【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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Ghost come from the past

[……て…」

 

水の中で身体が動かせないような…そんな感覚に陥っている。

誰かの声が聞こえる気がするが、よく聞き取れない。

本当は誰も何も言ってないのかもしれない。

全身が鉛のように重い。

動くことを拒否しているかのようだ…。

 

「……き…だ…」

 

ゆっくりとだが、身体が揺さぶられ始める。

ゆら、ゆら、ゆら…まるで揺り篭に揺さぶられているようで、抗いがたい心地よさを感じてしまっている。

疲れた…今は…休ませて欲しい。

少しだけでいい…考えることを止めたい…。

自暴自棄にもなる…でも、それでも…大切な人たちが居る…そのために…。

夢の中の世界でも結局考えることを止められない。

ISや特殊兵器の強奪を行い、あまつさえ使いこなしてくる謎の組織。

強奪されているのにも関わらず、黙し続ける各国。

コアの在り処を把握できていないIS委員会…。

この世界の裏で…何があるというのだ?

必死に頭を悩ませていると、凄まじい爆音が俺を包み…。

 

 

 

 

「煩い!寝かせろ!!」

「漸く起きましたね、銀様」

 

銅鑼の様な爆音が耳に入り飛び起きた俺は、不機嫌さを隠そうともせずに目の前の少女…俺と同じ髪色の束さんの娘であるクロエ・クロニクルへと目を向ける。

涼しい顔をしているのが腹立たしい…。

そう言えば、セシリア達が居ない…そもそも…そもそもだ…。

 

「どうしてお前がここにいる…お前の能力なら侵入なんぞ朝飯前だろうが…」

「束様からお荷物が…こちらは教室の方に置いておくように申し付かりましたので置いておきました」

「実験台にされるんじゃなかろうな…」

 

最近は、とんとそんな話が来てないので油断していた…あの人は知的好奇心を満たすためだったら、比較的手段は選ばない。

千冬さんの教育的指導(サブミッション)で大分マイルドにはなっているらしいが…。

解剖発言もそうだが、それでも一般人にはオーバーキルな方法でアプローチを仕掛けてくるのだ。

 

「いえ、『玩具を作ってみた』との事です。」

「そうか…どっちにしろ不安は拭えんが…。お前はこの後どうするつもりだ?」

「この後…ですか?帰るつもりですが…」

 

どうにも生真面目に過ぎる気がする…束さんと足して四で割れば丁度いいかもしれん。

俺は、机の引き出しから幾ばくかのお金を取り出してクロエの手に握らせる。

 

「学園祭をやっているんだ…遊んでから帰ってもバチは当たらんよ」

「ですが…」

「駄賃だ…お土産も買えるだろう?」

「はぁ…」

 

クロエは何か諦めたように渡されたお金を丁寧に仕舞い、ペコリと頭を下げる。

満足げに俺は頷き、ふと時計へと目を向ける。

七時五十分…馬鹿な…寝過ごし…!?

 

「す、すまないが出て行ってもらえんか…?急いで着替えねば…!!」

「承知しました。それでは銀様、ごきげんよう」

 

クロエはスカートの裾をつまみ丁寧にお辞儀をして部屋から出て行く。

惰眠を貪りすぎた…急がねば何をされるか分かったものではない!!

乱暴に服を脱ぎ散らかし、向こうで着替える手間を惜しんで執事服へと着替える。

身だしなみはセシリアに見てもらうしかない。

どたばたと準備を済ませ、俺は誰も居ない寮の部屋を風の様に飛び出すのだった。

 

 

 

 

可能な限りの最短距離を駆け抜けた俺は、残り三十秒と言うタイミングで教室に滑り込むことに成功する。

危ない…本当にギリギリだった…次からは気をつけねば。

 

「よう、狼牙…寝坊なんて珍しいな」

「ハァ…ハァ…おはよう…一夏…」

 

俺は額の汗をハンカチで拭い呼吸を何とか整えようとする。

飛んだり跳ねたりしながら走ってたからな…前日の疲れもあってか、中々呼吸が整わない。

 

「銀…お前宛にバカから荷物が来ている…何か頼んだのか?」

「織斑先生…押し付けられたものだ」

 

千冬さんに水晶状の球体が取り付けられた機材を此方に投げてよこす。

人の荷物くらい普通に手渡してくれんだろうか…見た感じ精密機械みたいだしな。

 

「仕様書か何か無いのだろうか?」

「あのバカがそんなもの書くと思っているのか?アレで飽きっぽい性格なんだぞ」

「銀、姉さんから何かもらったのか?」

「あぁ…訳の分からん機械を…」

 

箒は気になったのか此方に近寄り問いかけてきたので、モノを見せようと差し出したときに駆動音と共に機械が俺の手から離れて宙を舞う。

…厄介な気がする。

 

「厄介はないんじゃないかしら、ロボ?」

 

宙を舞う機械の水晶球が光り出すと、立体映像でオルコット家メイド服を着た白い絶世の美女…白蝶が表示される。

…何を作っているんだ…何を…。

片手で頭を抱えていると、立体映像で表示された白を見てクラス内は騒然となる。

 

「だ、誰なの!?」

「実在の人!?」

「そもそもロボって誰よ!?」

 

白の姿を見たセシリアとラウラが此方へと駆けて来る。

セシリアは若干の焦燥を、ラウラは満面の笑みを浮かべている。

 

「ど、どど、どういうことですの!?どうして白蝶さんが!?」

「白蝶はこういう顔をしているのか…うむ、私は満足だ」

「束に頼んで作ってもらった甲斐があると言うものよ」

 

白の言葉を聞いて千冬さんと箒は目を丸くする。

 

「貴様…あのバカと知り合いか…」

「あ、あなたは姉さんの友人なのか?」

 

二人とも驚きを隠せず、うろたえている。

束さんの性格を知っていれば尚更ではある。

一夏といつの間にか来ていたシャルロットがまじまじと白蝶を見つめている。

 

「貴女が、白蝶さん…なんですね」

「そうよ、シャルロットちゃん…生徒会室でお話して以来だったわね」

 

一夏は…こう言ってはなんだが、間抜け面を晒して白を見つめ続けている。

一夏の周囲には居ない妖艶なタイプだからな…仕方あるまい。

そんな様子に大変ご立腹なのか、箒は頬を膨らませながら一夏の耳を摘んで引っ張る。

 

「だ、だらしない顔をするな!情けないぞ!?」

「いたたた!!やめろって、箒!」

 

セシリアもご立腹な様で此方に詰め寄ってくる。

そんなに怒られても俺にも分からんよ…二人が何を考えているのか…。

 

「どうして、篠ノ之博士に頼んだのです!?」

「いや、俺はノータッチだからな?俺だって白が何を考えているのか分からんよ…」

 

がっくりと肩を落としながらラウラたちと姦しく騒ぐ白を眺める。

コミュニケーション能力も凄まじく高い隙の無い女…故にもうクラスに溶け込んでいる。

手綱を握れといわれても無理だな…旧天狼よりもじゃじゃ馬だし。

 

「くぅ…油断していましたわ…まさか昔の…もご」

「それ以上は俺の胃がいけない」

 

さっと手でセシリアの口を塞ぐと、一斉に俺に向かって視線が降り注ぐ。

これは…面倒なやつだ…。

 

「銀…そろそろこの女との関係を教えてくれてもいいんじゃないか?」

「「「「そうだそうだー!!!」」」」

 

千冬さんは白の正体を知っていながらもニヤニヤとしながら白の紹介をしろと生徒と一緒に詰め寄ってくる。

民主主義者が…数で勝れると思うなよ…。

俺がジリジリと後退しながら離れようとすると、ラウラが間に入ってくる。

援軍が来たか…千冬教信者の一人ではあるが。

 

「教k…織斑先生、父様が困っているのでそれ位にしていただけないでしょうか?」

「む…ボーデヴィッヒは私ではなく銀の味方をするというのか?」

「うっ…そ、そういうわけでは…!?」

 

大人気ない…あまりにも大人気ないぞ千冬さん…。

ラウラは俺と千冬さんの間に挟まれ頭を抱えてうんうん唸っている。

…そこまで葛藤してくれるくらいには懐いていたのだな…。

事態が硬直した時、白から鶴の一声が上がる。

 

「私のことよりも千冬の私生活が気になる娘の方が多いんじゃないかしら?」

「き、貴様!?」

「そ、それだけは駄目だ、白蝶さん!!」

 

白の爆弾発言に生徒達の矛先は千冬さんに向けられ、織斑姉弟は動揺を隠せずうろたえる。

以前話したとおり、千冬さんは片付けられない女だ。

一日おきに一夏が部屋の清掃と整理を行わないと、あっという間に今鹿真っ青の腐海ができあがる。

一応…そう一応千冬さんも女性ではあるので片付けられない現状に苦しんではいるのだが、一向に改善する兆しが見られない。

…戦闘に特化しすぎてしまったのだろうな。

 

「なら、私のことも秘密よ…千冬?」

「ぐ…仕方ない…」

 

千冬さんはなくなくと言った感じで諦め、一夏はホッと胸を撫で下ろしている。

一夏としてもやはり姉のだらしない姿と言うのは知られたくないだろうしな…。

 

「それじゃ、私楯無ちゃんと簪ちゃんに挨拶がてら客引きしてくるから…ロボはこれを身に着けるのよ?」

 

白は此方に近寄るなり銀の犬耳と尻尾を俺の頭と腰につけてそそくさと出て行ってしまう。

どうやって身につけ…あぁ、量子化…と言う事はアレはISコアか!?

玩具作るのに何やってるんだ束さん…。

どうもこの犬耳と尻尾、俺の意識にリンクしているようで犬耳と尻尾が力なく垂れ下がる。

そんな様子を見てかクラスメイト達は顔を背け忍び笑いを漏らす…笑いたければ笑うといい…。

 

「銀君は昨日午後からサボりっぱなしだったから閉会までその格好ね?」

「と、父様…ぷふっ…良く似合って、いるぞ…」

「えぇ、くふっ…後で黛先輩にベストショットを撮っていただきましょう…」

「何でも来いと言うのだ…煮るなり焼くなり好きにすると良い…」

 

がっくりと肩を落とすと同時に開会のアナウンスが入る。

忙しい一日の始まりだ…俺は気を取り直して手を叩く。

 

「一夏、号令を頼むぞ」

「おう。皆!今日も頑張って乗り切って、最優秀クラス目指すぞ!」

「「「「おーー!!!」」」」

 

 

 

目まぐるしい一日が終わり、第一アリーナにて全校生徒を集めての閉会式を行う。

大変だった…白が客引きに奔走した所為で、初日よりも多くの客が詰め掛けたのだ。

その中にはリピーターも大勢居たため、初日と違う格好をした俺の姿を見て写真を撮られまくったのは言うまでもない。

その中に弾やナターシャさんも含まれているのは言うまでもない…見られたくない連中に見られたのは痛恨の極みと言わざるを得ない。

暫く弾には犬耳ネタで弄られそうだ…。

 

「狼牙君にはその格好のまま閉会式に出てもらうからそのつもりで」

「お前だけは味方であってほしかったんだがな?」

「えー、だって似合ってるんですもの…お祭りなんだから構わないでしょ?」

「承知した…」

 

第一アリーナの控え室で最終確認を行っている間、楯無に晒し首勧告を受ける。

血も涙も無いとはこの事か…俺とて恥じらいくらいはあるのだが…。

力なく尾を垂らしながら揺らしていると、虚が紅茶を淹れて持ってくる。

 

「フフっ、結構…可愛いですよ銀君」

「虚よ…俺が男だと知っていての発言で間違いないよな?」

「ベストショットはきっちり撮ってあるから安心してね!」

「できるか!!」

 

なんて物撮ってくれるんだ…末代までの語り草になるではないか…十六代目の。

深いため息を零しながら紅茶を飲み気分を落ち着ける。

実際美味いので仕方ないが、否が応でも尻尾を振ってしまうのである。

束よ…次会ったときが貴様の最期だ…。

 

「白蝶にはこの学園のエージェントって扱いにしてあるから、今回の立体映像化は助かるわね…上層部でも存在が疑問視されてたし」

「まぁ、ISコアが手伝っていると言われても反応に困るしな…」

[何事も顔をつき合わせると言うのは信頼を得るために大事なことよ]

「白蝶さん、今後ともよろしくお願いします」

 

まぁ、その結果俺が弄られる材料が増えたとも言える訳だが。

資料に目を通しつつ内容を覚えていく。

やはりと言うかなんと言うかクラス最優秀賞は一組に決まったようだ。

圧倒的な暴力だったものな…仕方あるまい。

 

「白、せめて相談くらいはして欲しかったのだがな?」

[いいじゃない、人生にスパイスは必要よ?]

「私も同意見ね…楽しく過ごさなきゃ損よ」

「お嬢様はもう少し大人しくしていてほしいのですが…」

 

やはり手綱を握れというほうが無理だな…楯無込みで制御できる自信がない。

愛した弱みとも言えるが。

書類を纏めて整理をすれば出入り口へと向かう。

 

「そろそろ時間だ…行くぞ」

「あ~あ、もう終わりの時間なのね」

「楽しい時間は過ぎ去るのが早いものですから…そんなに気を落とさないでくださいお嬢様」

 

白も交え三人で雑談を交わしながら、第一アリーナの壇上へと向かう。

皆最優秀賞がどこなのか気になって仕方ないのか、浮ついた空気に会場が包まれている。

楯無がマイクの前に立ち挨拶を始める。

 

「皆、学園祭お疲れ様。楽しんでもらえたかしら?年に一度のお祭り騒ぎ…いい思い出が出来たと思うわ。さて、長い前置きもいらないでしょうし…早速副会長から最優秀クラスの発表からしてもらうわ」

 

楯無が一歩下がり手招きをしてきたので、俺は諦めた顔でマイクの前に立つ。

…そこら中からシャッター音とフラッシュが起きるのはもう仕方ないのだろうな。

 

「あー、副会長の銀 狼牙だ。どうか静粛にして欲しい…撮っても面白い物でもないだろう?」

「「「そんなことないぞー!!」」」

「喧しい」

 

一年を中心に揶揄が飛んでくるが、一括して黙らせる…我慢だ…もう少しで取ってもいい許可が下りるのだから。

軽く咳払いをして最優秀クラスの発表を行う。

 

「今年の学園祭最優秀クラスは…一年一組の『御奉仕喫茶』だ。投票率も圧倒的で実に六割の人間が一年一組に投票した結果となった」

 

俺が発表を終えると巨大な空間ディスプレイが頭上に表示され、各クラスの得票数が表示されていく。

今回のこの結果…確実に男性操縦者ではなく千冬さん目当てのお客が中心となって投票していたと思う。

他のクラスの人間達も分かりきっていたようで、何処か諦めにも似たため息が漏れている。

さて…一夏部活所属問題の解消と参ろうか。

 

「さて…恐らく今回のメインであろう最優秀部活動の発表だ」

 

ざわついていた会場内が一気に静まり返る。

なんせ一夏ないし部費の争奪戦だからな…否が応にも期待してしまうと言う物だろう。

なんとも気まずい発表ではあるのだが。

 

「学園祭最優秀部活動は生徒会主催の観客参加型演劇『シンデレラ』だ…」

 

俺の発表と同時に空間ディスプレイに各部活動の得票数が表示される。

割合にして実に七割…最早圧倒的と言う言葉さえ生温い結果となっている。

これも楯無の策略なのだというから大した物だ。

早速抗議の声が方々から上がってくる。

 

「卑怯!ずるいわ!!生徒会の陰謀よ!!!」

「なんで生徒会なのよ!!」

「私達だって頑張ったのに!!!」

 

俺はそれらの声を手で制しつつ、内心ため息を吐く。

この手の抗議は仕方ない…と言うか今回のこの得票率のウラ事情を俺は知らされてなかったので、卑怯と言われれば甘んじて受けなければならない方法だったのだが。

 

「では、今回の一軒は長である楯無から説明してもらう」

「さて…今回の『シンデレラ』参加条件は、生徒会に投票すること。強制はしていなかったのでこれは立派な民意と言えるわね」

「織斑君と銀君なんて撒き餌使ってなんてずるいわよ!!」

 

や、ある意味で正攻法と言えば正攻法よな…欲しい物をチラつかせれば食いつかずにはいられんだろう。

俺は耳と尻尾を力なく垂らしながら眉間を揉む。

楯無はまぁまぁと言った感じで抗議の声を抑えて言葉を続ける。

 

「これで正式な生徒会メンバーとなった織斑 一夏君には、適宜各部活動に派遣します。大会等には男子なので出られないので、マネージャーや庶務をやらせてあげてね。申請は生徒会に書類を提出してもらえば審査して派遣するので」

 

つまり、今回の争奪戦は諸々の抗議を一気に消し去る為の出来レースだったわけだ。

部費が欲しい連中には僅かばかりとは言え部費が入り、限定的とは言え一夏も部活に参加することが出来る。

一夏の所属も生徒会と言う扱いになるので、学園上層部もニンマリ、と…良くもまぁここまで思いつくものだな。

…シンデレラの脚本が白なので、確実に白の入れ知恵もあるだろうが…。

 

「まぁ、丸く収まったか…」

 

俺はぼそりと呟き、澄み渡り茜色に染まる秋の空を見上げるのだった。




じわじわとお気に入りが増えていて、なんともありがたいものです。
感想なんかも遠慮なく書いてくれると嬉しいなぁ、とか(チラッチラッ

そうそう、提督業始めました

陸奥さん可愛い、電ちゃん雷ちゃんも可愛い

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