【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜 作:ラグ0109
非常に気が重い。
ひっじょうに気が重いが
優男風である…似合ってない気が…。
生徒会演目『シンデレラ』の為、俺は三十分前に会場である第四アリーナの更衣室の一室で、ベンチに座って台本の最終チェックを行っている。
今回の演劇は観覧者参加型である為、俺の語りが全体の進行に関わってしまうのだ。
責任重大にも程があるが…この脚本ではおそらく、収拾がつかなくなるだろうな…。
「狼牙君、準備いいかしら?」
「せめてノックしてくれんか?」
「いやよ、ハプニング楽しみたいもの」
楯無はドアを開けてツカツカと此方へと歩いてくる。
なんとも自由な猫だな…まったく…。
俺は気を取り直して近づいてくる楯無の顔を見上げる。
「会長、休憩時間中に一人ヤバそうな女を見つけたので白に監視させている…。念の為、一夏をマークしておいてもらっても良いか?」
「狼牙君がそう言うってことは…相当なのね?」
「あぁ…あれは人殺しの匂いだ…。無論、俺の気のせいと言う事も考えられるんだがな」
「備えあればなんとやらってね…。私の方でカバーしておくわよ」
男性操縦者が命を狙われる…充分考えられる事態だ。
過激派の女性権利団体の差し金か…それとも何処かの組織が身柄を確保するために誘拐という線も考えられる。
不安に思えば思うほど様々な可能性が浮かんでくるし、本当にあの時すれ違った女性はなんでもないのかもしれない。
だが、何かあってからでは遅いのだ…準備くらいはしておかないとな。
臆病者が生き残れるのだ…どんな世界でもな。
「すまんな…少し過敏過ぎるかもしれん」
「招待制とは言え、全員の身元をしっかりと確認できるわけではないもの。気にしないの」
楯無は俺の頭を胸に埋める様にして抱きしめてくる。
…ひどく落ち着くな…。
性的な衝動と言うのは感じない…母性とでも言うのだろうな、これは。
「狼牙君は色々と考え過ぎよ…私達がいるんだから、ちゃんと相談して」
「…どうにも格好をつけたくてな」
「いつだって、貴方はカッコいいわよ…少なくとも私達はそう思ってるわ。だから…無理しないで…話してくれるの待ってるから」
…俺が思い悩んでいるのはお見通しだったようだ。
何年も一緒にいる訳でもないのに、ちょっとした俺の機微に気付かれているようだ。
俺は楯無の腰に腕を回し、静かに抱きしめる。
「すまんが、少しの間でいい…このままで居させてくれ」
「ふふん、狼牙君だったらいつでも歓迎よ」
ゆっくりと気を落ち着けるように呼吸を繰り返す。
いかんな…どうにも弱くなった気がして。
俺はゆっくりと腕を離し、楯無から離れる。
「すまんな、少し気が楽になった」
「私だって甘えさせてもらってるんだから、これくらいしてあげるわよ」
ゆっくりと立ち上がり、楯無の頭を優しく撫でる。
楯無は気持ち良さそうに目を細めている。
「お前達がいるから俺は頑張れる…救われている」
「ずっと、救われてなさい」
楯無はクスリと笑うと背伸びをして唇を重ねてくる。
触れるだけのささやかなキス。
離れれば楯無は悪戯成功と言わんばかりに笑みを浮かべて、更衣室から逃げるように出て行く。
「まったく、敵わんよ…」
俺はただただ肩を竦めて笑みを浮かべるのだった。
第四アリーナを演劇場に改造し、大層なセットを組み上げる…どう考えても生徒会の予算だけでどうにかなるような内容ではないな、とぼんやりと思いながらセットに設えられた階段の上で待機する。
垂れ幕の向こうでは観客がひしめく様に居るのが手に取るように分かる…これは、中々緊張するな。
何分喋る内容がかなり…と、言うか途中で鬼ごっこと化すので俺しか喋らないので舌を噛まないか不安になる。
『これより、生徒会主催の演劇『シンデレラ』を開始いたします。皆様、心ゆくまでお楽しみください』
虚のアナウンスと共に垂れ幕が上がり、暗いステージの中ゆっくりとカツンカツンと足音を立てながら階段を降りていく。
階段を降りきり立ち止まれば、パチンと指を鳴らすとスポットライトが俺に当たる。
黄色い声は努めて無視する。
「シンデレラ…その起源は遥か紀元前の物語から始まり、世界に広く語り継がれてきた。中国では楊貴妃をモチーフにした『掃灰娘」、南イタリアにて書かれた『灰かぶり猫』、フランスの文学者シャルル・ペローによる『サンドリヨン』、そして皆がよく知るグリムの『シンデレラ』…多種多様な派生を生み続け、愛され続けているシンデレラ。今日、この日…シンデレラは新たなステージを迎える!」
最初のセリフを言い終えれば、奈落から頭に王冠を乗せた王子様の格好をした一夏が呆然とした顔で上がってくる。
恐らく直前の説明では普通の演劇だと聞かされていたのだろう。
あまりにも出だしがおかしいので不安そうな顔で俺を見てくるが、これも努めて無視をする。
「かつての王国…シンデレラと呼ばれていた不幸な少女が、魔法使いの手助けもあり幸せを勝ち取った。それ以来、この王国では一つの決まりができた」
ゆっくりと歩き出し、再び俺は指をパチンと鳴らす。
俺と一夏に集まっていたスポットライトは六つに分かれ、
…全員が全員得意とする武器で武装している辺りエグいもの書いたな…白よ。
一夏は全身から冷や汗が流れ始め、顔を青褪めさせている…同情する。
「その決まりとは、幸せを勝ち取りたければ誰よりも強くあれだ!!舞踏会を勝ち抜き!精鋭を薙ぎ倒し!ありとあらゆる戦場を蹂躙する最強の兵士の称号!戦場に舞う灰にまみれながらも美しく気高く戦う戦乙女達に与えられる称号…それが『
俺が宣言すると同時に箒達は行動を開始し、こちらに向かって走り始めてくる。
…セシリアと簪、ラウラの表情が本気な辺り、恐らく一夏争奪戦に勝ったものに報酬が支払われるのだろう…例えば寮の生活同棲権利、とか。
「今宵、王子の冠に隠された国の機密を求めてシンデレラ達は舞踏会を鮮やかに舞う!王子は国のためにその身を呈して機密を守り逃げなければならない!」
「ろ、狼牙ぁ!?」
「一夏、もらったぁ!!」
俺は直立不動で姿勢を正し、涼しい顔をして目の前の惨劇から目を逸らす。
鈴は問答無用と言わんばかりに中国の手裏剣である飛刀を王冠に向かって投げるが、間一髪で一夏はそれを避け、涙目で階段を駆け上がりながら鈴から逃げていく。
「待ちなさいよ!!」
「待てるかよ!殺す気か!?」
殺す気で挑んでいるのは他にもいるぞ…一夏よ。
暗がりの中に紛れ込んでいて俺には大体の位置しか把握できていないが、セシリアが狙撃ライフルを用いて一夏に牽制を撃ち込みつつ、本命を撃つ瞬間を待っている。
…牽制と言えど、一発一発に殺気が乗っている気がするんだが気のせいか、セシリアよ…。
[ロボ、あの女何故かステージ付近まで来ているわ…楯無ちゃんに連絡しておくわね]
どうにも嫌な予感がせんなぁ…。
そうこうしているうちに、事態を重く見たシャルロットがライオットシールドを持って一夏を守り始める。
お、これはポイント高いな…ちょくちょくポイントを稼いでくるな…シャルロットは。
「い、一夏…できたらその王冠を置いて逃げてくれないかなぁって…」
「え、あ、あぁ構わないk…」
「国家機密を持った王子は自身の責任を明確にするため、王冠を取り外そうとすると全身に電撃が走る呪いを自らにかけている。麗しきは愛国心!これこそが男子の本懐と言うものなのだろう!」
「ぎゃああああああ!!!」
俺が絶妙なタイミングで王冠のルールを解説すると、一夏の全身に芸人でも顔を引きつらせるような電撃が走る。
まぁ、なんだ…今度飯を奢ってやることにしよう…少し可哀想に思えてきた。
「ち、ちくしょう!俺が何をしたっていうんだ!!」
強いて言うならば乙女の純情を無意識の内に踏みにじっている罰である。
「父様との生活のため、覚悟をしろ一夏!!」
「一夏の冠をもらうのは私だ!!」
ラウラがナイフを逆手に持ち奇襲をかけると、これまた同じタイミングで奇襲に入った箒が日本刀で図らずとも一夏を助ける形でラウラの攻撃を受け止める。
「いいだろう、ここで決着をつけてやる!」
「望むところだラウラ!」
ラウラと箒は互いを潰さないと埒があかないと判断したのか、標的を一夏から互いに変える。
…賢明な判断ではあるが、目的を忘れてはいないだろうか?
「織斑君…覚悟!」
「か、簪さんまで…!?」
簪は手に持った薙刀を振るい、若干恨みがこもった感じで一夏の冠を奪取しようとするが一夏は間一髪のところをステージから転げ落ちる事で回避する。
…倉持の一件の恨みはやはり晴れないか。
俺はあくまで直立不動でステージの上で解説を続けている。
すると、突然俺の頭の上に王冠が乗っかる。
おい…聞いてないぞ…。
『これよりフリーエントリー組の乱入を開始します。織斑君と銀君の冠目指して頑張ってください』
「楯無!!白!!覚えていろよ!!!」
俺は絶叫に近い叫びを上げ、全速力でステージから走り去る。
背後から女子共の絶叫が聞こえるが全て無視だ。
一夏の様に電撃を食らいたくないからな。
「銀君!覚悟!!!」
「待って!!パパ!!その冠ちょうだい!!」
「電撃なんぞ食らいたくもない!勘弁しろ!!」
会場内には雲霞のごとく女子生徒達が押し寄せてきていて逃げる隙がない。
殺気を感じて僅かに頭を逸らすと、頬スレスレに麻酔弾が通過していく。
…セシリア、お仕置き決定の瞬間である。
「狼牙!その冠くれたらいっぱいサービスするから!」
「簪、お前からそんな言葉が出てくるとは思わなかったぞ!」
上体を逸らし、薙刀による横薙ぎを避けながらバク転を行い距離を開けると同時に狙いすましたかのように麻酔弾が撃ち込まれていく。
ええい、厄介な!!
間一髪で跳躍し、麻酔弾を回避しながら俺は思案する。
大勢の人間から逃げつつ、狙撃の心配もしなくて済む場所…その逃走経路をだ。
「くっ!父様ぁ!!」
「すまんがくれてやれんのでな!!」
ラウラが走ってくるのを見て素直に背中を向けて走り出す。
どうしてこうなってしまったのやら…俺は胸中に渦巻く不安を忘れ、必死に逃げ惑うのだった。
どうにも調子が良くないですな…更新ペースも右肩下がりだぜ!
ブラッドボーンのキャラメイクは狼牙さんもといロボさんモチーフで作りました…仕込み杖カッコ良すぎる…そして弱すぎる…。