【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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狼、再び

爆発音が聞こえる。

聞きなれた声が響く。

耳障りな音が響く。

 

ここは…?

 

[お目覚めね…銀の福音は乗っ取られたわ]

 

どうやら、俺はヘマをやらかしたようだ。

激痛に顔をしかめながら海の底で体を起こす。

全身の装甲は脱落し、背部のウイングスラスターもズタボロだ…戦える状態ではない。

だが、それでも…それでも俺が俺であるために…銀の福音の願いを叶えるために飛ばなくてはならない!

 

[ロボ…第二形態移行の準備は出来ているわ。闘うのでしょう?]

 

静かに頷き、俺は視界に表示される第二形態移行のためのプログラムを走らせる。

その瞬間、第二形態移行が始まると同時に俺の脳内に刷新された天狼の機能が送り込まれる。

まず各関節に備えられていた矮星は大きく形状を変化させ、両腕両足のブレードエッジ装甲と融合。

より効率良くエネルギーを集める為に、腕の矮星と融合したブレードエッジ装甲はブレードトンファー『一式王牙』へと変化を起こす。

一式王牙のブレード部分にはワイヤーが仕込まれており、射出することで相手を絡め取る事も出来る。

脚部は足首から膝上までブレードエッジが延長されてより鋭くなり『二式王牙』へと。

こちらも膝先の切っ先がワイヤーブレードになっている。

両の掌には矮星から供給されるエネルギーによって短射程ながらも放つ事が出来るエネルギー砲『咆哮銀閃』が備えられる。

両肩には狼の頭を模したセシリアのブルー・ティアーズと同じビット兵器『群狼』が形成される。

射撃こそ出来ないものの、俺の号令一つで矮星で出来た牙が相手を噛み砕くまで追いかけ続ける。

背面ウイングスラスターは可変装甲内に展開装甲のノウハウを取り込み、防御形態ではマント状に俺の体を覆う。

全力稼働状態では一対の翼にこそなってしまったものの、展開装甲が生み出す爆発的な推力で天狼以上の加速性能を実現させた。

俺を殺す気か、この機体は…。

 

[いいえ、あなたの単一仕様能力をフルに使うための機体よ]

 

単一仕様能力…『天狼』…成る程、俺らしい。

先ほどの共振現象は『天狼』の効果の一つだったようだ。

そしてもう一つの効果は矮星から供給されるエネルギーが続く限りだが、体にかかる加速Gを大幅に軽減する上に零落白夜を除くエネルギー兵器の無効化、実体弾の威力減衰能力を持ったフィールドを自機の周囲に展開させる。

今まで俺の体がギリギリミンチにならなかったのは、要所要所でこれが発動していた為の様だ。

第二形態移行をするとどうやら傷も癒えるようだな。

 

[…そうね。いま、一夏君も第二形態移行して福音に闘いを挑んでいるわ]

 

一夏もか…第二形態移行のお陰で怪我の具合も良いようだな。

では、行こうか…銀の福音の願いを叶えるために。

 

 

 

「うおおおお!!」

 

一夏は裂帛の気合と共に銀の福音へと雪片を構えて突撃を仕掛ける。

白式雪羅…大型化したウイングスラスターは銀の鐘を捉えるのに充分な推力を生み出す。

左腕に備えられた兵装『雪羅』はシールド、荷電粒子砲…そして零落白夜をクロー状に展開可能な多用途武装だ。

一夏は、機体の変化にこそ戸惑ったがすぐに自分の手足の様に扱うことが出来た。

不思議な感覚もする。

時折一夏が夢で見た子供の声がするのだ。

フッと笑いながら銀の福音と斬り結ぶ。

 

「再戦だぜ、福音!!」

『アハハハハハ!!」

 

銀の福音は雪片をエネルギーです形成した手で掴み、逃さないようにすると光の翼で一夏を覆い隠す。

しかし、一夏はこれに冷静に対処することができた。

雪羅のクローモードで零落白夜を展開し、光の翼ごと銀の福音の装甲表面を切り裂く。

シールドエネルギーの消費が激しい為に発動は一瞬。

福音に目立ったダメージは与えられなかったが、拘束から逃れることに成功する。

 

「くらえ!!」

 

一夏は雪羅にエネルギーを充填し、荷電粒子砲を発射。

銀の福音に対して直撃させることは出来なかったものの、着実にダメージを与える。

 

「燃費が悪いのは相変わらずか…早々に決着をつけないとな!」

 

一夏は視界の端に映るシールドエネルギー残量を見て舌打ちをする。

不意に学年別トーナメント決勝で、狼牙がラウラに言っていた言葉を思い出す。

『笑え…大胆に、不敵に…どんな状況になってもだ』

一夏はその言葉に従い、大胆不敵な笑みを浮かべる。

不思議と心は落ち着きを取り戻し、余裕すら感じられる。

 

「おおおおお!!」

 

一夏は再び瞬時加速で突撃をしかけ、狼牙譲りのヒットアンドアウェイで幾度も切り結んで行く。

銀の福音は闘牛士さながらに一夏の斬撃をいなし続け、しかしそれでもじわりじわりとシールドエネルギーを削り取られていく。

 

「これで終わりにしてやる!!」

 

ついにすれ違いざまに胴体を斬り払う事に成功した一夏は、急速反転してウイングスラスターの出力を全開にし、全力の瞬時加速を行う。

銀の福音も示し合わせたかのように瞬時加速で一夏に突撃しながら、銀の鐘によるエネルギー弾をばら撒いてくる。

一夏はそれすら物ともせず、まるで白い流星の様に一直線で突っ込む。

 

「喰らえぇっ!!」

 

一夏は雪片と雪羅の零落白夜を同時展開、一気呵成に同時に斬り込むが銀の福音はまるで織り込み済みだと言わんばかりに瞬時加速を後方にかけ、直撃だけは避ける。

 

「届かないっていうのか!?」

 

銀の福音は一夏を捕縛せんと光の翼を伸ばしてくるが、その悉くが獣の唸り声を上げる二匹の銀の狼に噛み砕かれていく。

 

「なっ!?」

「選手交代だ…銀の福音の願いを叶えてやらなくてはならんのでな」

 

 

 

俺は海中から一夏が捕縛されかけている事に気付き、両肩から『群狼』を射出して銀の福音へと牽制を行わせる。

『群狼』の牙は矮星で出来ており、相手を噛み砕き続ける限り延々と敵機を追いかけ続ける。

『群狼』は一夏を捕縛しようと伸ばす光の翼に狙いを定め一気に噛みちぎる。

福音は新手の攻撃に驚いたのだろうか、後方へと瞬時加速で下がる。

海中から俺は飛び出し、一夏の前へと出ると『群狼』が両肩へと戻ってくる。

 

「なっ!?」

「選手交代だ…銀の福音の願いを叶えてやらなくてはならんのでな」

 

マント状に体を覆うウイングスラスターからエネルギーが噴き出し、布のように揺らめいている。

俺は、一夏へと軽く顔を向ける。

 

「それとも一緒にやるか?」

「へ、へへ…もちろんだぜ…狼牙!」

 

一夏は頷き、俺の隣に並ぶ。

軽く互いの拳を打ち合わせ、俺は最大稼働状態へと移行させる。

『私を壊して』それが銀の福音のコアが望んだ願いだ。

聞き届けたのであれば叶えてやらねばなるまい…それが救いになると信じて。

 

「セシリア達に海水浴を続けさせるのも心苦しいからな…一気に破壊するぞ」

「おう…今度こそ止めてやる…!」

 

銀の福音は俺に狙いを定めたようだ…散々中で暴れまわったからな。

ウイングスラスターから展開装甲が展開され、俺は瞬時加速を行い一瞬で福音の目の前に出現し、思い切り蹴り上げる。

単一仕様能力により、体に掛かる負担が嘘のように消えている…なるほど、真の意味でのフルスペックとなるか。

銀の福音は反応することすら許されず、強かに蹴り上げられて無防備な状態を晒す。

 

「そっちに送るぞ!」

 

動きが止まった銀の福音を回し蹴りで一夏の方へと弾き飛ばすと、銀の福音は弾き飛ばされながらも銀の鐘で俺を集中的にエネルギー弾で砲撃を仕掛けてくるが、俺はそれを涼しい顔で見つめるだけだ。

単一仕様能力により、銀の鐘のエネルギー弾は俺に触れる前に全て霧散してしまう。

ガンナー殺しだな…撃っても牽制にすらなりはしない。

 

「堕ちろぉっ!!」

 

一夏は弾き飛ばされる福音に雪片で斬りつけ零落白夜を展開し、一気にシールドエネルギーを削り始める。

焦りを見せた福音は至近距離から銀の鐘による砲撃を行おうとするが、俺がそれを許すとでも思うのか?

素早く下方から瞬時加速をかけ、福音へと蹴り込み弾き飛ばすと同時に『一式王牙』を振りワイヤーブレードを射出し絡め取る。

 

「その機体を乗っ取った事を後悔すると良い」

 

俺は素早くワイヤーを引き、銀の福音を引き戻しながら瞬時加速を行い、掌底を叩き込むのと同時に『咆哮銀閃』を放つ。

再び弾き飛ばされる銀の福音は抵抗と言わんばかりに銀の鐘を放ってくるが、やはり無意味に終わってしまう。

俺はまるでヨーヨーをするようにワイヤーブレードで引き寄せては弾き飛ばすを繰り返すが、銀の福音は俺が引き寄せた瞬間に光の翼を広げ俺を包み込んでくる。

 

「往生際の悪い…覚えておけ、いつか殺しに行ってやるからな…」

 

俺の言葉に恐怖を覚えたのか、狂ったように至近距離でエネルギー弾の雨を降らせるが決して俺には届かない。

この『天狼白曜』(てんろうはくよう)と銀の福音はとことん相性が悪い。

銀の福音はエネルギー兵器しか持っていないため、俺の単一仕様能力の前ではただ早いだけの機体と化してしまうからだ。

光の雨の中、俺は銀の福音に裏拳から背後に回りこんでからの回し蹴りで一夏の方へと叩き込む。

 

「いけぇっ!!」

 

弾き飛ばされてきた福音に向け荷電粒子砲を放つと、一気に俺の方まで銀の福音が押し戻されてくる。

 

「散華しろ…悪意と共に!」

 

銀の福音に向け瞬時加速を行い、右の掌にエネルギーを充填。

その背に思い切り叩きつけ『咆哮銀閃』を発射する。

 

『キアアアアアア!!!!』

 

銀の福音は漸くシールドエネルギーが切れたのか、叫び声を上げて足元から量子化していく。

現れたのはコア世界で助けた金髪の女性だ。

気絶しているようで、グッタリとしているので体を抱きかかえる。

 

「狼牙!」

「銀!」

 

一夏と箒が俺の名を叫び此方へとやってくる。

 

「け、怪我は…怪我は大丈夫なのか?」

 

箒は心配そうにこちらを見つめてくるが、俺は肩を竦めて首を横に振る。

 

「第二形態移行のお陰でボロボロだった体も元通りだ。何とも便利なものだな、ISと言うものは」

「俺も目を覚ましたらだったしな…っと、皆を引き上げないと!」

「箒、すまんが福音の操縦者を頼む」

「あ、あぁ…」

 

箒に操縦者を預けると、俺はセシリア達を回収しに海面まで降下する。

セシリアと簪は海面を漂いながら涙を流し、手を差しのばしてくる。

 

「待たせたな…帰ってきたぞ」

「し、心配させすぎです!」

「狼牙…」

 

セシリアと簪の腕を掴み引き上げると体に抱き着きしがみついてくる。

今は、されるがままにしておく…心配をかけさせたしな。

 

「ラウラ、大丈夫か?」

「父様の様に長くは保たせられなかったが…大丈夫だ」

 

肩の群狼を一基射出し、ラウラに掴まらせれば背中まで運び背負う形にする。

 

「第二形態移行…したのですね」

「セシリアやラウラのISから武装を盗んできたようだ…」

 

ワイヤーブレードにビット兵器、掌のエネルギー兵器…それぞれのISに備えられた物ばかりだ。

個人的に欲しいとも思っていたものだな…白が色々気を利かせたらしい。

 

「父様のISと同じ武装があって私は嬉しいぞ」

「機密関連で五月蝿そう…」

「その辺りは束さんに頑張っていただこう」

 

非常にゆっくりとした速度で、旅館近くの浜辺を目指し飛行し始める。

するとコアネットワーク経由で千冬さんから連絡が入る。

 

『全員無事か!?』

「問題無い…けが人も無しで万々歳だ」

『…銀、貴様は後で懲罰だ』

「なん…だと…!?」

 

事実上の死刑宣告に俺は意気消沈とする。

暫くして、漸く浜辺へと辿り着き、三人を降ろせば漸くISを解除する。

俺の方を見て一夏達が口をパクパクとさせ何かに驚いている。

一体なんだ?

俺は首を傾げ不思議がっているとラウラが物凄く残念そうな顔をする。

 

「一体、何に驚いているんだ?」

「その…父様…」

「狼牙…髪の毛が…」

 

髪の毛…?

そう言えば心無しか頭が軽いな。

少しだけ、ほんの少しだけ嫌な予感がして自慢の三つ編みを前に垂らそうとするが…。

 

「ない…馬鹿な…」

「ろ、狼牙さん、しっかりしてくださいまし!?」

 

俺は浜辺に四つん這いになって蹲る。

髪の毛が焼けて無くなっているのだ。

肩甲骨付近までしか無く、毛先から焦げたような跡がある。

一体、どれだけの努力をしてきたと思ってるのだ…。

 

「髪の毛ぐらいまた伸ばせばいいじゃない」

「鈴よ、同じ目にあって同じ事が言えるか…?」

 

俺はフラフラと立ち上がりながら、鈴を睨み付けるが鈴は目を逸らして下手な口笛を吹くだけだ。

 

「命があるだけマシだと思おうぜ…」

「そうだな…それが建設的だな…」

「銀君が無事で良かったよ…ラウラ以外皆お通夜状態だったし」

「ギリギリな…矮星を破壊されんようにしていて正解だった」

 

最後のあの一瞬、俺はウイングスラスターを盾代わりに関節部の矮星を可能な限り守り海へと落ちたのだ。

どちらにせよ死ぬかと思ったが。

全員で和気藹々と話していると、千冬さんが教師陣を引き連れやってくる。

 

「皆、ご苦労だった…福音の操縦者を医務室へ運ぶように」

 

千冬さんの言葉で連れてきていた教師の何人かは銀の福音の操縦者を旅館へと運んでいく。

暫くして深いため息と共に俺に怒気が向けられる。

 

「銀ぇっ!歯ぁ食い縛れぇ!!」

「グッ……!!」

 

千冬さんは一瞬で俺に踏み込むと、渾身の右ストレート…いや、コークスクリューを俺に叩き込み、俺は無様に地を転がっていく。

 

「ろ、狼牙さん!?」

「狼牙!」

「流石、きょ…織斑先生だ…」

 

ラウラよ…言うべき言葉はそれだけなのだろうか?

千冬さんの怒気にあてられ、皆背をピンと伸ばし直立不動で立っている。

俺は生まれたての小鹿のように足を震わせながら立ち上がり、足を縺れさせながら列へと戻る。

一体どんな剛拳をしているのだ…千冬さんよ。

 

「よくやった…と言いたいところだが無断で出撃してタダで済むと思っているのか?帰ったら特別トレーニングと反省文の提出を全員に課す。銀に関しては私がボロボロになるまでシゴいてやるから覚悟しろ」

「承知」

 

此れから地獄を見るんだな…俺は…。

軽く絶望とした顔をしていると、山田先生が宥めるように千冬さんに話しかける。

 

「まぁまぁ、織斑先生…皆無事に帰ってきましたし、メディカルチェックもしなくてはなりませんし今日のところは此処で…」

「はぁ…お前達…本当によくやったな」

 

千冬さんは深いため息と共に労いの言葉を残して一足先に旅館へと戻っていく。

山田先生はニコニコとした顔をして皆を見てくる。

 

「それでは女子から先にメディカルチェックをしますので、先に大宴会場に向かってくださいね」

 

山田先生はそれだけを言うと、小走りで走り去っていく。

色々と機材の準備があるのだろう。

先程の体罰が堪えた俺は、どっかりと砂浜に倒れこんで深く溜息をつく。

 

 

「狼牙さん…先に行ってますわね…」

「狼牙、後でね」

 

セシリアと簪は此方の顔を覗き込んでクスリと笑うと女子全員で旅館へと向かう。

砂浜には俺と一夏だけだ。

一夏は俺の隣に腰掛け苦笑する。

 

「皆、守れたって思っていいんだよな?」

「俺は…助けてやれなかったがな」

「誰を助けられなかったんだ?」

 

体を起こし、水平線を眺める。

福音のコアの世界は、今眺めているこの空よりも美しかった。

きっと空が好きだったのだろう。

飛ぶことが何よりも嬉しかったのだろう。

しかし…。

 

「福音のコアだ。撃墜された時に共振現象でコアと対話してな。無理矢理外部から動かさせられていた…最後は、コアの人格が殺されてしまった」

「そんな事が…あったのか…」

「俺は許さんよ…あんな事を平気でやれる連中を…」

「あぁ…そうだな…」

 

一夏と二人で水平線を眺め、頷く。

せめて、あの心が救われていることを祈って。


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