【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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一家と狼

更識家二日目。

十六代目と晩酌を楽しんだ後、寝泊まりすることになっている離れにて夜遅くまで更識姉妹と組体操を楽しんだ後に就寝…と言うか仮眠をとった後に日課の鍛錬を行う。

おあつらえ向きに道場があるので、こっそりと借りることにする。

じっくりと全身の筋肉に負荷をかけていく。

日の出と共に道場内に日が差し込み、じっくりと気温が上がっていく。

汗が滝のように流れ、足元に水溜りのように溜まるほど時間を掛けた辺りで楯無がやってくる。

 

「おはよう、狼牙君…精が出るわね〜」

「おはよう、刀奈…日々是精進とな。疎かにするつもりはないさ」

「それにしたっていじめ過ぎよ。汗が凄いじゃない」

 

そう言うと楯無はこちらへと歩み寄り、タオルで汗を拭っていく。

俺は拳舞を止めて、軽く肩をすくめる。

 

「おいおい…子供ではないんだがな?」

「甲斐甲斐しい妻と見て欲しいわね」

「なるほど…そういう見方もあるか」

 

クスリと笑い、楯無からタオルを受け取ると全身の汗を拭っていく。

道場の時計を見ると既に八時を針が差している。

本当にいじめすぎたな…環境が変わってはしゃぎ過ぎたのかもしれん。

楯無がぼぅっとした顔をして此方を見上げてくるので、軽くキスをしてやる。

 

「んっ…もう…」

「違ったか?」

「違わないわよ…」

 

楯無は顔を赤らめて笑みを浮かべている。

こう言った顔を俺だけに…と思うのは些か迷惑な感情だろうか。

と、簪が小走りに遅れてやってくる。

 

「おはよう、狼牙。凄い匂い…お風呂準備してあるよ」

「おはよう、簪。すまんな、準備してもらって」

「お母さんがしてくれてたんだけどね…道場で張り切ってるのを見てたって」

「見られていたのか…」

 

いや、何とも恥ずかしい…下はズボンを履いているものの、上半身は裸だったからな。

好いた女の母親に見られたともあれば尚更だ。

眉間を揉みながらウンウン唸っていると、俺目掛けて風呂桶が投げられる。

素早く反応して風呂桶をキャッチすると、道場の入り口に十六代目が青筋立てて立っている。

 

「イチャついてないでとっとと風呂に入ってこい、小僧」

「承知した十六代目」

「まったく…こんな男の何処が良いんだか…」

「お父様」

「お父さん」

 

十六代目がボヤいた瞬間、楯無と簪が両腕をがっちりと掴んで道場へと引きずり込む。

馬鹿な…千冬さん並みの踏み込み速度だと?

俺が目を白黒させていると、楯無と簪は凄くいい笑顔で実の父親を見上げる。

 

「なっ!何をする!!」

「いえいえちょーっと、手合わせをね?」

「お父さん、じっくりと話し合おう?」

 

俺はただただ無言で胸元で十字を切り、道場を後にする。

教訓としては…そうだな…口は災いの元…と言ったところか。

道場からドッタンバッタンとすさまじい音が聞こえてくるが努めて無視を決め込み、風呂場へと向かう。

更識家の風呂は相当に広い…総檜造りの浴室は、木の香りが何とも爽やかな気持ちにしてくれる。

沙耶さんの手際が良すぎるのか、脱衣所に俺の着替えが置いてあった…。

…十六代目と沙耶さんの間に生まれたのに、何で楯無はあんな性格をしているのやらな。

ボンヤリとくだらない事を考えつつも風呂場へと入り汗を流せば、湯船へと浸かる。

鍛錬で虐め抜いた肉体が温められ解されていくようだ。

一息つくと、扉越しに沙耶さんから声をかけられる。

 

「湯加減は如何ですか?」

「丁度いい…何から何まで世話になって申し訳ない」

「いえいえ、あの人の相手をしてもらっていますし…」

「目の敵にされてる気もするが…仕方ない事だな」

 

十六代目の反応を見るに、アレは親バカの類だ。

完全に楯無と簪を溺愛している。

そこに俺の影だ…しかも見た目が少々可笑しい上に三股…うむ、擁護できる材料が見当たらんな。

 

「フフ、私は狼牙君を応援していますよ?」

「貴女は十六代目側ではないのか…?」

「自身の立つべき場所は自身で用意できる…狼牙君の言う通りなら、娘達の立つべき場所は娘達が決めるべきです。私達は見守っていれば良いと思いますわ」

「ぐ…聞かれていたのか…若輩の言葉だと思って聞き流してもらえると助かるのだが」

 

俺は顔を真っ赤にして頭を抱える。

まさか、あの場に沙耶さんまで居たとはな…ドヤ顔で言い切ったものだから恥ずかしい気分だ。

 

「しゃんとしてください、男の子なのですから。兎に角、私は狼牙君側と言う事で…あ、そうそう…孫の顔が早く見れそうで安心してます」

「……!?!?」

 

俺は最後の一言に動揺を隠し切れず湯船の中に沈む。

…沙耶さんには逆らえん気がしてならない。

沙耶さんはクスクスと笑いながら脱衣所を後にする。

…この親にしてこの娘アリ、か…。

 

 

 

昼も過ぎ、やることも無いので頭に三角巾を被り直し作務衣姿で庭掃除をする。

働かぬもの食うべからず。

タダ飯食らいは何とも落ち着かないので、庭掃除をしていたのほほんに頼んで交代してもらった。

無心になって庭掃除をする。

蝉の大合唱が非常に耳障りに感じる。

子孫繁栄の為とはいえ、もう少し静かにしてもらえんものだろうか?

と愚痴ったところで仕方がなく、気を取り直して箒を握り直す。

ゴミをまとめて袋に入れて口を縛る。

これでチャラとは言えんが、貢献はできただろう。

 

「ふむ…」

 

ふと、手に持つ箒を見る。

こう、細長いものを持つと振り回したくなるのが子供心…。

以前の世界では基本的に武器を用いての戦闘は行わなかったが、とある少女を師事した時に槍を扱ったことがあった。

 

「なんだか懐かしいな…」

 

クスリと笑い、箒を槍のように構え適当に振るう。

風切り音が庭に響き渡る。

お遊びも此処まで、と気持ちを切り替え箒を肩に担ぐと簪が長い棒を二本持って小走りに駆けてくる。

どうやら、箒を振り回していたのを見られていたらしい…。

 

「狼牙、手合わせ…」

「素人だが、良いのか?」

「箒であんな音出しておいて…それに、私もお姉ちゃんみたいに狼牙と戦ってみたい」

 

簪があまりにも真剣な眼差しで此方を見上げてくるものだから、俺は箒を庭の木に立て掛けて簪から棒を受け取る。

長さにして二メートル程か。

手に馴染ませるように弄び、槍に見立てた棒を構える。

簪も同じように構えるが…あの構えだと槍、と言うより薙刀に近いか。

 

「手加減せんぞ?」

「そうじゃないと、困る。私は強くなりたいから」

「いい心構えだ…我流だからあまり期待してくれるなよ?」

 

互いに構えたまま一歩も動かない。

蝉の鳴き声に混ざって、水が流れる音が何処か涼しげに響いている。

前日の道場の時と同じように、鹿威しの音を合図に踏み込む。

 

「シィッ!」

「ヤァァッ!!」

 

踏み込むと同時に、俺は荒々しい獣の様に連続で突きを放っていく。

簪はそれらを受け流し、あるいは棒をなぎ払うようにしていなし続ける。

武道の『なぎなた』ではなく、古武術における『薙刀術』だな。

ただ、更識家流にアレンジしてあるのか…それとも源流なのかは分からんが、防衛術と言うよりも攻めの一手を重視している様にも見えるが。

 

「タァァッ!!」

「侮ったつもりはないが…!」

 

中々どうして…簪は強いな。

お家柄というのもあるだろうが、動きの一つ一つが洗練されていて無駄が無い。

突き、薙ぎ、払う…変幻自在に攻め立てられて俺はついつい楽しくなってしまう。

…決してマゾヒストとかそう言うのではない。

俺は一段ギアを上げ、槍と言うよりも棒術の様に手に持った棒を振り回す。

夏の日差しに照らされる庭に乾いた木の音と声がこだまする。

俺は一足跳びに後方へと跳躍して間合いを開けると、生き物の様に棒を扱い構えを変える。

簪は一切の油断なく俺を睨んでくる。

 

「すごい、やりにくい…」

「戦いとは常に嫌がらせだ…相手の嫌だと思う事を常に突き続ければ勝てる」

「まるで悪役…」

「なんとでも言え」

 

互いにニヤリと笑みを浮かべると、再び踏み込みから棒術と薙刀術の応酬になる。

あくまで武器による手合わせのため手癖足癖の悪い俺にはやや窮屈に感じてしまう。

だが、それでも矜持はあるし少なくとも守りたい女よりは強いところを見せねばなるまいよ。

簪の薙ぎ払いに合わせて棒高跳びの要領で高く跳躍して簪の背後に降り立ち、背中を向けたまま後頭部に棒を突きつける。

 

「さて、俺の勝ちでよろしいかなお嬢さん?」

「まるで曲芸師だね…」

「我流だと言っただろう?しかし、やはり性に合わんな…拳を振り回す方が向いている」

 

簪の頭を優しく撫で微笑むと拍手が送られる。

音のする方へと目を向けると楯無が立っていた。

 

「相変わらず強いわね〜」

「仕事をサボってきたのか?」

「そんなの、狼牙君が居るんだし昨日の内に終わらせたわよ」

「お姉ちゃん、帰ってきてからずっと引きこもってたよね」

 

簪が俺の背中にしがみつきつつ、ニヤニヤとした笑みを浮かべて楯無を見つめる。

俺のために、か…なんともむず痒い。

が、嬉しいものだ。

 

「無理はするなと言っているだろうに…倒れてくれるなよ?」

「「狼牙(君)には言われたくない」」

「…ごめんなさい」

 

姉妹は綺麗に声をハモらせて、俺を恨みがましく見つめてくる。

姉妹のステレオ音声に思わずがっくりと項垂れ深く溜息をつく。

なんせ前科持ちだ…言われても仕方がないが俺とて心配すると言うもの。

学園の公務に暗部の仕事…仕事の性質上世界を股にかけてと言ったところだろう。

責任の重圧を感じさせないから不安にもなる。

楯無も悟られたくはないのだろうが、俺としてはそう言った負担を和らげてやりたいとも思っている。

仕事を終わらせている、か…ならば遊びに連れ出すのも悪くはないだろう。

 

「さて、引きこもってばかりも居られんし…周辺を案内してもらえるか?」

「デート?」

「両手に華でな」

 

簪の問いに素直に頷いて答えれば、姉妹揃って綺麗な笑みを浮かべる。

 

「お、お風呂入ってくる!」

「簪ちゃん、私も行くわ」

「出たら教えてくれ…俺も汗を流したい」

「一緒で良いじゃない?」

「最近歯止めがきかんのだ…勘弁してくれ」

 

どうにも最近飢えた獣のように愛を求めている気がする…自重せねば。

それに恨みがましい視線も感じることだし。

ちら、と見ると縁側でブスーッとしかめ面した十六代目がお茶を飲んでいる。

…やはり、歳を食っても男はいつまで経っても子供のままらしい…いい見本だな。

…仮に子供ができたら、俺もああなってしまうのだろうか?

 

「どうしたの、狼牙?」

「そんな落ち込んだ顔をしないの…私達は別に構わないんだし」

「大切に思っているからこそ、だ。ほら、デートの時間が無くなるぞ」

 

俺は追い払うように手を払い、更識姉妹を風呂へ向かわせる。

姉妹が行ったのを見計らって十六代目の元へと向かう。

 

「あまりそんな顔で見られると困るのだが…」

「フン…小僧に俺の気持ちが分かるものか…」

「どっちが小僧か分からんぞ、十六代目よ…」

 

あんまりにも子供っぽくなってしまっていて、俺は思わず苦笑してしまう。

今朝姉妹にボコボコにされていたが、怪我らしい怪我は無いようだ。

 

「沙耶も沙耶でこんな小僧を気に入りおって…男だったら一人に決めんか」

「欲張りなものでな…イイ女と言うのは皆欲しくなる」

「ケッ…!」

 

どうにもこの男…俺をこの世界に転送させた、あの蛇と雰囲気がそっくりである。

ソリが合うのだか合わないのだか…白を寝取った間男だと煩かったものだ。

何と無く懐かしい思い出に浸っていると、沙耶さんがこちらへとやってくる。

 

「まだ張り合っているのですか?良い加減、あの娘達の言う通りにさせてあげたら良いじゃないですか」

「沙耶、此奴の何処が良いと言うのだ?」

「だって、昔の貴方そっくりじゃないですか。そんな人をどうして嫌いになれましょう?」

「俺とこいつが…?勘弁しろよ、俺はこんな女たらしじゃない」

 

沙耶さんの一言に十六代目は凄く嫌そうな顔をする。

あぁ、あれか…同族嫌悪もあるのかもしれんな。

俺は二人のやり取りを見てクスリと笑う。

 

「仲が良いことだ…夫婦の団欒を邪魔するわけにはいかんな」

「ありがとうございます」

「おい、娘達に手を出したら承知しないからな!?」

 

すまない、十六代目…手遅れだ。

俺は適当に頷き、逃げるようにして道具を片付けに向かうのだった。




うーむ…スランプ気味でござるな…

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