【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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狼の休日

「何とも凄まじい…大所帯だな…周囲の視線が半端ないぞ」

「ある意味、学園で見られている時より見られていると思うんだけどさ…原因って…」

「やめろ一夏…!自覚はしているつもりなんだ…!」

 

毎度お馴染みの駅前ショッピングモール『レゾナンス』。

土曜日が休日となった今日は、一夏達と共に臨海学校の準備をするために買い物に訪れていた。

専用機持ちだけで六人…ファンには垂涎の状況ではなかろうか?

さて、何故俺が注目されている原因なのかと言うと、俺の両腕をガッチリとホールドしているお嬢さん方の存在である。

右腕に抱き着いているのは、英国国家代表候補生にして名門貴族のセシリア・オルコット。

彼女はよくIS専門誌のグラビアを飾る事があり、認知している人も多い。

そして左腕に抱きつくのは、日本の国家代表候補生にして現ロシア代表の妹である更識 簪。

姉譲りの美貌と守ってあげたくなるような雰囲気から、街を歩いていると男性からの視線が集まる。

要はそんな美女二人に抱き着かれているわけだ…嬉しいんだがな…今は夏なのだ…。

暑い、柔らかい、理性が大変の三拍子である。

 

「アンタ達恥ずかしくないの?」

「諦めが人を殺すものだ…」

「好いた殿方に抱き付いて恥ずかしい事はありませんわよ?」

「私は…一歩引いていられないし…」

 

鈴が呆れ顔で俺たちを見つめてくる。

とりあえず、レゾナンスに入ろう…涼しくなるはずだ…。

 

「セシリア達みたいに言い切る勇気ないなぁ…二人きりなら…」

「私もあれくらいするべきなのだろうか…?」

 

シャルロットと箒は一夏をちらちらと見るが、一夏はどこ吹く風だ。

 

「父様、この辺りのマップは記憶したぞ。案内は私に任せろ」

「外でその呼び方は止めんか…?」

 

俺は外でも呼び方を変えないラウラに肩を落としつつ歩き始める。

 

「水着を買いに行くのだろう?…ふむ、一夏…折角だから箒達の水着を選んでやったらどうだ?」

「俺ェっ!?」

「し、銀にしては良い提案だな!」

「良いアイディアじゃない」

 

箒は顔を赤くしつつも腕を組みながら頷き、鈴とシャルロットは親指立てて笑みを浮かべる…命短し恋せよ乙女、と。

 

「ところでラウラ…私服は持っていないのか?」

「制服だけで事足りる!」

 

ラウラは腕を組みドヤ顔で言い切る。

そう、他の皆が私服だと言うのにも関わらず、ラウラだけIS学園の制服なのだ。

同室のシャルロットは困ったように頭を抱えている。

軍隊の中に居ても、そう言ったアドバイスを受けた事が…いや、恐らく無視していたのだろうな…。

 

「セシリア、簪…ラウラに服を選んでやってやれ…このままではダメだ」

「仕方ありませんわね…制服だけと言うのも問題ですし」

「女の子なんだし、着飾らなきゃ…」

「ぐ…父様が言うのであれば…」

 

こうして、俺は無事に厄介払いに成功したのである。

 

[厄介払いは無いんじゃないかしら…]

 

このままだと、何かトラブルが起きそうでなぁ…。

以前の体質…いく先々でトラブルに会う体質に戻っていないことを祈るばかりだ。

皆と話しながら、水着売り場へと向かう。

 

「一夏さんに水着を選ばせるのですから、私達の水着は狼牙さんが選んでくださるのですよね?」

「どんなの選んでくれるのかな?」

「私は水着はあるからな」

 

セシリアと簪は期待の眼差しで見つめ、ラウラは目を逸らしている。

馬鹿な…海に旧スク水で行く気か…?

 

「セシリア、簪…ラウラに水着も選んでやれ…そうしたら選ぼう」

「わかりましたわ」

「さ、行こう…ね、ラウラ」

「だ、大丈夫だ…自分でえらぶから…!父様!?」

「行ってこい…」

 

俺はハンカチを振りながらラウラを送り出し、水着売り場の前のベンチに座り一息つく。

何とも平和な一幕だ。

この世界に生まれて、時折ズレを感じることがある。

以前言ったように俺は、数多の存在に手を掛けてきた。

言ってしまえば血で汚れた手を血で洗う毎日…。

ラウラは暖かいと言ってくれた…俺が面倒を見てきた子供達もまた、懐いてくれたが…。

俺はそれに値する人生を歩んではいなかった。

 

[貴方は、誇るべきだわ。貴方が戦うから、救われるものも確かにあったのだから]

 

そう言ってくれるのは助かるがな。

いかんなぁ、弱気になってしまって。

守るべきものが居ると言うのは、失う事に対する恐怖もまた増す。

乗り越えなくてはならない…過去と向き合い、より強くなるために。

 

「貴方、これ片付けなさいよ!」

 

今は…この世界でそれをできるだけの力を持っているのだからな。

だが、あいつらに頼ると言う事もまた…

 

「ちょっと聞いているの!?」

「ん…俺に用か?」

 

思考から戻り、目の前の気の強そうな女性を見る。

 

「これを片付けろと言っているのよ!」

「自分の彼氏に頼め…知らん人間に優しくするほど甘くは無いのでな」

「彼氏なんていないわよ!馬鹿にしてるの!?」

「それは失礼した…ではご自身の手で返却すべきだよ、お嬢さん」

 

女尊男卑に染まった女性か。

…しばらく学園に引き篭もっていたからな、久々に見た。

 

[勘違い系って厄介なのよね…本当]

 

俺はなるべく優しい態度を貫き笑みを浮かべるが、どうやら癇に障った様だ。

女性はワナワナと震え、俺を見下ろす。

 

「貴方、自分の立場が分かっているのかしら!?」

「そちらこそ、気をつけるといい…そう言った言い掛かりは自身の立場を危うくする行為だからな」

 

俺は兎に角声を荒げないように努める。

こういった手合いは調子に乗るが、恫喝と取られては此方が危うい。

何とも生きにくい世の中だ。

 

「私は、女性人権団体の人間なのよ!?私の言うことを聞かなければどうなるか分かっているのかしら!?」

「政府のお上が頭を下げるだけだ…とだけ言わせていただく」

「狼牙、平気か!?」

 

一夏は偶然…多分、箒達から逃げ出したのだろうがこちらの騒動に気付き駆け寄ってくる。

 

「問題ない…こちらのお嬢さんが荷物持ちをしろと言ってるだけだからな」

「そうか…セシリア達呼んでるし、行こうぜ?」

 

俺は頷き立ち上がると、女性が腕を掴んで行かせまいとする。

しつこいお嬢さんだ…。

以前の世界でもこう言った人間は稀だったものだが…。

 

「行かせないわよ!?」

「連れの方が大事なのでな…離していただきたい」

「父様が困っている…離せ」

 

ラウラが怒った表情で女性の腕を掴み引き剥がす。

ありがたいが、父呼びは此処では止めていただきたいものである。

 

「ラウラ、離してやれ…」

「父様がそう言うのであれば…」

「素直なのは良いんだがな…」

 

俺はラウラの頭を撫で、女性に頭を下げる。

 

「すまんが、これで失礼する」

「くっ…覚えてなさい!」

 

女性は結局自分で荷物を持ち何処かへと去っていく。

俺は一息つき一夏とラウラを見る。

 

「二人ともすまんな…」

「謝るような事じゃないだろ?いつも助けてもらってるしな!」

「父様を困らせる奴がいたら直ぐに言ってくれ!」

 

ラウラはドヤ顔で腕を組み見上げてくる。

本当に、人間変われば変わるものである。

 

「それで、水着は選び終わったのか?」

「あぁ、セシリア達が呼んでいるから呼びに来たんだ」

 

ラウラは頷き、手を繋げば俺を引っ張っていく。

 

「本当に仲が良い親子みたいだな…」

「この歳で同い年の子持ちとは…人生とは恐ろしいものだな」

 

一夏が引っ張られる俺の隣を歩きながら笑っていると、箒が一夏に駆け寄り腕に抱き着く。

ほう…随分とアグレッシブに攻めるな。

 

「い、い、いい一夏!何処をほっつき歩いている!?次は私のを選ぶんだぞ!?」

「分かった!分かったから!!」

 

一夏はセシリア達がいる試着室とは違う方向へと引っ張られていく。

多少鈍感が治ってきているとは言え…もう少しお手柔らかにすべきだと思うのだ。

 

「遅かったですわね…」

「厄介な逆ナンパにあっててな…ラウラが居なければ警備員を呼ばれていただろう」

「狼牙…カッコいいし、仕方ない…のかな?」

「表面的なもので言い寄られてもな…」

 

外見だけで物事を判断するとロクな事が起きない。

やはり、人は対話してから判断せねばな。

セシリアの時然り、ラウラの時然り…。

対話しなければ、彼女たちの事をキチンと理解しないままで終わっていただろう。

 

「水着を選ぶのは良いがな…あまりセンスを期待されても困るからな?」

「フフ、そうやって嘘ばかりおっしゃいますわね」

「期待しているから」

 

目の前のお嬢様方はやたらと

プレッシャーをかけるのが上手なようだ。

水着といっても様々な種類がある。

俺はあまり詳しくは無いが、少なくとも男性用に比べて遥かに種類が多い。

俺はセシリアと簪を見て考え込む…色だけならば良いんだが…うーむ…。

悩み抜いた結果俺は、セシリアに青くリボンをあしらったビキニを渡し、簪には白いワンピースタイプの水着を渡した。

 

「俺の好みだからな…苦情は、受け付けよう」

 

俺は軽く肩を竦め苦笑する。

こういった事はあまりした事が無いからな…何とも言えん。

 

「ふふ、苦情なんて出しませんわ」

「精一杯悩んでくれてたし、ね」

 

満面の笑みを浮かべる二人に俺は内心胸を撫で下ろす。

喜んでもらえるならば、俺としても嬉しい。

 

「父様…お披露目は、臨海学校の時だな」

「そうだな…楽しみは取っておくべきか」

 

俺はラウラの頭を撫でながら頷くと、ラウラは得意げにドヤ顔でいる。

…本当に同一人物なのか疑わしくなってくるな。

 

「では、そのように…ところで狼牙さんは…」

「せっかく海に行くんだし…」

 

ジィっと三人に見られる。

傷跡を見ても皆気分が盛り下がらんだろうか?

俺が思い悩んでいると、一夏達は買い物を済ませたのか此方に合流してくる。

 

「気にしなくて良いんじゃないの?あんた、学校のプールの時も頑なに見学してたじゃない」

「我儘になるんだろ?気にするなよ」

 

親友二人が俺に声をかけてくる。

俺は臨海学校の自由時間、一人で釣りでもしていようかと思っていたが…ふむ…。

 

「皆、お前の事を分かっているはずだ…大丈夫ではないか?」

「銀君は一歩引き過ぎじゃないかな?」

 

なんと言うか…アレだな…箒からそう言われるとは思いもしなかったな。

目頭が熱くなってきて俺は眉間を揉む。

 

「そうだな、せっかく海に行くのだ…楽しまねばな」

 

俺は漸く頷き、笑みを浮かべる。

 

「話が纏まったところで、父様にピッタリなものを持ってきたぞ!」

 

ラウラが俺に水着を持ってくる。

ありがたい…ありがたいんだがな…?

 

「なんで、ブーメランパンツなんだ…?」

「父様の肉体美を前面に押し出してみた」

「ボディビルダーではないんだからな…?」

 

俺はがっくりと肩を落とすと、全員俺が着用した姿を想像したのか三名を除き顔を背けてプルプルと震えている…オノレェ…。

 

「良いではないですか…その、お似合いかと…」

「ガッチリしてるし…イイと思う」

「アハハハ、アンタそれにしなさいよ!」

「銀君、そっちが嫌ならこれなんてどうかな?」

 

周囲の反応そっちのけでシャルロットが、スパッツタイプの競泳水着を持ってくる。

あぁ、ピチピチタイプからは逃れられんと…そういうわけだな?

 

「そうだな…まだ、そちらの方が良い…買ってくる」

「こっちが似合うと思ったのだがな…」

 

ラウラはしょんぼりとした顔で水着を元の場所に戻しに行く。

俺とて羞恥心くらいはあるのでな…許せ、娘よ…。

 

 

 

皆でウィンドウショッピングを楽しみながらレゾナンス内を歩いていると、前方からどうにも荒事馴れした感じの男を引き連れた女性が歩いてくる。

 

「先ほどのお嬢さんか…これは、面倒だな」

「どうする、狼牙…?」

「目的は俺だけだろうしな…後で連絡する。そちらは楽しんでいてくれ」

 

箒は俺に訝しがるような視線を送り、鈴は察したのか不満顔。

セシリア、簪、シャルロットは不安そうに此方を見てくる。

 

「問題無い…こんな往来で派手にやらんだろうさ…それより、ラウラを着せ替え人形代わりにする権利をくれてやろう」

「父様!?」

 

ラウラは何故か絶望としたような顔で此方を見てくる。

狼とて獅子の如く崖から我が子を突き落とすのだ…もう少し少女らしく楽しんでこい。

 

「分かったよ、銀君…ラウラは責任持って女の子にしてくるから」

「頼んだぞ」

 

俺は笑みを浮かべ、一夏達から離れて女性権利団体様達を誘導する。

場所は…レゾナンス中庭の広間で良いか。

態と相手に姿を晒しながら、俺は人混みを縫うようにして歩き中庭まで移動する。

ここからなら誰でも此方を目撃できる…運が良ければ揉め事が起こる前に警備員が駆け付けてくるだろう。

 

「彼女にはフラれたのかしら?」

「そちらは逆ハーレムか…楽しそうだな」

 

俺は軽く肩を竦め、微笑を浮かべる。

何とも分かりやすい女だ…自身ではどうにも出来ないから、屈強な男達に恫喝させて大人しくさせようと言う魂胆か。

俺の胃を壊したいのであれば、先月以上の難題を持ってくるか戦車でも持ってきてもらいたいものだ。

 

「アンタ、自分の立場が分かってないみたいだからさ…痛めつけてあげるわよ」

「残念ながら、ここで暴動を起こして困るのはそちらなんだが…?」

 

俺は首を横に振りため息をつく。

女性だから偉いと思っているタイプは蛇のようにしつこい。

しかし、ここで暴力に訴えるのは愚の骨頂と言うものだ…多少殴られるのを覚悟で受け身に徹するか…。

そうしなければ千冬さんに迷惑がかかるし、孤児院の篠原さんにも面目が立たない。

 

「人の権利というのは元来平等なものだ…風潮に靡いて偉ぶっていては子供と変わらんよ、お嬢さん」

「うるさいわよ、男なんてあたし達にヘコヘコと頭下げてれば良いのよ!」

「悪いなニイちゃん…こっちも弱味握られてるんでね」

「何とも虚しいな…同情する」

 

男達の本音が垣間見える言葉に、俺は軽く頭を抱えてしまう。

まったく、嘆かわしいばかりだな。

俺は視線を鋭くし、女性を見る。

 

「何度も言うがな…ここで騒ぎを起こしても得にはならんぞ?」

「あいつを叩きのめして!」

「悪いな、ボコらせてもらうわ」

 

荒事馴れしている男は三人…多勢に無勢だな。

俺は馬鹿正直に殴りかかってきた筋肉達磨の拳を半身を逸らして避け、分からないように足を軽く払って転倒させる。

続いて来た二人の長身の優男は我武者羅に拳を振り上げ叩きつけてくる。

俺はそれを腕で頭を庇うようにして受け止める。

此方から殴り掛かってはつまらんからな…。

俺は、チラッと監視カメラを見て此方を監視しているのを見て内心笑みを浮かべる。

状況的にはリンチを受けている訳だしな。

 

「無様ね、そのままボコボコにされちゃいなさいよ!」

「そこのお前達、何をしている!?」

 

漸く警備員が来たようだ…俺は内心安堵しつつ、思考を巡らせる。

俺を殴ってきた男共…どうにも腰の入っていない拳をしているのだ。

どうやら、手加減してくれている様でこのまま警備員に引き渡すのも気が引ける。

 

「チッ、あそこの男が私の体に触ったのよ!」

「本当ですか?」

「悪いが、好みでもない女に触れるほど暇でもない」

 

俺は首を横に振り苦笑する。

痴漢なんぞ男の恥だろうに…。

俺は少々イラついていたのか、深いため息と共に女性を見る。

 

「そちらのお嬢さんが、言うことを聞かないからと因縁をつけてきてな。俺からは何もしていないし、証拠はそこの監視カメラくらいしか無いが…」

 

俺は監視カメラを指差し笑みを浮かべると、女性は分が悪いことを悟ったのかジリジリと後ずさり始める。

最初からそう言った見極めが出来ていれば良かったんだがな。

 

「今、問い合わせてみますので少々お待ちください」

 

警備員は女性が逃げないように見つめながら、警備室に連絡を取り始める。

俺としては、早々に立ち去りたいところなんだがな…。

女性は逃げるに逃げられず歯噛みしている。

権利がどうだのと言う前に常識を学ぶべきだったな…。

反省して改善されることを強く願うばかりだ。

 

「確認が取れました…お客様、部屋へ案内しますので詳しい話はそこで聞かせてもらえますか?」

「私は行かないわよ!?」

「そういう訳にはいきません。以前にも問題を起こされたお客様ですので」

 

どうやら前科持ちだったようだ…俺は心の中で合掌する。

世間知らずなお嬢さんと脅されている男達はやってきた警備員に引っ張られ、俺はその後をついて行く。

俺はホッと胸を撫で下ろし、一夏達に連絡を入れる。

 

『すまんな、どうやら時間が掛かりそうだ。夕刻までに終わらなければ先に戻っていてくれ』

『おう…怪我してないよな?』

『臨海学校があると言うのに怪我もできんだろう…安心しろ』

『じゃ、終わったら連絡してくれ』

 

通信を終えるとセシリアから画像が送られてくる。

中身を見ると、所謂ゴシックロリータファッションに身を包んだラウラの写真が数点送られてきた。

銀髪に眼帯だからな…確かにピッタリやもしれん。

俺は『その調子で新しい世界を開拓してやれ』、とメールを送り返しこれから起こる長い尋問に辟易とするのだった。


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