【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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セシリアさん視点の物語。
セシリア一人称ですが、口調が安定してません。
大目に見ていただきたい…orz
それではどうぞ




お嬢様と狼さん

「ようやく戻ってこれましたわ…」

 

わたくし、セシリア・オルコットは空港のロビーにて長旅からの解放に少しばかりの安心と高揚感を覚える。

何せ、およそ一週間ぶりにお慕いしている殿方に会えるのですから!

 

「お嬢様、私どもは先に学園へ荷物を運びに参ります」

「えぇ、よろしくお願いしますわ」

 

わたくしの幼馴染にして専属メイドであるチェルシーが微笑みを浮かべながらいつものように控えていた。

チェルシーは幼馴染というよりもお姉さん…と言った印象が強い。

もちろん年上と言うこともありますが、常に落ち着き払った雰囲気がとても同じ十代とは思えない。

わたくしの憧れで、目標の人物の一人。

静かに頷き、微笑みを浮かべる。

 

「銀様との逢瀬でしたね…外泊許可も取っておきますか?」

 

チェルシーはどこか悪戯っぽい笑みを浮かべて此方を見てくる。

わたくしは思わず顔を真っ赤にして首を横に振ってしまう。

 

「だ、だ、大丈夫です!外泊などしなくとも…」

「僭越ながら、私から一つ忠告を…」

「へ…?」

 

チェルシーは表情を一変させ真面目な顔で此方を見てくる。

思わずわたくしは間抜けな声をあげて首を傾げてしまう。

 

「私が思うに、イギリスで購入された少しばかり派手な下着は逆効果かと…」

「え…え…?」

「お話を聞く限り銀様は気にしないのでしょうが…と、お節介が過ぎましたね。それでは失礼いたします」

 

チェルシーはスカートの裾を摘み、うやうやしく頭を垂れるとスカートを翻してもう一人のメイドと立ち去っていく。

 

「な、なんで知っていますの…?」

 

冷房の効いた空港内だと言うのに、全身から冷や汗が噴き出す。

特に掌が酷く、直ぐに洗いたい気分になってしまう。

少しばかり背伸びして、喜んでほしくてこっそりと購入したセクシーな下着はチェルシー達に知られないように細心の注意を払ってましたのに…。

あわあわと両手で顔を隠し挙動不審にしていると、背後から声をかけられる。

 

「お迎えにあがりました、お嬢様…と言った方が良いか?」

「ろ、狼牙さん…?」

 

声をかけられ、振り返ると其処には黒のスーツに黒のネクタイを締め、髪をオールバックにした狼牙さんが何処と無く気恥ずかしそうにして立っている。

あれは…確か六月頃、クラスメイト達と話していた時の…。

 

「フフ、良くお似合いですわ。でも、いつも通りに呼んでいただきたいですわね」

「そうか…まぁ、気に入ってもらえたのならば良いが。おかえり、セシリア」

 

笑みを浮かべながら狼牙さんに歩み寄り人目を憚らずに抱きつけば、いつものように頭を撫でてくれる。

ほんのりと心が暖かくなるのを感じる…いつまでもこうしていたいのですが、時間は有限。

今日と言う日を楽しみにしていたわたくしは、狼牙さんから離れて腕に抱きつく。

 

「では、エスコートをお願いしますわ」

「承知…と、言っても何処へ向かったものか…」

「何処でも構いませんわ…貴方と居られるのですし」

「何とも気恥ずかしいな…では、昔馴染みの店へと行こうか」

 

そう言うと、わたくしの歩調に合わせて狼牙さんは歩き出す。

彼は変わらずにわたくしを…わたくし達を気遣ってくれる。

時折、重く感じてしまうのではないかと不安にも思ってしまいますが、そう言った好意に甘えてしまう。

ラウラさんが言うように、器が大きい方なのでしょうけども。

 

 

 

タクシーでレゾナンス近くまで移動し、そこから街を散策する。

久々に見る街並みは、故郷でもないのに帰ってきた…と言う思いにしてくれる。

狼牙さんと街を歩き、わたくしのいなかった間の出来事に耳を傾ける。

 

「まさか、アランさんを連れてシャルロットの所に行ったら、強盗に遭遇するとは思わなかった…」

「アランさんと言うのは…シャルロットさんのお父様ですわね」

「あぁ、二学期から整備課の教師として学園で働くことになっている」

「手を回しましたわね?」

「基本的な事は白がやったがな…正直賭けと言えば賭けだった。勝って総取りしてやったがな」

 

白蝶さん…狼牙さんから聞かされた過去において重要な人。

わたくしが受けた印象は、自由奔放でヒラリヒラリと舞う蝶のように自身を明かさないミステリアスな女性…。

お姿を拝見した事はありませんが、きっと美しい方なのでしょう。

彼女のことを話す狼牙さん見ているとモヤモヤとした気分にさせられる。

ライバル視しても仕方ないと言うのに…でも…。

彼が攫ってでも欲した女性…わたくしもそれ程想われていたいと…そう、願ってしまう。

 

「デュノア社の顛末を見て、他の国も企業も積極的に動こうとは思わんだろう…なんせ、下手に手を出したら丸裸にされるからな」

「見せしめ…と言う訳ですか」

「そういう事だ…あのまま野放しにしていては、シャルロットも、アランさんも…そして学園も良い思いはできなかっただろう。いや、理事長の事だから何か策はあったかもしれんが」

 

狼牙さんはゲンナリとした顔で当時を振り返る。

彼は気を回しすぎて、いつも眉間に皺を寄せている…それでも、最近は出会った時よりも幾分穏やかな表情になってくれました。

これがわたくし達のお陰だと言うのならば、嬉しく思う。

そうであって…ほしい…。

狼牙さんに連れられ、路地裏の一件の喫茶店へと足を運ぶ。

中に入ると、モダンな内装の店内に蓄音機から流れるクラシックがノスタルジックな雰囲気を醸し出している。

 

「おや、銀君…今日は彼女連れかな?」

「あぁ、大切な(ヒト)だ」

「お熱いねぇ…羨ましいよ」

「何を言っている…三十路前の男が言う台詞では無かろうに」

 

カウンター席に立っている若い男性は、狼牙さんのお知り合いなのか親しげに会話をしている。

此方を見つめると人の良さそうな笑顔を見せる。

 

「どうも、升田(ますだ)です。確か、セシリア・オルコットさんだったかな?ISの専門誌で見かけたことがあるよ」

「よろしくお願いします…わたくしをご存知だったのですね」

「止めろ、そんな目で見ないでくれ…」

 

わたくしは出会った頃を思い出し、抗議の目で見つめる。

あの頃、狼牙さんは私のことを認知してくれてはいませんでした。

確かに興味のない方からすれば当たり前の事ですが、わたくしはグラビアアイドルとしても働いていましたから知っていて当然だと思っていたのですが…。

 

「おやおや、痴話喧嘩は犬も食わないってね。見ての通り誰も居ないし、お好きな席へどうぞ」

「あんまりからかわんでくれ…」

 

狼牙さんに連れられ、奥のテーブル席に座る。

都会の中にあるのに、喧騒から離れられる店内は一種のオアシスのようにも感じる。

わたくしは頬を膨らませたまま狼牙さんを見つめていますが、過ぎた事として気持ちを切り替える。

 

「升田さんとは中学時代に知り合ってな…時折こうして店にお邪魔させてもらっている」

「そう言った知り合いが多いんですの?」

「孤児院に行くまで各地を渡り歩いたからな…それなり、と言ったところか」

「こいつ、出会った頃からこの口調を変えないんだ…歳上相手に敬語使えってのに。ご注文は?」

「アイスコーヒー二つとアフォガード一つ」

「あいよー」

 

狼牙さんの記憶の事を考えれば仕方ありませんが…でも、確かに問題といえば問題ですわね。

ただ、年齢の事を知らなければ成人していると勘違いしかねませんが。

 

「何とも情けない話をしても良いか?」

「情けない話…ですか?」

「あぁ…」

 

狼牙さんは困ったような顔をして此方を見つめてくる。

悪戯をして怒られる子供のような顔で少し可笑しくなってしまう。

 

「セシリアが母国にいる間、気が気でなくてな…お見合いは…」

「その事ですか…全部断りましたわ。早いことには越したことはありませんが、わたくしにとって一番は貴方だけなのですから」

「そうか…少し安心した。結婚、ともなれば遥々イギリスまで攫いに行かねばならなかったしな」

 

狼牙さんは胸を撫で下ろし笑みを浮かべる。

今、何と…?

わたくしは目を瞬かせながらテーブルの下で手の甲を摘む。

顔が徐々に赤くなっていくのが分かる。

 

「今、何とおっしゃたのです?」

「お前を攫いに行かねばならんと言ったのだ」

「痴話喧嘩の次はお惚気かい?若いってのはいいねぇ」

 

升田さんは茶化すように言うとアイスコーヒーとアフォガードを置いていきカウンターへと引っ込む。

自分で入れたブレンドコーヒーを飲んで一息ついているよう…。

わたくしは気恥ずかしくなって顔を俯かせる。

想われてた…白蝶さんと同じ様に…。

 

「…言っただろう、愛していると、この気持ちに偽りはないとな」

「でも、不安だったのです…」

「気を使うな…俺はセシリアが思っているほど狭量ではないつもりだがな」

 

そう言って狼牙さんはアフォガードをスプーンで掬い、此方へと差し出してくる。

 

「美味しいぞ…アイスからして手作りだしな」

「うぅ…では…」

 

升田さんの視線があると思うととても恥ずかしく、それでも甘いものの…と言うよりももっと別の何かの誘惑に負けてアフォガードを口に運ぶ。

バニラアイスの濃厚な香りとエスプレッソの苦味の調和…分かったのはそれくらいで、味も何も分からない。

嬉しくて仕方がないのです。

狼牙さんに深く想われていることが。

際限なく愛されていたい…ずっと、傍で。

そう思ってしまう。

 

「うむ、やはり美味いな…流石だ升田さん」

「こっちもごちそーさんだよ、色男め。お前の女運分けてもらいたいねぇ」

「分けれるものなら分けてやりたいがな…」

 

狼牙さんは肩を竦めて苦笑する。

わたくし、実は知っているのです。

一夏さんと人気を二分する程にはモテる事を。

告白されてもキチンと断っていることも。

…浅ましいですわね。

知っていて不安になるなんて。

 

「やれやれ…今のセシリアは分かりやすい。俺とて不安になる…お前は美人だからな。俺よりイイ男も寄ってきてしまうのでは無いかと気が気ではないんだが?」

「狼牙さんよりイイ男なんて…!」

「そう思っているのも分かっているが、傍にいないときは不安になる…という事だ」

 

クスリと笑い、席を立ち上がる狼牙さんに手を差し出される。

わたくしはその手を取り立ち上がると腕に抱きつく。

 

「今日はわたくしを離さないでください…」

「離さんとも…」

「あめぇなぁ…」

 

升田さんの視線も声も気にならない…狼牙さんにこうしていられるだけで嬉しくて、愛しくて。

 

「さて、デートの続きと行こうか」

「金はいいからとっとと出てけ、甘ったるくて仕方ない」

「お言葉に甘えるとしよう…では、また今度」

「頼むから一人で来いよ…過剰摂取で死んじゃうからな」

 

わたくし達は升田さんに追い立てられる様にして店を後にする。

それが少し可笑しくて二人で笑みを浮かべてしまう。

 

「狼牙さん…今夜は二人きりでも構いませんか…?」

「外泊か…申請していないが…」

「今、学園にメイド達が居ますので連絡して出してもらいましょう。更識さん達には今日は我慢していただきましょう」

「強かなものだ…」

 

きっと夢のような一日…それでも、これは本当の出来事。

わたくしは舞い上がる気持ちを抑え、学園にいるチェルシーに連絡を取るのでした。




白黒仮面さんリクエストのネタでした。
リクエストありがとうございました。

深夜テンションシリーズ第二弾である…早く寝なくちゃ……orz

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