【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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放課後狂騒曲

「うむ、今日の分は何とか理解できそうだ」

「うぅ…なんでややこしいんだ…先生のお陰で何とかなりそうだけどさ…」

「あ、あはは…でも織斑君も銀君も理解力高いですから、この分なら直ぐに追いつけますよ!」

 

本日の授業終了後、夕日に紅く染められる教室で俺たちは山田先生の特別授業と小テストを受けていた。

授業中よりも要点を詳しく纏めてくれているので更に分かりやすい。

一夏も頭から煙が出ているが、喰らいつこうと必死になっている。

この分なら日中の授業も今日の様な失態を犯すことも無かろう。

 

「先生にそう言ってもらえるなら、本当に何とかなる気がしてきた…」

「楽観はできんがな…」

 

俺は軽く肩を竦めつつ頷く。

漸く、第一歩と言った所なのだ…先はまだ長いし、勉学だけでは無く俺たちにはセシリアとの決闘がある。

やれる事をやらねばならん。

 

「ところで、山田先生。訓練用のISは貸し出して貰えるのだろうか?」

「そのことなのですが…」

 

どうにも歯切れが悪い…乗れないなら乗れないで、試験の時の感覚を頼りに知識を得るしかない。

乗れるなら御の字、と言うだけなのだ。

 

「ごめんなさい、この時期は中旬まで実践訓練がありませんから訓練用ISは全て整備と調整を行っていて貸し出すことができないんです」

「ま、マジかよ…不安になってきたな……」

「駄々を捏ねられんだろう…今の俺たちに出来ることは肉体の鍛錬と知識の吸収だ。知る知らんでも、やれることに大きな差が出るだろうさ」

 

束さん曰く、ISはパワードスーツみたいな物だから適性の差はあれど、基本的には自分の体を動かすのと大差は無いらしい。

其処に空を飛ぶ原理だのなんだのと言っていたが…まぁ、なんだ…あの時の俺に専門用語連発されても困ると言うものだ。

 

「それと、お二人の寮の部屋に関してなのですが…政府からの要望で一ヶ月は女子と相部屋という形になるんです」

 

山田先生はペコペコと何度も頭を下げ、申し訳なさそうにする。

政府、からか…大方籠絡する機会を均等に与えるためだろうな…面倒な。

 

「ど、どうしてもですか」

「はい…本当にごめんなさい…それと寮に大浴場がありますが、こちらは使用できません」

 

まぁ、仕方あるまいよ…暫くはシャワーで我慢する他あるまい。

 

「なんで…睨むなよ狼牙!」

「友人が犯罪者になろうと言うのだ…険しくもなる」

「だ、だめですよ!女子と入浴なんて!」

「女子と入りたくありません!」

 

そのセリフを聞いて俺は一夏から距離を僅かに開ける。

勘弁してくれ、俺はノンケなんだ。

 

「お、女の子に興味ないんですか!?…それはそれで……」

 

顔を赤らめつつ妄想の世界に旅立つ山田先生。

俄かに廊下が騒がしくなる。

 

「織斑くん、女子に興味ないのかしら…」

「ククク…私の睨んだ通りね!!」

「織斑君と銀君の交友関係を洗いなさい!徹底的によ!!」

 

まて、俺は本当にノンケなんだ…。

眉間に皺を寄せ、深く溜息をつく…女の花園とは魔界か?

 

「銀、織斑、二人ともまだ居たのか?」

「ち……織斑先生、何か?」

「良い加減慣れろよ、一夏?」

「会議お疲れ様です、織斑先生」

 

教室に入って来た千冬さんに三者三様に頭を下げる。

 

「気にするな、山田君。そちらもご苦労」

 

フッと笑い優しげな顔をする千冬さんに山田先生は頬を染める。

一夏はそんな姉の顔を見て何処か羨ましそうだ…シスコンが…此奴に恋する女子共が憐れでならん。

 

「銀、久々に付き合え」

「構わんのだがな…千冬さん相手では俺は物足りんのではないか?」

 

この会話が不味かったのか再び廊下が騒がしくなる。

 

「キャーー!!禁断の関係よ!!」

「千冬様×銀君…逆もありね!!」

「滾ってくるわぁ!!」

 

ノンケだがな、そう言うのは知らん所でやってもらえんだろうか…事実を知っている一夏でさえ機嫌が悪くなるのが分かる。

無論俺がどうこうではない。

此奴シスコンだからな。

 

「物足りない相手を誘うわけないだろう。ストレス発散に付き合え」

「承知…」

 

腕を組み千冬さんを見上げればプレッシャーをぶつけられたのでぶつけ返す。

当てられたのか一夏も山田先生もオロオロしてしまう。

 

「ただの組手だろう…一夏は知ってるではないか」

「いや、でもさ…いつも思うんだが、群れのボスの座を賭けた狼の決闘みたいで…」

「誰が狼か」

 

一夏の言葉に痛くない程度に出席簿で叩く千冬さん。

 

「すまんが、山田君には書類の整理を頼みたい」

「わ、わかりました!」

 

声にハッとした山田先生はそそくさと教室を出て行く。

 

「では、行くぞ」

 

千冬さんに続き、荷物を持って俺たちは教室を出て行く。

 

 

 

 

「前から聞こう聞こうと思ってたんだけどさ?」

「なんだ?」

 

暫く廊下を歩いていると、突然一夏が口を開いた。

 

「狼牙って、文系の趣味をしている割りに鍛えているし、喧嘩もやたらと強いじゃないか…なんでそんなに強くなれるんだ?」

 

ふむ…強いか。

武力で強い、と言う事が強さの全てではない。

 

「一夏、俺は強くない。鍛えているのは臆病だからだ…俺はな今のままでは何処まで行っても弱い人間だ」

「臆病なものかよ…いつも落ち着き払ってるじゃないか」

「ただのポーズだ」

 

軽く肩を竦める。

どうやら、武道場に着いたようだ

話は終わりだと、制服の上着を一夏に預け中へ入る。

女子のネットワークと言うのは恐ろしいもので、上級生含め武道場は観客で溢れていた。

 

「狼牙、ルールはいつも通り参ったと降参するまでだ」

「千冬さんの期待に応えられるように努力しよう」

 

女子がここまで居ると上半身裸になる訳にも行かんな…見た方は気分の良くなるものでは無い。

俺の体には今も色濃く幼少の頃の事故の傷跡が残っている。

今の医療なら消せるのだろうが、そのままにしてある。

失ってしまった事を忘れない為だ…忘れてしまう事は悲しい事だからな。

ゆっくりと体をストレッチし暖めていく。

千冬さんは片手で木刀を握り此方を見ている。

 

「一夏、号令を頼む」

「おう、任せろ」

 

ゆっくりと拳を解し体全体の力を僅かに緩める。

戦闘に対する昂揚感を抑えつつ意識を研ぎ澄まし、神経を闘う時のそれへと変えていく。

一方千冬さんも木刀を両手で構える。

本気で来てくれるようだ…何処まで抗えるか…挑ませてもらう

 

「始め!!」

 

一夏が掲げた手を振り下ろすと同時に、一瞬で距離を踏み潰してきた千冬さんが横薙ぎで胴目掛けて木刀を振るう。

速い、等と言う言葉すら生温い。ISを着けていなくてコレだ…ブリュンヒルデは伊達ではない。

だが……

 

「シィッ…」

 

同じ土台であれば止められる。

タイミングを合わせ俺は、肘と膝で木刀の腹を思い切り挟み込み動きを止める。

一瞬の硬直の後、俺が木刀を離した隙に千冬さんは距離を開けようと後方に跳躍する。

だが、開けさせてなるものか。

相手は木刀。

俺は無手。

だが間合いを詰めきったとき、木刀による脅威は限りなく少なくなる。

退避を読んで同時に千冬さんに向かって跳躍。

 

「ガキが!!」

 

忌々しげに睨み付けてくる千冬さんに向かって手刀を喉元むけて突き放つが、千冬さんは木刀を使い受け止めることはせずに流すことで狙いから逸らし、紙一重で避けた所を体のバネを使って回し蹴りを俺の脇腹に叩き込み、強制的に距離を開けさせる。

本当に人間か?

痛みに呻くことはせず、だが肺から空気が絞り出される様な感覚と共に受身を取り体制を立て直すと濃密な殺気が迫る。

 

「ハァァァッ!!」

 

千冬さんにダンっと床板を踏み抜かんばかりの音を立てながら再び距離を踏み潰し、袈裟斬りに木刀を叩き込まれるが…ただで命はくれてやらん!

 

「おおぉぉぉぉっ!!!」

 

裂帛の気合いと共にカウンターの様に拳を木刀に向かい、かち上げるように叩き込む。

 

「とった!!」

「鉄拳めが!!」

 

拳と木刀がかち合った瞬間木刀が砕ける。

だが織り込み済みだったのか砕ける瞬間に木刀を手放した千冬さんは、突き出す形になった俺の腕を絡め取り一本背負いの要領で俺を床に叩きつけ、鳩尾を足で踏み抜く。

 

「グァッ!!」

「惜しかったな狼牙?」

 

いい笑顔で見下ろす千冬さん。

位置的にみえる…黒か……。

 

後は煮るなり焼くなりだ…鳩尾に走る衝撃にむせながら降参の意思表示代わりに床を叩く。

武道場は静まり返っていた。

これが真剣であれば俺は右腕を切り裂かれていただろうし、完全に殺し合いの様相だったからな…無理もない。

だが、いち早く声を上げたのは意外にもクラスメイトの女子達だった。

 

「銀君すごい!なんであんな動きができるの!?」

「千冬様の動きについていけるなんて…」

「これはセシリアとの決闘も、良いところ行くんじゃない?」

「無茶を言ってくれるな…IS素人だぞ…」

 

埃を払いながら立ち上がり苦笑する。

盛り上がっているのか俺の声は聞こえていない様子だ。

 

「お疲れ千冬姉、狼牙」

 

一夏が小走りに駆け寄り笑顔を浮かべる。

お前の姉上は確実に人間を止めているぞ…等と考えていると再び鳩尾に衝撃が走る。

 

「ぐぅお……」

「筋肉ダルマめ…良からぬことを考えていたな?」

 

何故わかった…凄まじい痛みに腹を抑え蹲りながら、呼吸を整える。

 

「よし、一夏…お前もシゴいてやる」

 

気分が良いのか千冬さんはイイ笑顔で一夏に木刀を投げ渡す。

 

「ちょ、ま……!!」

「貴様もオルコットとやり合うんだ、必死に粘れ」

 

俺が退避したのを見計らって始まる第二ラウンド…俺は一夏に合掌しつつ、そそくさと武道場を退散して行った。

 

 

 

 

「やれやれ…反応が鈍いのは如何ともしがたいか…」

 

思わず呟きながら、ベンチに腰掛け水平線に沈む夕日を眺める。

前世と違い、今はただの人間…出来ることが違う。

以前なら瞬時に制圧出来たのだろうが、今では受け止めるのでやっと。

知識や経験があっても身体が追いつかない…何とももどかしいものだ。

さて…お話の時間だな。

 

「教室に居る時から見ていたのだろう?そろそろ出てこい」

 

巧みに隠されていた気配ではあるが、まだ若い…だが現代社会において、こんな気配を消せる奴がいるのだろうか?

腕を組み、暫く目を閉じ待っていると足音が響き隣に誰かが座る。

 

「最初から分かってるなんて…おねーさん驚きよ?」

「時折あからさまだったからな…注意深く探れば直ぐに分かる」

 

隣に腰掛けてきたのは少々癖っ毛ではあるものの短く切られた髪の毛は美しく、プロポーション等そこらのグラビアアイドルでは太刀打ちできんだろう。

制服のリボンの色を見る限り上級生の様だ。

最初に受ける印象は猫のように思える。

表情は余裕の表れなのか笑みを浮かべ、パンッと扇子を広げると達筆で『お美事』と書かれていた。

 

「カタギじゃ分からないと思ってたんだけどなー」

「生憎、カタギでは無いらしいな」

 

立ち上がれば近くの自販機でコーヒーを二つ購入。

その様子を眺めていた上級生へとミルクコーヒーを投げ渡す。

俺はブラック派なのでな。

 

「あら、気が利くわね。おねーさん嬉しいわ♪」

「一人で飲むのも気が引けると言うだけだ」

 

隣に座り直し、プルタブを開ける。

 

「それで、何か聞きたいのだろう?」

 

まぁ、大方分かっているが…切り出し易くしてやるのも良いだろう。

 

「別に、おねーさんは貴方の事が気になっただけよ…歩き方も、さっきの闘い方も普通の人では無いもの」

「鍛えていれば、そうなるものだろう?」

「それはないわね…一撃必殺を狙い、木刀とは言え躊躇無く拳を武器に叩き込もうなんてする人…中々いないわよ?」

 

まぁ、確かに…だが、あの闘い方は前世からのものだ。愛着もあるし変える気もさらさらない。

 

「あぁ言う無謀なやり口が一番性にあっている…そうそう変える気も無い」

「あら怖い。おねーさん、貴方とはやりあいたくないわね」

 

良く言う…この手合いはかなりデキる。

 

「そうそう、自己紹介まだだったわね」

 

ぽん、と手を叩き笑みを浮かべる上級生。

 

更識 楯無(さらしき たてなし)よ。この学園の生徒会長をしているの」

 

そう言うと楯無は、閉じていた扇子を再び勢いよく開く。

今度は『学園最強』の四文字。

何時の間に扇子を変えた…?

 

「生徒会長か…では会長と呼ぶべきか?」

「たっちゃんって呼んでくれても良いのよ?」

 

楯無は下から覗き込みように此方を見上げてくる。

随分とフレンドリーだな…経験上ウラがあるのだろうが…流れに身を任せるしかあるまいよ。

 

「初対面で、そうそうフレンドリーには呼べんよ…更識と呼ばせてもらう」

「狼牙君ってばお堅いわねー」

 

扇子を閉じ、開くと今度は『残念』と書かれていた。

地味に欲しくなるな…これは。

 

「ま、いいわ今は挨拶程度だしね。また後でねー」

 

楯無は飲み干したコーヒーの空き缶をゴミ箱にベンチから投げ込むと、すくっと立ち上がり手を振って走り去っていった。

 

「また後で、か…ルームメイトは奴か…」

 

楯無の背中を見送り軽く溜息をつく。

気付けば空には星が輝き始めていた。

 

 

 

所変わって学生寮。

食堂で夕食を終えた俺は

気持ち足取りが重いまま、自身の部屋へと向かっていた。

俺の部屋番号は1030号室。

待ち構えるは学園最強。

おそらく生粋のイタズラ好き…何処となくかつて…いや、止めよう…。

 

「え、男子はこの寮なの!?」

「うっそ、こんな格好じゃいられない!」

 

女子も男子と同じで、やはり異性の目が無いと多少だらしなくなるもの…タンクトップにスパッツだったりネグリジェだったり着ぐるみ…着ぐるみ?

んん?と怪訝な顔をすればダボダボの袖を振り回しながら狐の着ぐるみを着た女子がトテトテと駆け寄って来る。

 

「おー、ローローだぁ。同じ寮なのー?」

「本音か…まぁ、そうなる」

 

布仏 本音(のほとけ ほんね)は同じクラスのマイナスイオン発生器である。

間延びした喋り方に、おっとりとした顔付き。女子の間でもマスコットとしての地位を築いている。

 

「こっちでもよろしくね〜」

「うむ、よろしく頼む」

 

ポンポンと頭を撫で微笑む。

 

「良いなぁ、のほほんさんはもう仲良いんだ?」

「と言うか、親子みたいな空気よアレ」

「兄妹…いや、姉弟?」

「なにそれー」

 

きゃっきゃと女子達が姦しくしていると前方のドアから一夏が飛び出してきて慌ててドアを閉める。

 

「一夏君も!?我が世の春がキタぁーーー!!」

「一夏君は1025号室。良い情報ゲットー」

 

どう考えてもそんな呑気にしている空気では無いのだがな…。

 

「ま!まて!箒!!落ち着け!!!」

 

どうやら一夏のルームメイトは箒の様だ。

様子を見守っていると突如ドアから木刀が突き出してくる。

 

「ばっ!!当たってたら死ぬぞ!!!」

 

涙目で扉から離れガタガタと震える一夏。

やれやれ…友人に助け舟をくれてやるとしよう。

 

「一夏、俺が話を聞いてやるから1030号室へ行け」

「ろ、狼牙…俺…俺ェ!!」

 

泣きながら腰に抱き着くな…気色悪いし、周囲に養分を与えるな。

俺は溜息をつきながら一夏の頭を掴みアイアンクローの要領で持ち上げる。

 

「部屋に行け、いいな?」

「イィッ!イエッサー!!」

 

スタコラサッサという感じで逃げ出した一夏を見送り、俺は1025号室の扉をノックする。

 

「篠ノ之、同じクラスの銀だ。入っても良いか?」

 

待つ事数分。俺の部屋がある方向から何処かで聞いた声の悲鳴が上がるが努めて無視をする。

 

「……鍵は開いている」

「お邪魔する…」

 

部屋の惨状は…一言で言えばボロ屋敷同然の状態だ。

どう考えても木刀で付かん傷痕が部屋の彼方此方にあるのだが…。

箒はベッドの隅でメソメソと泣いていた。

 

「凄まじい惨状だな…何があったんだ?」

「……見られたんだ」

 

一夏よ…お前は一体何時になったら、エロゲ体質が抜けるんだ…

思えば出会った時から、片鱗を見せ付けられたが…入学式の時の忠告も忘れているようだしな…。

 

「一夏はどうにも厄介な『難病』持ちでな…加えて篠ノ之に失礼な物言いもしたのだろう?」

 

箒は落ち込んでいるのか微動だにしない。

乙女と言うのは繊細なもので…ましてや恋心を抱いているのならば飴細工の様に脆いものだ。

しかし、注意せねばならん所はある。

 

「だがな、そんな事は今は良い…篠ノ之、お前は自分のした事を理解しているのか?」

「…何が言いたい…私は…」

「一夏にも問題はあるがな…殺しかけた事を理解しろ」

 

木刀は当たりどころが悪ければ人が死ぬ。

それが分からん人間でも無かろうに…直情型は制御が効かんからな。

 

「っ…!」

「彼奴にも良く聞かせておく…だが、お前も謝れ。暴力を振るうなとは言わんよ。しかし、武器は使うな…武器を持てば痛みが分からなくなる」

 

拳で殴れば相応に拳も痛む。

慣れの違いはあれど、物を通した感触と直の感触ではまた違う…と俺は思う。

無論異論もあるだろうが。

 

「…すまない」

「それは一夏に言え。俺は別に迷惑を掛けられてはいないからな」

 

箒に近づきポン、と頭を撫でる。

 

「もう大丈夫だな?冷たい物言いになってしまったが、俺はお前を応援してやろう…荊の道だろうがな」

 

いや、過言ではない…奴は唐変木オブ唐変木、朴念仁を超え神となった男だ…異性の好意に対して異様に鈍感なのだ。

精神科にかかる事を強く勧める位には。

 

「んな…!?」

「後、姉上殿とも連絡をとってやれ…アレで触れ合い方が分かっていないからな」

「姉さんは関係ない…」

 

ボソリと呟く声は怨みが篭っている。

だが、そう言った思いも伝えなくては意味を成さん。

 

「心の炉に絆をくべろ…想いは伝えて意味を成す。良い言葉だな」

 

再び頭を撫で部屋を出て行く。

歩み寄らんだろうが思う事はあるだろう…今はそれで良いかもしれん。

束さんから連絡を取るのが一番だろうが。

 

「何とも…青春は難しいものだ」

 

溜息を吐き出し、1030号室の前で正座していた一夏を見つけた。

 

「何をしている?」

「いや、お前のルームメイトの…更識さん?に事情を話したら反省しろと言われて…」

「あぁ、そうだな…とりあえず落ち着いてるし、寮長室に行って扉の破損を報告してから、篠ノ之に土下座してこい」

「お、おう…悪かったな…」

 

一夏は立ち上がれば頭を下げて寮長室へと歩いて行った。

さて…

 

「意地悪も程々にせんとな」

 

そう呟けば、俺は自室の扉をノックした

 

 

余談だが廊下に聞きなれた出席簿の音が響いたが、些細な問題だろう。




ウィッチクラフトワークスの白姫のあのセリフって凄く良いと思うんですよ。

ルビの打ち方を漸く理解したので、過去投稿分も含めてルビを打っておきました。

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