【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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洋上 迅速 狼の狩り

「ちっ…まさか俺も逃げる羽目になるとはな・・・」

 

俺はほうほうの体でアリーナ会場から逃げ出し、人混みに紛れながらアリーナから離れるように移動している。

暗部も真っ青なステルス行動だ・・・本職の人間でもなければ早々バレんよ。

辺りを見渡し、迫ってくる気配にも注意を払いながら自然な動きで移動する。

ここまでやれれば、ほぼ確定だな・・・俺の身体は何かされているようだ。

白に・・・と言うよりISにと言った感じだが。

タイミング的には、恐らく銀の福音に撃墜された前後。

第二形態移行を行ってから動きが格段によくなっている。

怪力になってない辺り安心できてはいるが。

 

[ロボ、今楯無ちゃんと一夏君があの女と交戦中。盗まれた『アラクネ』を使われているわ]

 

案の定か・・・しかし、今俺がアリーナへと戻ると事件に巻き込みかねんな・・・。

白、一人と言うこともないはずだ。

学園周辺に迎えが居るはず・・・俺たちは脚を潰しに行くとしようか。

 

[アイ・アイ・サー。向こうは楯無ちゃんが居るし、早々遅れを取る事は無いでしょうしね。索敵を開始するから少し時間をもらうわよ?]

 

なるべく早くな・・・。

俺は深くため息をつきながら、軽く肩を落とす。

祭りの時くらいは、そっとしておいてもらいたいものだ。

多数の出店があるグラウンドまで足を運び、ホッと一息ついたところで肩を掴まれる。

くっ・・・気を抜きすぎたか!?

 

「狼牙!こんなところでどうしたんだよ。クラスのほうは良いのか?」

「弾か・・・驚かせてくれるな・・・コイツのせいで今追われているんだ・・・」

 

かけられた声に胸を撫で下ろしつつ、頭の上で光る忌々しい冠を指差して旧友の弾に声を返す。

コイツで良かった・・・捕まったら何をされるか分かったものではないからな。

弾は祭りを楽しんでいるようで、ウキウキとした笑顔を浮かべている。

こうして楽しんでもらえているのならば、俺としては嬉しいものだ・・・襲撃さえなければ。

 

「あのときの活発系お姉さんはどうしたんだよ?」

「今お仕事中でな・・・俺も・・・まぁ、追われているとは言え見回りをこなしている最中だ」

「学園祭だって言うのに大変だな・・・」

「色々と抱え込みがちなのは否定せんよ。そっちは楽しんでいるか?」

「あぁ!まったく、一夏もお前も羨ましいぜ・・・やってる授業はハードそうだけどな」

 

IS学園の性質上学ぶ項目と言うのは多岐に渡る。

扱うものは兵器となんら変わりが無いからな。

中には爆弾に関する知識なんかも含まれている・・・仮にIS操縦者をやらなくても、この学園で得た知識を元手に資格を集めれば就職には困らんかもしれんな。

 

「知識ゼロでここに入学と言うのはかなりハードだぞ・・・授業はハイスピードで進むしな」

「うへぇ・・・俺なら絶対取り残されるな・・・そういや、狼牙・・・お前、何でパパ呼ばわりされてるんだ?」

「あぁ・・・色々と・・・色々とあるんだよ・・・弾・・・」

 

若干遠い目になりつつ空を見上げる。

父さん母さん・・・知らない間に子供が増えていそうで怖いです。

 

「まぁ・・・狼牙じゃ仕方ない気はするんだけどな・・・」

「色々と諦めもつく・・・中々頭では理解できない状況ではあるがな」

「一夏の方はどうなんだよ?」

「変わらんよ・・・それに、茨の道に進む者を着実に増やしている」

「かぁっ・・・箒って子も鈴も先が思いやられるな・・・」

 

いやはやまったく同意見だ・・・。

そろそろ狙いを定めて欲しいものだが、本人がそういった感情に無頓着な為願うだけ無駄と言った感じだが。

 

[ロボ、南の海上に一機見つけたわ・・・シルエットから狙撃タイプと言うのは分かるけど・・・既存のISでは無いわね。調べては見るけど油断しないでね]

 

侵入者にはご退場願おう・・・俺とてこのお祭り騒ぎは楽しみたいからな。

俺の表情が険しいものになっていたのか、弾が心配そうな顔をして此方を見てくる。

感情が顔に出やすいと言うのも考え物だな・・・。

 

「狼牙・・・何かあったのか?」

「そんなところだ・・・野良猫の悪戯と言うのは中々堪える」

「くっそー、狼牙まで女がらみのトラブルかよ!?」

「女難の相が出ているのかもしれん・・・嫌な話だな」

 

ISに関わる以上女難の相からは逃れられんのだろうが。

軽く肩を竦めて弾の肩を掴む。

 

「お前は、俺の分まで学園祭を楽しんできてくれ・・・あぁ、そうだ・・・かなり並ぶことになるが一組に来い。千冬さんが接客しているし、副担任もお前の好みだろうさ」

「マジかよ!俺行って来る!・・・狼牙、無理すんじゃねーぞ?」

「分かっている。いい友人に恵まれているな、俺は」

 

誤魔化しは効かなかった様だ。

弾と言う男はどうにも勘が良いからな・・・厄介事を嗅ぎつける能力に長けているともいえるか。

概ね一夏のせいで起こるトラブルのせいで鍛えられた能力だったんだが。

弾と別れ俺は人気の無い林へと走り出す。

あそこならば、問題ないだろう。

人混みを縫うように移動し、広い場所へ出た瞬間再び俺に麻酔銃が撃たれる。

間一髪でそれらを避ければ、俺は深くため息をつく。

 

「セシリアめ・・・どうあっても冠が欲しいか・・・」

 

愚痴るように呟き、再び走り出す。

セシリアに事情を説明すれば問題は排除できるが、俺としては学園祭を楽しんでもらいたいからな。

自分勝手な願いではある。

上手く人混みに紛れ、狙撃しにくい状況へと持っていく。

あいつも分別くらいはあるはずだからな・・・。

 

「此処まで来れば問題ないだろう・・・行くぞ、白」

[アイ・サー。早く仕事を片付けて一組に戻らないと大変よ?]

 

あぁ、また奉仕作業をせねばならんのだな・・・。

天狼白曜を緊急展開で身に纏えば、身体を覆うマントをウイング状に変形させ大空へと舞い上がる。

全力稼動状態とは言わないまでも、此方の方が速度が出るからな。

白に目標までのルートを表示してもらい、可能な限りの速度で目標ISへと接近していく。

どうやら向こうもお仕事が始まったようで移動し始めている・・・存分に邪魔させてもらおう。

 

[ロボ、イギリス軍の記録の中に該当機体を見つけたわ。名称は『サイレント・ゼフィルス』。セシリアちゃんのブルー・ティアーズの姉妹機みたいね]

 

盗品二機目か・・・どうにもやり手の組織が居るようだな。

他の国にも盗まれたISがあるかもしれんな。

そうなると次にキナ臭くなるのは・・・まぁ、ソレは、俺が考えることでもないが、もし襲撃が続くようならば・・・。

 

[向こうに気付かれたわね・・・ロックオンされたわ]

 

狩人と狼・・・どちらが優れているか教えてやるとしよう。

くすんだ青い蝶の様な外観をした機体・・・サイレント・ゼフィルスから高速機動中からエネルギーライフルによる正確な狙撃が行われるが、俺にとっては分かりやすい程正確な射撃だ。

嘲笑うかのように紙一重でエネルギー弾・・・更に隠すようにして撃たれている実弾を避け最短コースで肉薄する。

 

「悪いがお帰り願おうか・・・そのISを置いていって、だがな!」

「狼風情が生意気な・・・貴様が墜ちろ!」

 

手早く腕部ブレードトンファーである『一式王牙』を振るい、ワイヤーブレードを鞭の様にしならせ敵機へと叩き付けるが展開されたシールド・ビットにより受け止められてしまう。

それを見るや否や、俺は素早く腕を引きワイヤーブレードを戻しながら二重瞬時加速を行いながら回し蹴りでシールド・ビットを弾き飛ばし肉弾戦を仕掛ける。

狙撃機相手に距離を空ける愚行を犯すわけにはいかんからな。

 

「チッ・・・良い動きをする・・・」

「そういうお前は手でも抜いているのか?」

「舐めるなよ!」

 

ブレードトンファーで殴りかかれば、敵機はナイフでソレを受け止めいなす。

このいなし方・・・何処かで・・・。

フルフェイスの奥で違和感に顔をしかめながらも、手を抜く事無く拳を脚を矢継ぎ早に叩き込んでいく。

敵機はナイフを使い、器用に直撃だけは避けていくが押されると判断したのか直接シールド・ビットを此方に叩き付けて来る。

俺は致し方なくバックブーストをかけて後退しながら両肩の『群狼』を射出し、かく乱するように敵機の周囲を飛行させる。

集中力を僅かでも削げれば良い・・・あくまで牽制だ。

再び突撃を仕掛けようとした瞬間、シールドビットからエネルギー弾が一斉に照射される。

 

「チィッ!!BT兵器はこれだから・・・!?」

[偏向制御射撃・・・BT兵器の高稼動時に可能な射撃法ね・・・]

 

紙一重で避けようとした瞬間、突如として全てのエネルギー弾が俺に向かって曲がったのだ。

まるで生き物のように。

本当にISと言うのは何でもありだな・・・だが・・・。

 

「曲がるだけではな!」

「チッ・・・学生の分際でよく・・・!」

 

BT兵器の直撃を受けても動揺する事無く『群狼』に指示を送りシールド・ビットに対して攻撃を開始させる。

全六基中二基に対して『群狼』が噛み付くとシールド・ビットが突如爆発を起こして消失する。

手ごたえから言って、どうやら自爆機能を持っているようだ。

『群狼』は破壊こそ免れたもののダメージが大きいため素直に両肩へと戻す。

目当ての土産も確保は出来たからな。

 

「これで貴様のビットも使えんな」

「お前もだがな」

[無知であることが彼女の敗因だったかもしれないわね]

 

俺が動きを止めウイングスラスターから展開装甲を発生させるのを見た敵機は、それを隙と判断して一斉にBT兵器による射撃を開始するが、まるで何かに阻まれたかのようにエネルギー弾が霧散していく。

 

「なっ・・・!?」

「その機体で俺を墜としきれなかった事を後悔しろ」

 

敵機の目の前から姿を消せば、その無防備な腹に渾身の回し蹴りを叩き込み弾き飛ばす。

一瞬の出来事に反応しきれない敵機は無様に弾き飛ばされるものの、俺が居た位置に向かって手に持ったライフルスターブレイカー(星を砕く者)による射撃を行うが、俺はその場にはもう居ない。

 

「もう、お前には俺を捉えられんよ」

「がああああっ!!!」

 

現状最速のIS・・・それが天狼白曜だ。

むろん単一仕様能力の使用が前提の限定的最速ではあるが。

だが、最大稼動に至ったとき・・・最早誰にも止められんのだ。

俺の意思で止まろうと思わない限りは。

俺は敵機の下方から迫り上空へと蹴り上げ、更に瞬時加速を行い無防備になった頭を右手で掴み動きを止める。

 

「そのバイザーの下の顔を見せてもらおうか・・・」

「離せ・・・!!!」

 

俺の腕を掴み引き剥がそうともがいてくるが、俺は構わずに掌に搭載されたエネルギー砲『咆哮銀閃』を撃ち込みバイザーを破壊した瞬間、全身を爆炎に包まれ視界が塞がれる。

『天狼』のおかげでダメージこそないが、隙を突かれて敵機を取り逃がしてしまった。

 

『まさか、私の攻撃でも無傷とはね・・・でも今日は此処まで。会う日を楽しみにしているわ、狼さん』

 

一方的にプライベートチャンネルからのメッセージが送られてくるが、白に後を追わせる前に接続が切られてしまった。

コアネットワークと言うのはそうおいそれと接続が切れないように出来ている。

俺が過去にコアネットワークの接続が切れたのは白のお陰なのだ。

つまり・・・今回の襲撃者はISコアに関して熟知した人間が関わっていると言う事になる。

 

[ロボ・・・後を追う?]

「いや・・・先ほどの攻撃で矮星の中身がすっからかんだ・・・少なくともやり合う機体が二機もあるとなると此方がジリ貧になる」

 

遠くに見えるサイレント・ゼフィルスの姿を見つめ、俺は学園へと戻っていくのだった。

 

 

 

高層マンションの最上階・・・その一室に怒号が響き渡る。

 

「てめぇ!どういうつもりだ!?」

「・・・・・・」

「なんとか言え!てめぇの所為で予定が狂っちまったじゃねぇか!!」

 

サイレント・ゼフィルスの操縦者エムを狼牙がすれ違っていた女性・・・オータムが胸倉掴んで持ち上げている。

エムはただただ涼しい顔でオータムを見つめるだけだ。

その瞳には見下したような感情が混ざっている。

 

「気にいらねぇ!」

「くっ・・・!」

 

オータムはエムを投げ飛ばし、唾を吐きつける。

それでも尚エムは言い返す事無く、立ち上がるだけだ。

 

「オータム・・・そこまでよ。失敗したのは貴女も同じ」

 

バスルームから薄い金髪に美しい肢体をバスローブに包んだ女性が出てくる。

その瞳には喧嘩を諌める姉・・・ないし母のような光がある。

 

「でもよ・・・スコール!」

「あんまり怒らないの。老けるわよ?」

 

スコールと呼ばれた女性はソファーに座り二人を見つめる。

組んだ脚が何とも艶かしく、怒りに顔を赤くしていたオータムは別の意味で顔を赤くさせる。

 

「今回の失敗は織り込み済み・・・剥離剤の副作用を利用されるのはわかっていたことよ」

 

オータムは織斑 一夏と交戦し、見事白式雪羅の奪取に成功はした。

しかし、増援の楯無により機体の装備を破壊されてしまい逃げ惑う事しかできず、

更に剥離剤の副作用・・・コアの遠隔展開を利用され奪取した白式雪羅は取り返されてしまった。

エムが迎えに来れなかった為危うく捕縛されるところだったのだ。

スコールが現れるまでは。

 

「だったら、なんで教えてくれなかったんだ!?私は・・・!!」

「あなたは私の大事な恋人・・・ごめんなさい、オータム・・・さ、こちらにおいで」

「う、うん・・・」

 

オータムは顔を赤らめながらスコールの隣に座ると、スコールに膝枕をしてもらう。

先ほどまで猛々しく怒っていた姿はそこにはない。

ただの恋する乙女だ。

そんな姿をエムは冷めた目で見つめている。

 

「エム、天狼白曜に捕捉されてしまったのは運がなかったと思って諦めなさい。ISは整備に出してゆっくり休みなさい・・・容赦の無い攻撃だったのだから」

「了解・・・」

「おやすみ、エム」

 

エムと呼ばれた少女は挨拶を返す事無く、与えられた部屋へと入っていく。

スコールは気にした風も無く、オータムの頭を優しく撫でてあやす。

 

「さ、次の一手を考える前に・・・オータム、楽しみましょうか」

「う、うん・・・スコール・・・いっぱい愛して・・・」

 

部屋の明かりが消され熱の篭った声が響くのに、そう時間はかからなかった。




深夜テンションシリーズ。戦闘編
一先ず五巻の内容概ね終わりですな・・・
まぁ、もうちっとだけ続くんじゃ

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