【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜 作:ラグ0109
「臨海学校は一日延長…それも全て自由時間!!」
「わーい、海にまた遊びに行こうよ!!」
「銀君達は昨日何やってたの?」
「いや、すまんがそれは機密でな…話したら裁判裁判また裁判になるから、勘弁してくれ…」
「っていうか…何で髪切っちゃったのよ!」
臨海学校三日目の昼。
あの後のメディカルチェックで、特に問題なしの太鼓判を押された俺たちはクラスメイト達に囲まれて質問責めにあっている。
髪の毛は泣く泣く諦めて、肩口までバッサリと切って後ろで結わいてある。
切ってくれたのは一夏だ。
やはり、あの男…手先が器用だな。
両親に褒められた髪の毛…禿げた訳でもないので良しとするしかあるまいな。
俺がクラスメイト達に囲まれていると誰かに抱きつかれる。
「簪か…どうした?」
「別に…」
素っ気ない態度に反して万力のように俺の体を締め上げてくる。
簪とて代表候補生…それなりに鍛えていると言う事か。
簪のクラスメイト達に今の状況を見られて黄色い声が上がる。
「更識さんが付き合ってるのって本当だったの!?」
「そんな、あの更識さんが大胆にも!」
「更識さんは今夜寝られると思わない事ね!」
「やだ…狼牙といる」
「呼び捨て…だと…!?」
セシリアから羨むような視線が来るが、俺は軽く肩を竦めるだけだ。
簪の頭を優しく撫でると、表情を軟化させる。
猫は猫か…子猫みたいなものだが。
自然と微笑みを浮かべ簪を見つめる。
「俺とばかりではなく、クラスメイトとも仲良くするべきだろう?」
「…分かった…」
「まぁ、帰ったらな」
納得してくれたのか漸く簪は離れると、此方をジィっと見つめてくる。
顔を耳元に近付け優しく囁く。
「三人全員に言える事だが、愛している」
そう言った途端、簪は顔を茹蛸の様に顔を真っ赤にして挙動不審に辺りを見回す。
それを見た簪のクラスメイト達は、ニヤリと笑い標的を見定める。
「容疑者確保ー!!」
「えっ!?えぇっ!?」
「これからたっぷりとその身体に聞いてやるぜぇ…グヘヘ」
「お手柔らかにしてやってほしいんだが…」
簪は両脇を抱えられてクラスメイト達に連行されていく。
元気があって非常によろしいものだな。
俺が微笑ましく思い見送っていると、セシリアが腕を引いてこちらに引き寄せてくる。
「あまり鼻の下を伸ばさないでください!」
「そう言ってくれるな…少し、散歩でもするか?」
「え、えぇ…体は、大丈夫なのですか?」
「珍しくヒビも入っていない…健康そのものだ」
セシリアが心配そうに此方を見上げてくるが、実際単一仕様能力のお陰でGをある程度は無視できるようになった。
また目が覚めたら医務室とか、血反吐を吐くとか、そう言う事とは無縁になるだろう。
いや、なってほしいんだが。
[それはロボの心がけ次第よねぇ]
返す言葉もない…。
兎に角、俺はセシリアの手を引いてクラスメイト達の包囲網から抜け出す。
少し息苦しいし、外の空気も吸いたいしな。
何人かが俺たちの後をついてくる気配があるが…まぁ、いつものことだと思って諦めるか。
海には向かわず、林道を歩いていく。
昨日の今日だ…あまり遠出もできんだろう。
「セシリアは…怪我はないんだな…?」
「えぇ…BT兵器に比べてストライク・ガンナーはエネルギー消耗を抑えられましたから…」
「それは良かった…だがな、お前たちまで俺の様に無茶をしなくても良かろうに」
ふと、そんな言葉を自分で言っておいて申し訳無くなる…。
そうだな…俺はこんなにもセシリア達に心配をかけさせていたのか…。
立ち止まり、眉間を揉む。
「すまんな、俺が言うべき台詞ではなかった。…以後、俺も気をつけるようにしよう」
「狼牙さん…あまり信用ありませんわね」
「ぐ…!!」
あまりにも鋭く言われ、俺は思わず胸を押さえてたじろぐ。
グッサリとナイフが刺さったような感覚だ。
恐らく以前の体ならば耳を垂らし尾を体の下に隠している。
「でも…そうですわね…わたくし達が首輪を付けたのと同じように、わたくし達も首輪を付けられているのですからしっかりとリードを握っていてください」
「あぁ、そうさせてもらおう」
セシリアが前屈みになり此方を見上げてくる。
その顔は小悪魔的な笑みを浮かべている。
目の前の美女は様々な表情を俺に見せてくれる。
俺はそれを愛おしく思うのだ…できることならば俺だけに、とも思う。
ごく自然な体で優しく頭を撫で、そのまま頬へと手を這わせれば此方へと抱き寄せる。
セシリアは抵抗することなく此方へと抱きつき、せがむような目で俺を見つめてくる。
俺はそのまま顔を近付け唇を重ねる。
子供のようなフレンチキス。
誰かに背中側から見られていて気恥ずかしいのだ。
顔を離し、優しく頭を撫でる。
セシリアは顔を赤くしたまま此方を見上げ続けるが…。
「続きは…帰ってからだな」
「む…仕方ありませんわね…」
セシリアは離れようとするが、俺はそれが名残惜しく離さない。
ジィっとセシリアを見つめ笑みを浮かべる。
「愛している、それは信じてもらえるだろう?」
「えぇ、もちろん…わたくしも愛していますわ」
少しだけ強く抱き締めた後に漸くセシリアを離すと、嬉しそうに抱きついてくる。
きっと、俺は彼女達を守っているし守られているのだろう。
ずっと、ずっとこうやって平穏な日々を過ごしていたいと柄にも無く思ってしまう。
だが、それも構わないだろう?
我侭になると決めたのだから。
時間は過ぎ去り、夜。
夕食時、それはもう地獄のようであった。
針のムシロとも言える状態だ。
セシリアにキスしているところを見たのは、のほほんだったらしくあっという間に話が拡散。
無論簪にも伝わり、鬼神の如き活躍により俺の隣をゲット。
ちなみにセシリアは浮かれていたためか、俺の隣を得る事は出来ず離れた位置にいる。
…今思えば、箒の告白を尾鰭付けて流したのはのほほんだったのかもしれない。
のほほんをいずれ沈めねばならん時がくるのかもしれんなぁ…。
俺は簪にご飯を食べさせてあげると言う注目を集めるイベントをこなした後に、天災殿の元へと向かう。
「や、ろーくん。来てくれて嬉しいよ」
「束さんのお誘いだからな」
崖に腰掛ける束さんの背中を見つめる。
束さんは座ったままの姿勢で高く飛び上がり宙返りして着地し、こちらへと向く。
波紋修行者だったのか…。
「機械的にならズームパンチできるんだけどね〜」
「心の中を読むんじゃぁない」
「ねぇ、ろーくん…コアの中はどうなっていたの?」
束さんは興味津々と言った具合で、此方を見つめてくる。
束さんですら、コア世界を覗くことはできないようだ。
どう説明すべきか暫し考え込む。
「綺麗だったよ、福音のコアは…空が大好きだったのだと分かるくらいには。束さん、貴女なのだろう…福音を暴走させたのは」
「さて、それはどうなんだろうねぇ…」
「紅椿のお披露目…それもあえて俺を煽って手加減させない事で、実戦経験を積ませ
浮かれる箒を諌めさせたところでタイミング良く銀の福音の襲来だ…束さんを知っていれば大体気がつく。白騎士事件もそうなのだろう?」
俺は背後にいる千冬さんにも聞こえるように声にする。
束さんとの関係で切っても離せない人物…ましてや、世界最強ともなればな。
白騎士事件時の映像は国に規制され、現在では閲覧ができない状況だ。
しかし、時期を考えてみれば分かると言うもの…当時束さんが興味を示し、友人として接していたのは千冬さんだけなのだから。
「…すまんが、それは口にすることはできない」
「勝手にそう俺が思っていると思えば良い…別に俺には関係がない話だからな。問題はコアに干渉してきた存在だ」
「狼牙…お前にはどういう風に見えていた?」
「頭のイカれた黒い狼だ。しかも無数に現れてきたからな…ただのシステムとは思えなかったが」
「多分、遠隔操作システムを改良したんだろうねぇ…私が丹精込めて潰してあげたのに」
束さんは、今までに見たことがないほどの冷たい笑みを浮かべている。
「あのシステムはISの兵器化を推し進める…ISのスポーツ利用には目を瞑ってあげてたけど、そんなのを私は認めた覚えはない」
「束、システムは兎も角福音を暴走させる必要はなかっただろう?」
「あれあれー、ちーちゃんも私を疑うのかなー?」
「どれだけ長い付き合いだと思っている?」
クスリと千冬さんと束さんは笑い、俺は眉間を揉む。
恐らく、束さんはシステム開発元を洗ってクラッキングを仕掛けるつもりだろう…。
場合によっては世界を相手にしてでもだ。
「束さん、宇宙を目指すのだろう?俺とて上がってみたいのだ…あまり派手にやってくれるなよ」
「うふふ、ろーくんも星々の海に興味があったとはね〜。束さんは嬉しいよ」
「束…狼牙の言う通りだ。あまり派手にやると箒が悲しむだろうからな」
「箒ちゃんなら、いっくん達がいるから平気さ!」
俺はその一言にムッとして思わず詰め寄り、束さんの頬を平手打ちにする。
「ぶ、ぶったね!箒ちゃんにしかぶたれてないのに!」
「喧しい、血縁くらいしっかり愛情を注げ!」
あまりにも束さんは自分も自分以外も切り捨てやすい。
取り返しのつかない事が起きた時に後悔をして欲しくないのだ。
束さんは、小さく唸り声を上げ肩を落とす。
「分かったよ…ろーくんには敵わないなぁ」
「ほぅ…私よりも言う事を素直に聞くじゃないか…」
千冬さんはニヤニヤと笑って此方を見てくる。
俺は肩を竦めるだけだ。
「それじゃ、束さんはアテのない旅に出るぜぃ!あーばよー!」
束さんは崖の先に立つと、某暗殺者のように両腕を広げてダイブしていく。
…束さんなら問題無くヤれそうで怖いな…。
「さて…狼牙…今夜は寝かさんぞ?」
「朝までコース…よかろう、限界と言うものに挑戦してみせよう」
千冬さんと二人でニヤリとして旅館へと戻っていく。
静かな酒の席だったが、朝に一夏にしこたま怒られてしまった。
「あー…飲みすぎたな…酔う程ではないが…」
「狼牙、お前成人まで禁止だからな!」
一夏と二人で荷物を担いで廊下を歩く。
今日は、臨海学校最終日…これから学園に向けて出発する準備をしているのだ。
一夏にガミガミと説教されながら廊下を歩いていると、女将である景子さんが小走りに此方へとやって来る。
「狼牙君、これから帰るのでしょう?良いものを見つけたからこれを持って行きなさいな」
「これは…?」
首を傾げながらも、景子さんから渡された封筒を受け取る。
景子さんはニコニコと笑みを浮かべるだけだ。
「バスの中でお友達と見るといいわよ。さ、もうすぐバスの出発時間だからお行きなさい」
「なんだかよく分からんが…お世話になりました」
「お世話になりました、清洲さん。来ることがあれば、またよろしくお願いします」
一夏と二人で頭を下げ、景子さんと別れてバスに乗り込む。
窓際にラウラが座り、俺が隣に座る。
ラウラはニコニコとした笑顔で此方を見上げてくる。
「父様、臨海学校は楽しかったか?」
「アレさえなければ良い思い出にはなるな…まぁ、楽しかったさ」
ラウラの頭を撫でていると、ブルーのサマースーツを格好良く着こなした金髪の外国人女性がバスに乗り込んでくる。
銀の福音の操縦者だな。
「織斑 一夏君とロボって子いるかしら?」
「織斑 一夏は俺ですけど…ロボなんて子ウチのクラスにはいないですよ?」
「それなら父s…もご!」
俺は素早くラウラの口を手で塞ぎ、首を横に振る。
凄まじく嫌な予感がしたのだ…俺は関わってないことにしようそうしよう。
「へぇ、君と…多分あの銀髪の子ね。私はナターシャ・ファイルス…お礼を言いに来たのよ」
「もしかして…」
「えぇ、考えている通りで合ってるわ」
そう言うと突然一夏の頬にキスをするファイルスさん。
俺とラウラは静かに胸元で十字を切り、一夏に黙祷を捧げる。
なんでかって?
ハハハ、分かりやすい殺気が三名から発せられているからな。
「え…あ、ううん??」
「これはお礼よ、ホワイトナイトさん」
ファイルスさんは悪戯っぽい笑みを浮かべて一夏を見た後、俺へと近づいて来る。
「狼さんにも…」
「おっと、身持ちは硬めにしておきたいのでな…」
顔を近づけてくるファイルスさんの額に人差し指を押し当て笑みを浮かべる。
きっと彼女は銀の福音と会話できていたのだと思う。
だからこそ、伝えておくべきだろう。
「彼女は最後まで貴女の身を案じていた。守ってやれなかったのは俺の責任だ…お礼よりも殴られる方が俺にはお似合いだ」
「そう…でも、貴方のせいではないわよ。気にしないで狼さん」
「そう言ってもらえると幾分か心が軽くなる」
俺が手を退けた瞬間を狙って唇を狙って顔を近づけられるが、ギリギリ頬に逃れることに成功する。
背後からの殺気がすごいな…果たして生き残ることができるか?
「ふふ、今度はその唇にしてあげるわ。バァイ♪」
ファイルスさんは、やはり悪戯っぽい笑みを浮かべてバスを降りていく。
セシリアはおもむろに立ち上がり、俺の席につけられている補助席を組み立ててそこに座る。
「狼牙さん、じっくりと話し合いをしましょうか」
「待て、話せば分かる…落ち着くんだセシリア…!」
セシリアからは般若のオーラが漂う…防げなかったのは事実だが…!!
この後バスの中で延々と愚痴を聞かされたのは言うまでもない…解せぬ。
結局、帰るまで封筒の中身を確認することはできなかった。
「あーあ、あんなにボッコボコにされちまって…こいつ頭おかしくなってんじゃん」
白衣を着た女性は機械につながれている生体ユニットをゴミを見るような目で見つめている。
「あひ、ぎひひ…アヒャヒャ!」
生体ユニット…年端もいかない少女は全身から出せる液体を全て出し、狂ったように笑っている。
汚物も出しているため汚臭が凄まじい。
「ったく、こいつ臓器バラして売りさばいちまいな。どうせ役にたたねぇんだから脳味噌は無人機のコアにでもしちまえ」
非情なセリフと共に今回の戦闘結果のレポートを書き始める女性は楽しそうに笑う。
「コアのデータが取れたのは良い感じなんだけどなぁ…」
亡霊は嗤う、世界の裏で
亡霊は嗤う、闇の底で
亡霊は嗤う、犠牲者の声と共に
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