりも劣ってしまっています。

手に持つBTライフル『ブルー・ピアス』は言ってしまえば手持ちのBT兵器ですので偏向制御射撃ができれば…。

無いもの強請りは仕方ありません。

勝てばいいのですから!

背後からロックオン・アラート…甲龍!

見えない弾丸である衝撃砲をバレルロールを行いながら、横へと回避。

その隙に鈴さんに抜かれてしまいました。

 

「おっさきー!」

「やりますわね!」

「だが、私が上だな」

 

スリップ・ストリームを用いてぴったり背後をくっついてきていたラウラさんが、華麗な動きで前へと躍り出る。

更に其処へミサイルアラートが響き渡る。

忙しいですわね!!

 

「逃がさない…狼牙を好きにするのは、私!」

「ちょ!!私も巻き込まないでよ!?」

「一位じゃないと頭なでてくれないもん!!」

「「「ぎゃーーー!!!」」」

 

簪さんの私欲全開の声と共に近接信管がセットされていたミサイルが矢継ぎ早に爆発していく。

簪さん、恐ろしい娘…!

爆発の衝撃で最短コースから外れてしまったわたくし達は、隙を見つけたと言わんばかりのシャルロットさんを先頭に次いで簪さんの順で列を作っていく。

箒さんと一夏さんは後方で切り結びながら飛んでいるので、恐らく此方に手出しする余裕はないでしょう。

簪落とすべしですわ…慈悲無く、撃ち落してみせます!

互いに牽制を行いながらの一周目を終え、二週目に差し掛かったとき…突如先頭を翔けるシャルロットさんと簪さんのスラスターが何者かの射撃によって破壊され墜落していく。

あの光は…。

射線から方角を見極め、上空を見上げると凄惨な笑みを浮かべているサイレント・ゼフィルスが此方へと銃口を向けている。

 

「BT二号機サイレント・ゼフィルス…わたくしと踊ってもらいますわよ!」

「お、おいセシリア!!」

「一夏さん達は会場の皆さんの安全を優先してくださいまし!」

 

この獲物は…わたくしの獲物…誰にも邪魔はさせません。

わたくしは上空に向けて瞬時加速を行い一気に高度を上げながら牽制射撃で相手の動きを見極める。

格上…ですが、やはり狼牙さんに比べれば鈍い類ですわね。

 

「BT一号機…ブルー・ティアーズの力、御見せ致しましょう!」

「雑魚が…いきがるなよ」

 

サイレント・ゼフィルスは忌々しげな顔で此方に銃口を向けエネルギー弾を撃ち込んで来る。

それらを狼牙さんの様に最小限の軌道で避けながら、わたくしも同じように射撃を繰り出しつつ左手に近接格闘兵装、インターセプターを展開。

相手の呼吸に合わせて一気に瞬時加速を行い肉薄して斬り付けると向こうもナイフで受け止め鍔迫り合いになる。

 

『セシリア!支援砲撃開始するよ!』

 

シャルロットさんの声と共に衝撃砲、レールカノン、ミサイルによる砲撃が開始されるとわたくしは、大胆不敵に笑みを浮かべる。

 

「さぁ、わたくしと地獄でワルツと洒落込みましょうか」

「ちぃっ…!」

 

サイレント・ゼフィルスにはシールドビットが搭載されている。

こうして肉薄していれば、サイレント・ゼフィルスは自信の身を守るためにシールドビットを使わざるを得ない…。

図らずもわたくしを守りつつ、手数を減らして身も守ってくれる状況ができあがるわけです。

 

「小娘と侮ってはその機体が泣きますわよ!」

「舐めるな!」

 

クロスレンジでの格闘戦…一学期の頃ならばお話にならなかったでしょう。

ですが、最愛の人が師として厳しく鍛錬をつけてくれたのです。

彼の顔に泥を塗ることなんてできません。

ショートブレードであるインターセプターではナイフの小回りには負けてしまう。

だから…!

 

「はぁっ!!」

「くっ!!」

 

インターセプターでナイフを受け止めた瞬間に刃を滑らせるように流し弾いた瞬間に鋭い回し蹴りを叩き込み距離を開かせた瞬間にブルー・ピアスによる追撃を行う。

しかし、向こうも強者…難なくブルー・ピアスの射撃をシールドビットで受け止めると偏向制御射撃によるオールレンジ攻撃でわたくしを追い回しはじめる。

 

「どうした、さっきまでの威勢は!!」

「くっ…!」

 

悔しいですが、今の攻撃で仕留めきれなかったわたくしの落ち度ですわね。

全力で機体を振り回し回避に専念していると、サイレント・ゼフィルスの背後から一夏さんが突撃を仕掛ける。

 

「セシリアアアア!!!」

「くっあああ!!」

 

サイレント・ゼフィルスの腕を掴んだ一夏さんは莫大な推力にモノを言わせてレース会場のシールドバリアーに何度も体当たりを繰り返し、砕き割る。

 

「邪魔だ!織斑 一夏!!」

「うるせぇ!狙うなら俺だけにしやがれ!!」

「望みどおりにしてやる!寝ていろ!」

 

一夏さんの拘束を解いたサイレント・ゼフィルスは至近距離からBTライフルを乱射し、一夏さんを行動不能に追い込む。

その隙は逃しませんわ!

 

「貴女のお相手はわたくし…セシリア・オルコットですわ!」

「ちぃ!!」

 

割れたシールドバリアーを潜ってインターセプターで斬り付けようとすると、サイレント・ゼフィルスは逃げるように市街地へと飛び込んでいく。

逃がすまいと私は後を追い市街地に飛び出す。

市街地ともなれば一般人にも危害が及ぶ…その迷いが隙となっているのか、サイレント・ゼフィルスの持つ火力…なにより偏向制御射撃がわたくしを追い詰めていく。

このままでは何れ羽根をもがれてしまう…かくなる上は…。

わたくしはブルー・ピアスの出力を爆発寸前まで上げ、その状態でサイレント・ゼフィルス目掛けて投げ飛ばす。

 

「血迷ったか…しょせんはお遊びの世界の人間だな」

 

わたくしの狙い通りブルー・ピアスは撃ちぬかれ爆煙がサイレント・ゼフィルスとの視界を遮る。

歯を食いしばり、二重瞬時加速を使用。

後先考えない突撃は不意をうつのに充分…インターセプターを構えて思い切り斬り付けますが、『やはり』ナイフで受け止められてしまう。

 

「もういい、お前は…此処で死ね」

 

ぞっとするような冷たい声…これが人殺しの声なのでしょうか?

ですが、後に引くわけにはいかない…高貴なる者の義務(ノブレス・オブリージュ)を果たす必要があるのですから!

ガチンと、心の撃鉄を起こし、引鉄をひく。

ストライク・ガンナーの仕様上決して使ってはならない奥の手…。

下手すれば機体が空中分解を起こす可能性がありますが…狼牙さんのように無理無茶無謀が専売特許になりそうですわね。

 

「ブルー・ティアーズフルバースト!!」

 

閉じている砲口パーツを吹き飛ばしながらの四門同時斉射。

機体ダメージも甚大でシールドエネルギーも残り僅か…分の悪い賭けでも、何もやらないまま諦めるわけにはいきません。

しかし、わたくしの望み空しくサイレント・ゼフィルスは嘲笑うかのようにそれらを避け、エネルギーライフルに備えられた銃剣がわたくしの二の腕を貫通する。

 

「ああああああ!!!!」

「豚のように聞くに堪えない悲鳴だな…これで終わりにしてやる」

 

まだ、まだ死ねない…帰る場所があるのですから…だから…。

 

「お願いです、わたくしの相棒だと言うのなら…応えて!!」

 

[あぁ、よく聞こえるよセシリア]

 

聞いたことのある声…とても懐かしい声が聞こえた瞬間、わたくしは焼けるような痛みを発する二の腕を無視して笑みを浮かべてしまう。

たった、それだけのことだったなんて…。

蒼い雫が水面に落ち、波紋が広がっていく。

想いを伝えるように。

 

「何がおかしい!?」

「だって…背中がお留守なんですもの」

 

ゆっくりと困惑するサイレント・ゼフィルスに向かって左手で銃の形を作れば突きつける。

 

「BAN!」

 

わたくしが銃を撃つ仕草をすると、フルバーストで放ったレーザーは思い通りに曲がりサイレント・ゼフィルスの背後に直撃する。

…一矢報えどこの程度…悔しいですわね…。

展開限界を迎えたブルー・ティアーズは待機状態に戻り、わたくしは凄まじい速度で地面に激突する…はずだった。

 

「待たせたな…良く頑張った」




勢いで書いた、反省はしてない

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