【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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少女と女と惚気話

打鉄弐式の開発速度は更識 楯無と言う先達の参戦により、加速度的に進んでいく。

簪が思い込んでいた、楯無が一人でISを開発したという話の裏話も話してくれた。

流石の楯無もISをイチから開発していなかったそうだ。

楯無のIS霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)は、モスクワの深い霧(グストーイ・トゥマン・モスクヴェ)を下地に作り上げられたフル・スクラッチ…という話が一人歩きした結果だったという。

実際、内部OSや武装システムに関してはロシアのスタッフに助言をもらっていたそうだ。

一人でできることにも限界がある…楯無は助言を他者に求める事が出来たから、作り上げることが出来たのだと。

簪はどうだろう?

ほぼ骨組みしかできていなかった打鉄弐式を、助言なしで稼働できるまで組み立てることができたのだ。

稼働中に起きたOSバグにより暴走事故を起こしてしまったが、それでも基本的な組み立ては簪一人で行ったものだ。

素直に姉より勝っている部分だと言えるだろう。

ISはたった一人(篠ノ之 束)を除いて一人で組み上げるものではない。

数え切れない人々が集まって組み立てるものなのだ。

 

[OSのバグ取りは終わったみたいね…こちらでもチェックしたけど、シミュレート通りに動いているわ]

「ありがとう、白蝶さん」

「白蝶ってなんでもソツなくこなすわよね…昔の旦那的にどうなの、その辺」

「白はなぁ…知らん間にあれこれお膳立てをするのが得意でな。俺以上に自身の身体を省みないから良く心配したものだ」

 

俺と楯無は工具片手にスラスターのパーツを交換している。

暴走事故の時にスラスターにエネルギー負荷が掛かり過ぎて焼き付いてしまっているのだ。

簪は白と共同でOSのバグ取りとシミュレーションを繰り返している。

相変わらず、凄まじい速さでプログラムを組み立てている。

…整備課に進んだ方がもっと輝ける気がするのは俺の胸にしまっておこう。

簪とて目指すものがあって代表候補生の道を自身で選んで進んでいるのだろうから。

 

[ロボは真っ直ぐ過ぎるのよ。いつだって最速最短のスピード馬鹿だったし]

「いつもギリギリのタイミングで送り込むアイツがいかんのだ…」

「「アイツって?」」

 

昔を思い出し深く溜息を吐くと、興味津々といった顔で姉妹がこちらを見てくる。

懐かしい思い出話に花を咲かせるのも悪くはないか。

 

「前世の頃は魔法なんて言うのが当たり前の世界でな。一度見たものは全て真似する模倣の魔法使いと呼ばれた男の事だ。アイツが作り上げた世界に身を寄せていた時は、ギブアンドテイクの関係で他の世界に飛ばされる事が多くてな。飽きはしなかったが、兎に角必要な情報と言うものを寄越さんのだ」

[私とロボが出会ったのもそんな頃ね…彼が他世界の情報を欲していて、私がメッセンジャー代わりに接触する手筈になっていたの]

「遊郭って聞いてるけど…」

 

簪がおずおずと言った感じで聞いてくる。

見世(みせ)と呼ばれる遊郭…そこは金さえ払えば、相応に夢を見せる世界。

聖職者でも悪党でも金持ちでも貧民でもだ。

結局あの見世で女を抱くことは無かったか…酒を飲んだりはあったが。

 

[ふふ、簪ちゃんにテクニックを教え込んであげようかしら?]

「ハーレム結成させるだけでは飽き足らんか?」

「お、おおおお願い、します」

「「簪(ちゃん)!?」」

 

俺が呆れたように白に声をかけると、簪は顔を真っ赤にしながら打鉄弐式に接続されている天狼白曜に向かって頭を下げている。

簪は以外と大胆な娘だ。

普段の引っ込み思案の人見知りな雰囲気からは考えられない程に。

ある意味、姉譲りの性格をしているとも言える。

 

「だ、だって…」

「だ、だめよ簪ちゃん…まだ早いわ!」

[あら、誕生日を迎えれば籍を入れられる訳だし遅い早いは今更よ?]

「整備に話を戻さんか…?」

 

女子三人姦しく、白は楯無を手玉にとるように理詰めで攻め込んでいく。

楯無は、どうにも妹が関わると本来の能力を発揮できていない気がする。

いつの日か一夏が言っていた『人たらし』の称号は、この時ばかりは返上すべきだろう。

 

「ご、ごめんなさい…」

[ふふ、楯無ちゃんにも教えてあげるわよ…ロボの弱いところとかね]

「な、なら仕方ないわね!簪ちゃん!」

「えっ、うん!」

「仕方ないで片付けられても困るんだが…」

 

遠い目をしながらもしっかりとスラスターを組み上げていく。

簪の命が掛かっているからな…そうおいそれと疎かにはできんよ。

楯無と簪は顔を赤らめつつも何処かソワソワと落ち着かない感じだ。

白め…楽しんでいるな…。

 

[まぁ、ちょっとお話を戻して…私が務めていた遊郭って何でもアリな場所でね…聖職者なんかも良く来てたのよ。私の体質で清めの力〜なんて言うのがあったからそれを理由に獣欲を満たしにね]

「馴れ初めの話を聞いて楽しいか?」

「「うんっ」」

 

この笑顔、プライスレス…更識姉妹は知らぬ世界の俺の話が聞けて大変嬉しそうにしている。

白も白で久々に惚気たいのか、声色が楽しそうだ。

 

[私もいい加減嫌になって抵抗したら、乱暴に引きずられそうになって…っていうタイミングでロボが店に入ってきたのよ。容姿は今のロボを三十手前まで老けさせて、髪の毛をオールバックにした感じかしら。店のルールを知らされてなかったんでしょうねぇ…聖職者の手を捻り上げて『聖職者にあるまじき下衆さだな』って恫喝して顔面殴り飛ばしたのよ]

「へぇ…羨ましいわねぇ…」

「そ、それでどうなったの…?」

 

楯無はニヤニヤとこちらを見て、簪は童話の続きを促すように白を急かしている。

白は白で生き生きとした感じで話を続けていく。

俺はもう何かを諦めたような顔で、弐式の整備を進めるだけだ…女と言うのはどの世界でも惚気話が好きらしい。

 

[ロボってば喚き散らす聖職者無視して私に手を伸ばしてきてね…不覚にもドキドキしたわよ。ヤらしい目で見てこないで、『怪我は無いか?』だもの。首に依頼人の証が掛かってたから直ぐに意識を切り替えられたけども…なかったら年甲斐も無く少女の様な夢を見てたかもしれないわね]

「仕事の都合もあって、その後俺は白を指名…一晩を共に過ごしたが抱くことはしなかったな」

「あら…それは何故かしら?」

 

楯無が不思議そうに首を傾げてくる。

まぁ、遊郭行ったら大抵の男は遊べるならば遊ぶだろう。

ましてや、白はそこらの女が裸足で逃げ出すほどの美女だ。

 

[そうなのよねぇ…何であの時抱かなかったのかしら?]

「抱く必要が無かったからな。イイ女と酒が飲めればそれで良かった…ただ、それだけだ」

「白蝶さんとしても…珍しいお客さんだったの?」

[えぇ…大体あの店に行って抱かないなんて、余程の酔狂でもなければやらないわよ]

「狼牙君はそう言う酔狂だったわけね?」

 

ただ肩を竦めるだけだ。

あの夜…ただ酒を飲み、語るだけで良かった。

何も知らない女を抱く気にはなれなかった。

不器用なのだろうな…抱くのならばその女の全てを抱きたかった。

今まで歩んできた人生諸共に。

 

「あぁ、酔狂だったのだろうな。一言も交わさんで、いきなり性欲満たすと言うのは性に合わん」

「そういう所愚直よねぇ…」

「狼牙らしいけどね…それに大切にされてるって思える」

「その通りね…日本が一夫多妻制なら色々と後が楽なんだけどね〜」

[籍なんて気にしなくていいじゃない…ロボは籍の有る無し関係なく大切にするわよ〜]

 

何故だかとても悪い事をしている気分になってしまい、軽く溜息を吐く。

更識姉妹にしろ、セシリアにしろ俺には勿体無い様なイイ女だと思っている。

だからこそ、愛されれば相応に愛する。

けれども…夏に入ってからと言うものの、三人を確りと愛したいと思っている。

三股だの女たらしだのと言う誹りも気にならない。

きっと浅はかな独占欲だろう。

だが、愛するということはきっとそう言うことなのだ。

欲しいと思うから、傍に居て欲しいと思うから愛情を注げるのだ。

 

「いい加減、手を動かさんと時間が勿体無いぞ?」

[ふふ、惚気話はまた今度にしましょうか]

「もっと聞きたいけど…簪ちゃん、頑張りましょ?」

「うん、息抜きになったしね…」

 

惚気話を息抜きにして欲しくはなかったな…ともあれ、俺たちはアリーナ閉館時間まで整備に勤しんでいくのだった。

 

 

 

食堂で夕食を食べ終え、日が沈んだのを見計らって屋上へと向かう。

洋上に作られた学園は星空が綺麗だ…校舎の屋上で天体観測と洒落込みたい所だが、生憎と夏休み中…補習期間以外は校舎は戸締りがなされている。

ベンチに腰掛け、持ってきたペットボトルのお茶を一口飲む。

陽が沈んでも夏…やはりジメジメとした蒸し暑さがあるが、時折吹く風が心地いい。

ぼんやりと空を見上げる。

夏の大三角形はどの星だったか…などと思っていると膝に誰かが座ってくる。

 

「簪か…どうかしたのか?」

「二人きりになりたかった…じゃダメかな?」

「いいや…別に構わんさ」

 

簪の言葉に首を横に振れば、優しく頭を撫でていく。

簪は嬉しそうに俺を抱き締めて心臓の音を聞いている。

 

「少し、早いね…緊張してる?」

「イイ女が抱き締めているからな…否が応でも早くもなるさ」

 

簪の顔に手を伸ばし、眼鏡を外す。

正確にはこの眼鏡…ディスプレイになっているそうだ。

空間投影型は値段が高くて手が出なかったとか…なんとも世知辛いな…。

眼鏡を外すと、やはり姉妹なんだと改めて実感する。

少し自信が無く、あどけない少女の面影を残す楯無…といった感じでそっくりなのだ。

 

「別に目が悪い訳ではないのだろう?」

「ずっと、つけてたから…トレードマークみたいになってて」

「成る程な…では素顔を知っている数少ない一人だな、俺は」

 

簪はクスリと笑うとゆっくりと目を閉じる。

何処かラウラと同じように安心しきっている顔だ。

 

「クラス対抗戦で襲われそうになった私を助けてくれたあの時、夢にまで見たヒーローが駆けつけてきてくれたんだって思ったの」

「あの時は我武者羅だったからな…あの機体を追い出すので精一杯だった」

「それでも私にはそう見えてた…すごく、嬉しかった…」

 

簪はこちらを見上げて微笑みを浮かべる。

憧れの存在…か。

どうにもむず痒くなるな。

正義の味方を気取っているわけでもないし、英雄願望があるわけでもないからな。

どうやら少し表情に出てたらしく、簪は首を横に振る。

 

「狼牙は、いつだって必死になってただけって分かってる。でも私にとってのヒーローは、あの一瞬の出来事の時から狼牙だったって言うだけ…」

「柄じゃないな…本当に気恥ずかしくなる」

 

少し顔が赤くなっているのが分かる。

以前の世界でもそういう風に見られたことが無かったからな。

自分の思うがままに戦っていただけ…自分が納得できるようにする為に戦っていただけだ。

それはこちらの世界でも変わらない。

 

「白蝶さんから聞いた昔話でも、今の狼牙と変わらなかったんだなって…嬉しくなっちゃった。そんな人に愛されて、愛することができて…本当に夢みたい」

「夢などと言ってくれるな。俺はお前を愛している…この気持ちに偽りはない」

「うん…ありがとう、狼牙…」

 

優しく簪の頬を撫でて笑みを浮かべる。

簪は心地良さそうに目を閉じ、されるがままだ。

そんな簪を見ていてどうしても欲しくなってしまい、本能の赴くままにキスをする。

簪はそんな俺を受け入れ唇を重ねると、抱き締める力を強める。

幾度となく啄むように唇を重ね顔を離す。

簪は茹蛸のように顔を赤くしつつ、にへらっと笑みを浮かべる。

 

「もっと…して欲しいかな…」

「これ以上は歯止めが効かなくなりそうなんだが…」

「狼牙にだったら構わないもん…」

 

簪は俺の首に抱きついて、吐息がかかるくらいまで顔を間近に近づけて妖しく笑みを浮かべる。

指で簪の唇の触れ、俺もつられたように笑みを浮かべる。

 

「あくまで学生…という建前くらいは使わせてくれ」

「狼さんは、時折ヘタレ…」

 

簪はむすっとした顔をすると、唇に触れる指を咥えて甘く噛み始める。

なんだかいけない気分になってしまって、俺は慌てて指を引っ込めてしまう。

 

「喧しい。俺とて男だ…色々と必死なんでな」

 

がっくりと肩を落とすと簪からキスをされ、離れられる。

俺は後を追うように立ち上がり、簪と手を繋ぐ。

節度だなんだと言っても、結局欲に負けてしまう辺り青いなとも思ってしまう。

 

「首輪を付けられた日からどうにも敵わんな…」

 

ぼやくように呟くと、簪ははにかみながら指を絡ませ俺を引っ張るようにして歩き出す。

夏の風が、俺たちの背中を押すようにそっと吹いた。




深夜から明け方にかけて変なテンションで書いた結果がこれだよ!

…人肌が恋しい…

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