【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

82 / 152
Peace of thin ice

「いやー、繁盛しているわねぇ」

「無駄口叩いている暇があったら仕事をしてくれんか?」

 

一夏が抜け出した後、昼前のピークともあってお客さんが更に増える。

各席の回転率を上げたいところではあるが、御奉仕システムのおかげでそれも無理だ。

また一夏のファンというのも多く、アイツがいない事にクレームを付けるお客まで現れる始末だ。

そちらは楯無が取り成してくれたりするので大助かりだが。

 

「やっぱり、織斑先生が一番人気ですわね…」

「うむ、さすがは教官だ!」

 

千冬さんは、あまりの忙しさに段々とノッてきたのか笑みを浮かべながら奉仕作業に従事している。

そんな笑みを浮かべている千冬さんに、心射止められた女子達が雲霞の如く押し寄せてきている。

世界最強、その人気は今尚衰え知らずと言ったところか。

 

「あ、狼牙君生徒会の方準備始めるから予定通り来てね」

「分かっている。手伝わせてすまんな、楯無」

「良いのよ、眼福だったしね〜」

 

クスリと笑い小走りで楯無は教室を出て行く。

さて、これでクレーマー対応が面倒に…と言うタイミングで一夏がやってくる。

何ともタイミングの良いことだが…なのだが…。

 

「一夏、休憩時間だ」

「いいのか、とっても?」

「構わんよ…その代わり御嬢さん二人をきっちりエスコートしてこい」

 

俺は未だ忙しなく動き続ける箒とシャルロットを指差す。

折角の学園祭…それも他人の目を気にせずに済むのだ。

思い出作りくらいには協力してやらんとな。

俺の言葉が聞こえていたのか、箒とシャルロットが一斉に反応を示す。

地獄耳か…。

 

「御嬢さんて…箒とシャルの事か?」

「それ以外に誰がいる…まったく…。良いから行った行った」

「お、おう…」

 

俺が虫を追い払うように手を払うと、一夏はどこか釈然としない面持ちで箒達の元へと向かう。

退店していった客のテーブルを片付けていると、セシリアが背中越しに俺へと声をかけてきた。

 

「気を利かせましたわね…?」

「これからヒィヒィ言う羽目になるからな…多少は良い目を見ても構わんだろうさ」

「一体何をやると言うのです?」

「大惨事学園大戦だ」

 

俺の一言に、セシリアは何が可笑しかったのかプッと吹き出して笑いを堪えている。

…笑い事ではないのだがな…白の脚本の所為で。

これから起こることに、俺は最早諦めの境地へと至っている。

白のやる悪戯と言うのは、割と全力を以って行われる。

つまり、裏の根回しもバッチリ済ませているのだ。

先日、楯無襲撃事件の折に使われた麻酔銃…アレも今回の悪戯の件で用意されていた物である。

 

「楯無さんはお祭り騒ぎが本当にお好きなのですのね」

「あぁ…こう言うイベントがあると張り切ってしまう様だ…白も一枚噛んでいるから気が抜けんよ」

「父様、ご指名だぞ」

「承知…もう一踏ん張りだ、頑張るぞ」

「はい」

 

セシリアとラウラの頭をポンと撫でた後に食器を片付けて、指定されたテーブルへと接客へ向かう。

席に座る人物を見た瞬間、俺は内心で溜息をこぼす。

嫌いではないが、苦手な人物…ナターシャ・ファイルスが座っていたためだ。

 

「ハァイ、狼さん。よく似合っているわよ」

「お褒め頂き光栄でございます、お嬢様。本日のメニューはどちらになさいますか?」

 

努めて執事役に徹して、ファイルスさんの前でメニューを開いて内容を見せる。

表情は表に出さず、主人に尽くす。

執事とはそう言うものだからな。

だが、そんな俺の接客に目の前のお嬢さんは大変ご立腹の様だ。

 

「いつもの口調で、それに『ナタル』って呼んで欲しいわね」

「お嬢様に対して恐れ多い…いや、失礼…先生、そんなに怖い顔をしないでもらいたいのだが」

 

あくまで仕事に徹しようとしたら、段々と表情が変わっていきコメカミに青筋を立てながら笑みを向けてくる。

アメリカ国家代表って自由なんだな。

結局俺は折れてしまい普通の口調で会話を続ける。

 

「と、言ってもだな…流石に愛称呼びする程親しくもないし、目上の先生だろう?」

「私が良いと言ったら良いんじゃない?」

「一応ペラッペラの世間体と言うものがあるのでな」

 

本当に薄く透けてる紙のような世間体だが。

ただ、ファイルスさんの実力は本物だろうし、国家代表だ…口調をさらさら変える気はないが、敬称くらいは付けておきたい。

 

「頑固なのね…いいわよ、そう言うのも燃えるもの」

「ははは、勘弁してくれ…俺よりも良い物件がいるだろうに」

「私は本気よ?でなきゃ学園に来る話なんて蹴っていたわよ」

「…気持ちは、ありがたく受け取っておくとしか言えんよ…」

 

こうも真っ直ぐにぶつけられると面食らってしまう。

幾度断っても変わらない気持ちを持っている以上、この気持ちは本物なのだろう。

しかし、俺は…。

 

「ま、良いわよ…三年間あるわけだし。ところでこのセットは何かしら?」

「あぁ、俺がふぁ……ナターシャ先生にポ◯キーを食べさせるセットだな」

 

せめて、名前呼びは最大限の譲歩だと思ってもらいたい。

女生徒からの告白よりもやたらパンチが効いていて困るな…。

 

「じゃ、それで」

「即答か…承知した。しばし待て」

 

ファイルス…否、ナターシャさんは満面の笑みでメニューを指差し注文すれば、俺は手早くオーダーを厨房に伝えて戻ってくる。

どうやら千冬さんもナターシャさんに気付いたのか近くに来て何やら話している。

 

「千冬、よく似合ってるじゃない」

「なんでお前がいるんだ…」

「もちろん、そこの狼さんを口説くためによ」

「お待たせした…織斑先生、ファンの皆が待っているぞ」

 

何やら少し雲行きが怪しかったので、早めに割り込み会話を区切らせる。

口論でもされたら困るからな…ナターシャさんは煽り上手のようだし。

…あぁ、だから楯無と仲が良いのか?

 

「銀、あまりファイルスにかまけるなよ?」

「分かっている…忙しいからな…」

 

だが、生徒会の演目が始まればある程度は緩和されるはず…それまでの辛抱だ。

一夏含め一年のメインの専用機持ちには知らされていないが、今回の演目の『シンデレラ』と名ばかりの何かは一年専用機持ちが主演となっている。

周知の通り、俺はナレーター役なので気楽なものだが。

 

「そうそう、あの話は聞いたのかしら?」

「あぁ、例の件か…友人が裏取りして確認を取った。相当面倒なことになっているな」

 

ナターシャさんからもたらされた情報…それは、驚くべき内容だった。

アメリカの第二世代IS『アラクネ』と『剥離剤』(リムーバー)と呼ばれる特殊兵器が奪取されていると言う内容だ。

しかも、IS委員会には報告をしていないと来たものだ…。

しかしそれもせんなき事か…大国の威信に関わる問題だからな。

ISをむざむざと盗まれてしまいました等と世界に向けて発信してみろ…世界から鼻つまみ者にされてしまう。

 

「随分と優秀なお友達がいるのね」

「まぁ、な…何かと地方を転々とすることが多かったものでな…」

 

ナターシャさんにポッキ◯を食べさせながら会話を続ける。

やはり、背後から射殺すような視線が突き刺さるが、努めて無視する…野口さんがまた財布から消えそうだ。

冗談はさておき…問題は剥離剤の方だ。

こちらは名前の通り、装着しているISを強制的に待機状態にして引き剥がすと言う国家機密兵器だ。

ただ、零距離状態でないと効果を発揮しないと言うことなので早々使用されることはないだろうが…搦め手で使ってくることは充分に考えられる。

 

「へぇ、そういう話聞いてみたいわ」

「残念ながら好感度が足りない。出直してくることだ」

「辛辣じゃない?」

「本当に辛辣ならば、別に人間をあてがっていると思うんだがな」

 

軽く肩を竦めて◯ッキーを食べさせ終えれば、席を立ち上がる。

次の接客に回らねば…。

 

「あら、もうお終い?もう少しお相手して欲しいんだけど」

「残念ながら次のお嬢様のお相手をする必要があるのでな…」

「仕方ないわね…楯無の演劇楽しみにしてるわ」

「酷いものが見れそうだがな…」

 

なんでもありの鬼ごっこと化してるからな…一夏には今度飯を奢ってやることにしよう。

俺は最後の最後にナターシャさんに恭しく頭を下げると、次の接客へと向かうのだった。

 

 

一夏と仕事を交代して、ラウラとセシリアを伴って休憩を満喫する。

ラウラを挟んで三人仲良く手を繋いでいる。

はぐれる事は無いだろうが、それでも手を繋いでいないと不安になるからな。

 

「凄い人混みですわね…」

「招待制とは言え、どうしても人が集まるからな」

「父様、クレープを食べたい」

「承知…頑張ったラウラには俺が奢ってやるとしよう」

 

部活動組の幾つかはグラウンドにお祭りでよくあるたこ焼きやら綿あめ、りんご飴等様々な食べ物屋を出店している。

お昼を回り、そろそろ腹も減ってきて仕方無いと言ったところだ。

俺はクレープ屋でミックスベリークレープを二つ購入し、セシリアとラウラに手渡す。

 

「わたくしもよろしいのですか?」

「調度品で世話になったしな…釣り合いは取れんだろうが」

「いえ、ありがとうございます」

 

セシリアは綺麗な微笑を浮かべてクレープを受け取ると、美味しそうに食べていく。

 

「父様は食べないのか?」

「あぁ、これからやることがあってな…演劇が終わった後にISを展開してマニューバーの披露をせねばならんのだ」

 

IS関係者には広く知られている物の、基本的に男性操縦者に対しての一般的な認知度というのはどうしても低くなっている。

メディア露出が少なすぎるというのが一番の理由だ。

学園内に引き篭もっているのが殆どだからな。

今日の様な学園祭で認知度を上げて欲しいと、轡木さんから直々のお達しがあったのだ。

…入学用パンフレットに使うのだろうな、と思わなくもない。

 

「それは残念ですわね…で、ですが一口だけでも食べた方が良いですわよ?」

 

セシリアは顔を若干赤らめつつも、こちらにクレープを差し出してくる。

知らん人も多いし、中にはカップルらしき連れ合いもいる…まぁ、良いだろう。

俺は差し出されたクレープをほんの少しだけ齧り、ゆっくりと咀嚼していく。

苺とブルーベリー…更にラズベリーか…酸味と甘さがちょうど良く、学生の出店にしてはクォリティが高いな。

 

「うん、美味いな…」

「父様、私の分も食べるか?」

「お前はしっかり食べて大きくなれ」

 

ラウラの頭をクシャクシャと撫で笑みを浮かべる。

…不意に、本当に親子の様だと思ってしまうな。

三人で歩いていると、何処からかやたらと濃い『血の匂い』を感じ取り足を止める。

 

「どうかされましたか?」

「父様…?」

 

二人は俺の顔を覗き込んで心配そうに見つめてくる。

俺は首を横に振りぎこちないかもしれないが笑みを浮かべる。

 

「いや、少し悪寒がしただけだ…風邪をひかんように気を付けねばな」

「もしも風邪をひいてしまったのならば、わたくし達で看病してさしあげますわ」

「うむ、軍隊仕込みの医療術と言うのを見せてやろう」

「何故だろうな不安しか浮かばないのだが…」

 

茶化す様におどけて言うと、セシリアもラウラも疑念を捨て笑みを浮かべる。

…天災に相談する時が近いかもしれんな。

ふわりとしたロングヘアーのスーツの女性が通り過ぎた瞬間、濃厚な血の匂いを感じる。

容易く命を奪える人種しか纏わない匂いを。

俺は努めてそちらを見ないように白に語りかける。

 

(白、今しがた通り過ぎた女…監視しておいてくれ…嫌な匂いしかさせん)

[えぇ、分かったわ…ロボは今を楽しんでいてちょうだい]

 

白に任せておけば、見逃すこともなかろう…一先ず予防策を打てたのは良かった…のだろうか?

 

「父様、あっち面白そうだぞ?」

「簪さんのところにも遊びに行きましょう」

「見たいところが多いと言うのも困りものだな…」

 

今を楽しめ…確かにその通りだな。

俺はラウラとセシリアに引っ張られ、つんのめりながらも笑みを浮かべる学園祭を楽しむのだった。




いかんせんスランプ入ってきちゃったんだぜ…ウゴゴ…


ブラッドボーン楽しいです。
けどソロでクリアできる自信がない…

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。