【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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愛を囁いて

キャノンボール・ファストに向け学園内の熱は徐々に高まってくる。

TVでも放映されれば普段興味の無い男子学生でも、その話題に持ちきりになるのだ。

そんなレースに自分が出場できるともなれば、どうしたって興奮してしまうものだ。

ISの持てる限界速度で大空を翔け回る…あぁ、本当に羨ましい。

放課後、生徒会の仕事も一段落したので、一夏達が訓練している第一アリーナへと向かう。

楯無はどうしたって?

ははは、サボり過ぎて虚に絞られている真っ最中だ。

それにこうして一人でアリーナへの道を車椅子で移動するのも中々良いものだ。

…どうにも好意に甘えるのが苦手なだけかもとは思うのだが。

アリーナへと入り、観客席へと向かう。

フィールド内へと目を向けると、今はセシリアと簪、鈴がレースを行っている。

セシリアのブルー・ティアーズはストライク・ガンナーを装備。

簪の打鉄弐式は打鉄用の高機動パッケージ…確か『韋駄天』だったか。

実体シールドの代わりに増設されたフレキシブル・バーニアと背面の大型スラスターが特徴的だ。

バーニアは推進剤頼りなので、使い切ったらパージして機体を軽くすることもできるそうだ。

鈴の甲龍はキャノンボール・ファスト用に調整された高機動パッケージ『(フェン)』を装着している。

目に見えてスラスターが増加しているな…基本エネルギー効率に優れた甲龍ならば余剰出力を推力に振っても何も問題なさそうだ。

三者とも、抜きつ抜かれつのデットヒートで真剣な表情で翔け巡っていく。

幾分機動に余裕がある分本気では無い様だな…訓練といえども楽しんでやれているようだ。

さて、他のメンバーはと探していると、アリーナの中央で一夏と箒は正座をしてラウラとシャルロットが何やら話している。

俺が言えた義理ではないが、二人ともまだまだIS素人…かつ鈴は感覚的な物の教え方しか出来ないのでラウラ達が高機動講座を行っているようだ。

身振り手振りで物を教えているラウラは鬼教官もかくやと言う気迫を放っている。

対するシャルロットは、そんなラウラとは裏腹に優しげな雰囲気を放っている。

なるほど、飴と鞭か…。

微笑ましく訓練風景を眺めていると、俺に気付いたのかレースを終えたセシリア達が近くまで寄って手を振ってくる。

軽く手を振って応えてやると鈴から連絡が入ってくる。

 

『ちょっと…あんた平気なの?』

『まぁな…意外と頑丈に出来ているものだろう?』

『あんたねぇ…」

 

俺が肩を竦めながら笑みを浮かべると、鈴は呆れ顔で腰に手を当てる。

セシリアと簪は何が可笑しいのかクスクスと笑っている。

 

『狼牙さん、部分展開だけしてこちらで一緒に飛びませんか?』

『本気で飛ばなければ大丈夫だと思う…』

 

楯無との模擬戦以来身に着けてなかったからな…久しぶりに空をゆっくりと飛んでいたい。

小さく頷くと、セシリアと簪はパァッと笑顔を浮かべる。

この笑顔、プライスレス。

車椅子を操作して、観客席から一度出てアリーナのピットを目指す。

弱っている演戯をするのも中々面倒なものだ…だが、どこから情報が漏れるか分からない以上気をつけるに越したことは無い。

ピット内で車椅子から降りて両腕と両足、更にテールスラスターを部分展開してホバリングの要領でゆっくりとアリーナ内へと出る。

俺の姿に気付いた一夏達がこちらへとやってくる。

 

「銀、ISを身につけても平気なのか?」

「あぁ、ノロノロと飛ぶ程度ならば問題ないだろう」

「銀君、無理しちゃだめだからね?織斑先生に言いつけるよ?」

 

一夏、セシリア、簪を除いた他の人間は俺の体の事を知らない。

知っているのは何者かに撃たれたと言う事実だけだ。

心苦しいが敵を騙すには味方から…すまんな。

 

「父様、こうしてアリーナで会うのは何だか久しぶりだな」

「あぁ、そうだな…ところでラウラ…生徒の出来はどうだ?」

「一夏も箒も私の指示を良く聞いてくれている。シャルロットも手伝ってくれているし、当日までには仕上がらせてみせる」

 

ラウラとシャルロットは何故かドヤ顔で俺を見つめてくる。

一緒に生活しているからか、この二人は非常に仲が良い。

友人と言うよりは姉妹とかそう言った関係のようにも思えてくる。

 

「狼牙、まともにIS使えるようになったら勝負しようぜ」

「一夏、止めときなさいよ。あんたじゃ逆立ちしたって天狼の速度にはついていけないって」

「やってみなきゃわからないだろ?」

「レースやるにしても、俺には制限かけられそうだな…少なくとも全力機動は封じられるだろう」

 

一夏が笑みを浮かべながら勝負を申し込んでくると、茶々を入れるように鈴が止めに入ってくる。

単一仕様能力の効果で、俺の機体は空気抵抗を極端に受けない。

更に展開装甲による推力は通常スラスター等とは比べるべくも無いのだ。

これを卑怯と言わずして何と言うのか…?

 

「さて、訓練の邪魔をしても悪いしな…適当に漂っているから皆は訓練に励んでくれ」

 

そう言うなり俺はゆっくりと空へと舞い上がり、風に流されるように空を飛び始める。

あぁ…やはり飛べると言うのは良いものだな…。

 

[あら…IS着けて飛ぶなんて悪い子ね、ロボ?]

 

今更悪い子も何も無かろうにな…白?

久しぶりに聞く相方の声は、やや疲れの色が見える。

 

[織斑 マドカ…千冬のクローン体…かもしれないと言う所までは調べられたわ。どうやら、この国でクローニングの研究を行っていたみたい…誰かさんに根こそぎ潰されたみたいだけど]

 

南無三…どうやら束さんが裏で暗躍しているケースはあちこちにあるようだ。

表沙汰にならないように潰して回っているのは良いが、もう少しその熱意を箒に向けてやっても良いんじゃなかろうか?

話は逸れたが千冬さんのクローン、か…何とも無駄なことを。

あの人の強さは確かに肉体的な強さもあるだろうが、心技体三つ揃っているからこそ千冬さんは世界最強の座に君臨している。

付け焼刃程度の強さなぞ高が知れているだろう。

研究員には関係がないだろうが。

 

「また難しい顔をなさってますわ」

「狼牙…?」

 

ゆっくりと訓練用のコースを飛んでいると、セシリアと簪が両脇に並んで飛んでくる。

二人とも笑っているのに笑っていない顔をしていらっしゃる…怖いな。

 

[愛されてるわねぇ、ロボ?]

 

身に余る光栄と言うものだろう…ありがたいものだ。

心配しすぎ…とも思えてしまうが。

白、一応情報は千冬さんと楯無に送っておいてくれ。

 

[アイ・サー。暫くバカンスとしゃれ込むわ]

 

本当にお疲れ様だ…。

軽く溜息をつくと、セシリアと簪が手を繋いで引っ張ってくる。

一応、病み上がり設定なので無茶はやめてもらいたいが…。

 

「狼牙さん、今楽しいですか?」

 

セシリアは此方の顔を覗きこむように見つめてくる。

あまりにも唐突な言葉に俺はきょとんとしてしまう。

その顔が可笑しかったのか簪は少し吹き出しクスクスと笑う。

 

「狼牙は、いつも眉間に皺を寄せて考え込んでいるから…他の人ばかりで自分は楽しんでないんじゃないかって」

「バカな…もっと楽しめるように最善を考えているだけだと言うのに」

 

セシリアと更識姉妹…ラウラに一夏達…この学園で出会った人たちと触れ合っていて楽しめない訳が無い。

ましてや愛した女達の傍で楽しんでいないわけが無いのだ。

 

「狼牙さんは言っても聞きませんから、何度だって言いますわ…わたくし達も共に悩み考えていたいと…貴方の支えでありたいと」

「狼牙は優しいから、負担をかけたくないって思ってるんでしょ…?でも、それとこれは違うから…分かち合っていたいの」

 

二人とも優しい笑みを浮かべ俺を諌めてくる。

過保護、なのかもしれない…俺は。

傷つけたくないと思うあまりに巻き込みたくないと思ってしまうのだ。

それはそれで彼女達を傷つけている…なんとも儘ならないものだな。

 

「そうだな…少々意固地になっているかもしれん…」

「えぇ、わたくし達の狼さんは本当に頑固者ですから」

「そんなところも大好きだけど、ね…」

 

三人で笑みを浮かべながら空を飛び続ける。

こういったひと時もきっとかけがえの無い大切な思い出になるのだろう。

いつまでも共に居よう…大切な人たちと共に。

 

 

 

日は沈み、皆と騒ぎながら夕食を食べ終えて一人で大浴場に居る。

一夏は既に入ったとの事で、一人で入るにはあまりにも広すぎる湯船に浸かり無駄に疲れた身体を癒している。

車椅子と言うのは案外座り心地が良くない…故に疲れるのだ。

俺からすれば拷問器具その2と言った所だ。

ぼんやりとしたまま顔を上に向け天井を見つめる。

 

「あー…」

 

何気なしに声を発すると声が大浴場内で反響して響く。

本当に意味が無いな…だが、一人だからこそ感じられる空気が此処にある。

大浴場万歳。

不意に出入り口の扉が開かれ、ひたひたと言った足音が複数響いてくる。

 

「今は女子禁制なんだが…?」

「生徒会長権限って便利だと思わない?」

「職権乱用に物申す」

「ぶーぶー、良いじゃないお風呂に入るくらい」

 

そう言いながら楯無が俺の左側に寄り添う形で湯船に入り肩まで浸かり、右には簪が同様に。

そしてセシリアは俺に背中を預けるようにして湯船に浸かってくる。

そうだ…素数を数えよう…素数は一と自分の数でしか割れない孤独な数字…理性が無ければ数えられない…。

自分でも顔が赤くなっているのが分かる。

何度も肌を重ね合わせた仲ではあるが、こう状況が特殊だと場の空気に飲まれてしまう。

 

「前にも入ったし…大丈夫」

「簪さんは出会ったときに比べて逞しくなりましたわね…」

「お姉ちゃん嬉しくて涙が出そうだわ」

 

三人寄らば何とやら、姦しくおしゃべりをしつつも俺から離れようとしない。

必死に理性の壁を作り、ポーカーフェイスを気取る。

そうでもなければ格好が付かんよ…顔赤いが。

 

「あら、狼牙君はだんまりかしら?」

「顔真っ赤…なんだか珍しいね?」

「フフ、わたくし達とお風呂に入っていてそういう反応を見せてくれるというのも嬉しいですわね」

「美人三人にこうも引っ付かれていては仕方が無いだろう?」

 

むしろこの三人相手に理性を保たせている俺を誰か褒めてくれ…。

三人ともそれぞれ魅力的なのだ…こう言ったアプローチは堪ったものではない。

 

「~~っ出るぞ」

 

このままだと本当に襲いかねないので、俺は立ち上がろうとするが三人に素早く拘束されて再び湯船の中に座らせられる。

嫌がらせか…?

 

「だ~め♪」

「そうだよ…まだ入ったばかりなんだから…」

「えぇ、偶にしかこうしてお風呂をご一緒できないのですから」

 

じぃっと三人に懇願するように見つめられ、結局は望みを叶えてやろうと折れてしまった。

甘やかせ過ぎているな…本当に。

分かっていても笑顔が見たくてそうしてしまうのだが。

 

「怒られてもしらんからな?」

「皆で怒られれば怖くないわよ」

「それでいいのか…生徒会長」

 

楯無はドヤ顔で此方を見上げてくる。

元よりお叱り覚悟の混浴か…恐れ入る…巻き込まれる側の身にもなってほしいが。

 

「えぇ、わたくしもそう思いますわ…狼牙さんと一緒なのですから」

「狼牙が居れば怖くないもん…」

「刷り込みが働いたひな鳥みたいではないか…まったく」

 

若干呆れながらも三人それぞれに軽くデコピンをしておく。

あまり派手にやっては示しがつかんと言うものだ。

 

「そういう風に言ってくれるのは構わんが、節度と言うものはある…今後は此処で混浴なんぞ勘弁してくれよ?」

「「「むぅ…」」」

 

諌める様に言うと、セシリア達は不満そうに頬を膨らませている。

あまり欲望のままに行動しては拙いからな。

セシリア達の為にならんと言うものだ…。

 

「…愛しているし、居なくならんよ…俺は」

 

両脇にいる更識姉妹の頭を抱き寄せ優しく撫でつつ、背中を預けてくるセシリアを見つめる。

大丈夫だと分かっていても不安になることがある。

誰だって持つ不安だからな…現に俺が常に抱き続けているものだ。

信頼を以って折り合いをつけなければならんのだろうが…俺でこのザマなのだからセシリア達の心情は推して知るべしか。

 

「私も愛してるわ」

「わ、私も…狼牙のこと愛してる」

「えぇ…偽り無く、わたくしも…そしてわたくし達も居なくなりませんわ…狼牙さん」

 

セシリアが此方へと振り返り抱きつき微笑んでくる。

セシリアの発してくれた言葉に少しだけ救われた気がして、俺は思わず笑みを浮かべる。

彼女達が誇れるように生きなくては…そう思うには充分なひと時だった。




描写的に大丈夫なんだろうか…と不安に思ったり…

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