【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜 作:ラグ0109
夏休みに入ってから寮の相部屋の人間が帰郷すると言うこともあってか、セシリアと簪はちょくちょく俺の居る寮の部屋に入り浸るようになっている。
仲が良いのは良いことだし、側に居てくれると言うのも本当にありがたい。
しかし、ここはIS学園…洋上の埋め立て地に建設されたこの学園は日本の気候も相まって蒸し暑い。
蒸し暑いと言うことは夜は寝苦しいのだ。
ほぼ当たり前のように添い寝されているわけだが、これがまた拷問の様に感じてしまう。
セシリア達は普通に眠れているのに、俺が寝れないのがおかしいのだろうか?
兎も角、暑い…人の体温プラス蒸し暑さでサウナの様にも感じてしまう。
クーラーを使えば良い?
省エネだなんだと騒いでいるご時世だ…基本的には寝ている間の付けっ放しはご法度となっている。
「…暑い…」
現在午前一時。
言っても仕方がないことなのだが、思わず愚痴る様に呟いてしまう。
今日はセシリアが上で、両脇を更識姉妹ががっちり固めている。
何で眠れるのだろうか…不思議に思う。
などと考えていると、カチャカチャと鍵を開けるような音が部屋に響き渡る。
…千冬さんが忍び込むような事をする訳がないし、いったい誰だろうか…?
まさか、黛 薫子か…?
だとすればこの状況…非常にマズい。
黛 薫子的にかなり美味しい状況下だ。
意を決して、セシリア達を起こさないように作務衣の上着を脱ぎ、更識姉妹の拘束から逃れる。
あくまでも静かに、慎重にだ。
彼女たちは皆笑みを浮かべて眠っている。
幸せな夢を壊すわけにもいくまいよ。
続いてゆっくりとした動作で、セシリアの体と自身の位置を入れ替えるようにしてベッドからゆっくりと抜け出す。
途中三人一斉に身じろぎしたものだから、心臓が止まるかと思ったが。
俺が抜け出すのと同時にピッキングが成功したのか扉が静かに開く音がする。
さて、侵入者は…。
「誰だ…?」
「と、父様…一緒に寝てくれ…」
小声で声をかけると俺とお揃いの作務衣に身を包んだラウラが、枕を持参して涙目で声をかけてくる。
一体何があったのやら…?
と、言うか作務衣は女の子のパジャマには向いていないと思うのだ。
「静かに…三人とも寝ているからな…それで、何があった?」
「その…今日はシャルロットが外泊で居なくて…一人で日本の怖い話を見ていたのだが…」
「暗闇が怖くて眠れなくなったと…」
「こ、怖くなんかない…ただ心細くて、だな…」
この黒兎、これでもドイツが誇るシュヴァルツェア・ハーゼ隊の隊長である。
転入してきた時の、キリリとした顔のラウラはどこに行ったのだろうか?
最早、ただの少女である…。
まぁ、女の子らしいと言えばらしいので構わんが。
ともあれ、ベッドは埋まっている。
しかし、眠らなければならない。
とすれば…。
「床で雑魚寝になるが構わんな…?」
「そ、そばにいてくれるのか?」
「居てやるから、寝ろ」
セシリア達が寝るベッドを背に座り足をぽんぽんと叩く。
ラウラは表情をパァっと明るくさせて、俺の足を枕代わりにして床で眠り始める。
時間にして一分もかからなかった…孤児院の子供たちでもここまで寝付きが良くなかったんだが…。
優しくラウラの頭を撫でながら微笑んでいると、突然頭を抱き締められ耳を甘く噛まれる。
「っ…刀奈か?」
「ふふん、浮気者め…成敗してくれるわ」
悪戯っぽい声で耳元で楯無が囁き、耳を口で弄ばれる。
抵抗することもできないのでひたすらに耐えるしかない。
「娘の面倒を見ていただけだろうに…」
「ラウラちゃんは幸せそうにお眠ね…で・も、今日は私たちと眠る約束だったじゃない?」
「すまんな、正直…暑くて眠れん」
俺はクスリと笑うと頭を楯無へと向け唇を重ねる。
舌を絡ませ、できるだけ長く繋がっている。
時折楯無から漏れる吐息が艶めかしい。
こうして独占していると、何故だか満たされるような気分になるな。
ゆっくりと、どちらからでもなく顔を離し笑みを浮かべる。
「おやすみのキスには足りるか?」
「もちろん…おやすみなさい、狼牙君」
楯無はそう言うなり俺の額にキスをして眠り始める。
俺もそのままゆっくりと目を閉じ、浅いながらも眠りについた。
朝を迎え日課の鍛錬を俺を含めての四人で行った。
すなわち、俺、セシリア、楯無、ラウラである。
簪は一足先に整備室に向かい、打鉄弐式の最終調整を行っている。
こうして考えると徐々に増えていったな…最初はセシリアだけだったのが、時折簪も一緒に鍛錬に励むようになった。
健康的で良いことだ。
簪はどちらかと言うとインドア派であり、運動はできるが積極的に動くことはして来なかった。
開発が行き詰まった時に気分転換で参加していたようだ。
一人で抱え込んでいても仕方がないしな…気分転換でも一緒に体を動かしてくれるのは嬉しいものだ。
「随分と急な話だな…今日の便で帰郷とは」
「仕方ありませんわ…貴族は貴族らしく務めを果たさねばなりませんし」
鍛錬を終えた後、身支度を済ませるとセシリアに今日帰郷すると言われる…八月だと聞いていたのだがな。
何でも最近BT兵器の稼働効率の伸びが良く、国の方から呼び出しが掛かってしまったそうだ。
その他にも実家の雑務やらヴァイオリンコンサートへの出席…はたまた早すぎるお見合いなどなど…少しだけイラっとしてしまう。
学園前まで車が迎えに来ていると言うので、見送りがてら荷物を持つ。
「時差九時間か…無事に着いたら連絡をもらえるか?」
「もちろん、会えない分恋しくなりますけど。…帰ってきたら存分に甘えさせてくださいますか?」
「甘えてもらわなくては困る…」
校門が見えてくると立ち止まり、セシリアは此方に抱きついてくる。
俺は空いた手で優しく抱き締めてセシリアを見つめる。
お見合い、ねぇ…貴族社会では避けて通れん道なのだろう。
指を咥えて見守るつもりはさらさらないが。
もしセシリアが結婚するなどとなれば、俺は白の時の様に攫いに行くだろう。
「フフ、わたくしは傍にいますわ。どんな名家の生まれの男よりも貴方の方が魅力的ですから」
「殺し文句だな…男冥利に尽きる」
セシリアは少女然としながらも魅力的な笑みを浮かべて此方を見上げ、頬を撫でてくる。
少しだけヒンヤリとしたセシリアの手の感触に笑みを浮かべると、セシリアは少しだけ背伸びをして唇を重ねてくる。
拒むことはせずに受け入れ、大人のキスをする。
周囲に人の目が無いと大胆になれるのはご愛嬌か。
「続きは帰ってからにいたしましょう」
「あぁ…気を付けてな」
「両親にキチンと報告してきますわ」
セシリアは俺から荷物を受け取ると小走りで学園を出て行く。
互いに顔が赤かったのは言うまでもないか…。
セシリアは両親に報告すると言った…きっと父親へ向けていた感情とも折り合いをつけたのだろう。
そう思うと自然と笑みが浮かぶ。
ジリジリと照りつける太陽の下、俺は軽く肩を竦めて第三アリーナへと向かう。
今日は簪の打鉄弐式のデータ取りをする約束をしている。
行うのは飛行機動におけるスラスターの稼働データと近接戦時における関節部の稼働データだ。
アリーナに入り更衣室でISスーツに着替えてピットからアリーナ内に出ると既に簪は打鉄弐式を身に纏って此方に手を振ってる。
「狼牙、遅い!」
「すまんな、セシリアが急に出国する事になって見送っていたものだからな」
俺は天狼白曜を腕と足、ウイングスラスターの部分展開を行い簪の元まで飛んでいく。
簪は少しだけ不満そうな顔をするが、すぐに気を取り直す。
「急な話、だね…」
「なんでも政府からのお達しだそうだ…貴族をしていると様々なしがらみがあるようでな」
[コースデータ送るわよー]
白はアリーナ内に機動コースを設定し、俺と簪にコースを表示する。
「ありがとう、白蝶さん」
[いいわよ、簪ちゃん。それよりもテストの成功を祈ってるわ]
「先ずは一周かるく馴らしていくか」
先導するようにゆっくりと飛翔してコースを辿っていくと、簪は危なげなく後についてくる。
どうやら、今のところ問題無いようだ。
誰も居ないはずの観客席に楯無が立っている。
妹が心配でいてもたっても居られなくなったか…まぁ、今日は公務はない完全オフの日なので問題はないだろう…多分な!
俺と簪は楯無に軽く手を振りつつコースを一周終える。
「次は、加速をかける…何かあったら、お願い」
「その為の俺だ…しっかりと助けてやる」
俺の言葉に簪ははにかむような笑みを浮かべるがすぐに表情を真剣なものにする。
二週目に入ると打鉄弐式のスラスターの出力を上げて一気に最高速度まで持っていく。
俺はいつでも助けられる様に打鉄弐式も速度帯に合わせて並走していく。
成る程、日本の第三世代機…打鉄の比にならん速度だな。
聞くところによると、打鉄弐式の第三世代兵装はマルチ・ロックオンシステムを用いた独立可動型誘導ミサイルとの事だ…ぶっちゃけ相手にしたくないな。
なんせ個別ロックオンのミサイルを六機×八門からぶっ放すと言うのだ。
狭いアリーナでやられたら、たまったものではない。
『天狼』とて万能の防御フィールドでは無いのだ。
「順調、かな…!?」
簪は得られるデータに満足していたのだが、突如打鉄弐式から高エネルギー反応が検出され、スラスターの出力が過剰に上がり暴走を始める。
瞬時加速まで勝手に起こる始末だ…このままでは拙い!
天狼白曜の出力を上げて瞬時加速を行って簪を抱きかかえると打鉄弐式の推力を抑え込むようにして減速を掛けようとするが、減速を行うタイミングが遅かったのかそのまま壁面に衝突する。
衝突の衝撃と過剰なエネルギー出力で打鉄弐式はセーフティが掛かったのか機能を停止する。
俺が割って入った形になったので簪に怪我は無いようだ。
「っく…部分展開するんじゃなかったな…大丈夫か…?」
「う、うん…ろ、狼牙は…?」
簪は心配そうに此方を見つめてくるが、俺は軽く肩を竦める。
「徹甲弾で蜂の巣にされるよりは遥かにマシだ。怪我もない」
「簪ちゃん、狼牙君!大丈夫!?」
楯無が息を切らせながら走って此方へとやってくる。
簪と二人で手を振り楯無に無事を伝える。
「問題ない、どうやらOSにバグが残っているみたいだな」
「一人でテストしなくて良かった…」
「簪ちゃんに何かあったら…本当にありがとう、狼牙君」
[とりあえず、ピットに戻って整備し直しね…簪ちゃん、楯無ちゃんと一緒にやったらどうかしら?]
白蝶の提案に少しだけ迷いを見せるものの、意を決して縦に首を振る。
それを見た瞬間楯無が目に見えて明るくなる。
…チョロいなぁ…妹が関わると。
[いいじゃない、姉妹仲が円満なのはロボが望んだことなのだし]
否定はせんよ。
目の前で手を取り合う更識姉妹は、俺が望んだ姿そのものだ。
更識姉妹に先にピットへと戻ってもらい、俺は心無しか笑みを浮かべて瓦礫撤去に取り掛かるのだった。
こう、電波的にですね…千冬ヒロインで別のオリ主で書いてみたいなとか思ったりしちゃったんですわ…もちろん狼牙さんの終わってからですが