【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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A rabbit and a wolf dances in black rain.

六月最終週。

学園は学年別トーナメントを迎え、熱気に包まれている。

学年別トーナメントは四つのブロックに分け、トーナメントを勝ち上がった四つのチームが決勝トーナメントに出場できる仕組みになっている。

非常に余談ではあるが、二年生は優勝すると楯無と一騎打ちを行う権利を得る事ができる。

もし楯無に打ち勝つことができれば、その瞬間から勝者はこの学園の生徒会長と言う事になる。

朝、俺は楯無と別れる前に一言『頑張れよ」とだけ伝えてやった。

目に見えてやる気を出す楯無が何処か可笑しく、俺はクスリと笑ってしまった。

基本的に学園のこうした行事は生徒全員で取り組むことになっており、開会式直前になっても会場整理や来賓の誘導等で全員が慌ただしく動き回っている。

生徒会のメンバーである俺もその例に漏れず、雑務の陣頭指揮に立っていた。

 

「すまないが、時間がおしている!もう一踏ん張りなので頑張ってもらいたい!」

「「「はーい!!!」」」

 

俺は力仕事をメインに仕事をこなしていく。

足手纏いとあっては、楯無達に顔向けできんからな。

 

「こちらのパンフレットはどちらに置けばよろしいでしょうか?」

「セシリア、それは各席に一部ずつ配布しておいてくれ!何人かセシリアを手伝ってやってくれ!」

 

セシリアがパンフレットの山を危なげに運んできてヒヤヒヤする。

全く、ギリギリになって準備せねばならんとは…。

 

「狼牙、こっち終わったわよ?」

「鈴は、あちらのテント設営を手伝ってくれ」

「わかったわ。この学園、人使い荒いわねぇ」

「充実した設備があるんだ、ボヤくな」

「はいはい」

 

鈴は肩を竦めて駆け出していく。

開会式まで後一時間…みんなでやれば出来んこと等ないだろうさ。

 

 

 

準備から解放され、開会式を無事に終えた俺たち男性操縦者は急いでアリーナの更衣室へと向かう。

本来であればもっと大勢の生徒が使うべきであろう更衣室の一室を三人占めである。

 

「しっかし、よくもまぁ集まってくるもんだな…」

「三年には、軍や企業からのスカウト。二年は一年間の成果の確認に来ているからね」

「一年で関係あるのは男性操縦者と上位入賞者と言ったところだ」

「ご苦労なこった」

 

着替えを終えて、一夏とシャルルと共に更衣室内のモニターから人でごった返す観客席を眺める。

そこには、各国の政府関係者やCM等で見かける企業団体が所狭しと集まっていた。

 

「フランスは、さすがに来ていないか…まぁ、俺のせいなんだがな」

「銀君…悪い顔してる」

「普段のストレス発散に使われたんだ…俺は少しばかりフランスに同情するぜ…」

 

三者三様に笑う。

このトーナメントが終われば、シャルルと言う男性とはお別れだ。

入れ替わりにシャルロットと言う少女がやってくる。

一つの難題が終わり、俺は次なる難題に挑まねばならない。

 

「あ、トーナメントの抽選が終わったみたいだよ?」

「どれどれ…」

 

一夏と一緒に俺はトーナメント表を見る。

俺とボーデヴィッヒはAブロック。

一夏、シャルロットはCブロック。

そして箒簪組は…

 

「Bブロックか…勝ち上がってくれば、俺と決勝トーナメントで争う形になるな」

「クラスメイトだからと言って…」

「手は抜かんよ…俺はボーデヴィッヒに手を抜いてもらいたいがな」

「どうして?」

 

シャルロットは不思議そうな顔をする。

なんせ、ラウラと俺は組んでいるのだ。

パートナーに手を抜いてもらう道理はないだろう。

 

「あいつから背中から撃つ宣言されていてな…擬似的な三対一だぞ…勘弁してもらいたい」

「ラウラのやつ…!」

「銀君、怪我したらダメだよ?」

 

一夏はラウラの発言に憤り、シャルロットは心配そうに見てくる。

俺は肩を竦めて苦笑する。

 

「善処しよう…さて、俺は一足先にピットへと向かう…二人とも、決勝でやり合うのを楽しみにしている」

「おう、勝ち上がってこいよ狼牙!!」

「恩人だけど、勝ちは譲らないからね!」

 

俺は背を向けたままライバル達に軽く手を振り更衣室から出て行く。

相変わらず、女子達は俺のISスーツ姿を見て黄色い声を上げている…しかし、今はそれが気にならない。

それ程までの俺は闘いに向け集中力を高めている。

さぁ、ここから先は暫く気が抜けん戦いになるな。

 

 

 

ピットへと向かうと、整備ハンガーに設置されていた天狼の前にラウラが立っていた。

その目は変わらず厳しく、冷徹に他者を拒絶するような光が灯っている。

俺は背後から近付き声をかける。

 

「どうした…天狼が気になるのか?」

「別に…暇だから見ていただけだ」

 

天狼は全身装甲…一般的なISとはかけ離れた姿をしている。

そのせいで、初戦はデモンストレーションをする羽目になっている。

 

「先日も言ったが、俺は初戦開始直前にアリーナ内でISを展開することになっている…間違っても撃ってくれるなよ?」

「教官からも聞いている。私の邪魔さえしなければ撃つことはない」

「それは安心したな」

 

俺は笑みを浮かべ、天狼に触れれば待機状態にして身につける。

ラウラはこちらを見上げてくる。

 

「…貴様は、あれだけの殺気を放ち私に襲いかかってきたと言うのに何故私と組んだ?いくら教官の頼みとは言え、貴様にはメリットがないだろう?」

「損得勘定で人付き合いも構わんが、俺はただクラスメイトに手を差しのばしているだけだ。背伸びして強くあろうとするな…そして、他人を拒絶するな」

 

ラウラは歯を食いしばり、怒りを露わにする。

 

「知った風な口を聞くな!私は私だ!私の強さでここに立っている!」

「で、あれば他人を受け入れる強さも持つべきだ。何があったかはしらんが…孤独は、辛いからな?」

 

俺はポンと頭を撫でてやり、反撃を受ける前にアリーナ内へと歩き始める。

 

[遺伝子強化試験体…彼女は戦うために作られ、高みを目指すために行われた『ヴォーダン・オージェ』の処置に失敗し、出来損ないと呼ばれ続けた]

 

環境が悪すぎたな…周囲は結果しか求めず、失敗すれば即廃棄…そんな世界にいては人を信用できんだろう。

俺は、セシリアがそう見出した様にラウラ・ボーデヴィッヒが知らない世界がある事を示してやりたい。

ラウラが見てきた人間ばかりではないという事の証左を示してやらねばな。

 

[フフ、お父さん…もう一踏ん張りね]

 

俺がアリーナ内へと出ると、頭上をシュヴァルツェア・レーゲンが飛び越えていく。

さて、まずはトーナメントを勝ち上がるとしようか。

 

 

 

試合開始前、頭上にボーデヴィッヒ…前方にラファール二機を視界に入れる。

アリーナ内は大した障害物もない真っさらな状態だ。

これは、クラス対抗戦に比べ出場者数が多いため、アリーナの整備が間に合わないからだ。

つまり、純粋なテクニックがモノを言う実力が試されるフィールドと言う訳だ。

 

「天狼、狩りの時間だ」

 

俺は天狼に声をかけると、全身を装甲が覆っていく。

天狼を展開すると俺はラウラの隣まで飛び上がり腕を組む。

 

「俺は左の喉笛を噛みちぎらせてもらう」

「フンッ…」

 

ラウラは聞く耳持たぬといった具合で顔をこちらに向けようともしない…さて、三対一でどこまでやれるかな?

前方のラファール二機の装備はどちらもアサルトライフルを装備…近接戦を嫌っているのが良く分かる。

少々、天狼は学園で有名になったからな…お隣さんのおかげで。

試合開始のブザーと共に、俺は前方に背面の盾を展開しながら瞬時加速を行い弾丸の雨から身を守りながら左のラファールに体当たりを行う。

ラウラは、アサルトライフルの弾丸をAICで止めながらリボルバーレールカノンによる砲撃戦を開始する。

容易く俺の接近を許したラファールは、瞬時加速の速度がのった体当たりで体勢を崩す。

 

「こんのぉ!」

「その距離で銃は間に合わんよ」

 

あくまでも銃に拘っているのか近距離(俺の距離)で銃を構え引鉄を弾こうとするが、俺は二連瞬時加速(ダブル・イグニッション・ブースト)を使い一瞬で間合いを踏み潰すと拳で銃身を跳ね上げ、素早く回し蹴りを叩き込み、アリーナの遮断シールドへと追い詰めていく。

どうやら、ラウラは早々に決着をつけたようだ…すでに二機目のラファールの反応が消えている。

 

[予想通り、照準きてるわよ?]

 

俺は口角を吊り上げ不敵に笑う。

逆境の時こそ笑うべきだ。

不敵に、大胆に。

俺はラファールと空間軸を合わせ、再び瞬時加速を行う。

すると示し合わせたかのように俺に向かってリボルバーレールカノンが放たれる。

俺は躊躇うことなく、瞬時加速中に横方向へと瞬時加速を行いリボルバーレールカノンの弾丸をラファールヘと直撃させる。

フルスペックの時に比べれば、大したことのないGだと思ってしまった…。

 

「ちぃっ!」

「いや、敵に当たったのだから良しとせんか?」

「貴様も私の敵だ!」

「了解だ、隊長殿」

 

俺は頭痛に頭を悩ませながらも、瞬時加速を行いラファールの背後に回りガッチリと組みつく。

 

「絶叫マシーンはどうかな?」

 

相手の返事を聞く前に高速旋回をしながら瞬時加速で地面へと急降下を行い、激突寸前でラファールから離脱する。

そう、飯綱落としというやつだ…早々にケリをつけんと俺に身が危ないのでな…。

心の中で相手に合掌しつつ、ラウラがトドメのリボルバーレールカノンを叩き込み、試合終了のブザーが鳴り響く。

 

『試合終了。勝者…ラウラ、銀ペア』

 

俺は自身の相対したラファールヘと手を差し伸べる。

 

「すまんな、大丈夫か?」

「目、目が…銀君ガチなんだもん…まいっちゃう…うっぷ…」

「いや、手を抜くのは失礼だからな…医務室で休んでくるといい」

 

俺は軽く頭を下げる。

いやはや、確かに大人気なかったな…反省はしないが。

もう一人の様子を見るとげっそりとした顔だ。

 

「こ、こわかったよぅ…」

「すまんな…本職の軍人だから攻めが苛烈なんだ。次もおしているから早くピットに戻ってくれ」

 

俺は、対戦相手達と別れピットへと向かう。

ピットへと戻るとラウラがISを身に纏ったままこちらを睨み付けてくる。

 

「敗者に手を差し伸べるとは、お優しいことだな」

「これでもスポーツマン精神くらいは理解しているつもりだ。自分の持てる全力でぶつかってきた相手を侮辱できるほど下種になった覚えはない」

 

俺は傍らを通り過ぎて、天狼をハンガーに設置する。

次の試合は明日だ。

それまで、天狼はこうしてハンガーに預ける事になる。

 

「ISは所詮兵器だ…兵器を使う以上スポーツでもなんでもない」

「ISは厳密に言えば宇宙に出るためにものだ…履き違えてくれるなよ?」

 

俺は首を横に振り、ラウラを見上げる。

どうにも気難しい娘だな…大会中に打ち解けられると良いんだが…。

 

「とにかく、今はISバトルと言うスポーツの枠組みの中にいるのだ。勝者も敗者もなく、敬意は示すべきだろう?」

「貴様の指図は受けん」

 

ラウラはハンガーにISを預けると肩で風を切るようにして歩き去ってしまう。

 

「お前の主人はなんとも気難しくていかんな…?」

 

残されたシュヴァルツェア・レーゲンを眺め、思わずそんなことを呟いてしまった。

 




タイトルはエキサイト翻訳だから英文合ってるか自信ないんだぜ!

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