【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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父と娘

日曜日。

結局、ドイツ軍の部隊長➖シュヴァルツェア・ハーゼ…黒兎と言うらしい➖との距離は縮まらず、更には事態を知ったセシリアと鈴にしこたま怒られ、俺は寮のラウンジにあるソファで撃沈していた。

 

「分かっていた事とは言え…やるせないな…」

[事情が事情だから仕方ないけど…鈴ちゃんは兎も角セシリアちゃんには理解して欲しかったかしら?]

 

まぁ、仕方あるまい…なんせ国に実力を示すチャンスであるトーナメントに出る機会をラウラに潰されている。

そんな相手と俺が組むことになっているのだ…頭で理解しても感情では理解できんさ。

 

[懐が寂しくなるわねぇ…]

「いやはや、全くだ…しばらく毎食にプレミアムプリンを付けろとは…鬼だな」

「誰と話しているんだ?」

 

気付けば、目の前に篠ノ之が立っていた。

どうやらこれから出かけるらしい。

 

「いや、独り言だ…これから外出か?」

「あぁ…その…本音と簪と親交を深める事になってな…」

「ついでに姉の事も聞いてこい…何かしら話題にはなるだろうさ」

 

どうやら順調に人脈は増えつつあるようだ、何とも喜ばしい…。

俺は自然と笑みを浮かべる。

 

「姉さんは…」

「一人で悩んでも良いことはあるまいよ」

「し、銀には言われたくないぞ!?」

 

くっ…確かにブーメラン発言だったな…迂闊。

俺は軽く肩を竦め苦笑する。

 

「お前の思い悩む事に比べれば軽いものだ…お前はもっと友達に相談してみろ」

「…が、頑張ってはみるが…」

「とにかく、楽しんでこい」

 

俺はひらひらと手を振り箒を送り出す。

なんだかんだと楽しみにしていたのか、箒の足取りは軽い…妹キャラトリオで楽しんできなさい。

 

[ロボはお出かけしないのかしら?]

 

今日くらいはゆっくりさせてくれ…なんせこれから、デュノア社社長殿とお話しする羽目になっているのだからな。

 

[楯無ちゃんも思い切った采配するわよねぇ…トーナメント後に正式発表とは言え、副会長に抜擢だもの]

 

確実に厄介ごとを押し付ける気だ…そうに決まっている…ウゴゴ…。

気を取り直し、俺はソファーに座り直す。

今フランスは上に下にの大騒動の真っ只中だ。

事のキッカケは、こちらがフランス大手新聞社数社にタレ込んだ社長夫人イヴェットのスキャンダルが原因だ。

イヴェットは逮捕され、更にそこから芋蔓式に政府高官がしょっ引かれている。

無論、シャルルの存在も明らかにされるが、此方もイヴェットと政府側の癒着があった事を利用して全面的な被害者とさせてもらっている。

なんせ、父親の会社を盾に無理矢理やらされていたのは事実だからな。

 

[アラン社長の夢のために、身籠っていても身を引いたシャルルちゃんの母親…密かに資金援助して生活はサポートしていたそうよ。あまり派手にやるとイヴェットに目をつけられる可能性があったから止めていたみたいだけど]

 

だがその資金の流れからシャルルの存在を知られてしまった訳だ。

何とも、侭ならんものだな…。

イヴェットの浪費癖は、シャルル発覚を境に更に酷くなっていたようだ。

そうして、デュノア社の直面している問題を解決させ、あわよくばシャルルを消そうとイヴェットは策を練った。

シャルルを陥れようとして自分が奈落に落ちていく…強欲の対価に相応しいだろう。

 

[さ、待ち人が来たわよ?]

「よう、狼牙」

「おはよう、銀君」

 

思案していると一夏とシャルルがやってくる。

俺は立ち上がり、二人に手を軽く振る。

 

「すまんな。お前達も巻き込まれている。話を聞くだけだが同席する位は許されるだろう」

「おう…狼牙…喋るのはダメだったな」

「あぁ…一夏は特にな…俺の胃を助けると思って口にチャックだ」

「フフ…ごめん、ありがとう銀君」

 

俺と一夏のやり取りを見て何がおかしかったのか、シャルルはクスクスと笑っている。

実家が大変だと言うのに…いや、肩の荷が下りて逆に気楽になったか?

 

「では、生徒会室へ案内しよう」

 

俺は二人を連れ立って生徒会室へと向かう。

ボーデヴィッヒの件の前に精算ができそうで俺は少しだけ安堵していた。

 

 

 

 

俺は生徒会室の会長席の近くに座り、楯無を見る。

 

「狼牙君ご苦労様。一夏君とシャルル…いえ、シャルロットちゃんも楽にしていてね?」

「分かりました」

「よろしく、お願いします」

 

一夏とシャルル…もといシャルロットはそれぞれ末席に座る。

俺は腕を組み、目を閉じる。

 

「これから、突拍子も無いことが起こるかもしれんが決して驚かんでくれ…」

「ん?どういうことだよ?」

[こういう事よ、一夏君]

 

突如生徒会室に白の声が響き渡る。

一夏とシャルロットは辺りを見渡し、声の主を探す。

 

[ロボ…いえ、狼牙のISコアの白蝶よ]

「ISコアぁっ!?」

「そんな…自我があるなんて…理論的にはあるって言われてたけど…」

「白蝶が色々とシャルロットちゃんの実家の事を調べてくれてたのよ。今回の立役者って所ね」

 

一夏とシャルロットは目を白黒させて俺を見てくる。

俺は静かに頷き笑みを浮かべる。

 

「まぁ、そういう事でな…詳しい事は後で話してやる。そろそろ時間だ」

 

現時刻は午後一時…向こうは明け方か…時間が取れない中無理矢理作ってくれたのだ、ありがたいものだな。

コール音が鳴り響き、生徒会室のスクリーンにシャルロットと同じ金髪に白髪が混じった壮年の男性が映る。

この数日で老け込んだのか若干やつれているが…まぁ、仕方あるまい。

 

「時間を作っていただき、ありがとうございます」

『いや…こちらこそ非があると言うのに、こうして対話の場を設けてもらって感謝する』

 

どうやら日本語は流暢な様だ…流石に俺は日本語以外は喋れんからな…助かる。

楯無は敬語で喋る俺に目を丸くしている…お前相手に敬語は使わんよ。

 

「今回の騒動の計画は、白蝶から聞いていますね?」

『あぁ…随分と優秀なエージェントの様だ。私の与り知らぬ事まで丸裸にしてくるとは恐れいった』

「今回、こうした話し合いの場を設けたのは今後の貴方の身の振り方を話し合うためです。我々生徒会と学園とで協議した結果、貴方を当学園の整備課の教師として迎え入れたく思っています」

『一体、私のような錆びた技術者に何をしろと言うのだね?』

 

アラン社長は自嘲気味に笑い肩を竦めている。

そう、実際問題アラン社長でなくとも整備課の教師は他にもいる。

俺の本当の目的は、この学園で親と子が触れ合う機会を作るためだけにならない。

その為の苦しい言い訳が整備課の教師なのだ。

 

「貴方はたった一代で会社を世界シェア三位まで大きくした…ご自身も一丸となってラファールを開発なされたのでしょう?今後、IS開発分野における後進の育成や、経営に関するノウハウを持っている人間がいれば、学園の価値はそれだけ高まることになります。我々としては、貴方を遊ばせておくのが勿体ないのですよ」

 

俺はここで一旦区切り、真っ直ぐにアラン社長を見つめる。

ここだけの会話だし言ってしまっても構わないだろう…俺の本音を。

 

「そしてこれは俺の一個人としての意見…父親が娘の近くに居なくてどうする、愛しているのだろう?」

『フッ…建前よりも本音の方が堪えるな…今更父親面はできないだろう』

 

だが、これからなのだ…失っていた時間を取り戻すのは。

どちらから歩み寄るのかは分からない…だが、一歩がなくては…。

 

『だが、前向きには検討しよう…何もない父親でいるよりも何か誇れるものを持っている父親でありたいからな』

「失礼な物言いだが、貴方は経営者向きでは無かった」

『白蝶君にも言われたよ…ただの技術者だったようだ』

「お父さん!」

 

シャルロットは立ち上がりスクリーンの前に出る。

俺は楯無に目配せすると呆れたように肩を竦められた。

 

『シャルロット…すまない…私は…』

「僕のせいなんだ…僕が我儘を言ったから…!」

『見えていた結果だよ…だが、お前が無事でいれば私はそれで…』

「僕は待っているから、お母さんの事で話したい事がいっぱいあるから!」

 

シャルロットからの一言にアラン社長は言葉を詰まらせ、目を見開いた後に静かに微笑む。

 

『あぁ、わかったよ…お父さん、頑張るからね』

 

シャルロットは満面の笑みで頷き、席へと戻る。

俺は一息ついてアラン社長へと目を向ける。

 

「では、良いお返事を期待させてもらいます」

『君達にはまったく敵わないよ…では、今回はこれで失礼する』

 

映像が消える直前、アラン社長の顔には覇気が漲っているように見えた。

まだ会社の引き継ぎ等の問題もある…社会的なバッシングも少なからずあるだろうが、父親と言うのは得てして強いものだ…きっと逆境を跳ね除けられるだろう。

 

「シャルロットは…許せるのか?」

「あの人の目はお母さんと似ていたから…ちゃんと会って、話す必要があると思う」

 

一夏は何処か納得がいかないようで、少し不機嫌そうな顔をしている。

 

「皆様、お疲れ様でした」

 

虚が全員分の紅茶を用意し、カップに注いでいく。

俺は虚に軽く会釈し紅茶を飲み一息つく。

 

「一夏よ…後は親子の問題だ。確かに、今回の件を容認したアラン社長は許せんだろうが、後は親子の問題だ。外野はもう大人しくすべきだろう」

「そうだけどよ…」

「一夏が僕の事を想ってくれるのはとても嬉しいよ。ありがとう、一夏」

 

シャルロットは頬を染め、一夏を見つめている。

 

[青春してるわねぇ〜]

(荊の道に一名様ご案内、と)

(シャルロットちゃん…大変ね…)

 

俺と楯無はアイコンタクトを交わし軽く溜息を吐く。

シャルロットは顔を真っ赤にして首を横に振る。

 

「白蝶さん!?」

「青春って…べつに普通だろ?」

「一夏君は平常運転ねぇ…シャルロットちゃんの性別変更の件についてだけど、タイミングとしてはトーナメント明けね。書類の修正やら申請やら部屋割りやら色々と調整しなきゃだから」

 

タイミング良く、虚が楯無の机に書類の束をポンポンと置いていく。

俺は心の中で合掌し、笑う。

 

「まぁ、事前に用意できた書類なんだが…それもこれも楯無っていう生徒会長がサボったからなんだ」

[ちなみに証拠映像あるわよー]

 

楯無は机に思い切り頭をぶつけるように倒れこむ。

事実だしな…いや、本当に。

 

「ところで、白蝶さん…だっけ。なんで、明かしたんだ?」

 

一夏が不思議そうに首を傾げ、シャルロットも不思議そうに見てくる。

理由はただただ単純なものである。

 

「明日から始まる学年別トーナメント…その時にアクシデントが起きた時の連絡役が白蝶でな。その顔合わせみたいなものだ。知らん人間から連絡があるより、こうして話しておいた方が良いだろう?」

「あぁ、なるほど…分かった、よろしく頼むぜ」

「うん、そう言う事なら…それに、僕の恩人みたいだしね」

[アクシデントが起きた時はよろしくね?]

 

シャルロットの状況適応力、一夏の零落白夜…これだけの戦力があれば無人機が多数来ても問題にはならないだろう。

後は、俺がラウラの手綱を握れるか…そこにかかっているのだろうな。

 

 

 

ラウラは明かりを点けず暗闇に沈む部屋の中、ベッドの上で体を横たわらせていた。

千冬に忌むべき汚点をつけた織斑 一夏。

千冬に鍛えられ、誰よりも強くなったにも関わらず赤子の手を捻るように追い詰めてきた銀 狼牙。

ラウラ・ボーデヴィッヒと言う存在を脅かす二人は、ラウラにとって排除すべき存在だ。

 

「銀 狼牙…やつは腑抜けか…それとも…」

 

突如タッグを組むと言い出してきた狼牙は、決して敵意や殺意を見せず親しげである。

それがラウラに異様さを感じさせる。

何処まで逃げても背後に付きまとわれ、確実に仕留めにくる…強大な殺気を纏って。

それだけの攻撃をラウラは受け、驚愕した。

まるで、死神の様だと。

その死神はどこへ行ったのか、何処にでもいる取るに足らない存在になっている。

ラウラはゆっくりと目を閉じる。

異質さを忘れ、眠りに落ちるために。


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