【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜 作:ラグ0109
「と、言う訳でな…何でだか知らんがラウラに懐かれたのだ」
「ふ、ふぅん…」
「そ、その…よろしく頼む!」
昼休み…セシリア、簪、楯無、そしてラウラを交えて昼食を取る。
相変わらず俺は胃に優しいお粥を食べている。
楯無達は、なんと言って良いのか分からないような顔をしながら俺を見つめる。
「あの時の怖い雰囲気が、ない…」
「恐らく、これが素なんですわ…」
「狼牙君は面倒見いいから…まぁ、良いんじゃない?」
「父様は、そんな量で足りるのか?」
「いや、下手に食うとフルフェイスの奥が大変なことになるからな…」
ラウラはキラキラとした目で俺を見上げてくる…なんだこの小動物…簪とは違うタイプだが、何とも保護欲を掻き立てられる。
「しかし、なんで父呼びなのだ…?」
俺は非常に疑問を覚えていた…普通は父親呼びなどしないだろう。
何せ同い年なのだ…普通の感性…がないのだろうなぁ…。
「我が部隊の信頼の置ける副官であるクラリッサが、日本において時に厳しく、時に優しく導いてくれる男性の事を父と呼ぶのだと教えてくれたのだ!」
「そ、そうか…」
眩しい…あまりにも眩しすぎる…これが素のラウラ・ボーデヴィッヒだと言うのか?
少しでいい…少しでいいからキリッとしていたラウラ成分を戻してもらいたい…。
とりあえず、クラリッサ…日本の知識を間違えている。
「誰がママポジにつくのかしら?」
「爆弾を落とすんじゃぁない…」
俺は楯無の発言に頭を抱え、ラウラは首を傾げている。
そして食堂中の視線が集まり騒めく。
もう、構うものか…。
楯無はニヤニヤと笑い、セシリアと簪はハッとした顔でこちらを見つめてくる。
「実際血縁関係である訳でないし、戸籍とて俺のところではない…気にせんでもいいだろうに」
「私たちとしては気になるしねぇ…ママポジが正妻ポジな訳でしょ?」
「うん…」
「そこの所どうなのです?」
三人とも、やはり一番でありたいのか緊張した面持ちでこちらを見つめてくる。
ラウラは我関せずと食事をモッキュモッキュと進めている…面影がないな…本当に。
俺は周囲の女生徒の監視の中、三人を見つめる。
「序列をつけるつもりはない…三人が俺を愛すると言うならば、俺は相応にお前達を愛そう」
失いたくないと思える女性達だ…で、あれば俺は全力を尽くそう。
不義理ではある…我儘だろう。
それでも昨夜、身を委ねられた時にそう決めたのだ。
「三股を公言したわよ!?」
「会長とその妹…さらに英国貴族…た、たらしだー!!」
「もう、好きに呼ぶと良い…」
俺は眉間を揉みながら苦笑する。
「父様は懐が大きいな…夢で見た狼みたいだ」
「…それはどんな夢だったのだ?」
四人で興味津々といった感じでラウラを見つめる。
その口から語られた夢に出てきた狼と言うのは恐らく俺のことだろう…場所といい、最後に出てきた女性といい…それしか思い浮かばん。
「父様…何か心当たりが…?」
「あると言えばあるな…すまんが、その話は保留だ。天狼が戻ってきた時に話すとしよう」
俺は静かに頷き、三人に目配せするとセシリア達はクスリと笑う。
「む、セシリア達は何か知っているのか?」
「えぇ、信じ難い話ですし…その説明には狼牙さんのISが必要なのですわ」
「そうねぇ…ただ夢の中で聞こえた声の主にはその時会えるわよ?」
「できれば秘密にしておきたい…かな?」
ラウラは仲間外れにされている気がしたのか頬を膨らませている。
俺はラウラの頭をポンと撫でて宥める。
「そんな顔をしてくれるな…説明しないとは言っていないだろう?」
「だけど…あの狼は暖かったんだ…気になる」
「少しの間の我慢だ…さて、トーナメント中止とは言え授業がある…急がんとグラウンド十周やらされるぞ?」
俺は立ち上がり食器を片付け始める。
「楽しい時間はすぐに終わるのよね…」
「楯無さんは同室だから良いではないですか…」
「お姉ちゃんが一番美味しいポジション…」
「どの道明日集まるのだろう?」
俺の言葉に三人は縦に首を振る。
どこかでブレーキかけさせんと、取り返しのつかない事態になりそうだな…。
俺は頭痛のタネに頭を悩ませつつ教室へと向かうのだった。
教室に着いた時、皆から生暖かい目で見られたのは言うまでもない。
夕食を済ませた夜、大浴場が男子に解放されたと言う事もあって一夏と二人で大きな湯船に浸かる。
「「あ゛ー……」」
二人しておっさんのような声を上げ体を弛緩させる。
周囲に女子の目が無いと随分と気が休まるものだ…彼奴らには、口すっぱく一夏と入ると言ってあるのでシャルロットの時のような事故も起こるまい…プライベートな時間万歳である。
「聞いたぞ、狼牙ー…」
「三股の件だろう…?」
一夏が大浴場に描かれた壁画を眺めながら声を掛けてくる。
その声は完全に弛緩していて力がない。
「三人とも、好きなのか…?」
「そうだな…他人に取られたくないと思える程には愛している…もう、我儘に生きることにしたよ」
誰か一人選んで、二人が誰かとくっつく…そんな状況を想像するだけでイラつくのだ。
自分の気持ちに向き合い、認めるべきだろう。
三人が欲しいと。
「お前は、真似するなよ…男らしくないからな」
「俺にはそういう相手いないって…でも…」
一夏は真剣な面持ちでこちらを見てくる。
「もし、そういう相手が出来たなら…狼牙みたいに宣言でもするかな。ああやって臆面も無く言い切れるのって凄いと思うからな」
「普通だろう…俺は心の炉に絆をくべただけだ…その結果三人に通じて、認めてもらっただけだしな」
「…俺は、まだ分からないんだ…箒も鈴も俺を好きだって言うのは分かる…けれど、そういった気持ちにどう向き合えば良いのかさ…」
「山嵐のジレンマ…みたいなものだな。自身の発言で傷付けてしまうと思うと答えが見出せない…俺と同じだ」
俺は三人から好意を向けられた時、切り捨てることができなかった。
一人として傷付けたくはなかった。
一夏は愛されると言う好意に鈍感だ。
だが、もしかしたら…そのように無意識に振舞うことによって、自身が傷付ける可能性を減らそうとしているのかもしれない。
「狼牙は、見出せただろ?」
「最善かは知らん…だが、三人と…娘分くらいの面倒は最低限見ないとな」
「そっか…人によっては最低とか言われそうだな」
「そのような誹りは甘んじて受けるさ。事実だからな…だが、あいつらに対する中傷を俺は許さんだろうよ」
傷付けるために愛するのではないから。
愛するために愛するのだ。
苦難を分かち、共有する…その後で皆で笑えればいい。
「さて、俺は先に上がるぜ…逆上せないうちに出てこいよ?」
「あぁ、ではまた明日な」
「おう、おやすみ」
一夏は一足先に出て行き、俺は一人大浴場に取り残される。
一人になって思う…結局一匹狼等では居られんのだ。
誰かに傍にいて欲しくて、三人から好意を向けられて独り占めしたくなったのだ。
「情けないものだな。存外に弱くなった」
俺は立ち上がり、湯船から出れば脱衣場へと向かう。
少し逆上せたようだ…ぼんやりとしながら曇って脱衣所が見えなくなった出入り口の引き戸を開けると目の前に全裸のラウラが立っていた。
「父様!裸の付き合いだ!」
「………」
俺は無言で勢いよく引き戸を閉め、目を擦る。
可笑しい…まだ男子の入浴時間だった筈だが。
俺はゆっくりと引き戸を開ける。
「さ!一緒に入るわよ!」
「なんで増えているんだ!?」
俺は四つん這いになって這い蹲り声を上げる。
ラウラしか居なかったはずなのに、いつの間にか楯無、簪、セシリアまで増えているのである。
千冬さんを恐れぬその行動力には驚くばかりだ。
「さぁ、お背中をお流ししますわ」
「ダメ、かな…?」
「家族で風呂に入るのは何も問題はないだろう?」
ラウラがドヤ顔でこちらを見てくる。
やかましい、大問題だ。
こいつら学生と言う事を忘れているのではあるまいな?
「と、言うか楯無…ラウラを言いくるめたな?」
「さってー、なんの事かしら〜?」
楯無は下手くそな口笛で誤魔化してくる…猫めが…。
バレたらタダでは済まんぞ…?
俺は出入り口を塞がれたため諦めて引き返しながら、腰にタオルを巻く。
「今更隠さなくても良いじゃない?」
「やかましい、気分の問題だ」
楯無はニヤニヤと笑いながらセシリアと簪の手を引き大浴場へと入ってくる。
ラウラは俺が引き返したのを見て嬉しそうだ。
「父様、髪を洗ってくれ!」
「承知…随分と甘えん坊になったものだな」
「次はわたくし達ですわよ?」
「時間が無くなる!」
俺は拳を振り上げ精一杯の抗議をする。
まったく、いつからこんなに俺の周囲は喧しくなったのやら、な。