【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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ほのぼのと言ったな…あれは嘘だ(声:玄田哲章さん)


Summer vacation and sweet memories
夏の始まりに


銀の福音襲撃事件から一週間後…今日は終業式だ。

全学年が第一アリーナに集い、臨時理事長となった女性の話を聞いている。

俺はクラスメイト達のいる列ではなく、壇上の脇だ。

先延ばしになっていた副会長就任挨拶を今日やろうと言うのだ。

ちなみに楯無からイイ笑顔で今日やるからなどといきなり言われたので、グリグリと頭を拳で痛めつけてやった。

連絡事項ぐらいしっかりしてもらいたいものだな。

そうそう、期末試験はギリギリセーフだった。

この学園赤点がラインが六十点未満となっているので本当に危うかった…。

今度は文武両道となるように、キチンと勉学に励んでいきたいものである。

理事長の話が終わり、入れ替わるようにして楯無が壇上へと上がっていく。

 

「みんなの前にこうして出るのは初めてね…私がIS学園の生徒会会長の更識 楯無よ。一学期、様々な事件が起きたけど明日からIS学園は夏季休暇に入ります。この学園に残る者、故郷に帰る者…人それぞれだけど、二学期もこうして皆が揃うことを楽しみにしています。長ったらしい挨拶は抜きにして、皆に報告することがあります。生徒会は今まで会長である私のほか会計である布仏 虚と書記の布仏 本音の三人で運営してきました」

 

のほほんの名前が上がると一年の列が少しざわつく。

仕方あるまいよ…のほほんではなぁ…。

いかんせんあの娘はデキる女のオーラを発していない。

むしろた◯パンダ的なオーラなのだ。

走っても遅く、喋っていても何処か眠そう…何ともマイペースな生き物なのである。

だが、忘れてはならない…四月の一夏の代表就任記念パーティの写真撮影の時にちゃっかりポジションをキープしていると言う事実を。

 

「ですが、今学期に私が副会長にスカウトした人物がいます。今日はその副会長に就任挨拶をしてもらいます。銀君、此方へ」

 

正直、何を話すべきか全く纏まらない…いつも後ろで眺めている側だったからな。

これは面倒なことになった…。

楯無に促され、壇上へと上がれば楯無に代わりマイクの前に立つ。

凄まじいプレッシャーだな…全学年どころか教師陣まで此方を注目してくるのだ。

俺は小さく息を吐き出し口を開く。

 

「この度生徒会副会長に就任することになった銀 狼牙だ。ご存知の通りイレギュラーである男性操縦者…知識、経験共にまだ拙い部分があるが、精一杯職務を全うしていくつもりなので何かあれば相談に来てもらいたい。こう言った挨拶は経験がなくてな…短いが以上だ。これからよろしく頼む」

 

着飾るつもりはない…ありのままで挨拶をする。

もっと言うべき言葉があるかもしれんが今はこれが精一杯だ。

会場は、しんと静まりかえり何とも気不味い。

だが、学園の実質No.2となるのだ…不満が出てきても仕方あるまいよ…などと考えていると、一年の方からまばらに拍手が起きて次第にそれが広がり会場が拍手に包まれる。

友人達に感謝しつつ頭を下げ一歩下がると、楯無がマイクの前に立つ。

 

「先程、彼から述べられた通り二人いる男性操縦者の内の一人…それも短期間で第二形態移行を行っている実力者です。今日はこの終業式終了直後、皆さんには観客席へと移動していただき、デモンストレーションとして一対三の対複数戦を彼にしてもらいます」

 

おい…聞いてないぞ…。

俺は抗議の眼差しを楯無へと向けるとこちらへと振り返りちろ、と舌を出され悪戯っぽい笑みを浮かべられる。

俺は片手で頭を抱えてため息をつくばかりだ。

三機…となると、恐らく前回俺に襲ってきた上級生トリオが相手だろう。

あいつらのあの性格では煽るだけ煽って焚きつけたか…楯無としては俺にリベンジの機会を与えるつもりだったのだろうが。

以前とは機体の状況も違うからな…だが、力を示さねばならんと言うのであれば力を示すしかあるまい。

ざわつく生徒達を片手で制し、楯無は笑みを浮かべる。

 

「それではこれで生徒会からの挨拶を終わりにさせていただきます」

 

楯無が頭を下げ壇上を降りていくと、俺もそれに従い楯無の後をついて行き隣に並ぶ。

 

「連絡事項くらいしっかりしてもらいたいんだが…?」

「い〜じゃない…狼牙君の実力って言うのを間近で私が見るチャンスになるんだもの」

「欲に忠実だな…まったく」

 

楯無の額を軽く小突き、軽く溜息をつく。

教頭先生が最後に連絡事項を伝えて終業式が閉幕すると、壇上がアリーナの地下へと格納されていく。

楯無と別れアリーナの中央へと向かう。

何とも目紛しい一学期だったな…。

セシリアとの決闘、鈴と一夏の痴話喧嘩に無人機襲撃事件。

更識姉妹問題にシャルロットのスパイ疑惑、ラウラのVTシステム…。

果てには軍用機相手に大立ち回りと来たものだ。

学生が解決に走るには酷な状況だったが…それでもこれらの事件があったからこそ、今の学園生活があると思うとなんだか複雑な気分にさせられるな。

物思いに耽っているとラファール三機が俺を取り囲む様にやってくる。

 

「今度はきっちり叩きのめしてあげるわ」

「邪魔も入らない公認の模擬戦だからね」

「大勢の前で恥をかかせてあげる」

「喚くな…弱く見えるからな」

 

俺は反省した様子の無い三人にため息まじりに応えると天狼白曜を防御形態で展開し、見上げる。

三機ともアンチマテリアルライフルとパイルバンカーがメインか。

どうやら、有効な戦法だと勘違いしてくれているようだ…。

脇腹が爆ぜたり、胸に大穴空けられたりした経験がある俺からすれば、その心配が殆ど無いISバトルでは脅威には感じない。

衝撃は辛いものがあるが。

 

「男のくせに…」

「残念ながら女の子ではないのでな…口下手で女性の口説き方と言うのがなってない。先輩方に御教授していただこうか」

「減らず口叩いてるんじゃないわよ!」

「この間みたいに這いつくばらせてあげる!」

 

試合開始のブザーと共に三人が同時に徹甲弾を撃ってくるが、俺はそれを上空へと瞬時加速を行い回避すると同時に一式王牙と二式王牙からワイヤーブレードを展開し三機同時に牽制を行う。

油断していたのか、動きが遅れた一機に目を付ける。

以前俺に徹甲弾をプレゼントしてくれた上級生だ。

他の二機に対して牽制ように群狼を展開し、一機目に向かって瞬時加速を行いながら足から射出した二式王牙のワイヤーブレードでからめ取り一気に引き寄せ頭を掴む。

 

「威勢がいい割にはなめ過ぎたな、散れ」

「っく!!」

 

問答無用で咆哮銀閃を放ち、絶対防御を発動させつつ視界を焼く。

ISの保護機能のおかげで視力は大丈夫だろうが、意識的には目を瞑ってしまうだろう。

その隙に寸勁で弾き飛ばし、腕の一式王牙のワイヤーブレードを射出して体を絡め取る。

引き寄せることはせずにそのままジャイアントスイングの要領で振り回し、群狼相手に手間取っている二機に向かって叩きつけていく。

そこに容赦の二文字はない。

ただただ冷静に戦況見つめ、可能な手で駆逐するだけだ。

 

[いい感じに鬱憤ばらしに使われてるわねぇ…身の程を弁えないから痛い目見ちゃうのよね]

 

いや、まったく…千冬さんの説教を受けて反省しないのだからな。

これを機に自らを見つめ直してもらいたいものだ。

 

「はっはなしなさいよ!」

「いいだろう、お嬢さん…受け止めてもらえよ?」

 

ハンマー代わりに使われていた上級生をお望みどおり解放する…アリーナの遮断シールドに向かって。

遮断シールドにISが触れると、零落白夜程では無いもののがっつりとシールドエネルギーを削る。

存分に削っていたこともあって一機目は成す術もなく遮断シールドに触れエネルギー残量がゼロになりリタイアする。

 

「さて…一機減ったがまだやるか?」

「ば、バカにして…!」

「あたし達より立場が弱いのに生意気ばかり…」

 

立場が弱いからなんだと言うのやらな…群狼を肩へと戻すと群狼に搭載されている矮星からエネルギーが供給される。

体を覆っていたマントをウイングスラスターへと変形させ、展開装甲を発生させる。

天狼白曜は全力稼働状態へと移行し、『天狼』による不可視の防御フィールドが発生する。

 

「立場が弱ければ力が無いわけではあるまいよ…女尊男卑が悪いとは言わんが、そこで思考停止していては滑稽だぞ?」

「う、うるさいわよ!」

「あんた達男性操縦者なんて学園にいらないのよ!」

「過去に一体何があったのやらな…少し、頭を冷やせ」

 

全力の瞬時加速を行い反応される前に二機目の頭を掴み、三機目へと思い切り投げ付け衝突するタイミングでワイヤーブレードを展開し二機纏めて絡め取れば、アリーナの地面に思い切り叩き付ける。

あまりもの衝撃に動きが止まったのを確認した後に瞬時加速を行い、両手をそれぞれの腹に叩き付けて咆哮銀閃を叩き込む。

過剰な暴力にどうやら目を回してしまった様だ。

アリーナに試合終了を告げるブザーが鳴り響く。

 

「女だからと男だからと言うなよ…足踏みしていてはいつまでも変われまい」

「くっ…」

 

気絶している二人を脇に抱え、一機目の上級生へと声をかける。

女尊男卑というのは本当に根強い…性別による差別というものに長い間苦しめられてきたからな。

だが、仮に今の状況が長く続き、男尊女卑になったらどうなるだろうか?

同じことの繰り返しだ。

それはつまらんだろう…で、あれば変わるしかない…世界が変わらなければ自分が。

 

「立てるか?立てなければ少し待て…二人を置いてくる」

「…大丈夫よ」

 

不服そうに呟かれ、上級生は立ち上がりピットの方へと向かっていく。

俺は軽く肩を竦めてからピットへと上級生二人を運ぶのだった。

 

 

 

所変わって生徒会室。

終業式が終わったというのに生徒会の仕事は山積みなのである。

実は俺のせいでもあるので文句は言えないのであるが。

銀の福音事件…暴走を起こしたとされるコアが凍結処置を行われる事になり、俺が一計束さんにお願いしたのである。

と、言っても束さん名義でアメリカ・イスラエル・IS委員会に一言添えて貰っただけなのだが。

内容は銀の福音の暴走原因は、外部システムからのクラッキングに依るものだと言うものである。

実際どの程度効力があったのかは分からないが、ファイルスさんに対する処分は極々軽いものになったという事だ。

コアに関しては、束さんがコアネットワークのプロテクトをより強固にする事で外部からの干渉に対して抵抗力を持たせたということだ。

因みに共振現象に対しては効力は無い、との事。

束さんがモニタリングするためなんだろうな…欲に忠実なあたりは人間らしい。

普段は色々と規格外のぶっ飛び方をしているのだが。

 

「で、轡木さん…銀の福音事件の見返りとして何を得たのだ?」

「運営資金と人材ですね…現役国家代表を教師として迎え入れることにしました」

「随分太っ腹ね〜」

「世界最強に現役国家代表が二人…ある意味過剰戦力だな」

「二学期中に一年の専用機持ちを一箇所に集めてしまおうと思いまして」

 

随分と思い切ったことをするな…専用機持ちだけを集めるクラスなんぞ厄ネタになりかねんが…。

 

「理由は今回の事件が原因か?」

「えぇ…いざまた事件が起きた時駆り出されるのは専用機持ち。連携力を強化しないと銀君や織斑君の様に大怪我をしてしまうかもしれません」

「専用機持ちが集まるクラスはエリート扱いされるわね。そこで、アメリカの国家代表を引っ張ってきて専用機持ち以外のクラスの教師としてあてがう…と言うのが運営上での大まかな道筋よ」

「本来ならば、貴方達専用機持ちに前線に出てもらうなど言語道断なのですが…」

 

前理事長の独断先行が地味に効いているが、文句を言っても仕方ない。

アメリカの国家代表とはファイルスさんの事である。

変なところで、俺の計略が役に立ったものだ。

もし、ファイルスさんの処分が重かった場合此方に引っ張る事は難しかったかもしれん。

しかし、あれだな…まさかこうも簡単に再会の段取りが付くとは思っていなかったが。

気を引き締めておかねば、修羅場に叩き込まれかねん。

 

「委細承知…と。アラン・デュノアに関しても順調か?」

「えぇ、デュノア社の大規模再編も上手く機能しているそうです。教師の件も快諾していただけました。ナターシャ・ファイルスさんと同じく二学期から教鞭を取ってもらいます」

「来学期の重要事項はこれ位かしら…虚、後でファイルを此方に送っておいて頂戴」

「かしこまりました、会長」

 

虚は会議の内容を纏め始める。

本来ならばのほほんのお仕事だが今はいない…というか生徒会室に殆ど寄らない。

今度首根っこ掴まえて連れてこなくては…。

 

「銀君、更識さん…夏休みだからといってあまりはしゃいではいけませんよ?」

「節度くらいは弁えているつもりだ」

「はーい、おじ様」

 

轡木さんが何かもお見通し、と言った顔でこちらを見てくるが努めてポーカーフェイスだ。

と言うか、色々な人に知れ渡っていると言えば知れ渡っているので今更感があるが。

 

「狼牙君は学園居残り組かしら?」

「あぁ…孤児院に顔を出すつもりではあるが、基本的には学園で夏休みを過ごす形になるな」

 

帰る家と言うのは孤児院だけだ…しかし、長居すれば何かと迷惑を掛けかねないからな。

それも仕方が無いと言えば仕方が無い。

だが、お世話になっているからな…日帰りでも手伝えることは手伝ってこようと思っている。

 

「ふーん…海外旅行は無国籍だから無理だものね」

「セシリアとラウラが残念そうな顔をしていた…申し訳なくなるくらいにな」

「気にしても仕方ないわよ…セシリアちゃんとラウラちゃんは来月に入ってから帰郷するって話だし、それまで一緒にいてあげればね」

「お嬢様もです。あまり家を空けることがないようにしていただきませんと…」

 

虚がジト目で楯無を見てくる。

これはあれだな…楯無、簪の両親から口酸っぱく言われているのだろう。

本当にご苦労様だ。

楯無は不満そうな顔をするが、何かを思いついたのかニヤリと笑う。

 

「そうだ、狼牙君ウチに来ない?」

「は…?」

 

楯無は名案といった様子で手を叩き満面の笑みを浮かべてくる。

いや、それはどうなのだろう?

最悪叩き切られるような気がするんだが…。

 

「お嬢様…銀君が困ったような顔をしていますよ」

「いーじゃない、学園に引き篭もっているよりは百倍マシでしょ?」

「命の危険を感じているがな…考えておく」

 

眉間を揉みながら思案する…姉妹間で二股ならいざ知らず三股だ…ましてや暗部の家系…というより楯無がバラしていそうだが…ご両親も俺の事を知っているだろう。

何も起きない事を祈るしかあるまい。

 

「いい返事待ってるわよ〜」

「銀君、無理はしなくて良いですからね?」

「前向きには検討するさ…避けては通れん道だからな」

 

三人で談笑し、それぞれが受け持つ書類へと目を通していく。

明日からは夏休み…良い思い出が作れることを祈ろう。


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