【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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期待と不安とちょっとした悪夢

「遅かったじゃない、言葉は不要だったかしら?」

「タッグトーナメントの時の会話ログから俺のセリフを出すんじゃぁない、言葉もいる。それよりも、学園祭の催し物の話だったな」

 

楽しいランチタイム…と、言っても俺は相変わらずのお粥だが…を早々に切り上げ、俺は今楯無と二人で生徒会室にいる。

いつも思うのだが、楯無はキチンと授業に出ているのだろうか?

時折、楯無の単位事情に不安をおぼえたりする。

学園祭はクラスごとに催し物を行う他、部活毎にも催し物を行うことになっている。

それぞれ投票で優秀な催し物を行ったクラス、部活動を選ぶことになっている。

最優秀クラスならば来年三月までのスイーツ無料券をクラス全員に配布し、部活動ならば部費にボーナスが支給される。

…うむ、血で血を洗う凄惨な争いになりそうな雰囲気だな。

 

「いいじゃない、狼牙君の声のトーンにピッタリ合っていたわよ?まぁ、それはさておき…狼牙君も知っての通り、今年も各部活から飢えた獣のように部費アップ要求が来ているんだけど…並行して一夏君の部活動所属問題が表面化してきているのよ」

「なるほど…その問題を解決するための策を二人で練ろうと、そういう訳だな?」

「そう言う事…ま、私に秘策アリってところなんだけど…」

 

秘策も何も俺もそれしか方法がないと思っているがな。

部費アップ要求を黙らせつつ、一夏の宙ぶらりん状態を解消するための案…それは…。

 

「「今年の最優秀部活動に織斑 一夏を所属させる」」

「これしかなかろうな…一夏には気の毒だが」

「皆、血眼になるでしょうね…今年の学園祭は盛り上がるわよ〜?」

 

楯無は舌をペロッと出して笑みを浮かべる。

俺は起きてもいない頭痛に眉間を寄せ深く溜息をつく。

 

「会長、お前のことだから一夏には内密に事を進める気だな?」

「気心知れてる仲なんだからいつもみたいに呼びなさいよ。…えぇ、やっぱり楽しい学生生活にはスパイス欲しいじゃない?」

「公私は分けような。早々に生徒会に入って正解だったな…俺も宙ぶらりんだったら、巻き込まれていたな」

 

軽く頭を抱え、再度溜息をつく。

楯無は俺の呼び方に大層御不満なのか、頬を膨らませながらぶつくさと文句を言っているが俺は努めて無視をする。

部費アップ要求に関しては、あくまで一時的な凌ぎにしかならん。

実は、このIS学園…部活動所属が義務付けられている割に、部費がやたらと少ない。

恐らく施設の維持費にお金を持っていかれているのだろう。

最先端の技術と言うのは得てして金食い虫という訳だな。

 

「部費はどうしても捻出できないのよね…学園からおりる予算がいつもカツカツなんだもの」

「その辺りは、部長クラスを集めた会議を開いて懇切丁寧に説明していくしかあるまい。最悪轡木さんに相談だな」

「見てくれ立派なのに、お財布事情がカッツカツって嫌な話よねぇ…」

 

楯無はクスリと笑い、俺は直面している問題にただただ溜息を吐くばかりだ。

最悪、訳のわからない部活動は廃部することも視野に入れねばならんだろう。

…青春って世知辛いものだったのだな…。

しみじみとそんな事を思っていると、目の前に本が置かれる。

シンデレラ…?

 

「さて、世知辛ーいお話はここまでにして…我が生徒会の催し物は演劇にしたわ」

「それでシンデレラか…シンデレラにしては台本厚くないか?」

 

具体的にはビーストなウォーズのアニメの台本みたいな感じで、分厚くなっているのだ。

どう考えても内容が改変されている気がするのだが…。

どうにも嫌な予感がして俺は台本をパラパラと読み始める。

主演一夏、語り部俺…。

 

「こんな低い声のナレーターで大丈夫なのか?」

「大丈夫、問題ないわ」

 

楯無はムフー、と鼻息荒く頷いてくる。

まぁ、この声で良いと言うのであれば嬉しいが。

更に内容を確認していくと、次第に冷や汗が背中を流れ始める。

これは…。

 

「演劇じゃなくて、鬼ごっこではないか!?」

「ただの演劇なんてつまらないわよ。やっぱりエンターテインメントはこうでないとね〜」

「待て待て、これは下手すると一夏の身が危ういぞ。なんだ、地上最強の兵士って?コマ◯ドーじゃないんだぞ!?」

「ここはIS学園…生身での戦闘能力が高い子達ばかりじゃない」

 

ああ言えばこう言うと言った感じで、楯無は楽しそうに物語を押し通そうとする。

最後のページを捲った時、俺はもう全てを諦めることにした。

 

《脚本:白蝶》

 

「夢なら、覚めてくれ…」

「白蝶に相談したら一晩で書き上げてくれたわ。やっぱり何でもソツなくこなすわよねぇ」

[私の脚本に何か問題があるかしら?]

「分かってて言うな!」

 

まさかの白、参戦である。

と言うか、前にも思ったが楯無と白は性質が似ている…矢鱈と。

特にイタズラという一点に関して、ウマが合うとかそういうレベルではない。

所謂混ぜるな危険状態だ。

 

「大丈夫、白蝶の脚本は完璧よ!」

[お褒めに預かり光栄よ、生徒会長]

「もう、どうなっても知らんぞ…」

 

最後に俺は、今日何度目かの溜息を虚ろな目をしながら吐き出すのだった。

 

 

 

 

放課後のHR、俺と一夏は教壇に立ち学園祭の催し物の意見を募っている。

時間もあまり無いので、一日一日が非常に重要になってくるのだ。

一夏を議長、俺が書記と言った感じで議題を進めていく。

皆から挙げられる提案に俺は虚ろな目をしながら黒板に書き上げていく。

 

『織斑、銀のホストクラブ』

『織斑、銀とツイスター』

『織斑、銀とポッキーゲーム』

『織斑、銀による壁ドン体験会』

『織斑、銀と王様ゲーム。ただし、王様はお客様のみ』

 

「「却下」」

 

王様ゲームなんぞ、内容が具体的すぎはせんだろうか?

確実に玩具にされてしまうのが目に見えている。

この学園の女性は欲望に忠実だな…メダルを使った変身ヒーローの怪人が何体も出来上がるかもしれん。

 

「「「えー!!??」」」

「えー、ではない。男性操縦者を前面に押し出すな…爛れた欲望が丸見えではないか」

「第一こんなの俺たちが嬉しくないっての」

 

俺と一夏はゲンナリとした顔でクラスメイトたちを見るが、どうやら誰も同意してはくれない様で皆不満顔だ。

あのセシリアでさえ頬を膨れさせているのである。

セシリアよ…ツイスターゲームなんぞより、激しいことをしているだろうが。

 

「私達は嬉しいわよ!」

「そうだそうだー!!」

「織斑 一夏と銀パパはクラスの共有財産である!」

「ろ、狼牙さんは認めませんわよ!?」

「と、言うか銀パパは定着する方向なのな…」

 

ここの所授業中でも、クラスメイトたちからパパ呼ばわりされる事が多くなってきた。

これは喜ぶべきなのか悲しむべきなのか、分からなくなってくるな…クラスに打ち解けていると言う意味では万々歳なのだが…。

どうにも複雑な心境なのである。

因みに、担任である千冬さんはこうなる事を見越してなのか職員室に退散している。

自由に生きているなぁ…。

 

「山田先生からも何か言ってください」

 

一夏はほとほと困り果てて唯一の希望と言わんばかりに、ポメラニアン山田先生へと救いの手を求める。

俺は思うんだ…きっとそれは悪手なのではないかと。

 

「え、えぇ!?私に振るんですか!?…うぅ…そうですね…ポッキーゲームなんてどうでしょうか…あ!壁ドンも良いかもしれませんね…」

 

えへへ、と笑いながら自称教師の山田先生が頬を赤らめながらクネクネと体をくねらせていく。

一夏はがっくりと肩を落として自身の失策に頭を抱えた。

 

「ところで狼牙、壁ドンってなんだ?」

「口で言うより実演したほうが早かろう…」

「そんな説明しにくいことなのか?」

 

俺は未だに妄想の世界に旅立っている山田先生へと近付き、思い切り壁に片手を付けば山田先生を見下ろす。

その瞬間、クラスから割れんばかりの絶叫が迸る。

 

「壁ドン!壁ドンよー!?」

「うわー!やまやん羨ましい!!」

「パパが新たな女に手を出したの!?」

「ろ、ろろろ、狼牙さん!!」

「銀君は体を張るなぁ…」

「いや、あれは一夏以外に立っている人間がいなかったからだろう…」

 

山田先生は壁ドンされた事に身を竦め、顔を真っ赤にして混乱の極みに達する。

それで良いのか…教師よ…。

いや、俺のせいでもあるんだが。

 

「この行為の後に殺し文句を言うのが壁ドンだ。おそらく壁ドン体験会なんぞ開いたら、後ろから刺されかねん」

「なるほどな…」

「きゅぅ……」

 

山田先生はフラフラと席に着き、顔を真っ赤にしたまま気絶してしまう。

少しやりすぎたが…居てもいなくても正直かわらんからなぁ…。

 

「誰か、普通の意見を言ってくれよ…」

 

一夏が縋るような思いでぼそりと呟くと、意外な人物が手を挙げる。

ドイツ軍の部隊長、ラウラ・ボーデヴィッヒその人である。

ラウラは立ち上がり腕を組んで仁王立ちすると、真剣な面持ちで口を開く。

 

「一夏、父様…皆の欲望に答えつつ、最優秀賞も狙える…私にいい考えがある」

「ら、ラウラ?それってどんな提案なんだ?」

 

クラスの人間全員が固唾を呑んで見守る。

なんせ、ラウラは打ち解けてはいるもののこう言った催し物には疎いと言うのが、俺を含めた全員の認識だからな。

 

「それは…メイド喫茶だ!」

 

ラウラはドヤ顔で拳を振り上げ、その、とても意外な提案を行う。

全員…いや、シャルロット以外の全員がポカーンとした顔でラウラを見つめている。

メイド喫茶…@クルーズでの経験を活かすつもりか?

 

「この学園の学園祭は、招待制とは言え外部からの人間も大勢やってくる…休憩所としての普通の喫茶店では無理だが、私たちが奉仕すると言う事を強調しアピールをする事で利益回収もスムーズにできるはずだ。一夏と父様には執事服で対応してもらう」

「僕は賛成かな…一夏は料理もできるって聞いてるし、厨房も担当してもらったらどうかな?」

 

ラウラの言葉に援護の様にシャルロットが言葉を重ねてくる。

シャルロットが俺を見てニヤァっとした笑みを浮かべてくる。

…七月の意趣返しのつもりか…。

 

「えーっと、皆どうだろう?俺はすごくまともですごく良いと思うんだけど」

 

一夏はもうこれで決まってくれと言った思いで、言葉を紡ぐ。

確かにこの提案は素晴らしい内容だろう…相当に忙しくなると言う一点を除けば。

 

「織斑君だけじゃなくて銀パパも執事…!?」

「いいぞ…いいぞ!!」

「うっは、漲ってきたわ!!」

「ふぅ…ちょっとお手洗いに行ってきてもいい?」

 

一人賢者状態に陥っている人間がいるが大丈夫か?

俺は眉間を揉みつつ、意見が纏まったのを見て頷く。

 

「衣装に関しては…セシリア、お前の実家にどれほどメイド服がある?」

「それはチェルシーに頼んで聞いてみないと分かりませんが…クラスメイト分くらいは確保できるかと。執事服も大丈夫だと思いますわ」

「シャルロットもツテがある。何とか衣装は問題ないように思えるが」

「ラウラ…それってバイト先の?」

 

シャルロットがおずおずとラウラに聞くと静かに頷く。

英国にて実際に使われているデザインのメイド服と、本格メイド喫茶のメイド服…いかんな、最近雑念が出てしまって。

 

「メイド喫茶だと名称的に織斑君達をアピールできないから御奉仕喫茶にしない?」

「「「「さんせー!!!」」」」

「うし…それじゃ一年一組の催し物は御奉仕喫茶に決定だな」

 

俺は手を叩き全員の注目を集める。

 

「時間もないから、セシリアとシャルロットは衣装の手配を始めてくれ。一夏と料理できる人間はメニューの内容の協議を始めるように。これより学園祭準備を始める。諸君、派手に行こう」

「「「「はい!!!」」」」

 

全員が一丸となって始める学園祭…色々と、色々と不安もあるが一体どうなることやら、な。


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