【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜 作:ラグ0109
更識家訪問から時は流れて八月最終週。
学園へと戻る時、十六代目の憎しみのこもった目と沙耶さんの生暖かい目、それと少し寂しそうな顔をする姉妹に見送られた。
まぁ、十六代目の言っていることは尤もな事なので反論も何もない。
一応初日の夜に主張することはしたしな…俺にとって認められるかどうかは関係がない。
たった三人の為に世界ですら敵に回してみせよう。
それはさて置き、二学期はイベントが目白押しとなっている。
まずは九月。
高校生活において一番のお祭りイベントである学園祭。
生徒一人一人に招待チケットを一枚ずつ配布し、外部の人間を招待する形になっている。
これは、学園内の警備に都合上の問題であり致しかたない措置と言える。
なんせ、現役アイドル達と直に触れ合えたり最新式のIS設備の見学が出来るのだからな。
もし、このような措置をとっていなかったのならば、間違いなく学園がパンクする。
…最近の事件の頻度を考えると、襲撃事件が起きそうで怖いな。
続いて十月…此方は上旬に俺が楽しみにしていたイベント、『キャノン・ボール・ファスト』が行われる。
これは、以前話した通りISを用いた
決められたコースとは言え、大空を自分の望んだスピードで飛べると言うのは純粋に嬉しい。
しかも今年は専用機持ちが多いと言う事もあって、本来参加できない一年生も参加できることになっている。
いいタイミングで俺も入学したものだと思う。
そして中旬に畳み掛けるように二回目のタッグマッチトーナメントが予定されている。
これは、セシリアと簪には申し訳ないが再びラウラと組もうと考えている。
あの時次は勝ちに行くと約束したのだ…組まねば約束を反故する形になるしな。
皆、あの時よりも遥かに強くなっている…負けられんな。
そして下旬は、どこの学校にもある体育祭だ。
…正直参加したくない…ハプニングが起きて酷い目に合うに決まっている…。
俺は一人生徒会室にて必要な書類の取り纏めを行っている。
一応、今日の夜楯無達が学園に戻ってくることになってはいるのだが、先に書類を整理しておいてやれば楽ができるだろうと言う俺の気遣いだ。
必死に頭を悩ましながら書類という大敵に立ち向かっていると、そばにティーカップが置かれ香り高い紅茶が注がれる。
「ありがとう…セシリア」
「わたくしが好きでやっていることですから…。少し息抜きをしてください」
セシリアは微笑みを浮かべ此方を見下ろしてくる。
学園に戻ってきてから生徒会室に引きこもる事が多かった俺は、こうして時折セシリアにお茶を淹れてもらっている。
此方から頼んだわけでもないのだが、セシリアが甲斐甲斐しく世話をしてくれるのだ。
何とも頭の上がらん思いだ。
「学園祭の準備ですか…わたくし達のクラスは何をやるのでしょうね?」
「どうせ、俺と一夏を使ったホストクラブとかそんな所だろう」
「それはそれで安直な感じがいたしますわ」
眉間を揉み、ペンを置くと俺は紅茶を一口飲む。
何でもお抱えのメイドに淹れ方を教わってきたそうで虚に比べればまだまだだが、それでも美味い。
まぁ、虚の紅茶と比肩する方が間違っているのだろうが。
「できれば回避したいものだな…この機に乗じてお前達がやんちゃしそうで」
「そ、そんな事はありませんわよ…ホホホ」
何とも白々しい笑い声をあげながら、セシリアは視線を彷徨わせている。
俺はただただ苦笑するばかりだ。
しかし、学園祭ねぇ…うちのクラスは美人が多いのだから、それを活かした催し物をしてもいいと思うがな。
例えばアランさんと共に行った@クルーズの様なメイド喫茶とか。
いや、準備期間を考えると少し苦しいか。
[ロボ、一夏君から連絡よ?]
「承知。セシリア、少し待て」
俺は軽くセシリアを手で制しながら、一夏とコアネットワークを繋げて通信する。
…また変な問題を持ち込んできたんじゃなかろうな…?
『よう、狼牙。なんだか久しぶりだな』
「なんだかんだですれ違ってばかりだったからな。倉持でのデータ取りは終わったのか?」
一夏は第二形態移行を果たした為、倉持から幾度も呼び出されてデータ取りに協力していた。
俺も第二形態移行しているのだが、此方は束さんが差し止めていると白から聞かされた。
何でも、『白式は譲ったけど、天狼まで見て良いとは言ってない』と束さんがゴネたからとかなんとか…。
あまりに露骨だな…天狼に何かあるのか…?
『そっちはなんとかな…ヒカルノって言う研究者が担当してたんだけど、これが変人で…ってそうじゃない』
「何かあったのか?」
『そう大したことじゃないんだけどさ、今日皆で集まって思い出作りに花火でもどうかと思ってさ』
夏の風物詩…と言えばやはり花火だろう。
と言っても打ち上げ花火なんぞは無理があるし、無難に手持ち花火だろうが。
「それは、お前が発案して全員に聞いて回ってるのか?」
『おう、あとは更式さん達とセシリアなんだけど…』
「内容は把握した。こちらで聞いてみる」
『分かった。んじゃ、寮の前に八時な』
「承知した」
一夏との通信を切り上げ、セシリアを見上げる。
セシリアはキョトンとした顔で此方を見てくる。
「それで、一体何の用だったのです?」
「皆で花火をしようと言う話だ。セシリアは参加するか?」
「えぇ、日本の花火と言うのも気になりますし、参加しますわ」
セシリアは参加…と。
すぐさま、更識姉妹にコアネットワークで連絡を入れる。
「楯無、簪…二人とも今日は何時頃に学園に着く予定だ?」
『夕方にはそっちに着くと思うわ』
『狼牙、何かあったの?』
「一夏から花火をやらないかとお誘いがな。二人はどうする?」
『『参加する!』』
「承知した。では寮の前に八時に集合だ。そうそう、会長…書類はこちらで粗方片付けておいたからな」
『んふふ〜、褒めてつかわす。それじゃまた後でね』
『狼牙、あんまりお姉ちゃん甘やかせちゃダメだからね?』
通信を終える間際に、簪に釘を刺されて何とも言えない顔になる。
誰か…あいつのサボり癖を直してくれ…。
「どうやら、全員参加の様ですわね」
「まぁ、示し合わせたかの様にラウラも戻ってきているしな」
「もうすぐ二学期が始まりますし…忙しくなりそうですわ」
「まったくだ…」
立ち上がりセシリアに近づけば優しく頭を撫でる。
セシリアは気持ち良さそうに目を閉じ、こちらの衣服をきゅっと掴んでくる。
「さて、今日は生徒会の仕事はこれで切り上げる。お茶でもどうだ?」
「えぇ、喜んで…では、参りましょうか」
二人で生徒会室の後片付けを済ませて、寮の食堂へと向かう。
人目を憚らず、セシリアを腕に抱きつかせて歩くのも既に慣れてしまったな。
案外早く慣れるものだとしみじみと思うのだった。
夜になり学園を月が照らす頃、皆で学園に併設されている港まで移動し花火を楽しんでいる。
皆浴衣と言うこともなく、ラフな格好だ。
俺は言うまでもなく作務衣に下駄を履いている状態な訳だが。
「父様、これはなんだ!?」
「あぁ、蛇花火か…」
「蛇花火?」
「海外じゃあんまり知られてないんじゃない?」
ラウラが嬉々とした表情で蛇花火を差し出して聞いてくると、セシリアとシャルロットは首を傾げつつ此方を見てくる。
「まぁ、百聞は一見にしかず…期待するだけ期待すると良い」
「そんなにすごいのか?」
「…まぁな」
ラウラ、セシリア、シャルロットはどこか目を輝かせて俺が置いた蛇花火を見つめている。
どんな物か知っているメンバーは、そんなラウラ達を見て肩を震わせて笑いを堪えている。
すごい微妙な代物だからな…。
一夏から点火用のライターを借りて花火に火を点けると、もくもくと煙が上がってゆっくりと蛇がうねる様に灰が伸びていく。
その様を見るラウラ達は次第に顔を曇らせていく。
「うわぁ…」
「これは…」
「なんと言えばいいんだ…父様…」
「私的な意見として、世界一ガッカリできる花火だと思うんだが」
ラウラは蛇花火の燃え滓を何処かで拾ってきた木の棒でつついて、やはり微妙な顔をしている。
シャルロットとセシリアも同様だ。
…これが好きと言う奴がいるらしいんだが…誰か魅力を教えてもらえんだろうか?
皆ラウラ達の反応を見て笑い声をあげてる。
「ほんと、なんでこんなもの作ったんでしょうね?」
「あぁ、まったくだ。まだ爆竹の方が楽しめるな」
鈴と箒はクスクスと笑いながら頷いている。
知らんうちに多少仲良くなっているようだ…のほほん効果だろうか?
いや、もしかしたら一夏に想いが上手く届かないシンパシーで仲良くなったのかもしれん。
「いや、俺は結構好きだけどな…千個とか用意して一斉に燃やしたら面白そうじゃないか?」
「一夏…昔、テレビの企画何かでやってたぞ」
「マジかよ、狼牙?」
「あ、それ私見たことあるわよ?」
どうやら、一夏は蛇花火愛好家だったようだ…。
確か、一斉に燃やしたら二メートル近くまで大きくなったのだったか…?
楯無が携帯端末で動画サイトから当時の映像を見せてくる。
うむ…微妙だな…。
「なんか、一夏が言ってる事分かってきたかも…」
「シャル、蛇花火は面白いんだって。理屈じゃないんだよ」
「い、一夏…私はどうかと思うんだが」
「あたしも…やっぱ、花火って言ったらこれでしょ?」
そう言って鈴は手持ち花火に火を点けて楽しみ始める。
シャルロットも蛇花火愛好家になってしまったか…。
「私は線香花火が好きかな…」
「あれは風情があって良いものだ」
簪の言葉に同意しつつも、まずは手持ち花火を消化してしまおうと全員に配っていく。
線香花火は、やはり最後にやるのが一番良いだろう。
花火はどれもが儚く美しいが、線香花火はその中でも随一の儚さがあると思う。
「夏休みももうすぐ終わりだなぁ…」
「また目まぐるしいくらい忙しくなるぞ…」
一夏の一言に俺は深く溜息を吐く。
後で楯無とも学園祭のことで相談しておかないとな…。
そんな俺の様子を見て鈴が足にローキックを仕掛けてくる。
「なっさけない顔してんじゃないわよ。狼牙一人で抱え込んでるんじゃなくて、皆でその忙しいの分担すればいいじゃない」
「まぁ、そうなんだがな」
「えぇ、鈴さんの言う通りですわ。皆、狼牙さんに協力してくれますわ」
「銀、その、出来る事があれば手伝うからな」
なんとも、言えんな…。
一人でどうこうしなくて良いと言うのは、なんとも気持ちが楽になる。
俺は次第に肩を震わせ大声で笑い始める。
「ハハハハハ、いや、まったく…俺という男は何とも情けないものだな」
「ろ、狼牙?」
「俺の周囲にこんなに人が居ると言うのに、意固地になってばかりだからな…いや、すまんな…ありがとう」
「父様には助けてもらってばかりだからな、父様がピンチなら助けるのは当たり前なんだ」
あぁ、まったく幸せすぎて不安も何も吹き飛びそうだ。
頼れる友がいる。
共に歩く娘がいる。
そして…愛する女達がいる。
こんなに恵まれていて不安に思う方が間違っているな。
「狼牙もそうやって笑うんだな」
「失敬な、俺とて笑う時は笑う」
「いや、そんな腹を抱えて笑うところなんて見たことなかったからさ」
なんだか、笑ったら色々と吹っ切れた気がするな。
今なら星だって砕けるかもしれん。
皆で線香花火を楽しんだ後に、片付けを引き受け一人港に残る。
空に輝く星を手に取るようにゆっくりと腕を伸ばしていく。
[ロボ…貴方は今、幸せ?]
「今が幸せでないとするのならば、何を幸せなのだと言うのだ?」
白は…あの蛇に俺を幸せな世界に転生するように願った。
亡霊となった身でただ只管にそれを願った。
きっとそれは、今叶えられている。
「白、お前も俺に関しては気を回しすぎだ…以前の世界でも俺は幸せと言える人生を歩んでいる」
[…私は、貴方に幸せになってもらうことで貴方に対する罪滅ぼしがしたかった]
「馬鹿め…女の意地悪は男の甲斐性と昔から相場が決まっている。俺が心残りだったのは、お前を救えなかったその一点のみだ」
白蝶…否、キラは俺を愛すると同時に利用もしていた。
圧倒的な武力…万の大軍すら噛み砕く俺一人の武力を利用して、復讐を果たそうとした。
結果は…どうにもならないものだったのだが。
利用されていようとされていまいと俺には関係がない。
ただ、愛した女性に幸せであって欲しいと思うのは、男だったら当然のように思うことだろう。
「白にしては珍しく感傷に浸っているな。気にするな、とは言わんがもう終わった物語だ。俺は銀 狼牙で、お前はISコア。俺とお前は唯一無二の相棒という間柄になったのだ…これからも頼むぞ」
[えぇ…そうね。それでも言うわ…私は貴方に幸せになって欲しいと]
白は昔から変なところで頑固だ。
逆に変わっていない事が知れて少しだけ嬉しくなってしまうが。
星空が地上を照らす中、白と他愛ない話をしながら寮へと戻るのだった。
さて…終わりはまだまだ先ですが…それでも終わりに向けて話を進めねば
正直、いつまでも狼牙さんのお話を書いていたいんですがね!