【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜 作:ラグ0109
「見つけた!」
「あれが、例のお姉ちゃんとやらか!?」
俺は暮れなずむ空を銀の福音を背に乗せ疾走する。
銀の福音の案内によって、宙に漂うようにして気を失っている鮮やかな金髪の女性をすれ違いざまに口に咥えて回収する。
「た、食べないでね!?」
「ひっへいふぁ!(失敬な!)」
急制動をかけて停止すれば、女性を器用に背に乗せる。
さて、どうしたものか…女性を回収した途端に太陽が沈み始め、星の瞬く夜空へと変化する。
こんな時に不謹慎な話だが、現代では中々お目にかかれない光景に感動を覚える。
「だ、誰かここに、くる!」
「千客万来だな…」
背後をチラッと見ると先程から、銀の福音を捕獲しようとする黒狼が狂ったように走ってくる。
だが、銀の福音が言う侵入者では無いようだ。
「お待たせ、ロボ…あら、また女の子に懐かれたのかしら?」
「いやはやまったく…遅いぞ、白」
俺の傍に着物を着崩した巨大な鉄扇を肩に担いだ白が現れる。
どうやら、束さんが攻勢をかけ始めているらしいな。
白は俺の背に乗っている二人を見てクスリと笑う。
「さ、仕事を始めましょう…今、セシリアちゃん達が福音に攻撃を仕掛け始めているわ」
「承知、あの黒いのを追い出すぞ」
「貴方に影響されてあんな姿になったみたいね…気品も何もないわねぇ」
白は軽々と鉄扇を開き、仰ぐと無数の人参型のミサイルが展開されていく。
たーさんや…妙に締まらん物を作らんでもらえるだろうか?
「あら、良いじゃない可愛くて」
「心を読むな心を」
「な、なんでそんなに落ち着いていられるの…?」
「それはまぁ…」
「信頼しているから、よ」
俺は福音と女性に背中から降りてもらい、軽く前足で蹴るような動作を行う。
あの時以来か…こうして背中を預けて闘うのは…。
俺は自然と笑みを浮かべて姿を消す。
次に現れた時は黒狼の背後…口には黒狼から噛みちぎった頭を咥えている。
黒狼の頭はパクパクと口を開け閉めしているが、それを構わずに一気に噛み砕き吐き捨てる。
「やはり、この反応速度はISの比ではないな…あちら側に戻った時のギャップに面食らいそうだ」
「生き生きとしているじゃない…なら、私も頑張らなくちゃね」
白は鉄扇を振るうと四方八方に束さんの作った人参型ミサイル…恐らくコアの保護を目的とした攻勢防壁を展開し、再び現れる黒狼へと突撃させていく。
これ以上、好き勝手はやらせんよ。
星々の輝く夜空の中、俺は反撃の狼煙と言わんばかりに咆哮を上げる。
向こうも危機感を覚えたのか、無数の黒狼を展開し襲いかかってくる。
だが、それがなんだと言うのだ…『ただ再生するしか能がない』程度ならば数にもならんのだ。
ましてや今は、白と束さんのサポートがあるのだから。
狂ったように紅い月が照らす海上にて蹲り苦しむように丸まっている銀の福音は、何かに気付いたかのように頭を上げると高速で飛来した二発の榴弾に被弾し大爆発を起こす。
「初弾命中、衛星データリンク…情報更新!続けて砲撃を行う!」
ラウラは乾いた唇を舌で舐めて湿らせると、衛星から随時更新される情報から福音の動きを予測しシュヴァルツェア・レーゲンの両肩に備えられた八十口径レールカノン『ブリッツ』二門から可能な限りの連射で銀の福音へと砲撃戦を仕掛けていく。
遠間から放たれる銀の鐘は、ラウラを守るように配置されている正面と左右の物理シールドで凌いでいく。
シュヴァルツェア・レーゲン専用砲戦パッケージ『パンツァー・カノニーア』だ。
ラウラは忌々しげに舌打ちする。
「白蝶からのデータ通りの速さだな!だが、父様が立ち向かったのだ!軍人である私は退かん!」
ブリッツから放たれる榴弾は、その悉くが銀の福音の銀の鐘によって落とされ、着実に接近してくる。
シュヴァルツェア・レーゲンの砲戦パッケージは、機動を殺して過剰な火力と防御力に特化したもの…つまり、どう足掻いても銀の福音からは逃れられない。
これが一対一の決闘であるならば。
突如上空から一筋の閃光が、銀の福音の下方から複数の弾丸が襲い掛かり『動きの鈍っている』銀の福音に直撃する。
「セシリア!簪!獲物は掛かったぞ!」
「えぇ、狼牙さんの真似ではありませんが…」
「狩場へようこそ…かな?」
セシリアのブルー・ティアーズは、全身に配置されていたビットの機能を封印。
腰部にスカート状に装着し、全て追加スラスターとして機能させる。
手に持つ全長二メートル超の大型レーザーライフル『スターダスト・シューター』。
セシリアはバイザー状の高感度ハイパーセンサー『ブリリアント・クリアランス』奥でニヤリと笑みを浮かべている。
簪は第二世代打鉄に超長距離狙撃パッケージ『撃鉄』を装着させ、狙撃ライフル『三八式機兵銃鬼ヶ島』の追加ハイパーセンサー越しに一切の油断なく銀の福音へと狙撃を着実に行っていく。
銀の福音は堪らず後退しようとするが、その背後に無数の銃弾が襲いかかってくる。
セシリア達に気を取られている内に、ステルスモードでシャルロットが背後から両手に持った連装ショットガン『レイン・オブ・サタデイ』で至近距離からの射撃を行ったためだ。
銀の福音は、銃弾の雨に晒され距離を開けながら銀の鐘による砲撃をシャルロットに浴びせようとするが、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの防御パッケージ『ガーデン・カーテン』によるエネルギー展開型シールド二枚と実体シールド二枚で防ぎきる。
「くぅ…!重いけど防げない訳じゃない!」
シャルロットは得意の
榴弾、実体弾、エネルギー弾の檻に捕まった銀の福音は堪らず急上昇し檻から逃げようとするが再び上空から見えない弾丸によって押し返される。
「逃げんじゃないわよ!!」
衝撃砲機能増幅パッケージ『崩山』を装着した甲龍を身に纏う鈴による砲撃だ。
鈴は計四門の龍砲を散弾上に発射し、福音を檻の中へと押し込み返す。
ここに福音を閉じ込める銃撃の檻が完成したのだ。
『いい、箒ちゃん。確実に銀の福音の胴体にそれを突き立てて』
「分かっている…姉さんを…信じる」
銀の福音が動きを止め銀の鐘を最大稼働状態で放とうとした瞬間海面が爆ぜ、短刀を持った紅椿が飛び出してくる。
高速機動特化に展開された展開装甲は、瞬時加速を天狼と同等の速度まで押し上げる。
しかし、束が作り上げた特別機…箒に対する加速Gは大幅に軽減されている。
(これが…銀が感じている加速G…だが、紅椿なら!)「くらえええ!!!」
裂帛の気合と共に箒は銀の福音の胸元に短刀を突き立てた。
突如世界に亀裂が入った。
比喩でもなんでもなく、星々が瞬く夜空にヒビが入り光が溢れ出したのだ。
俺は無数の黒狼の死骸の上に立ちその光景を見る。
「随分と時間が掛かったけど…これで王手よ」
「漸く、帰れるか…」
パリン、と言う乾いた音と共に夜空が鮮やかな青空へと変化していく。
黒狼の死骸も光の粒子となって消えていく。
銀の福音は嬉しそうな顔をして、遠くから此方へと手を振っている。
白へと近づき軽く体を擦り付ける。
「お疲れ様、ロボ。やる事が済んだし、そろそろ元に戻ると思うけど…大怪我しているから激痛が始まるわよ?」
「寝ている間に運んでくれないものだろうか…」
「ある意味自業自得よ…反省なさい?」
ぐ…言い返せんな…だが、手段は選べなかったからな。
俺は甘んじて受けることにし深く溜息を吐き出す。
突如黒狼の笑い声が響く。
「あははははは!みんな!みんな!コワレテシマエバイイ!!」
「往生際の悪い!」
唸り声を上げ辺りを見渡すが黒狼の姿が見えない。
何処だ…奴は何処にいる!?
「ロボ!」
「福音!逃げろ!!」
「っ!?」
今までよりも巨大な黒狼が、銀の福音の足元から大口を開けて迫り来る。
銀の福音は咄嗟に操縦者を此方側へと跳ね飛ばす。
白が操縦者を受け止めた瞬間に俺は福音を助けるために駆け出す。
間に合え…間に合え!!
「お願い…私を…!」
銀の福音は何か諦めた様な顔をしながら、此方へと嘆願する。
黒狼が巨大な顎を閉じた瞬間、再び闇に閉ざされた。
『キアアアアアア!!!』
「なっ!?どうなっているんだ姉さん!?」
『福音のコアがコアネットワークから切り離されてる…!」
銀の福音は狂い笑うように体を震わせ、体を仰け反らせラウラを見つめる。
箒が素早く足の展開装甲からエネルギーの刃を発生させ蹴り込もうとするが、銀の福音は瞬時加速でラウラへと掴みかかり光の翼で包み込み、ゼロ距離から銀の鐘の砲撃を浴びせ撃墜する。
『アハハハハハ、アハハハハハ!!』
「ラウラ!?このぉっ!!」
シャルロットは瞬時加速を多用しながら連装ショットガンで銀の福音へ攻撃を浴びせるが、光の翼が悉くを打ち払い、翼を触手のようにシャルロットへと伸ばし一気に締め上げる。
「うああ……!!」
「やらせない…!!」
簪は狙撃ライフルを量子化して代わりに近接用薙刀を呼び出しシャルロットを締め上げる触手を切り裂こうとするが、新たに生えてきた光の翼の触手に阻まれ捕縛され、装甲を締め潰されシャルロットと打ち合わされて海へと叩きつけられる。
「化け物……!!」
動きが止まった一瞬を狙ってセシリアはレーザーライフルで狙い撃つが、銀の福音は光の翼でレーザーを弾き飛ばし瞬時加速でセシリアへと肉薄する。
「まだですわ!」
セシリアはショートブレードを呼び出し近接戦を開始するが、それすらも嘲笑うように両腕から発生させたレーザーソードに阻まれ装甲を切り裂かれていく。
「一矢報いなければ…ならないのです!」
セシリアはショートブレードを銀の福音に向かって投げつけながら後方へと瞬時加速を行うが、銀の福音は弾くことなく前進してレーザーライフルを切り捨てながら翼で包み込み、セシリアをズタズタにして海へと落とす。
「箒!タイミング合わせなさいよ!?」
「わかっている!よくも仲間たちを!!」
鈴は計四門の龍砲を最大出力で放ち銀の福音へと直撃させるも銀の福音は我関せずといった顔で第一形態から二倍に増えたオールレンジ攻撃を鈴へと叩き込む。
鈴はそれを体を庇うようにして両腕を交差させ瞬時加速を行いながら無理矢理突破する。
箒は鈴に気を取られている内に上空へと舞い上がり、空裂で銀の福音の片翼を切り裂く。
『アハハハハハ!』
「笑ってんじゃ!!」
「ない!!」
鈴は双天牙月を二刀流で、箒は雨月と空裂の二刀流で銀の福音に舞うように斬りかかるも銀の福音はその場から動かずに光の翼だけで計四振りによる斬撃をいなし続ける。
「なめんじゃないわよ!」
鈴は斬撃中に龍砲を銀の福音へと向けるが、鈴の後方に銀の福音が瞬時加速を行い回り込み、背後から『崩山』を切り捨て、行き場を失った龍砲の圧が爆発を起こして鈴を巻き込む。
「紅椿!」
箒は自身が纏うISを叱咤するように叫び空裂を振るうが、途端に出力が低下し、展開装甲が閉じてしまう。
「そんな…エネルギーが!?」
呆然とした所に銀の福音が箒の首に触手を巻きつかせて締め始める。
「ぐ…あ…」
ギリギリと首を絞め上げながら、銀の福音はゆっくりと光の翼で箒を覆い始める。
まるで恐怖を煽るように、嘲笑うように。
そこに人の悪意が垣間見れる。
箒はこれから起こることに恐怖し、目を閉じる。
最後くらい…一夏の近くに居たかった…そんな風に思っていると、突如銀の福音が弾き飛ばされて箒は息苦しさから解放される。
ゆっくりと目を開けると、形状が大きく変化した白式を身に纏った一夏が現れた。
「これ以上、俺の仲間はやらせねぇ!!」
一夏は雪片二型を構えると、銀の福音へと躍り出るのだった。
天狼第二形態は次回で…