【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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駆け抜ける狼

サイレント・ゼフィルスを取り逃がしたため、少々気落ちしながらも学園へと帰投中に楯無に通信を入れる。

 

「楯無、そちらは無事か?」

『問題ないわ、途中一夏君の白式が奪取されそうになったけど…』

 

どうやら『剥離剤』を使用されたらしい…俺の機体が狙われなかったのは、恐らく異常な加速力に耐えられるだけの逸材がいないからだろう。

加えて向こうは知らない事実だろうが、俺の機体には白がいる。

コアを移植でもしなければ起動すら侭なるまい。

そう考えると、まだ普通のISである白式は十分に狙う価値のある機体だろう。

なんせ、燃費が悪いと言うだけの話なのだからな。

扱い方さえ間違えなければ、充分に強い機体といえる。

 

「楯無、イギリスのISが強奪されたという話は聞いているか?」

『いいえ…そう言った話は聞いてないけれど…』

「BT兵器を積んだISと交戦した。交戦データを白に纏めさせているから、後で目を通しておいてくれ』

『分かったわ…どうにもキナ臭いわね~』

 

強奪された『剥離剤』を使用しての一夏襲撃…表沙汰にされていないBT兵器搭載機の強奪…。

嫌な匂いだ…悪い方向に考えようと思えばいくらでも考えられる。

強奪と見せかけた機体の提供…とかな。

国にとってもメリットがそう多くない内容なので、まず無いとは思うが…IS委員会の今後の動き次第だろうな。

 

「楯無…どうにも俺はお上が信用ならん」

『お上…まぁ、確かにきな臭い組織ではあるけども…杞憂だと思うわよ?』

「俺とてそう思いたいがな…それはそうと、そろそろ俺と一夏のISのお披露目の時間だろう?」

『やば…すっかり忘れてたわ…』

「アリーナの天井を開放しておいてくれ。このまま出向く」

 

時間にしてギリギリだろう・・・学園から離れるように戦っていたからな。

飛行中の空気圧により矮星に溜まるエネルギーをシールドエネルギーへと回し続ける。

エネルギー補給は望めんからな…詰める所は詰めねば。

なんとも厳しい懐事情に涙を流していると、俺と楯無の通信にセシリアと簪から割り込みをいれられる。

 

『狼牙さん!なんで黙って行ったのです!?』

『何があったのか心配したんだからね!?』

「すまんな…顔面目掛けて麻酔銃をぶっ放してきたり、なりふり構わず冠を奪取しようとするものだから話を聞かんと思ってな」

『うっ…!!』

『あぅっ…!!』

『ガチで挑んでたのね…簪ちゃんとセシリアちゃん』

「他人事のように言ってるが主犯が何を言うか…お前ら今日は寝られると思うなよ…?」

『『『ヒィッ!?』』』

 

朝までお説教コースである…体罰ではこいつらが逆に悦びかねんからな。

俺は深くため息をつき、気を取り直す。

多少はフォローをいれておかんとな…今のは建前みたいなものだ。

 

「確かに黙って行ったのは悪かったがな…俺はお前達に学園祭を楽しんでもらいたかっただけだ。足手まといだからとかそういう事は絶対に無いからな?」

『…わかりましたわ…』

『ごめん…狼牙…』

 

セシリアと簪は急にしおらしい声で謝罪を述べてくる…。

気持ちは分からんでもないのだ。

俺とて逆の立場であれば、多少なりとも憤りを感じてしまう。

好いているからこそ相手の役に立ちたい、手助けをしたい…それをさせてもらえないと言うのは除け者にされた気がして悲しくなるからな。

 

「兎に角、だ…これから俺は見せ物になってくるから二人ともしっかり楽しんで来い」

『狼牙君、私は?』

「楯無…お前は事後処理もあるだろうが…」

『ブーブー、お姉さんだって遊びたいわ!』

「生徒会長になってしまった己の運命を呪うことだな・・・そろそろ着くから通信切るぞ」

 

第二アリーナ直上にて停止すると、アリーナ天井に張られている遮断シールドが解除される。

シールドが張られていないことを確認すると、俺はそのまま第二アリーナに向かって瞬時加速を行い急降下。

地面すれすれで急停止し、ゆっくりと降り立つ。

俺のISを見たからなのかそれとも男性操縦者が揃ったからなのか、大勢の人で賑わう観客席から盛大な拍手が送られてくる。

上空を見上げると、一夏がこちらへと手を振ってくる。

 

「よう、狼牙…お疲れさん」

「そっちもな…正直この場をお前に任せて俺は帰りたい気分だ」

「俺だって同じような気分だ…なんせ…」

「「パンダ扱いだからな」」

 

入学式のときに二人して言った言葉を再びハモらせて声を上げて笑いあう。

ぼやいた所で仕方ない…やるべきことをやれば開放される訳だしな。

楯無が管制室から俺たち二人のプロフィールを紹介している。

 

「そういえば、一夏…最終的には冠はどうなったのだ?」

「楯無さんが何事もなかったかのように取り外してくれたよ…ぜったい掌の上で踊らされただろ」

「すまんな…ああいった悪戯が大好物みたいでどうにもならんのだ」

 

腕を組みながら深くため息をつく。

お仕事モードであればキリッとしていて、できる女の風格があってかっこいいのだが…。

 

「狼牙はどうなったんだ?」

「俺は死守しているぞ…おそらく此方も楯無が掠めていくと思うが」

「なんか、あの人には頭が上がらないな…」

「まったくだ…」

 

漸く紹介が終わった様なのでゆっくりと空へと舞い上がり、一夏と肩を並べる。

これから行うのは、所謂障害物競走だ。

決められたコースに多数のバルーンを浮かべて、それらに当たらないようにマニューバーを用いて突き進んでいく…のだが…。

 

「なぁ、狼牙…多くないか?」

「一夏よ…やはりお前もそう思ったか…」

 

そう、無駄に多いのだ。

具体的にはウィングスラスターが邪魔に思えるくらいの隙間しかない。

 

『二人に言っておくけど、バルーンに触れたら爆発するからね?』

「お、鬼…」

「楯無…この恨みはらさでおくべきか…!!」

 

バルーンではなく機雷だったようだ…殺す気か?

だが、爆発すると言う事は相応に衝撃があると言う事だ…これを利用しない手はないな。

 

「一夏、俺が先行するから後からついてこい」

「良いけど、大丈夫なのか?」

「ダメージはあるだろうが、充電できるからな」

 

フルフェイスの奥でニヤリと笑えば、両腕の『一式王牙』を振るいワイヤーブレードとして射出して積極的にバルーンを破壊していく。

爆発の余波により多少の被弾はあるものの、それ以上に矮星が変換するエネルギー量が多いためじわじわとだがシールドエネルギーが回復していく。

破壊しきれなかったバルーンは爆発の余波に押されて一夏へと迫るが、鬼教官達に扱かれた成果が出ているのか危なげなく回避していく。

油断も慢心も無く避けていく様はさながら姉上殿のようだ。

コースも終盤…機体ダメージもそこそこに、漸く終わりが見えたと言った時に楯無から再び連絡が入る。

 

『それじゃ、ゴールは狼牙君達の後ろにあるピットの出入り口なんだけど…あと少しで扉がしまっちゃうから頑張ってね~』

「一夏、後でシメよう…そうしよう」

「おいおい…間に合わないんじゃないか…?」

 

後ろにある…とは言ってもアリーナの端から端…普通の方法では一夏が間に合いそうにもない。

で、あれば…お遊びでやっていたアレが役に立つときが来たか。

 

「一夏アレやるぞ…タイミングを合わせろよ?」

「アレ…あぁ!あんなゴッコ遊びが役に立つときがくるなんてな!」

 

俺が身体を地面に対して水平にして脚を縮めると、一夏は俺の脚と自分の足が合わさるようにして踏ん張る。

 

「いぃぃぃけぇぇっ!!!」

「うおおおおお!!!」

 

脚部のパワーアシストを全開にして一夏を思い切り蹴り出す。

スカイラ○ハリケーンである。

蹴り出すと同時に一夏は瞬時加速をフルパワーで行い、一気にトップスピードに乗り突き進んでいく。

最後の大盤振る舞いと言わんばかりに前方のバルーンを荷電粒子砲で薙ぎ払い消滅させていく。

…派手にやるな…終わりだから構わんのだが。

一夏を蹴り出した直後にその場で回転しながら展開装甲を発生させ、一夏の後を追うように瞬時加速を行う。

景色を置き去りにしながらほぼ同着でピットに入り込んで着陸すれば、勢いを殺しきれず火花を上げながら滑っていく。

漸く停止すれば、一夏と揃って片膝をつきへたり込む。

 

「もう絶対やらない…」

「俺もだ…ただでさえ襲撃でヘトヘトだと言うのに…」

 

ISを解除すると汗が一斉に噴出し、じっとりと身体を濡らす。

兎に角、疲れた…俺は大の字になって床に寝転ぶ。

冷えた床が何とも心地良い。

暫く一夏と一緒に黙って身体を休める。

朝から奉仕活動、昼過ぎには演劇と見せかけた鬼ごっこ…果てには殺し合いである。

濃密なんてレベルではないな…。

 

「お疲れ様、二人とも」

「地獄に落ちろ楯無」

「狼牙、それは言いすぎ…でもないな」

「ひどーい、楽しんでもらうために必死に頑張ったのに」

 

楯無は扇子で口元を隠しながらクスクスと笑い、未だに俺の頭についている冠を回収していく。

…屈むのを見越してブルマー着用とは恐れ入った。

 

「もう、勘弁してくれよ…いくら俺でも疲れると言うものだ」

「大丈夫よ。今日はもう閉幕…明日まであるけどね」

「また執事かよ…」

 

一夏は深くため息をつくと背伸びをする。

俺も何時までも寝ているわけにもいかないので身体を起こす。

 

「さて…一先ず教室に帰るか…」

「私は寮の部屋で待ってるわね~」

「狼牙達は仲が良いな…」

 

楯無は冠を指でくるくると回しながら一足先に立ち去っていく。

こうも疲れるとお説教どころではないな…。

俺は一夏と同じようにため息をつき、一組の教室へと戻るのだった。

 

 

 

 

学園祭一日目の夜…俺はベッドの上に座りラウラに膝枕をしてやりながら、更識姉妹とセシリアを正座させて眺めている。

ラウラもラウラで忙しく疲れていたのか膝枕をしてやると満面の笑みでしがみ付き、顔をお腹側に向けて既に夢の世界に旅立っている。

寝つきが良いのは構わんのだが、失敗したな…これでは俺が眠れん。

 

「で、だ…俺が怒ってる理由は分かるな?」

「でも、楽しかったでしょ?」

「楯無…俺は命を落とすかと思ったのだがな?」

「くっ…っふぅ…狼牙さん…それは…っふ…謝りますので…ご容赦を…」

「せ、セシリアもこう言ってるし…ね?」

 

簪は申し訳なさそうな顔で此方を見つつ、セシリアの心配をしている。

セシリアは未だに正座が苦手だからな・・・いい体罰になる。

本題を聞き出すとしようか…。

 

「あの冠…ただの冠ではないな?一体何が景品だったんだ?」

「そ、それは…」

「その…」

 

セシリアと簪はもごもごと言いよどみ、中々口を割ろうとしない。

眉間を軽く揉みため息をつく。

 

「楯無、話せ」

「端的に言えば、一夏君か狼牙君との同棲権ね。皆血眼になる良い企画だったでしょ?」

「お、お姉ちゃんの所為で私達必死だったんだから!」

「そ、そうです…わ!もし、まかり間違って狼牙さんが取られてしまったら…!」

 

簪とセシリアは顔を真っ赤にして声を荒げている。

こうして普段触れ合う機会がなくなってしまうことを恐れていたのだろうが…。

 

「出来レースだったのだろう?一夏には楯無がついていたし、俺は俺でそこらの人間よりも身体能力が高い」

「そゆこと…生徒会が最優秀賞を取るための布石だったしね」

 

何とも腹黒い話である…。

今回の演劇…チケット購入制ではなく、生徒会に投票券を投票すること。

人が集まれば自然と生徒会が最優秀賞を得る仕組みになっているのである。

つまり、俺と一夏は体の良い餌にされたわけだ。

一切の相談なしにこういうことをされると言うのは、少々寂しいものがあるな。

 

「楯無…せめて相談くらいはしろ。俺とて生徒会の人間なのだからな」

「ごめん…少し浅慮だったわね」

 

珍しく楯無は素直に謝り申し訳なさそうな顔をする。

流石に反省くらいはしたか…。

 

「お前達の気持ちと言うのは理解はしているがな…俺とて逆の立場なら必死になると言うものだ」

「ろ、狼牙さん…」

 

軽く肩を竦め微笑を浮かべる。

獲られたくなければ、全力を尽くすものだしな…。

 

「とりあえず…許してやる。だから、似たような事をしてくれるなよ?互いに首輪をかけ合った仲なんだからな」

 

三人にそう言ってやると、意気消沈としていた表情から一変して満面の笑みになる。

やはり、さっきみたいな落ち込んだ顔よりも笑っている顔のほうが俺は好みだな…大体の人間はそうだろうが。

ゆっくりと背中から倒れ目を閉じると、三人ともベッドに上がり思い思いに寝転び始める。

流石に狭いかもしれんが…俺ももう動きたくない。

 

「おやすみ…」

「おやすみなさい、狼牙君」

「狼牙、おやすみ」

「おやすみなさい」

 

三人の声を聞き届けた後、俺は意識を手放し深い眠りにつく。

あまりにも疲れていたためか、この夜は夢を見ることが無かった。


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