【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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銀の福音は誰が為に鳴る
姦しい夜に


「あぁ、わかっていた…わかっていたともさ…」

「ろ、狼牙…?」

「轡木さんにも言われてたんだ…自身を疎かにしていると…」

「狼牙さん、しっかりしてくださいまし!」

「ハッ…そしてこのザマだ…」

「父様!傷は浅いぞ!」

 

俺は机にシャーペンを握ったまま突っ伏す。

頭から煙が出ているかもしれない。

七月初週…俺は期末試験があることをすっかり忘れていたのだ。

予習復習もせずにこの学園の難問がとけるものか…。

 

「なんなんだ、この茶番は…」

「あ、あはは…なんだか、ごめんね?」

 

箒とシャルロットは呆れたように遠巻きに眺めている。

そうだな…茶番もいい所だ…。

俺はむくりと体を起こし、首をコキコキと鳴らし深いため息をつく。

 

「基礎的な事ですし、そんなに難しくありませんわよ?」

「うむ、父様でもきっと簡単に解ける問題だったはずだ」

「基礎からして覚束なかったのだぞ…付け焼き刃では中々な…」

 

俺はペンケースにシャーペンを放り投げ、背伸びをする。

 

「狼牙が予習復習怠るなんて珍しいな」

「余裕がなかったからな…もう少し周りを見るべきだった」

 

俺は気をとりなおし、肩を竦める。

 

「一夏は大丈夫だったみたいだな」

「箒と鈴、シャルロットがスリーマンセルで教えてくれてたからな」

「羨ましい限りだな…」

 

この学園、中間試験は無いものの期末試験だけがある。

そのお陰か出題範囲が無駄に広い…ここで赤点を取ると夏休みが連日の補習となり、貴重な休みが無くなってしまう。

それだけは避けたかったが…。

俺はチラッとラウラとシャルロットを見る。

二人ともこの学園で楽しそうにしている。

その対価…とすれば…まぁ、良いか。

 

「来週から、臨海学校だが…準備は済んでいるのか?」

「ここの所忙しかったからなぁ…」

 

一夏が首を横に振ると、セシリア達もまた首を横に振る。

 

「なんの話をしてんのよ?」

 

鈴がこれまたナチュラルに一組の教室へと入ってくる。

休み時間の度にこれだ…もはや、誰も突っ込まなくなっている。

 

「鈴…来週の臨海学校の準備についてだ。お前はどうなんだ?」

「こっちもまだよ、勉強で忙しかったもん」

 

ふむ…で、あれば皆でレゾナンスに繰り出すか?

 

「提案なんだが…明日はテスト休みで連休の初日だ。そこで皆で買い物に行かないか?」

「俺は良いと思うぜ?」

「あたしも賛成ー、箒も来るんでしょ?」

「も、もちろんだ!」

「父様の行くところ、私は何処までも付いて行くからな?」

「ラウラ…擦り込み働いたヒヨコじゃないんだよ?僕も行くよ!」

「わたくしも、もちろん行きますわ」

 

全員が賛同してくれた様だ…あとは簪に聞いてみるか…。

 

「では、明日校門前に十時集合で良いか?」

 

俺の言葉に全員が頷く。

しかし、専用機持ちばかりレゾナンスに集結か…何も起きないことを祈ろう…うん。

 

 

 

 

放課後…夕食を皆で済ませ、俺は寮の部屋にいる。

 

「来週から臨海学校ね…」

「三日程留守にするだけだ…生徒会の仕事をサボるんじゃないぞ?」

 

俺は楯無に膝枕をしてやりながら、頭を撫でている。

こうしていると楯無は非常に大人しいので、俺としても助かる。

 

「寂しくなるわよ…私この部屋に一人なんだもの」

「連絡くらいは入れるさ…」

「もう少し、愛が欲しいと思うけど…まぁ、いいわ」

 

楯無は少し不満そうだが大人しく頭を撫でられ続ける。

 

「お待たせしましたわ」

「お邪魔します…」

「父様、話を聞かせてもらいに来たぞ!」

 

セシリア、簪…そしてラウラが寮の部屋へとやってくる。

楯無は体を起こして床に座り、俺はベッドの上で胡座をかく。

ラウラは俺の対面に座り、その両脇にセシリアと簪が腰掛ける。

 

「さて、全員揃ったか…セシリア達にはお願いしてあるから問題ないだろうが…ラウラ、これから話す事はなるべく言いふらさないでくれ。騒動が起きるのが目に見えているからな」

「わかった…父様の言う通りにする」

「凄く素直な子になりましたわね…」

 

セシリアはシミジミと呟き、俺は苦笑してしまう。

やはり、ラウラは背伸びして強がっていただけなのかもしれないな。

 

「ラウラちゃん転校してきた時のばかりは、トゲトゲしかったのがこんなに丸くなっちゃって」

「お姉ちゃん、話の腰折ってる」

「うぅ…反省しているんだ…やめてくれ…」

 

ラウラは頭を抱え顔を赤くする。

…厨二病から回復して思い返した人間みたいになってるな…さて、本題を話すとしよう。

 

「ラウラは、前世と言うものを信じるか?」

「前世…私は、そんな事を考えた事もない」

「突拍子も無い話だがな…俺はその前世の記憶を持っている。お前が夢で出会った狼は恐らく俺の以前の姿だ」

 

本当に突拍子も無い話だ…大体が電波扱いをして終わる話を、これでもう三度目か。

俺は苦笑しながらラウラを見つめる。

 

「お前よりも大きく、体毛は白雪のような白銀…そして金の双眸を持つ狼は人語を介し、時に人の身に化け生きていた…懐かしい話だ」

「本当に、父様はあの様な姿をしていたのか?」

「信じろ、とは言わんが…白」

[ハァイ、ラウラちゃん…夢の中以来かしら?]

 

ラウラは声に聞き覚えがあるのか驚き、立ち上がる。

 

「この声だ!私に最後話しかけてきたのは!」

[食い付き良いわねぇ…セシリアちゃん達の時よりも良いんじゃない?]

 

白は、クスクスと笑いながらコアネットワーク経由で俺たちに話し掛ける。

 

「狼牙さんの事ばかり聞いてましたし…」

「白蝶ってば、あまり自分の事話したがらないしね」

「でも、優しい人…ひと?」

 

ラウラの様子にセシリア達は笑みを浮かべている。

ラウラは興奮気味に頬を赤くして辺りを見渡す。

 

「その、白蝶は何処にいるんだ父様?」

「ここにいるだろう?」

 

俺は、首からぶら下げている天狼の待機状態を持ち上げてラウラに見せる。

 

「それは、父様のISだろう?」

「そうだ…俺のISで、こいつに使われているISコアに白蝶の存在が宿っている」

「そんな…コアが自ら話すと言うのか!?」

「事実話してるだろう?」

[ある意味新鮮な反応よね…ラウラちゃん、パパの言うこと信じられないかしら?]

 

パパと言う響きは、何故か危険な感じがするから止めてもらえないだろうか?

俺は眉間を揉みながら苦笑し、一息つく。

 

「白は、前世の時に契った仲でな…またこうして会話できるとは思いもしなかったが…」

[星の巡り合わせって不思議よね〜]

 

「やっぱり、白蝶さんが最大の壁なのですわ…」

「でも、首輪計画は白蝶さん発案…」

「私たちで骨抜きにしてしまえば問題ないわよ!」

 

ひそひそとセシリア達がしゃべっている…丸っと全て聞こえているのはご愛嬌か…。

白よ…無垢な娘三人にハーレム結成させんでも良かろうに。

 

[あら、良い思いしたのでしょう?]

 

白は俺だけに声をかける。

ニヤニヤとしている気がする…否定できんからな。

 

「…父様と白蝶が私の夢に出たのはどういうことなんだ?」

「それは恐らくコアの共振作用ね…狼牙君がラウラちゃんをISから無理矢理引き剥がす時に狼牙君の記憶の一部とコアの内容がラウラちゃんの中に残滓として残ったのよ」

「VTシステムでコアが異常な状態だったんだと思う…ISコアは全てコアネットワークで繋がっているから…」

 

更識姉妹が現象の説明を掻い摘んで話してくれた。

共振か…コアネットワークで全てのコアが繋がっているから、遮断でもされん限りは起こりうるのかもしれん。

 

「そうか…父様のもう一つの姿が見れた私は幸運だった訳だな!」

「お父さんはお前が純粋で嬉しいよ…」

 

俺は軽く頭を抱えつつも微笑む。

本来のラウラは純粋で何処にでもいる少女なのだろう。

願わくば真っ直ぐに育ってもらいたいものだ。

 

「羨ましいですわ…わたくしだって、その狼を見てみたいのに…」

「もしかしたら、その内ラウラと同じ事が…」

「見るほどの物でもなかろうに…」

「父様は暖かったぞ!」

 

いつの間にか、ラウラがドヤ顔で俺の足の上に座る。

その時、部屋の空気が凍る。

 

「ら、ラウラさん!そこから退いてくださいまし!」

「ずるいよ!」

「私はさっき膝枕してもらったからいいやー…背中もーらい!」

 

楯無は立ち上がれば俺の後ろに回り込み抱き付いてくる。

昨夜以降スキンシップが激しくなってきている気がするな。

 

「やはり、夢の中の父様と同じだな…安心する…」

「狼牙さんも早く退かしてくださいまし!」

「お姉ちゃん!いつも一緒にいるんだから変わってよ!」

 

ラウラは心底安心しているのかウツラウツラと舟を漕ぎ始め、楯無と簪は互いに牽制し合っている。

仲が良いようで俺としては嬉しい限りである。

 

「落ち着け、セシリア…どうせ今日はこのまま泊まっていくのだろう?」

「それはそうですが…」

 

俺は楯無に退いてもらい、ラウラをおんぶする。

 

「こいつを部屋に運んでくる…頼むから喧嘩してくれるなよ?」

「ん…」

 

ラウラはついに俺の背中で眠ってしまい、何とも幸せそうだ。

俺は口元に人差し指を立て静かにする様に三人に言い聞かせ、部屋を出るのだった。

 

 

ラウラの部屋に向かって歩いていると、前方から千冬さんが歩いてくる。

どうやら、もうすぐ消灯時間のようだ。

 

「どうした、銀…娘がぐずったのか?」

「織斑先生までからかわんでくれ…ラウラが俺の部屋で寝てしまってな」

 

千冬さんはニヤニヤと笑いながら、俺とラウラを見る。

からかい半分嬉しさ半分か。

 

「あのトゲトゲしかったのがラウラがここまでになったぞ…劇的ビフォーアフターだな」

「まったく、幸せそうな寝顔だな…」

 

千冬さんは、ラウラの頭を優しく撫でる。

その顔は安心そのものだ。

 

「すまなかったな、銀…だが、お前のおかげでラウラは変われた」

「どうだかな…俺がやらんでも一夏が変えていたかもしれん」

 

俺はラウラをおぶさり直しながら苦笑する。

一夏なら、ラウラに対してどうやって対処していただろうか…?

 

「あいつはまず、自分の事をしっかりさせなくてはな」

「俺にとっても耳が痛い…セシリア達にも疎かにしていると言われ続けているからな」

 

苦笑しながら、首を横に振る。

自己犠牲と言う訳ではない。

死ぬかもしれない目にあっても、俺は必ず生き残ってみせる。

そうせんと、あの三人が泣くからな。

 

「お前は、随分と悪い男だったみたいだな」

「三股とて後悔はせんさ…いっそ、一夫多妻の国にでも行くか」

「お前と言う奴は、冗談なのか本気なのか時々分からなくなるな」

「大体は本気で、少しだけジョークだ」

 

ニヤリ、と笑い千冬さんを見つめると呆れたような顔をされる。

 

「全く…お前なら大丈夫だろうが、あまり羽目を外してくれるなよ?」

「肝に銘じている…時折あいつらが暴走せんか怖いが」

「手篭めにしたのなら、手綱くらい握ってみせろ色男が」

「その通りだな…善処しよう」

 

俺は小さく頷き千冬さんと別れ、ラウラの部屋を目指す。

セシリア達よ…千冬さんが釘を刺してきたと言うことは恐らく色々とバレているぞ…。


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