【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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改訂版です。申し訳ない…


銀の福音は誰が為に鳴る

「それでは、現状を説明する」

 

千冬さんは今までに見たことがないような険しい顔をし、専用機持ち達を見つめる。

旅館の一番奥に設えられた大宴会場を閉め切り、雰囲気はさながら軍のブリーフィングそのものだ。

空中投影ディスプレイには太平洋上を移動する物体の航跡が映されている。

このままだと日本に到達するな…。

 

「二時間前、ハワイ沖で試験運用中だったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型『軍用実験IS』銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が制御下を離れ暴走。監視空域を離脱したとの連絡があった」

 

実験機…と言えば聞こえは良いが、要は軍事利用目的で作られたISか…まったくこんな事ならば運用協定なんぞ破棄してしまえ。

軽くため息をつきながら腕を組む。

そんなISを俺たちで止めろと言うのか…?

 

「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから二キロ先の空域を通過することが分かった。時間にして五十分後だ。学園上層部からの通達で我々教員で周辺海域の閉鎖、そして専用機持ち達により銀の福音を撃墜する」

「随分と巫山戯た内容だな…それは轡木さんからの通達なのか?」

「銀…それは、機密に関わるため明かすことができない」

 

千冬さんは歯を食い縛り怒りに耐える。

なるほど、『表』の理事長の独断と言ったところか…死人が出るかもしれん状況に平気で放り込むとはな、余程世間にアピールしたいらしい。

 

「話の腰を折ってすまなかった…千冬さんは立場上仕方あるまいよ」

「……作戦会議を始める。意見があるものは挙手するように」

 

セシリアが真っ先に挙手をする。

 

「それでは、目標ISの詳細なスペックデータをお願いします」

「わかった。ただし、これらは二カ国の最重要軍事機密だ。決して口外はするな。情報漏洩が発覚した場合、諸君には査問委員会による裁判と最低でも二年の監視がつけられる」

「了解しました」

 

そうして空中投影ディスプレイに映し出された銀の福音のスペックは、はっきり言ってバカバカしいにも程があった。

最高加速度は天狼にやや劣る程度だがそれでも他の追随を許さない速度を持ち、広域殲滅兵器銀の鐘(シルバー・ベル)はオールレンジ攻撃を目的に付けられたものだ。

こんなもの…核兵器同然の物を作っていたのか!?

 

「攻撃と機動の両方に特化した機体ね…甲龍のスペックを軽く上回っているから向こうの方があたしより有利…」

「本国からリヴァイヴ用の防御パッケージが届いてるけど…それでもこのスペックじゃ受け続けるのは厳しいな」

 

セシリア、鈴、シャルロット、ラウラは四人で話し込む。

簪が此方を見上げてくる。

 

「これだけのスペック差…やっぱり、織斑君の…」

「そうなるだろう…酷な話になるがな」

 

簪の言葉に一同が注目し、俺は静かに頷く。

箒と鈴に言わせるのは気まずい…で、あれば俺が悪役になれば良い事だ。

 

「千冬さん…一つ提案する」

「銀、言ってみろ」

 

俺は苛立ちを隠しながらゆっくりと息を整える。

簪とセシリアは、俺の気配を敏感に感じ取ったのか気まずい顔になる。

気にする必要もなかろうにな…。

 

「一夏の零落白夜による一撃必殺を提案する」

「俺がか!?」

「死んでも良いのならば俺が今すぐ撃墜してくるが?」

「「狼牙(さん)!?」」

 

俺の言葉にセシリアと簪は憤り立ち上がる。

天狼のリミッターを削除し、常時フルスペックを使用すれば撃墜することは可能だろう。

だが、そうした場合慣れていても俺の身体が保たない。

内臓に肋骨が刺さるか、ミンチになってる事だろうよ。

俺は二人を手で制し、座らせる。

正直イラつき過ぎているな…言い過ぎだ。

 

「すまん、少し冷静さを欠いたな。現状俺がお前を運んで零落白夜で叩き斬った方が一番確実な戦法なんだ」

「狼牙…」

 

一夏は現状に置いてけぼりにされ過ぎて、尻込みしている。

仕方あるまい…普通なら自衛隊なり二カ国の軍が対処すべき案件なのだからな。

 

「織斑、これは訓練ではない実戦だ。だが、もし覚悟がないなら無理強いはしない」

 

千冬さんは何処か願うように一夏に忠告をする。

何処の世界に死地に実の弟を…唯一の家族を放り出す人間がいると言うのだ。

しかし、千冬さんの言葉に一夏は覚悟を決めたようだ。

 

「わかりました、俺がやります…やらせてください!」

「分かった、それでは詳細な作戦を…」

 

これから詰めの作業に入る、と言ったタイミングで天井から束さんが飛び降りてくる。

 

「ちょーっと待って欲しいな!こう言う場合は最新鋭機の紅椿にお任せあれ!」

「出て行け、束」

「ちーちゃん、紅椿ならろーくんの天狼よりも柔軟に対応できるし、最高速度だって上がるんだよ?」

「どう言うことだ?」

 

俺としては勧められんな…一夏は対無人機で一度実戦を経験している。

だが、箒は?

あいつはお遊びの中でしか闘っていない…今回は一瞬の判断ミスが危険へと追い込みかねん。

 

「紅椿は全身が展開装甲になってるから、パッケージ無しで即時対応可能な第四世代型なのだ〜」

「そんな…机上の空論だったはずですのに…」

「本当に…天才にして、天災…」

 

束さんの言葉にセシリア達は意気消沈としてしまう。

現状世界各国は第三世代型試作機を必死に作っている真っ最中だ。

束さんはそれを嘲笑うかのように世代を飛び越え、次世代型ISを作り上げたのだ。

 

「やりすぎるなと言ったはずだが?」

「愛する箒ちゃんが悲しまないようにするためだからね!」

 

束さんはドヤ顔で千冬さんに言い切る。

千冬さんはしばらく考え込んだ後、箒を見つめる。

 

「篠ノ之、やれるな?」

「もちろんです。必ず、一夏と二人で成功させてみせます」

「分かった…それでは織斑、篠ノ之両名による目標の追跡及び撃墜とする。作戦開始は三十分後だ。しっかりと準備をしろよ…解散!」

 

俺は足を組み動かず、全員が出て行くのを待つ。

 

「狼牙?」

「狼牙さん、わたくし達も…」

「少し要件がある…先に行っていてくれ」

 

存外に俺の声音は冷たかったかもしれない。

簪とセシリアは少し落ち込んだ様子で先に部屋を出て行く。

部屋には、千冬さんと山田先生だけになる。

 

「千冬さん、セシリアと鈴を貸してくれ…俺が後詰めに出る」

「駄目だ」

「悪いが、今回の作戦…分の悪い賭けになる。機体は良くても中身が未熟な奴が混じっているからな」

 

俺は真っ直ぐに千冬さんを見つめる。

何事も備えあれば憂いなし…あいつらを失う訳にはいかない。

大事な友人なのだ。

 

「なに、成功してしまえば問題が無い話なのだ。仮に失敗してもセシリアと鈴がいれば撤退する時間は稼げる」

「…狼牙、お前も必ず戻ってくると約束できるか?」

「…あぁ」

 

俺は素直に頷く。

戻らねば皆を泣かせてしまうからな。

 

「分かった、それではお前から凰とオルコットに話しておけ」

「承知」

 

俺は漸く立ち上がり部屋を後にする。

頼むから、成功してくれよ…。

 

 

 

「後詰め、ですか」

「あたし達を選んだ理由はなんなの?」

「セシリアは高機動パッケージを持ち、射撃戦においても絶対の信頼性がある。鈴は一夏と箒とで連携を組みやすい万能機だ…万が一不足の事態が起きた時に対処がしやすい」

 

俺は、セシリア達に事情を説明する。

戦場において絶対はない…あるのは運否天賦だ。

不足の事態に備えておくのは大切なことだからな。

 

「鈴とセシリアのパッケージ換装は?」

「あたしは、紅椿お披露目の時に先に終わらせてるわ。いつでも出られるわよ?」

「わたくしはまだですわね…二十分程時間をいただけますでしょうか?」

 

セシリアが申し訳なさそうに目を伏せる。

ふむ、サポート役がいるか…。

 

「簪、お前だったら量子化を素早くやれるか?」

「ブルー・ティアーズの仕様を説明してもらえれば…大丈夫」

「なら、セシリアは簪と一緒にパッケージ換装を始めてくれ」

「わかりましたわ」

 

セシリアと簪は頷くとブルー・ティアーズの整備を始める。

時間がないな…。

俺は深く溜息をつき、眉間を揉む。

 

「父様…簪が留守番なのは仕方がないとして、私とシャルロットが留守番なのはどうしてなんだ?」

「僕も一夏達の手助けをしたいんだけど…」

 

ラウラとシャルロットが不満そうに頬を膨らませている。

簪は代表候補生で専用機持ちとは言え、肝心の専用機が未完成だ。

それに、この人選は万が一に備えての話なのだ。

 

「後詰めにぞろぞろと数を引き連れる必要はない…成功すればいいだけの話だしな。問題は束さんだ」

「篠ノ之博士が?…あぁ、そういう事なんだな父様」

「どういうことなのさ?」

 

シャルロットが不思議そうに俺とラウラを見つめる。

 

「束さんは世界各国の政府や組織から狙われている。この旅館が襲撃される事態を考慮して…と言ったところだ。ラウラのAICとシャルロットの状況把握能力は防衛戦に於いてこそ真価を発揮するからな」

「そういう事なら、分かったよ。僕達がここを守っているね」

「父様の思うような事が起こらないことを祈る」

「物分りが良くてお父さんは嬉しいよ…」

 

ラウラとシャルロットの頭をポンと撫で、俺は外へと向かう。

腕を組み、海を眺める。

どうしてこんな事になってしまったのやらな…。

遠くで準備をする一夏と箒を見つめ俺は深く溜息をつくのだった。

 

 

 

「そろそろ見えてくる頃合いか?」

「あぁ、一夏…絶対に決めるんだぞ?」

「師匠達が怖いからな…やってみせるさ!」

 

織斑 一夏は篠ノ之 箒の纏う紅椿の背に乗り、銀の福音の追跡を行っている。

アプローチ予定時刻まであと少し…水平線の向こうからソニックブームを纏った何かが飛来してくる。

 

「見つけたぞ、一夏!カウントダウンに入る!」

「いつでもいいぜ!」

 

箒は紅椿の速度を更に上げ、銀の福音の対面からアプローチに入る。

銀の福音は我関せずと言った様子で飛行を続け、一夏がタイミングを見計らって飛び出す。

 

「うおおおおお!!!」

 

零落白夜による一撃は確かに銀の福音に直撃したものの撃墜には至らない。

 

『敵機確認。攻撃行動開始』

 

銀の福音の頭部に備えられた銀の鐘から無数の光弾が発射され一夏へと襲いかかるが、箒が空裂による斬撃でその悉くを切り落とす。

 

「一夏!フォローするから構わず行け!」

「サンキュー!箒!!」

 

一夏は箒と銀の福音を挟み撃ちにし、瞬時加速を多用し幾度も攻撃を仕掛けるが銀の福音はキチガイ染みた精密な動作で機体を制御し、直撃だけは避けていく。

 

「狼牙に比べれば…!!」

「あぁ、そうだ!銀に比べればお前なんて!!」

 

一夏も箒も嫌と言うほど銀 狼牙の瞬時加速目の当たりにしてきたせいか、銀の福音の加速性能にそれ程恐怖心を持つことはなく、むしろ遅いとすら感じていた。

決して目の前から消えるわけではないのだ。

視界に捉え切れるのであれば充分に反応できる。

そこに慢心はない…絶対の自信を持って一夏達は追撃を開始する。

 

「箒!」

「問題ない!私達ならやれる!!」

 

箒は雨月を突き出し、銀の福音の退路を断つ様にエネルギー刃を発しながら瞬時加速を行い、銀の福音に格闘戦を仕掛ける。

雨月で突きを放ち、空裂で断ち切る。

いずれも攻勢エネルギーを纏った状態で放つため破壊力が上乗せされる。

堪らず、上空へと逃げ出した銀の福音を待ち伏せるかのように、一夏が上空から零落白夜を叩き込む。

 

「沈めぇっ!!」

 

遂に捉える事に成功し、零落白夜になで切られた銀の福音は力を失い海へと落ち、沈んでいく。

 

「はぁ…はぁ…やったぜ、箒!」

「あ、あぁ!私たちの勝ちだ!」

 

一夏と箒は互いに抱き合い作戦の成功を喜び合う。

 

『織斑、篠ノ之、福音のパイロットを回収してきてくれ」

「了解」

 

千冬からの指示で一夏は箒より離れ、銀の福音が落ちた海へと向かう。

安心しきっていた。

だが、それも仕方がないことなのだろう。命の取り合いが終わったと思い込んでいたのだから。

海面に到達した瞬間、一夏は光の翼の中に消えた。

 

 

 

「第二形態移行だと!?」

「一夏さんが!」

「一夏ぁっ!!」

 

後詰めの為遅れてやってきていた俺たちは途中まで作戦の成功に安堵していた…しかし、状況は一変。

海に落ちた銀の福音は第二形態移行を行い機能を大幅に強化。

一夏をエネルギーの翼で覆い、ゼロ距離で光弾を浴びせ撃墜したのだ。

箒は狼狽え取り乱しているのか、傷だらけの一夏を抱えたまま逃げ惑うことしかできない。

 

「セシリア、鈴は箒を援護しながら撤退しろ…俺が殿を務める!」

「分かりましたわ!」

「狼牙まで落とされんじゃないわよ!?」

「承知…さぁ、ここからは狼が相手だ!」

 

俺は真っ直ぐに銀の福音へと加速し、箒に向けられる注意を此方へと向けさせる。

 

「鬼さん此方…とな!!」

 

素早く蹴りを叩き込み箒から引き離すことに成功した俺は、セシリアと鈴の援護射撃を背に銀の福音へと肉薄する。

 

「大人しく落ちれば良かったものをな!」

「狼牙さん、撤退を開始しますわ!」

「早く、一夏を連れて行け!狙われては厄介だ!」

 

なんせ、今の一夏はガス欠で無防備な状態だ…攻撃が届いたら本当に死んでしまう。

銀の福音は俺を攻撃対象と認めたのか、苛烈なまでに銀の鐘によるオールレンジ攻撃を繰り出してくる。

俺はそれを極力避けるようにし、付かず離れずを保ち続ける。

第二形態移行を行った為か、速度が天狼と同等か…マズイな。

 

『狼牙さん、此方は戦闘空域を離脱しましたわ!』

「すぐに向かう!」

 

俺が撤退のために距離を開けた瞬間、銀の福音は明後日の方向へと顔を向ける。

なんだ…今の動きは?

システムが暴走していると言う割にはやたらと人間臭い動きを…。

一瞬でも思考に意識を割いたせいかそれが油断となり、銀の福音の逃走を許してしまう。

その行く先は…。

 

[ロボ!あの方角には大きな街があるわよ!?]

「馬鹿な!焼け野原にでもするつもりか!?」

 

天狼は咆哮を上げ翼を広げると瞬時加速を多用し、銀の福音へと迫る。

それを待っていたかのように、銀の福音はその場でターンすると銀の鐘による集中砲撃を開始する。

俺はその何れもを紙一重で避けていき、徐々に銀の福音へと近付いていく。

 

『銀!どうした!?』

「気が散る!白に聞け!」

 

俺は歯を食いしばりながら銀の鐘による砲撃を掠めながら、接近を試みる。

銀の福音はそれすらも嘲笑うかのようにエネルギーの翼を広げ此方を捕らえようとするが、俺は瞬時加速で背後に回り込み寸勁で街から遠ざける様に弾き飛ばす。

 

[千冬、挨拶は抜きで行くわよ?恐らく銀の福音は暴走なんかしていない、乗っ取られているわ!]

『はーちゃん、そんなの無理だよ?ISは外部から干渉できな…そんな…まさか…!?』

『束…?』

「白、手段がない…リミッターを『削除』しろ」

 

俺は瞬時加速を幾度も行い、街から遠ざける様に立ち回ってきたが残り時間が少な過ぎる…このままでは遠からず、犠牲者が出てしまう。

覚悟を決める時が来たな…すまん。

 

[わかったわ…]

『銀、やめろ!死ぬ気か!?』

「死なんよ…帰るべき場所があるからな」

 

白がリミッターを消した瞬間、矮星は赤く輝き最大稼働状態へと移行する。

さぁ、派手に行こう…。

 

「おおおおおおお!!!!」

 

俺は咆哮を上げ、全スラスターを全開にし銀の福音を追撃していく。

しかし、銀の福音も負けずに銀の鐘によるオールレンジ攻撃をデタラメにばら撒く。

弾と弾の合間を縫うようにして、避けていくものの一発、また一発と被弾していく。

身体中の筋肉が、骨が悲鳴をあげる。

俺はそれすらも無視をして銀の福音の片羽根を掴む。

 

「まずは、一つ…もらっていくぞ!」

 

裂帛の気合と共に羽根を引き裂こうとした瞬間、悲鳴のような声が聞こえてくる。

 

「なんだ!?」

 

俺は咄嗟に翼を手放し、距離を開ける。

それを好機と見たのか、銀の福音は銀の鐘によるオールレンジ攻撃を開始し四方八方からエネルギー弾が俺に降り注いでくる。

 

[なに…悲鳴…?]

「このコア、覚醒しているとでも言うのか!?」

 

俺は瞬時加速を多用し、砲弾の雨から逃れれば素早く銀の福音に膝蹴りを叩き込み、両手を組み合わせハンマーの要領で打ち下ろす。

強かに打ちつけられた銀の福音は下方へと落ちていくが、素早く体勢を立て直して再び銀の鐘を起動。

エネルギー弾を狂ったように吐き出していく。

 

『イヤ!!』

「っまたか!」

 

小さい女の子の悲鳴が頭の中に響き渡る。

俺は忌々しげに福音を見つめ、シールドエネルギーを削るために容赦無く苛烈に攻め立てる。

 

[束、データを送るから解析はじめなさい]

『分かったよ、はーちゃん!ろーくん、もう少し粘って!』

「喧しい!気が散るんだ!」

 

何せ、ハイパーセンサーで全周が視認できるとは言え、四方八方から狂った様に吐き出されるエネルギー弾は矮星と非常に相性が悪い。

矮星は物理エネルギーを吸収してエネルギーに転換できるが、非実体エネルギーに対してはその力を十全に発揮できないのだ。

つまり、被弾できない。

被弾しても転換エネルギーで軽減できる所が出来ないからな…。

全身装甲とは言え、機動特化…防御力は最低限しか確保していないのだ。

せめて飛び道具があれば…。

 

「ちぃっ!数が多すぎる!」

 

片羽根にエネルギー弾が衝突し、スラスター機能の幾つかの不具合が起きる。

俺はそれでも構わずに瞬時加速を使い、銀の福音に対して拳を或いは蹴りを叩き込み着実に追い込みをかけていく。

幾度も仕掛けてきた所為か、肋が幾つか折れる。

しかし、それでも止まるわけにはいかない。

もう、止まれんのだ。

 

『銀!教員をそちらへ向かわせている!撤退の用意を始めろ!』

「無茶を言って!教員の二世代機でどうにかなるか!」

 

ターゲットが分散する分数が多ければ避けやすいだろうが、それでもかなりの高速戦闘を強いられる…一般的な仕様のラファールでもこいつの相手は骨が折れるだろう。

だからこそ、来ない方がいい…動きが取りづらくなる。

 

『タスケテ!ダレカ!ダレカ!』

「大人しくすれば良いだろうに!!」

[違うわ、コアに直接攻勢を仕掛けられてるのよ!]

 

と、なると…コアが抵抗できなくなった時、動きがより洗練されるようになると言う事か?

あまりの時間の無さ、自身の肉体限界までの時間の無さに辟易とする。

だが、やるしかあるまい。

 

「ウオオオオ!!!」

 

銀の福音に向かって瞬時加速を伴った殴り、蹴りを絶え間なく行っていく。

銀の鐘による被弾を気にしてはいられない。

エネルギー弾は容赦無く天狼の装甲を消し飛ばし、俺の肉体にまでダメージを負わせていく。

 

「届けぇっ!!」

 

被弾によって割れたマスクの奥から銀の福音を睨み付け、銀の鐘を破壊するために手を伸ばす。

しかし次の瞬間俺は一夏が受けたのと同じ光の翼に包まれ、意識はそこで途絶えるのだった。


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