【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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第一巻、開幕でございます。


狼華やかな世界に立つ
かくもめでたき初日かな


「入学式の時から思っていたんだけどな?」

「まぁ、言わんとしている事は分かる」

 

入学式の長ったらしい挨拶やら、説明やらの時も感じていた。

クラス分け発表の際の掲示板の時などモーゼの十戒の海を割るシーンの様に人が引き、取り囲むように見られていた。

まぁ、なんだ…ようするにだ

 

「「パンダみたいだな」」

 

此処は元々男子禁制女子の花園。

この学園の制服ーーもちろん男子仕様の特注品ではあるがーーを身に纏った男子等珍しいなんて物ではないだろう。

男日照りが続くお嬢様方は、互いに互いの足を引っ張る駆け引きを。

腐り果てたお嬢様方は、さぞかし妄想が捗るのだろうな。

 

「兎に角、クラスは分かったし急ごう…」

「今度は道に迷ってくれるなよ…登校初日で遅刻だけは避けたい」

 

視線で人を撃ち殺せるのであれば、俺たちは既に体重が三倍近く増えている事だろうな。

 

 

 

ガララ、と音を立ててクラスの扉を開けば俺たちをとても『ハートフル』な視線でクラス全員が見つめてきた。

ぐ、と後ずさりたい気持ちを抑えクラスに入り黒板を見れば席順が描いてあった。

 

「揃ってど真ん中最前列…せめて、最後方にしてもらえなかったものか」

 

軽く片手で頭を抱え席をつく俺。

 

「これは…キツいな…」

 

最早、この世の終わりを感じたかの様に絶望とした顔で席に着けば突っ伏す一夏。

しかし、この珍獣を見るかのような視線もあと少しで減るだろう…テレビを見た時の知った事だが、俺たちの発見を境に、全世界で一斉に男性相手のIS適性検査が開始しているそうだ。

つまり、見つかれば俺たちと同じように此処にぶち込まれることになる。

仲間が増えれば気が楽になる。

どうか、増えてくれ。

切実にそう思うのだが、後々その希望は打ち砕かれる事になる。

それも最悪な形で。

 

「一夏、SHRが始まる…姿勢を正せ…」

「おー…」

 

俺が耳元で囁けば、一夏は気の抜けた返事をすれば、居心地の悪そうな顔で背筋を正し座り直す。

背後からキャーキャー言う声が聞こえるが、努めて聞こえないフリをする。

束さんのスキンシップを乗り越えたものは、スルースキルも磨かれるのだ。

そうして、背後からの視線に耐えて数分静かに扉が開き、恐らく担任と思われる女性が入ってきた。

背が低く顔も童顔で少女然としている、掛けているメガネも大きいのかややずれていて、着ているスーツも少々大きめな様で…同い年と言われてもそう違和感は無いだろう。

ただ、男の目でこう言うのも非常に失礼なのだが、胸はその体型に不釣り合いなほど大きかった。

恐らくその辺の女性では太刀打ち出来んレベルだろう。

 

「皆さん揃ってますねー。それではSHRを始めますよー」

 

教壇に向かいながらそう言う先生は朗らかな感じでとても優しく思える。

この分なら何とか一年乗り切れるか、と腕を組みながら思案する。

 

「私はこの一年一組の副担任を担当する山田 真耶(やまだ まや)です。一年間よろしくお願いしますね」

 

『……………』

 

担任ではなく副担任か…等と思うと教室は静寂に包まれている。

どうにも俺たちの事が気になって、緊張しているようではある。

皆黙っていると山田先生が涙ぐんでくる。

 

「一年間よろしく頼む、先生」

「は、は、はいっ!」

 

まさか、返事が返ってくるとは思ってなかったようで驚きつつも満面の笑みを浮かべる先生。

どうにも、保護欲をそそられる女性である。

 

「それじゃ、出席番号順で自己紹介をお願いしますね」

 

一先ず、自己紹介が始まったので耳を傾けつつ隣にいる一夏へと目を向ける。

青くなったり赤くなったり忙しないな。

ん、一夏が挙動不審にクラスを見渡しある一点で視線が止まる。

知り合いでも居たのだろうか?

 

「織斑くん、織斑くーん?織斑くんっ!織斑 一夏くんっ!?」

「は、はいっ!!」

 

話を聞いてなかったのか、再三の呼びかけの反応が無かった為涙目になりながら声を大きくする山田先生に対し、声を裏返し反射的にビシッと背筋を伸ばして立ち上がる一夏。

…呑まれているな。

 

「あ、あの、お、大声出しちゃってごめんなさい。お、怒ってる?怒ってるかな?ゴメンね、ゴメンね?で、でもね自己紹介が『あ』から始まって今『お』の織斑くんなんだよね。だからね、ゴメンね?自己紹介してくれるかな?ダメかな?」

 

メンタル弱過ぎないか、山田先生よ…。

 

「いや、その…そんなに謝らないでくださいよ…自己紹介しますから…先生落ち着いてください」

 

その一言を聞いた山田先生は一夏の手を両手に取り上目遣いで見つめる。

女子達から羨ましそうな視線も一夏達に降り注ぐ。

ん…一人険しい顔の女子が居るが…何故だ?

 

「ほ、本当ですか?本当ですね?や、約束ですよ。絶対ですよ!」

 

山田先生の剣幕にたじろぎつつ、深呼吸して振り向く一夏。

気持ち後ずさったな…止めてくれ、もう直ぐ俺も味わわなければならんのだぞ…。

 

「えっと…織斑 一夏です。よろしくお願いします」

 

ふむ、自己紹介が始まったな…しかし名前だけ言って終わりでは無かろうな?

 

「っ…」

 

プレッシャー!?

自己紹介の最中何かの圧力を感じて、そちらに目を向けると世界屈指の女傑が一夏の背後に立っていた。

だが、他の人間には気付かれていないようだ。

目礼だけし、俺は気付かれないように急いで携帯の音量をMAXにし、とある効果音のファイルをいつでも開けるようにする。

そうこうしてると、自分の趣味でも喋ろうと言うのか深呼吸をする一夏。

 

「以上です!!」

 

「お前は満足に自己紹介一つできんのか!?」

 

すっぱーん!!とその辺のハリセンでは出せんような音とともに出席簿が一夏の頭に叩き降ろされた。

 

「イッーーーー!!!!」

 

あまりの激痛に悶絶したのか頭を抑え振り向く一夏。

タイミングが来たな。

 

「ゲェッ関羽!?」

『ジャーンジャーンジャーン!!!!』

 

一夏のセリフと共に鳴り響く銅鑼の音。

ふむ、良い仕事をしたな…等としたり顏になっていれば俺の脳天に出席簿が背表紙を縦にして叩き降ろされる。

 

「誰が三国志の英雄か、馬鹿者。銀も調子にのるな!」

「失礼した、千冬さん」

「学校では織斑先生と呼べ」

 

隙を生じぬ二段構えなのか再び俺の脳天に出席簿が叩き降ろされる。

うむ、解せぬ。

 

「あ、織斑先生。もう会議は終わられたんですか?」

「あぁ、山田君。クラスへの挨拶を押し付けてすまなかったな」

 

二人とも仲が良いようで、優しげな声で会話している。

若干山田先生の顔が赤いのが気にはなるが…。

 

そうこうしていると千冬さんが教壇に立ちクラス全体を見渡す。

 

「諸君、私が織斑 千冬だ。君達カラ付きのヒヨコ共を一年で使えるヒヨコにするのが私の仕事だ。私の言うことは絶対だ。反論は許さん。返事はハイかYesのみだ。出来ない奴はみっちり扱いてやるからな?」

 

鬼教官もかくやと言わんばかりの物言いである。

何処の海軍なのだかな。

一瞬の沈黙の後にそれは衝撃波となって、俺たちに襲い掛かった。

 

「キャーーーーー!千冬さま!本物の千冬様よ!!」

「ずっとファンでした!!」

「私、お姉さまに憧れてこの学園に来たんです!北九州から!!」

 

これが世界最強、千冬さんのカリスマか…。

 

織斑 千冬…IS競技国際試合であるモンドグロッソにおいて、近接ブレード一本で第一回大会を優勝。そのあまりもの強さに総合部門優勝者「ブリュンヒルデ」と各部門優勝者「ヴァルキリー」という形で表彰が別にされるほど。

第二回大会にて理由不明のまま決勝戦を棄権。不戦敗となるが、第二回大会優勝者が優勝辞退をした為今でもブリュンヒルデと言えば千冬さんとなる。

 

丁度俺と一夏は教壇の真正面に立っているためクラス全員の黄色い声の鼓膜崩壊音波を一身に受ける形になる。

別の事を考えていて聞こえないフリ等出来ないレベルの音…俺はあまりの爆音に頭痛を覚えるが一夏は未だに呆然としている。

 

「毎年毎年、よくもこれだけ似た様なのを集められるな…わざとか?」

 

鬱陶しそうに髪をかきあげ溜息をつく千冬さん。

だがな、彼女らがこの程度で静まる筈もあるまいよ。

 

「キャーーーーー!お姉様!もっと叱って!罵って!」

「でも時には優しくして甘えさせて!!」

「そしてつけ上がらないように躾してぇ!!!

 

ミーハーのMはドマゾのMだったようだ。

眉間を揉み頭痛と格闘していると、漸く一夏が再起動をした。

 

「なんだって千冬姉がこんな場所にーイィッ!!」

「織斑先生と呼べ、馬鹿者」

 

手早く出席簿で千冬さんが一夏に制裁を与え、着席させる。

 

「マム・イエス・マム……」

 

頭を抑えながら返事をする一夏に、クラスの女子達が再び騒ぎ出す。

 

「もしかして、織斑君って千冬様の…」

「だったら、千冬様の弟だからISを…」

「そしたらもう一人の人と辻褄あわないじゃない…」

 

ひそひそとそんな事を話し合う女子達。

束さんですら把握していない問題だ…ここで協議しても無駄だろう。

担任である千冬さんが何故か俺の頭に出席簿を叩きつけると同時にチャイムが鳴り響く。

解せぬ。

 

「さぁ、SHRは終わりだ。諸君らにはこれからみっちりと基礎知識を頭に叩き込んでもらう。その後実機を用いた実習となるが、基本動作は半月でこなしてもらう。良ければ返事をしろ。不味くても返事だ。私の言葉は絶対だからな」

 

 

自己紹介終了…だと…中々ハードな初日だな。

人権なんぞ知ったことではないと言った物言いではあるが、俺は知っている。

優しさの裏返しであること。

兵器を取り扱うが故に厳しくなってしまうことを…。

これから始まる基礎部分からして遅れている俺たちは、気合を入れ直し勉学に励むのであった。

 

 

 

「あー…まずい…これは、面倒な事になった…」

 

一限目の授業終了後、机に突っ伏しシクシクと泣く一夏。

俺は教本にカラーペンを走らせ少しでも理解しやすくなるように努力をしている。

 

「諦めたらそこで終わりだぞ。泣く暇があるなら、必死に食らい付け」

 

無情かもしれんが、此処は学校なのでな…友人とて競争相手になる。

 

「そうは言うけどな…狼牙はこの視線平気だって言うのかよ」

「気にした所で現状が変わるわけでもあるまいよ。で、あればこの国に伝わるありがたい言葉に従うだけだ」

 

元より人の目を引く外見をしている俺は、あっという間に環境に順応できた。

慣れと言うものは末恐ろしいものだ。

 

「その言葉って?」

 

漸く泣き止んだ一夏は体を起こし次の授業の準備を始める。

 

「郷に入りては郷に従え」

「ハードル高いって…」

 

深い溜息と共に肩を落とす一夏。

 

「まぁ、確かにこれではな…」

 

ちら、と扉に付いている小窓を見る。

同学年から上級生…更には教師まで一目見ようと押し競饅頭状態で戦っている。

教師よ、諌める立場ではないのか?

 

「狼牙は見た目外人みたいだしなぁ…」

「顔は日本人よりだと思いたいんだが…まぁ、知らん人からすれば外人に見られるのは仕方ないことか」

 

腕を組み頷けば髪の毛が引っ張られる。

 

「何をする一夏」

「いや、ホント伸びたよな…その辺の女子よりも長いぜ?」

 

俺は両親が亡くなってからと言うもの、髪の毛を伸ばし続けていた。

両親が綺麗だと言ってくれていた髪だ…何と無く勿体無いとそのまま伸ばしている。

三つ編みなのは、束さんからのお願いだ。

あぁ、解剖をチラつかせられたとも…背に腹は代えられん。

 

「……ちょっといいか?」

 

一夏が俺の髪の毛で適当に遊んでいると突然背後から女子が声をかけてきた。

その人物を見る一夏は何処か嬉しそうな顔だ。

 

「もしかしなくても…(ほうき)か?」

 

その人物は黒く長い髪の毛を肩下まで伸びる白いリボンでポニーテールに結っていた。

鍛えているのか女性らしい肉体であるにも関わらず、スラリとしていて美しい。

なるほど、束さんの妹のようだ。

俺は一応目礼するものの、彼女は一夏しか見ていない。

苦労するな…彼女も。

 

「此処ではなんだ…廊下で話したい」

 

そう言うと大股で歩き出て行く箒。

 

「行ってこい一夏…昔馴染みなのだろう?」

「お、おう…」

 

彼女に気圧されたのか、反応が鈍いが一夏は慌てて箒を追いかけて廊下へと向かう。

 

「さて……」

 

ぽつりと呟き立ち上がれば、背後にいる女子達へと視線を向ける。

皆話しかけてもらいたそうにしているな…自己紹介も出来ておらんし丁度良いだろう。

 

「皆、知っているだろうが聞いてほしい。俺が男性操縦者の片割れ銀 狼牙だ。こう見えても純日本人。趣味は絵を描く事だ。これからよろしく頼む」

 

一夏よ、これが自己紹介だ。

 

「キャーーー!」

「渋い、低音ヴォイスね!」

「ヌードモデル求めてるかしら!」

「綺麗な銀髪よ!」

「狼牙×一夏…いえ、一夏×狼牙よ!夏に間に合わせるわよ!!」

 

自由だな女子共よ。

最後のは本人に聞こえない所でやって貰いたいが。

そうこうしていると予鈴が鳴り始め、一夏達が帰ってくるものの一夏は考え事しているのか席の前で首を傾げている。

 

スパァンっ!!

 

「席に着け、織斑」

「ご指導ありがとうございます織斑先生」

 

千冬さんよ、少々一夏に厳しくはなかろうか?

 

 

 

「ーーで、あるからして、ISの基本的な運用は現時点で国家の認証が必要であり、枠内を逸脱したISの運用は、刑法で厳しく罰せられーー」

 

すらすらと教科書を読んでいく山田先生は、SHRの時とは違い凛としていて頼り甲斐がある。

しかし、基本的なIS教育と言うものが抜け落ちている男性には難しいことは変わらない。

板書を逃さずノートに書き写し、参考書も広げ教本と共にカラーペンでチェックを入れていく。

抜け落ちているからといって、落ちこぼれに甘んじるつもりは無い。

全力で食らいつかなければ教師に面目が立たないしな。

 

必死に勉学に励まねばならんと言うのに隣の一夏は挙動不審に視線を彷徨わせている。

 

(大丈夫なのか?)

(狼牙は追いつけてるのかよ…?)

(俺とて変わらん。だが、俺は喰らい付いてみせる)

 

どうも、未だに覚悟が足らんらしい…一先ずアドバイスを、と言う所で山田先生に気付かれてしまった。

 

「織斑君と銀君、何処か分からないところがありましたか?」

「正直に言えば右も左も分からん状態ではあるが、先生の授業は理解はしやすい…俺は大丈夫だ」

首を横に振り努めて微笑んでみせ、一夏をちら、と見る。

 

「先生!」

「はい!織斑君、何でも聞いてくださいね!」

 

いや、本当に良い人だな…山田先生は。

教師として頼もしくあろうとするその姿勢は憧れすらも覚えかねん。

 

「殆ど全部分かりません!」

 

自信に満ち溢れた顔、プライスレスである。

 

「いや、そんな事を自信満々で言うな」

「隠し立てしても仕方ないだろ?だったら俺は全てを曝け出す!」

 

ドヤ顔で胸を張るな、教室の後ろにいる千冬さんの視線が怖いし山田先生がフリーズしている。

あと曝け出すに反応するな女子よ…顔を赤らめるんじゃない。

山田先生は漸く再起動して、俺たちをやや涙目で見つめてくる。

 

「あ、え…ほ、殆ど分からないんですか?」

 

顔を引きつらせ困り顔の山田先生は教室を見渡す。

 

「えっと、今の段階で分からない人は手を挙げてください」

 

挙手を促され、一先ず俺は手を上げておく。

なんせISの製作者に叩き込まれたのは、IS自体に関わることであって周りの法や条約なんぞすっ飛ばしていたのだ。

すまぬ、山田先生…だが、きっとマトモな生徒になってみせよう。

千冬さんが俺たちの近くに寄ってくる。

 

「織斑、銀…入学前に参考書は読んだのか?」

「織斑先生の『親友』殿に邪魔されていた」

 

俺は束さんの関係者とバレると篠ノ之含め、面倒なことになるのは目に見えているためボカしつつも苦しい言い訳をすると、千冬さんは顔をやや引きつらせる。

束さん、生きて帰れよ。

 

「古い電話帳と間違えて古紙回収に出しました!」

「馬鹿か一夏!!」

 

クラス全体、俺含めて椅子から転げ落ちると同時に千冬さんの鉄拳制裁が一夏を襲う。

 

「必読と書いてあっただろうが馬鹿者。後で再発行してやる、一週間で覚えろ」

「いや、あれを一週間ではちょっと…」

「自業自得だ、諦めろ一夏」

「織斑、銀と一緒に授業ごとのレポートも提出してもらうからな」

「「はい…」」

 

レポートだけだ…まだ、良いだろう。

しかし、一夏…こいつ感性だけで生きてるのか?

何時か大きなポカをやらかしそうで怖いな…せめて鈴が居れば…いやダメだ…マトモな結果にならなそうだ。

 

「織斑、銀…分かっているだろうが此処で学ぶISと言う代物は、現代兵器のそれを遥かに上回る攻撃力を持っている。『兵器』を扱う者にはそれ相応の覚悟と意味を知らなくてはならない。そのための基礎と規約だ…中途半端な気持ちで挑むな、覚えろ、そして守れ…特に織斑、お前の望みを叶えるためにな」

 

厳しい声ではあるが一夏を見つめる目は優しい。

聞いた話では、織斑一家の両親は一夏が幼い頃に失踪してしまったらしい。

たった二人の家族であれば、愛情も一入と言うものだろう。

 

「分かったよ、千冬姉」

「織斑先生だ、馬鹿者」

 

出席簿ブレードで撃沈した一夏を微笑ましく見ていた俺を殺気が襲う。

 

「銀、貴様も喰らうか?んん?」

「丁重に辞退させていただく、織斑先生」

 

首を横に振り山田先生へと視線を向ける。

 

「織斑君、銀君分からないところがあったら、遠慮なく聞いてくださいね。何たって先生なんですから!」

 

山田先生がエヘンと胸を張れば相応に揺れる。

おい背後から悔しそうな声が聞こえたぞ。

胸部装甲で女性は図れんだろうに。

 

「で、あれば忙しい所心苦しいが放課後に時間をいただきたい…おさらいをせんと、確実に落ちこぼれる…だろう、一夏?」

 

挙手をし、追試を願い出れば一夏に賛同を促す。

流されるままに一夏はコクコクと壊れたように頷く。

すると、山田先生は顔を茹で蛸の様に赤く染め上げていく。

 

「ほ、放課後…三人だけで特別授業…教師と生徒の禁断の関係…。だ、ダメです!無理矢理手篭めにするなんて…!でもでも!先生、強引な方が…断り切れない!!」

 

体をくねらせ両手で顔を覆い妄想の世界に飛び立つ山田先生。

この人話を聞いていたのだろうか?

 

「あー、ごほんっ!山田君、授業が押している」

「し、失礼しまし…いたっ!!」

 

千冬さんの咳払いで正気に戻った山田先生は、慌てて教壇に戻るも足をもつれさせ派手に転んだ。

大丈夫か、この副担任…。

溜息を吐き出しつつ俺は授業へと全神経を向けるのだった。


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