【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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狼は優しく見守る
銀パパは静かに暮らしたい


夏休みも終わり、時は九月。

二学期早々に始まった授業は、一組二組合同の専用機持ちによる実戦訓練から始まった。

 

「はぁぁぁぁっ!!」

「甘いっ!!!」

 

一夏と鈴の戦闘をクラスメイトたちと一緒になって観察する。

やはり、かなり動かしづらそうだな…。

第二形態移行を果たした結果、一夏の白式は多機能武装腕(アームド・アーム)『雪羅』を左腕に備えた上に背面ウイングスラスターは巨大化して四基に増えて、天狼程ではないにせよ圧倒的な加速性能を実現した…燃費を犠牲にな。

『雪羅』の武装内容が、ただでさえ逼迫している燃費事情を更に悪化させる原因となっている。

まず、一夏が喉から手が出るほど欲しがっていた射撃兵装である荷電粒子砲。

どう考えてもエネルギーを食う仕様だな。

もう少しこう…無かったのだろうか?

せめてビームガトリングとか…。

ついで、クローモードとソードモードに切り替えが可能な零落白夜。

やはりエネルギーを食う仕様だな。

そして最後に零落白夜をエネルギーシールド状に展開する機能。

もう、白式はきっと零落白夜フェチに違いない、絶対にそうだ。

もう馬鹿なのではないだろうか…?

これから課せられる一夏の課題は、まず間違いなく特殊マニューバである瞬時加速の習熟と零落白夜の展開方法、そして射撃戦の戦術理論の習得だ。

零落白夜を居合のように展開する事さえできれば、恐らく燃費も劇的に改善できるはずだ。

居合は箒が、射撃戦はシャルロットが教えこめば良いだろう。

お相手は万能機である鈴がメインになって相手をすれば…きっと丸く収まるはずだ。

俺が腕を組んで試行錯誤していると、出席簿が叩き落される。

解せぬ…。

 

「銀、授業に集中しろ。貴様は頭を悩ませるな」

「失敬な…一夏の為にあれこれ特訓メニューをだな…」

「そういう事は本人が考えれば良いことだ。いくら貴様が副代表と言ってもだな…いつまでもアイツを子供扱いしてやるな」

「まぁ、そうなんだが…ああも燃費が悪いとな…」

 

一夏が攻めあぐねた隙をついて、鈴が一夏の足を掴み地面に叩きつけた瞬間に衝撃砲を叩き込み試合終了のブザーが鳴る。

やりたい事が出来ないと言うのはかなりのストレスになる。

そうなると自信の低下に繋がってしまう。

まぁ、一夏はそういった部分では大丈夫なのだろうがな…。

ともあれ、今後のトーナメントの事を考えると解決すべき問題の様に思える。

 

「俺はあいつに強くなってもらいたいからな。やはり、手を差しのばしてやりたくなるのが情と言うものだろう?」

「まったく、銀…私達教師の仕事を取ってくれるなよ?」

「織斑先生がもう少し優しければ問題なかr…!」

 

問答無用で出席簿が俺の脳天に二度直撃する。

まさしく電光石火の早業だ。

正しい事を言ったはずなのだがな…解せぬ…。

 

「喧しい、貴様は甘すぎると言うのだ」

「マム・イエス・マム…」

 

プスプスと頭から煙を上げながらがっくりと肩を落とすと、クラスメイトたちからクスクスと笑われる。

そんなに可笑しいのだろうか?

何とも、不本意な面持ちで俺はピットへと向かい天狼白曜を身に纏う。

一夏は悔しそうな面持ちで立っていた。

 

「くっそー…中々思うように動かせないな…」

「どうにも燃費が悪すぎるみたいだからな…一応俺の中でやるべき提案は纏めてある。師匠達(一夏ラヴァーズ)と協議してみろ」

「おう…何とかしないと落ちこぼれちまうからな」

「そう、気を落とすな…誰だって直ぐに機体を使いこなせる訳でもないからな」

 

励ますように声をかけた後、親指を立てて俺はカタパルトから射出される。

アリーナ内に待っていたのはセシリアとラウラの二人組だ。

…馬鹿な、この二人をマトモに相手しろと言うのか?

 

『銀、貴様にはオルコットとボーデヴィッヒ二人を同時に相手してもらう。何、今の貴様ならば問題ないだろう?』

「大丈夫じゃない、大問題だ!よりにもよって嫌な組み合わせにしおってからに!」

『フン、教師に対する敬意が足らんからそうなるのだ』

 

千冬さんよ…それは俗に言うイジメなのではなかろうか?

俺はテールスラスターを力なく垂らしながら肩を落とし溜息をつく。

 

「フフ、狼牙さん…なんだか共振現象の時の姿の様に見えますわよ?」

「だが、手加減は無しだ。父様には成長した私達を見てもらいたいからな」

 

セシリアはおかしそうに口元を隠しながら笑い、ラウラは赤い瞳に戦意を漲らせる。

さて、それでは気を取り直して闘いに臨むとしようか…。

 

[二機からロックオンされたわ。ロボ、手を抜いてなんて言ってられないわね]

 

まったくだ、俺とて負けてもいられん…情けない姿は見せられないからな。

擬似的な一対八…抗ってみせよう。

試合開始と共にセシリアはBT兵器をフルに展開させ、弾幕を形成しながらもライフルによる狙撃を試みる。

俺はそれらを冷静に避けていき迫り来るミサイルを『群狼』を展開して全て噛み砕かせていく。

 

「もらったぞ、父様!」

 

ミサイルによる爆煙で視界を塞がれた俺に向かって、下方から瞬時加速を行ったラウラが両手にプラズマ手刀を発生させながら踊りかかってくる。

『気配』でラウラの居場所を察知していた俺は、脚部の『二式王牙』を使った回し蹴りをラウラのプラズマ手刀に合わせて叩き込み、鍔迫り合いになった瞬間に二重瞬時加速(ダブル・イグニッション・ブースト)を行い弾き飛ばし、『群狼』による噛み付きと体当たりで両肩にあるワイヤーブレード射出装置を破壊させる。

 

「まだまだだ…どうした、この程度で終わりではなかろう?」

「ラウラさん、単一仕様能力を使われる前に一気に決めますわよ?」

「あぁ、アレを使われたら勝ち目が薄くなるからな!」

 

ラウラは起動できるワイヤーブレードを展開しながら再び近接戦を仕掛け、セシリアはBT兵器による弾幕で俺の頭上と足元への回避を抑え込み、ラウラに当たるすれすれでライフルによる牽制を放ってくる。

俺はバックブーストをかけながら、態と追い詰められているフリをしつつ『群狼』による攻撃と、腕の『一式王牙』のワイヤーブレードを使いBT兵器に牽制を行いながらラウラを引き寄せていく。

ラウラは俺が逃げるのを見て勝機と見たのか、瞬時加速を行って一気に距離を詰めようとする。

フルフェイスの奥でニヤリと笑みを浮かべれば、腕のワイヤーブレードを引き寄せ抵抗できないラウラに絡ませる。

 

「残念だったな、勝ちを急ぎすぎだ」

「くっ…!!セシリア!!」

「狙いは完璧でしてよ!!」

 

正直予想外だったな…ラウラは俺に捕まる瞬間にAICを発動、俺の動きを拘束。

次いでセシリアが俺の周囲にBT兵器を展開し一斉発射を行う。

だが…。

 

[『群狼』を早めに処理すべきだったのよねぇ]

「兎と狐を狩るとしようか」

 

両肩にある素早く『群狼』を戻し、『矮星』にエネルギーを充填。

単一仕様能力を起動させ、AICによる拘束とBT兵器によるエネルギー兵装を無効化する。

俺は瞬時加速を行い、ラウラをハンマーの様に振り回しながらセシリアのBT兵器を弾き飛ばした後にセシリアへと投げつける。

 

「くっ!ラウラさん!」

「すまない!」

「余所見もしていられんだろう?」

 

ラウラを受け止めたセシリアは動きが止まってしまい、俺に隙を晒してしまう。

勝負は勝負…俺は二人纏めて左腕のワイヤーブレードで拘束し、幾度もアリーナの遮断シールドに叩きつけた後に地面へと放り出す。

少し、過剰に攻めすぎたな。

試合終了のブザーと同時に、息を切らせているセシリアとラウラへと近づく。

 

「もう少し、レディを丁重に扱うべきですわ!」

「くっ…!二人掛かりでこのザマ…むしろ、父様が強くなりすぎてないか?」

「いや、すまんな…反省はしている…」

 

どうにも最近、昔の様に動けすぎている気がする。

何だか、嫌な予感がする…束さんの過剰なまでの機体解析拒否も気になるしな。

フルフェイスの奥で険しい顔をしながらも、セシリアとラウラをなだめてピットへと戻るのだった。

 

 

 

セシリア、ラウラとの交渉の結果、夕食のプレミアムプリンをそれぞれ二つ奢るという形で決着がついた。

何とも虚しい勝利だ…財布から野口さんが次々と消えていく…。

一応、親の遺産プラス倉持テストパイロットと言うこともあって潤沢に金はあるのだが、金銭感覚を養うためにも極力…本当に追い詰められた時だけ金を引き出す事にしている。

一ヶ月の小遣いは、高校生の平均小遣いをやや下回る程度だ。

それに日頃の食費と雑費を加味したのが生活費となっている。

多少甘いかもしれんが、な。

バイトをしようにも見た目で断られる事が多くて儘ならんことが多いのだ。

 

「で、だな…今後の一夏強化案についての俺の提案なのだが聞いてもらえるか?」

 

昼休み、寮の食堂にて専用機持ち組みで集まり俺は全員の顔を見合わせる。

 

「やっぱり頭を悩ませていましたわね…織斑先生に叩かれていましたから想像はついていましたが」

「父様の癖だからな…きっともう治らないのだろう」

「うむ、プリン減らしてやろうか?」

 

にっこりと笑みを浮かべがながらセシリアとラウラを見ると、二人ともお口にチャックのジェスチャーをして黙り込む。

ふぅ、と溜息をつき仕切り直す。

 

「現状長期戦に持ち込まれた時、セシリアより不利になっているからな。エネルギー兵装一辺倒のブルー・ティアーズに遅れを取りかける様では拙い。そこで一夏には優秀な師匠達にシゴいてもらう事にする」

「銀、その師匠達と言うのは誰だ?」

 

箒が俺を胡乱な目で見つめてくる。

安心しろ、お前を除け者にすることはない。

 

「総監督を楯無にお願いし、居合の指導に箒を。射撃戦術理論にシャルロット。そして実戦訓練に鈴をぶつける。楯無は手が空いてる時ならば面倒を見てくれるだろう…基本的に箒達で一夏の面倒を見てくれ。俺は俺で忙しくなりそうだからな…」

 

口からエクトプラズムを出しながら箒達に頭を下げる。

頼むからこれで丸く収まってくれ…無駄に喧嘩をしないでもらいたい。

 

「ま、まぁそういう事なら…」

「…悪くはないか」

「僕としては問題ないよ」

「狼牙、なんで居合の稽古がいるんだ?」

 

一夏は不思議そうな顔をして此方を見つめてくる。

確かに抜き身の刀を持つ形になるISでは居合の稽古というのは効果が薄い。

しかし重要なのは心構えだ。

 

「零落白夜を発動するとき…一夏は気合を入れることで展開しているな?」

「お、おう」

「居合の稽古を行うことで居合の心構えを学び、零落白夜の瞬時展開のヒントにする」

「成る程…一夏の零落白夜はシールドエネルギーを削ってしまうから展開時間自体を削って燃費を改善しようという事か」

 

箒の言葉に素直に俺は頷く。

もはや、それしか思いつかない。

展開時間が長すぎるから消耗が大きくなってしまうのだ。

大飯食らいには飯を小出しにしてやるしかあるまい。

 

「じゃ、僕は荷電粒子砲における牽制や立ち回りを教えて」

「あたしが実戦で叩き込んでやればいいのね」

「概ねその通りだ…これらをこなして今よりもマシに使えるようになれば御の字だな。無論居合に関しては無駄にならないとも限らない。それでもやってくれるか?」

 

箒、鈴、シャルロットの三人を見る。

三人は顔を見合わせ、なにやらアイコンタクトを行っているようだ。

箒と鈴の説明下手に関しては、シャルロットが居るからおそらく大丈夫だろう。

恋敵とは言え切磋琢磨する仲だ…こう言った集まりでも仲良くしてくれたのなら嬉しく思う。

 

「分かった、銀の提案に乗る」

「あたしも異存なーし」

「気を使ってくれて、ありがとう銀君」

「話は纏まったな…血反吐吐くつもりで頑張れよ」

「おう、もっともっと強くありたいからな」

 

一夏は気持ちの良い笑みを浮かべて力強く頷く。

時折不安になるが、やはり芯の通ったこの真っ直ぐさは歪んだ力へと変貌することはないだろう。

 

「父様はやはり優しいのだな」

「生温さとも言う…優しいというのは甘やかせるだけではない。時に厳しく当たることもまた優しさなのだからな」

 

ラウラが真っ直ぐな瞳をこちらに向けて笑みを浮かべている。

少々、一夏と関係が円滑に行くように手を差しのばし過ぎているかもしれんが…やはり性分だな。

今更変えられるものでもないか。

 

「僕に本音を言わせるために厳しく接してきたんだから、銀君はやっぱ優しいんだよ。きっと誇っていいと思うよ?」

「男装の時の話ですわね…何があったのです?」

「僕がうじうじと殻に引きこもっていた時にね…一夏が銀君に助けを求めた時に僕自身から言葉を引き出すのに色々と言ってくれたんだよ。『物言わぬ死人に手を差し伸べるほど俺は聖人じゃない』確かこんな事言ってたかな?」

「今思えば、厳し過ぎることを言ったと反省はしている…」

 

眉間を揉みながらガックリと肩を落とす。

しかしあの言葉があったからこそシャルロットの本心を叫ばせることができたのだとは思うが。

 

「狼牙にしては辛辣な物言いしたのね…」

「えぇ、少々厳しいと思いますわ」

「思いは伝えて意味を成すのだ…シャルロットから助けてと言われなければ、どうしようもなかろう?」

 

微笑を浮かべたまま軽く首を横に振ると、俺は立ち上がる。

そろそろ生徒会室に一度顔を出さねばならんからな。

 

「すまんが、生徒会室に会長に呼び出しを受けている。仲良くするんだぞ?」

「はいはい、とっとと女のところに行きなさいよ銀パパ」

 

鈴が茶化すように言いながらシッシと手で払ってくる。

俺は何とも言えない顔をしながらセシリアとラウラの頭を撫で、生徒会室に向かうのだった。

この時、行かなければ良かったかもしれんと痛切に思うことになるとは思いもしなかったのだが。


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