【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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ヘヴィ・メタル・ダンス

夕刻…本日最後の試合。

決勝戦に勝ち上がってきたのは、やはり連携を上手く取ってきた一夏、シャルルペアだ。

俺とラウラはピットからその試合の様子を眺めていた。

 

「やはり、シャルルによる牽制が厄介か…まぁ、分断してしまえば何も問題はないがな」

「約束通り、織斑 一夏は私が貰う」

「あぁ、シャルルの相手は任せてくれ…なるべく邪魔はさせんさ」

 

俺はラウラを見下ろし、微笑む。

対するラウラは素っ気ないものの、今のところ敵意はナリを潜めている。

クラスの皆に最低限このように接してもらいたいものだが、これはまだ高望みと言うものだろう。

だが、俺に対してこうやって態度を軟化させているのだ…いずれ、出来るようになると思いたい。

 

「銀…貴様は、世界を知れと言った…私の知らない世界を…本当に私の知らない世界があるのか?」

「あるな…それは断言できる。俺は知っているぞ…この世界は優しくはないが、情がある事を。ラウラが見てきた世界は井戸の底の様なものだ。言ってしまえば、今お前が居る場所は井戸にかけられた梯子だ…それを登って外に出るのも出ないのもお前の自由だが…折角外に出るのだから、楽しまなくてはな」

 

ポス、と頭に手を置いて優しく撫でながら見つめる。

ラウラは不本意そうにしながらも頭を撫でられ続ける。

しつこく撫でてきたからな…諦めたか。

 

「機体の具合は万全か?」

「我が祖国、ドイツの機体だ…手抜かりはない」

「それは結構…では、勝ちに行こうか」

 

互いにISを身に纏い、ラウラを先に行かせる。

 

[ロボ…セシリアちゃんと簪ちゃんから伝言よ?]

「内容は?」

[絶対に優勝してね、だそうよ…モテる男は辛いわね〜]

「いや、全く…期待に応えてこその漢とな…行くぞ白…勝ちにな!」

[アイ・アイ・サー]

 

俺はカタパルトで弾き出されアリーナに飛び出すとバレルロールを行い、軽快なマニューバーを披露しながらラウラの隣に移動する。

 

「ずいぶん遅かったな?」

「何、黄色い声援が届いたものでな…それに答えるのも色男(ロメオ)の役目と言うものだろう?」

「凶悪な狼が良く言う…」

「褒め言葉と受け取らせてもらおうか」

 

前方のピットから、白式とラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡが飛び出してくる。

 

「遅かったじゃないか…言葉は不要か?」

「へっ!言ってろ、狼牙!」

「これに勝てば優勝だ…僕達が勝たせてもらうよ!?」

「織斑 一夏…貴様は私に敗れる…今日、此処でだ!」

 

会場内は戦意に満ち溢れ、まるで暴風が巻き起こっているかの如くだ。

 

「ラウラ、笑え…大胆に、不敵に…どんな状況になってもだ」

「貴様はその仮面の奥で笑っているのか?」

「笑わないわけがない…好敵手が二人もいればな!」

 

俺の言葉にラウラはニヤリと笑い一夏を睨みつける。

 

「負けねぇぜ!」

「勝つのは…」

 

「「「「俺(僕)たちだ!!!」」」」

 

試合開始のブザーと共に一夏は瞬時加速を用いてラウラに斬り掛かるが、ラウラはそれを読んでいたかの如くAICを展開し、動きを止める。

 

「試合開始と共に先制攻撃…教官の真似事で私に勝てると思ったか!?」

「あぁ、思ってないさ!」

「これはタッグバトルだからね!」

 

シャルルは一夏の影になるように多弾頭ミサイルを発射し即分裂、一夏の背後からミサイルがラウラに襲いかかる。

 

「そうだな!だが、俺を忘れてもらっては困る!」

 

俺は信管を刺激しないように数発のミサイルを手で弾き一夏へとミサイルを返しつつ、シャルルへと近づく。

一夏はミサイルの爆炎に飲まれ、ラウラはワイヤーブレードでミサイルを叩き落とす。

 

「ラウラ、早々にケリをつけるぞ!」

「貴様に言われんでも、シュヴァルツェア・レーゲンの前に敵はいない!」

 

瞬時加速を用いてシャルルへと肉薄する。

 

「さて、俺に付き合ってもらおうか?」

「随分情熱的だね…だけど…!」

「狼牙ァッ!!」

 

俺がシャルルに蹴りを放った瞬間、一夏が爆炎を切り裂き俺に背後から零落白夜を叩き込んでくる。

俺はそれをマトモに受けてしまい、シャルルから弾き飛ばされてしまう。

 

「最初から、俺が狙いか!」

「君のフォローは驚異的だからね!」

「先に狼牙から退場願うぜ!」

「チィッ!」

 

シャルルはラウラと俺に牽制の弾丸を的確に叩き込み、一夏は瞬時加速で突っ込んでくる!

 

「いつかの模擬戦の時とは違うぜ!?」

「ならば!俺の牙をへし折ってみせろ!!」

「織斑ァッ!にぃげぇるぅなぁっ!!!」

「君の相手は僕だよ!ドイツの黒兎!」

 

俺は、一夏の間合いより詰め寄り素早く拳を叩き込んでいく。

対する一夏も、刀と脚を上手く使い俺と互角の戦いを繰り広げていく。

俺が一夏と肉薄してしまった為に牽制が放てないシャルルは、ヒットアンドアウェイを繰り返し、ラウラを此方に寄せ付けない。

分断する筈が逆に分断されてしまったのだ…。

俺とラウラは完全に掌の上で踊らされている。

 

 

 

会場の観客席、ドイツの官僚たちの中にその人物は居た。

その人物は親しげに官僚達に話しかけている。

 

「シュヴァルツェア・ハーゼの隊長は、若い身空で良く戦っていますわ」

「彼女は軍の秘蔵っ子と言う触れ込みだからな。ヴォーダン・オージェの処置に失敗した時は焦りもしたが…織斑 千冬には頭が上がらんよ」

「あら…貴方方がそれを仰いますの?」

「フッ…表沙汰にされていなければ言っても構わないだろうさ」

 

織斑 一夏誘拐事件…事の真相はこうだ。

ドイツは技術力があっても、人材を育成する力が他国よりも劣っていた。

機体は良くても、操縦者の練度がどうしても低く大会で結果を残すことが出来ないでいた。

しかし織斑 千冬と言う逸材を見出した時、一芝居打つことにしたのだ。

織斑 千冬には大きな弱点がいる。

たった一人の弟である、織斑 一夏の存在だ。

彼女が第二回大会に出る時、必ず一緒に一夏が付いてくることを理解していた当時のドイツ高官は、とある組織に誘拐依頼を出す。

その組織の名前は亡国機業(ファントム・タスク)

世界の裏で暗躍し続ける秘密結社であり、発足は第二次世界大戦中で五十年前から活動を行っている。

その組織は何を目的としているのか、存在理由は何なのか…全てが不明ではあるものの金さえ払えばなんでもこなす、国にとっての便利屋の様な地位を築いていた。

無論、その存在は時に国の長でさえ知らないことがある。

これこそが、この組織の不気味さを物語る一因にもなっている。

何せ実態が分からないのだから。

結果として、織斑 一夏は誘拐されドイツによるマッチポンプは成功する。

織斑 千冬と言う優秀な教官を手に入れることによって。

 

「今後とも、君達とは親しくやっていきたいものだね」

「残念ですわ…私達は既に別の依頼で動いていますの」

 

豊かなブロンドに誰もが見惚れるようなワガママボディの持ち主…スコール・ミューゼルは妖しく笑う。

 

「いやいや、君達の都合は優先させてもらうさ…だが、その時は…」

「貴方達が表の世界に出る事はありませんわ…ほら、ね?」

「どういうことだ!?」

 

スコールがラウラを指差した時、異変は起きる

 

『イヤダアアアアアアア!!!』

 

絶叫がアリーナに響き渡った。

 

 

 

「チィッ!完全に頭に血が上っているな!」

 

ラウラは一夏に固執する余り視野が狭くなり被弾を物ともせずに接近してくる。

それに対してシャルルはもはや撃ち放題だ。

状況は劣勢…しかし、俺は諦めん!

 

「ラウラぁっ!こっちにレールカノンを撃てぇっ!!」

「正気かよ!?」

 

一夏は驚愕の表情で此方を見つめ、果たしてラウラにその声が届いたのかリボルバーレールカノンを撃ち込んでくる。

俺はそれを瞬時加速を用いて速度の乗った蹴りを弾丸に叩き込む。

 

「ディィィィッヤッ!!!」

 

俺は足の装甲を犠牲に弾丸を蹴り返し、シャルルへと命中させる。

いわば擬似的な跳弾を行ったのだ。

 

「デタラメだよ!?」

「こうでもせねば隙ができんからな!」

 

俺は、シャルルへと瞬時加速を用いて肉薄する。

 

「ここから先は俺と踊ってもらうぞ…今度こそな!!」

「君とのダンスはお断りだよ!」

 

シャルルは近接ブレードとショットガンを巧みに操り、俺を寄せ付けない。

 

「手負いの狼くらい、僕でも対処できるさ!」

「手負いの獣ほど恐ろしいもの…!?」

 

ラウラが一夏に斬られた瞬間、異変が起きる。

 

「いやだ、お前の力なんか、いらない、いらない、私は、ラウラなんだ…お前なんかじゃ……イヤダアアアアアアア!!!」

 

ラウラが絶叫を上げると、シュヴァルツェア・レーゲンは制御を失い地上に落下。

スパークを発しながら機体がドロドロと溶けラウラを取り込み蠢き続ける。

 

「ラウラ!聞こえるか!?」

[…これは…ヴァルキリー・トレース・システム…?なに、これ…]

 

コアネットワークは繋がっているものの、応答がない…ラウラは意識が無いようだ。

 

「一夏、シャルル!緊急事態だ!」

「なんなんだよ…ラウラごと溶けちまったぞ!?」

「気味が悪いよ…」

 

いきなりアリーナの遮断シールドのレベルが跳ね上がり、ピットの出入り口に分厚い鉄扉が落とされる。

…成る程…ラウラは利用されているわけか…屑共が…。

 

「一夏、シャルル…ラウラを助けるぞ」

「狼牙ならそう言うって思ってたぜ!」

「クラスメイトだしね!」

 

二人は俺に同意して頷いてくれる。

ラウラのISは形状が変化し、何処かで見たことのある刀を持った女性の姿へと変貌する。

 

「あれは…あの刀は…!?」

 

一夏は歯を食い縛り、今にも飛び出したい気持ちを抑えて堪える。

シャルルはアサルトライフルを展開し構える。

 

「あれは…一夏の刀だ!」

「違うぜ…あれは千冬姉の雪片だ!狼牙…頼む…俺をオフェンスに回してくれ…あれは俺が斬らなきゃダメなんだよ…斬らなきゃ、織斑 一夏じゃ無くなっちまう…」

「…元より、お前が頼みの綱だ…白、説明してくれ」

[いい?あのISもどきは過剰なシールドエネルギーで形成された紛い物なの。飛び上がることは出来ないけど、その戦闘能力は恐ろしいものがあるわ。あのISもどきにはモンド・グロッソ優勝者のデータが入っている…雪片を握っていると言う事は、恐らく千冬のデータが反映されているのね]

 

ヴァルキリー・トレース・システム…その名の通りと言う訳だ。

モンド・グロッソで得られた戦闘データを機体に反映させ、機体を操作する…と言ったところか…。

下種どもが…過去の過ちに似たような事を繰り返すか…。

 

『三人共!教師陣が着くまで絶対に手を出すな!あれは教師陣で対処する!!』

 

管制室から千冬さんが声をかける。

俺は苛立たしげに千冬さんへと返事を返す。

 

「対処とはどのようなものだ?真逆、見捨てるつもりではあるまいな…」

『それはっ…!』

「俺は認めんぞ!命はそんなに容易く見捨てるものではない!!自分がヘマして死ぬ分には文句はない!だがな!目の前で消える命があるならば、俺はそれを全力で守ってみせる!!!」

「やろうぜ、狼牙!」

「火力支援は任せてよ!僕の底力って言うのを見せてあげる!」

[そう言う事よ、千冬…貴女はそこで指を咥えて見ていることね]

 

俺は一夏とシャルルに頷き、矮星から蓄えたエネルギーを全身に回し始める。

助けてみせる…決して見捨てはせんぞ…!

 

『すまない…五分だ…稼げる時間はそれくらいしかない…』

「上等だぜ、千冬姉!」

「ラウラは恐らくコアのある胴体部分にいるはずだ…ISモドキを搔っ捌くぞ!」

「おう!!」

「うん!!」

 

俺は躊躇する事なくリミッターを解除し、アリーナに咆哮を響き渡らせる。

瞬時加速を行い、俺は刀を構えるISモドキの背後に反応される前に回り込み蹴り上げる。

シャルルはアサルトライフルを乱射しながらすれ違いざまに胴体へとパイルバンカーを撃ち込む。

 

「銀君!」

「タイミングを合わせろ、一夏ァッ!」

 

パイルバンカーで弾き飛ばされたISモドキに向かって再び瞬時加速。

しかし今度は反応され、肩口に雪片が食い込む。

どうやら、擬似的に零落白夜まで再現しているらしい…だから、なんだと言うのだ!?

 

「行けぇっ!!」

 

俺は刀を思い切り掴み取り上げるように腕を蹴り飛ばし、連続で回し蹴りをISモドキの背中に放ち一夏に向けて弾き飛ばす。

 

「斬り裂けぇっ!!」

 

一夏は裂帛の気合いと共に、零落白夜でISモドキの表面をすれ違いざまに切り裂く。

その瞬間だけシールドエネルギーが消失し、生まれたままの姿となったラウラが露出する。

しかし、未だシステムが働いているのか再びラウラを覆い始める。

 

「しつこいんだ…貴様は!」

 

それを見越していた俺は素早くラウラへと肉薄し、体を引き剥がすようにして抱きかかる。

 

「散華しろ…!」

 

今だ蠢く機体に向かって、思いっきり蹴り込みアリーナの地面に叩きつけると漸く機体は機能停止したのか、内部骨格とコアを残して消え去った。

俺はゆっくりとアリーナに降り立ち、ラウラを見つめる。

 

「見捨てはせん…この世界は厳しくも優しいからな」

「狼牙!無事か!?」

「正直、早く医務室に行きたい…肩口がバッサリやられている…」

「銀君!絶対にIS解除したらダメだよ!?」

 

ぐ…今になって痛み始めたな…幸い表面だけで済んでいるので縫うだけでだろうが…。

 

[お疲れ様、ロボ…今回も無茶したわね]

 

無茶の報酬が命一つならば安いものだろう…。

俺は静かに眠るラウラを見つめ肩を竦めるのだった。


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