【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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butlerの語源はbottleからきてるんですよ

放課後…学園祭の準備は順調に進んでいる。

我がクラスの御奉仕喫茶はセシリアと@クルーズからの衣装の準備が着々と進みクラス全員で衣装合わせを行っている。

教室の後ろ側に着替えができるように仕切りを作り、そこで女子には着替えを行ってもらっている。

 

「やはり、初撃のインパクトは大切にしたいからな…徹底した情報管理を行い、当日お披露目をする」

 

ラウラは@クルーズのメイド服に身を包み、どこか得意げな顔で話して来る。

御丁寧に扉の窓という窓に暗幕までかけての徹底っぷりだ…ラウラはこの学園祭を楽しみにしていると言う事なのだろうが。

 

「部隊長は言うことが違うな…食材の仕入れに関してはどうなった?」

「それに関しては嬉しいニュースがあるよ」

 

ラウラと和やかに話していると、シャルロットが@クルーズのメイド服を嬉しそうに着こなして此方へとやってくる。

どうやら、男装の呪いは解けたらしい。

 

「ほら、銀君がお父さんを連れて来た時に起きた事件…あの時のお礼って事で、@クルーズから格安で食材を譲ってもらえることになったんだよ」

「情けは人の為ならず…やはり巡り巡って自分に返ってくるものだな」

「衣装も希望者には無料であげるって言ってくれたし、良いことってするものだね」

 

エヘヘ、と嬉しそうに笑いながらシャルロットは事情を話してくれる。

本当に情けは自分に返ってきたな…そう思えば、あの時の事情聴取も苦にはならない。

シミジミと俺は笑みを浮かべて、電卓を打ち続ける。

セシリアの実家から送られてきた衣装の空輸代はこちら持ちだ。

この分の支出は、学園祭当日の売り上げから捻出する形にしている。

金持ちだからおんぶに抱っこは、ダメゼッタイ。

こういう所はキッチリしておかんと、いずれ軋轢を生みかねん。

@クルーズからの衣装と食料提供のお陰で大分楽に始めることができる…良いことだ。

 

「ところで銀君…何で着替えていないのさ?」

「うむ、私も父様の執事姿を見てみたいのだが」

 

予算管理を入念にチェックしていると所々で不満そうな声が上がってくる。

そう、俺は未だに制服姿で雑務を行っている…と言うか、代表がやるべきなのだが皆の玩具にされていて雑務をする暇が無いのだ。

 

「一先ず、色々と提出せねばならん書類も多いからな…それが済んだらお披露目と行こうか」

「絶対だぞ、父様!」

 

本当に楽しみにしているのか、ラウラは笑みを浮かべてシャルロットを伴って箒とセシリアの元へと向かう。

一夏の訓練を開始してからと言うものの、楯無のカリスマ性もあってか箒周りの人間関係が劇的に改善されて言っている。

やはり、男よりも女同士の方が気軽に話す事ができるからなのだろう。

俺に良し、お前に良し、皆に良し、だ。

必要な書類への記入を終えて、漸く一息つく。

生徒会の仕事を手伝うようになって、こうした書類仕事もだいぶ様になってきたな…。

 

「ローローお着替え〜?」

「あぁ、そうだ…のほほんはオルコット家メイド服か。良く似合っている」

「えへへ〜、褒められちった〜」

 

オルコット家メイド服は、シンプルながらも華やかさがある。

@クルーズが可憐さのあるメイド服ならば、オルコット家のメイド服は清廉さがあると言ったところだ。

 

「今は誰も着替えスペースを使っていないな?」

「も〜まんたいですよ?」

「承知した」

 

着替えスペースに入ると、仕切りの向こう側から黄色い声が上がってくる。

そんなに良いものでもないのだがな…。

テキパキと黒を基調とした執事服に身を包むと、ポケットに何か入っていることに気付く。

ポケットの中に手を入れて中を探ると、片眼鏡…所謂モノクルが出てくる。

モノクルは、当時の貴族社会では富の象徴として身に付ける者が多く、また権力を示すためにお付きの執事にも身に付けさせていたという。

セシリアが恐らく俺の為に用意していた様だ。

レンズは伊達なので問題ないな。

モノクルを身に付け髪の毛をオールバックにして整えてから姿見の鏡で身嗜みに問題無いかチェックし、白の手袋を嵌める。

 

「お待たせした…」

「「「キャーーー!!!」」」

「銀パパカッコイイ!!」

「織斑君とは違った渋さがあるわ!」

「おっと…鼻血が…」

 

仕切りから出てくると、衝撃波の様な黄色い悲鳴があがる。

一体何処からそんな声が出てくるんだ?

ラウラとセシリアがパタパタと駆け寄ってくる。

セシリアは実家のメイド服を着ているようだ。

 

「どうだろうか…馬子にも衣装となってなければ良いが」

「えぇ、よく似合ってますわ。モノクルも身に付けていただけたようで」

「あれば身に付けてみたくなるものだろう?」

「父様、ここまで似合うと日本人と言うのが嘘のように思えてくるな」

 

セシリアもラウラも興奮気味に俺に話しかけてくる。

ラウラの頭を優しく撫で、笑みを浮かべると一夏達も此方へとやってくる。

 

「やっぱ、狼牙はガッチリしているから映えるなぁ…」

「一夏とて、良く似合っているではないか」

「そ、そ、そうだ…一夏も、に、似合っている」

「僕もそう思うよ、一夏」

「ハハ、ありがとうな」

 

箒とシャルロットがなけなしの勇気を振り絞って褒めるが、言葉だけ受け取って箒達の様子に気付こうとしない。

やはり、劇的な一手が必要なのではなかろうか…いや、シャルロットと大浴場に入ってもあまり意識はしなかったみたいだしな…。

淡白な一夏の返答に少しだけ箒とシャルロットがショボくれてしまう。

まぁ、荊の道故頑張るしかあるまいな。

 

「さて、全員衣装合わせは済んだな。時間は刻一刻と迫っている…無駄にしないように励んでもらいたい」

「「「ハイ!」」」

「さて…俺は書類の提出と交渉事があるからな…一夏、代表らしく取りまとめてくれよ?」

「おう、交渉事っていうのは何だ?」

「それは学園祭当日までのお楽しみだ…なに、良いものは見れるだろうさ」

 

一夏の疑問に対して、俺は思わず悪い笑みを浮かべてはぐらかす。

そんな俺の様子を見て一夏は思わず頬をひくつかせながら笑う。

 

「狼牙さんが悪い顔に…あれは悪戯する時の顔ですわ」

「父様の餌食になるのは誰なんだ…」

 

ひそひそとセシリア達が喋っている…失敬な。

学園祭を楽しむのならば、今いないあの人達にも協力してもらわんとな。

制服に着替えを済ませれば、書類に不備がない事を再確認して職員室へと向かう。

さぁ、あの人達にも楽しんでもらおうか…。

 

 

 

 

「わ、私達もコスプレするんですか!?」

「銀…どういうつもりだ?」

「どうもこうも…せっかくクラス一丸となってやっているのだから、先生達にもやっていただかなくては面白くあるまいよ」

 

職員室にて千冬さんに書類を提出した際、俺は千冬さんたちにもメイド服を着てもらう事を提案する。

折角の学園祭…お祭り騒ぎを楽しむ為のスパイスになってもらってもバチは当たるまいよ。

 

「わ、私はいいかなぁ、と思いますけど…」

「却下だ、何故あんな格好をせねばならんのだ?」

「山田先生は着てもらえる…織斑先生は、駄目か?お祭りだからこそと思ったのだが」

 

ふむ、まぁ此処までは予想通りの展開ではある。

自身のイメージと言うものもあるからな…メイド服を着て奉仕作業をするなんてしたくもないだろう。

…結構似合うと思うのだがな。

 

「あぁ、駄目だ。監督者が浮ついた格好などできるわけが…」

「いや、残念だ…着てもらえた時の報酬も考えてあったのだが…」

 

俺は懐から一枚の紙を取り出し、そっと千冬さんに差し出す。

千冬さんの好物を知っているからこその最終手段。

懐の痛み具合が半端ない事になるが、クラスメイト達の事(面白そうな状況)を考えると背に腹は変えられん。

で、あれば俺は涙を飲んで出資しよう…しばらく極貧生活だろうが。

 

「き、貴様…本気か?」

「本気でなければ、どうしてこんな報酬を用意できると言うのだ?」

「何を用意したんですか?」

「端的に言えば酒だ…それも千冬さんの好みドストライクのな」

 

更に付け加えるとするならば、どれもが入手困難とされる酒ばかりである。

…地方を転々としていた時の酒造巡りは楽しかったものだ。

 

「な、なぁ狼牙…執事服では…」

「それならばこの話は無しだ」

 

譲歩案を出そうとする千冬さんに、俺はポーカーフェイスを気取りながらも酒のリストを取り上げる。

千冬さんは頭を抱え悶々としている。

 

「山田先生も見てみたくはないか…?織斑先生のメイド服姿を」

「え!?また私に振られるんですか!?…そ、それは…まぁ、見てみたいですけど…」

「織斑先生…後輩の先生もこう言っていて報酬も美味しい訳だが…どうする?」

 

あぁ、今ならあのアニメの死んだ魚の目をした神父の言うことも分かる…これが愉悦か…。

随分と腹黒くなったものだと客観的に見てしまうが。

 

「ぐ、だが…いや…数日の間だけの事だし…」

「よもやここまで葛藤するとは思わなかったな…」

「織斑先生、折角ですし着てみましょうよ!クラスの生徒達も喜びますよ?」

 

そして、一夏も驚くと思うのだ。

千冬さんの普段の格好は基本的にスーツだ。

確かにイメージに合った凛々しさがある。

そんな千冬さんがロングとは言えスカート姿になったらどうなるのか…俺としてはかなり気になる。

 

「その報酬は絶対だな?絶対なんだな!?」

「既に手配は済んでいる…受け渡しは学園祭後の休日以降になるがな」

「織斑先生がこんなに必死な所初めて見ました…」

 

学園に直接送りつける訳には行かず、今回学園祭のチケットを報酬代わりに升田さんに受け取りをお願いしてある。

転売こそできないが、学園祭のチケットと言うのは誰もが欲しがる魅惑の逸品なのだ。

山田先生は若干引き気味に笑みを浮かべて千冬さんを見ている。

本当にお酒が大好きなんだな…。

 

「いいだろう、学園祭当日にメイド服を着てやる」

「良い交渉だった…これは貴女のものだ」

 

俺はニヤリと笑みを浮かべて、酒のリストを千冬さんのデスクに置き直す。

学園祭当日が非常に楽しみになるな…忙しくなるだろうが。

 

「今回だけだからな?来年以降は絶対に、着ない!」

「それは残念だ…魅惑の一品を用意できるように努力するとしよう」

「お、お二人とも笑みが怖いです…」

 

山田先生はビクビクと震えながら涙目で俺たちの事を見つめている。

失敬な…こんなに穏やかに交渉事が終わったというのにな。

 

「では、俺はこれで失礼する」

「報酬楽しみにしているからな」

 

俺は二人に一礼して職員室を出て行く。

着々と下準備が進んでいて、俺は思わず笑みを浮かべた。


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