【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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ダンスのお相手は…

朝、俺は鍛錬をいつものように行い食堂へ向かっていた。

目的は箒と簪である。

今回のタッグトーナメント…参加は任意ではあるものの、もし組めなかった場合はランダムで決定されることになる。

俺は思うところあって組む相手を決めたので、簪がもし出るならば箒の相手を頼もうと考えたのだ。

姉に対してコンプレックスを持っていた者と持っている者…良い化学反応が起こる事も期待している。

 

[段々腹黒くなってきているわね…]

 

仕方あるまいよ…色々と根回しせねば俺が潰れる。

デュノア社の方を放置できる今…この機会に一気に清算するしか…!

 

「おはよう、銀」

「おはよう、狼牙…それで…用って?」

 

俺は食堂の入り口で箒と簪と合流し、三人で食堂に入る。

箒と簪は和定食。

俺はヨーグルトオンリーだ…昨日の大暴れで腹の中身を痛めているようだ…おのれ…。

 

「簪はタッグトーナメントに出るのか?」

「うん…弐式開発のヒントも欲しいし…」

「今回の要件というのはまさか…?」

 

箒は訝しがるように俺を見つめる。

俺は静かに頷き二人を見る。

 

「簪、まだ組む相手が居ないのであれば隣の篠ノ之 箒と組んでもらいたい…なに、箒の強さは近接戦に限ってだが保証する」

「待ってくれ、私は一夏と…!」

「一夏はシャルルと組んでしまってな…だがな、箒…これはチャンスだぞ?」

「チャンス…?」

 

箒は首を傾げてこちらを睨んでくる。

シャルルの事情を話す訳にもいかないので、何とも言い訳がしにくい…。

 

「簪は日本の代表候補生だ…俺よりもIS操作に関して的確な助言ができるし、お前も

女性の知り合いができる…俺では出来ん相談もしやすいだろう?」

「私は…構わないよ。狼牙の頼みだし…本音のお友達、なんでしょう?」

「本音と知り合い、なのか?」

「うん…私の家のメイドなの」

「あのおっとりがだ…信じられんだろう?」

 

俺はクックと笑い肩を震わせると、グイッと三つ編みを引っ張られる。

痛いんだが…。

 

「ローローひど〜い。これでもゆ〜しゅ〜なんです〜」

「おはよう、のほほん…髪は大切にしているので引っ張らんでくれ」

「おはよう…本音」

「おはよう…本当なんだな、メイドと言うのは…」

 

本音は俺の肩に頭を乗せるように抱きついて、簪と箒を見つめている。

簪がちょっと不機嫌そうな顔をするが…まぁ、引き剥がす訳にもいかんので放置することにする。

 

「何の話をしていたの〜?」

「私と、篠ノ之さんとでタッグを組んで欲しいって…」

「どうだろうか…相応の実力者と組む事はお前の目的を達成する事に近づくことになるが…」

 

俺は箒に意地の悪い顔をしているかもしれんな…なんせ目の前に人参をぶら下げているのだからな。

内心、申し訳ない気持ちになりつつも箒を見つめる。

暫しの沈黙の後、漸く箒は首を縦に振った。

 

「分かった…更識…よろしく頼む」

「簪で良い…優勝目指して頑張ろう」

「ならば、箒と呼んでくれ…必ず優勝しよう」

 

簪と箒は握手をし、決意を新たにする。

簪よ…まさか、根も葉もない噂目当てで出場するのではあるまいな?

俺は苦笑し、ヨーグルトを食べる…昼はブルーベリーを追加してもらおう…味気なさすぎる…。

簪と箒の様子を見て本音が耳打ちしてくる。

 

(ローロー、また悪巧み?)

 

俺は不本意ながらも静かに頷く。

失敬な…箒の円滑な人間関係構築の為の布石だと言うのに。

 

(お嬢様と仲良くなってくれるといいね)

 

再び俺は頷く。

その点は心配していない…箒は言葉足らずな上に実直だが、悪い人間と言う訳でもない…と俺は思っている。

実際俺との訓練は真面目に話を聞いてくれているしな。

簪と共通点もあるので、私生活でもいい話し相手になってくれる事を祈る。

 

「ところで銀…かく言うお前は誰か決めているのか?」

「なんとなく織斑先生から依頼が来る気がしてな…」

「狼牙は…また面倒事を引き受けるんだ?」

「そうだな…だが、この学園で手綱を握れるのは織斑先生以外に俺くらいだろうよ」

「まさか…」

 

箒は心当たりを思いついたのか複雑な顔をしている。

そうよ、そのまさかよ…。

俺はラウラと組む事にしている。

理由はストッパーだ。

もし他の人間が組む事になった場合、彼奴を止めるだけの実力を持った奴は居ないだろうからな。

 

「無茶、したら…嫌だからね?」

「健康第一で頑張らせてもらおう」

 

簪は心配そうに俺を見つめてくる。

のほほんも同様だ…何かと聡い娘だからな…意外とクラスのことを深く想っているのは、この娘かもしれん。

千冬さんが食堂へとやってくると、こちらへと真っ直ぐに向かってくる。

やはり、来たか…。

 

「銀、少しいいか?」

「承知…では、皆…また後でな」

 

俺は、のほほんに離れてもらい席を立てば簪の頭を撫で千冬さんの後をついていく。

さて…あの小娘相手にタッグを組むとなると、面倒な事になりそうだ。

 

 

 

 

千冬さんは学園校舎の中庭まで来るとこちらへと振り返る。

俺は立ち止まり、千冬さんを見つめると先に口を開く。

 

「タッグトーナメントのパートナーの件だろう?」

「あぁ…その分だと予想していたか?」

「予想…と言うよりも昨日のあの闘い方を見ていれば、俺が組んでやらなくてはなるまいよ…」

 

ラウラは力を誇示するために過剰に攻撃を加える傾向がある事は、対セシリア・鈴戦での様子で明らかだ。

リボルバーレールカノンにワイヤーブレード…そしてプラズマ手刀と停止結界と近接よりの万能機だ。

何より、停止結界の存在が他の人間に任せられない要因だろう。

 

「他の人間と組んだ場合、あいつの暴走を止める事ができない…専用機は二機が中破し、一夏とデュノアが組んでしまったからな」

「一年生で、あの軍人娘を止めろという方が酷だろうに。まぁ、俺の速力であれば翻弄できるからな…何とかしてみせるさ」

「頼り切りになってしまって、すまんとは思っている…」

「高価な日本酒…期待しているぞ千冬さん」

「あぁ、任された」

 

俺は笑みを浮かべ肩を竦める。

千冬さんの言質も取れた事だし…久々に酒が飲めるな。

ボーデヴィッヒのお相手の報酬としては割が合わない気もするが、文句も言ってられまい…。

 

「狼牙、もう一つ…いいか?」

「なんだ?」

 

千冬さんは真っ直ぐにこちらを見つめてくる。

いつも以上に真剣な面持ちだ。

 

「彼奴を、許してやってほしい…ああいう風にしてしまった私の責任なんだ」

「罪を憎んで人を憎まずと言ってな…ラウラ自身がしでかそうとした事を悔い改めるのであれば、俺は言う事はない。当面はそんな事はなさそうだが」

 

千冬さんは、ラウラの事を大切に思ってはいる…だが、彼女自身が変貌してしまい声が届かなくなってしまっている。

だから、千冬さんが諭そうとしてもラウラは耳を傾けることがない。

直向きであるが故に、自身を省みる余裕が無いのだ。

 

「全く…一夏と同い年なのに、私より年上に感じてしまうな…お前は」

「千冬さん、男はいつまで経ってもガキだそうだ。仮に年上でも、俺は大人にはなりきれんよ」

「そうだな…だが、お前はもう少し子供らしくしても良いだろう」

 

千冬さんはフッと笑い、俺はただただ肩を竦めるばかりだ。

子供らしく…と言われても俺にはよく分からん…青春は謳歌しているつもりなのだがな。

 

「すまんが、ラウラのこと…よろしく頼む」

「承知した。書類はそちらの方で提出しておいてくれ」

「あぁ…任せろ」

 

俺は千冬さんと別れ教室へと向かう…昼休みまでには言い訳を考えておかねば。

ラウラに対してもだが…何よりセシリアは良い顔をすまい。

全く、浮気男の様な感じに辟易してくるな。

 

[フフ、プレイボーイも真っ青よね…全員いい所のお嬢様でしょう?逆玉よ逆玉]

 

止めてくれ、気が滅入る…そんな外付けの価値に人間的な価値を見ているわけではない…それぞれがそれぞれの魅力を持っているからな。

 

[もういっそ全員娶ってしまえばいいのに]

 

悪魔的な誘惑だな…優柔不断にも程がある。

俺は教室に入り、席に座る。

 

「おはよう、狼牙。タッグのパートナーは決まったのか?」

「おはよう。あぁ…千冬さんからのお願いもあってな」

「千冬姉の…まさか!?」

 

一夏は机を叩き立ち上がる。

クラスメイト達は、何事かとこちらを注目してくる。

 

「落ち着け…お前の予想通りの人間がパートナーだ」

「なんだってあんなやつと!」

 

一夏は乱暴に席に座るとこちらを睨んでくる。

俺は首を横に振り、一夏を見つめ返す。

 

「トーナメント中のお目付役だ。お前はシャルルと組んでしまったし、セシリア達は出られん。連携が取れてなかったとは言え、専用機二機を相手取る高性能機を訓練機で抑えるには一年生では骨が折れる」

「でもよ!鈴達にされたこと…もう忘れたのかよ!?」

「一夏…罪を憎め…ラウラ・ボーデヴィッヒと言う少女は憎んでやるな。勿論割り切れとは言わんし、事実として人は割り切る事はできん。だが、何処かで憎しみを断たねば一生ついて回るからな?」

 

罪を憎んで人を憎まず…理想論だ。

どうしたって人は罪を犯した人間を憎んでしまう。

そこに割り切れないものがあるからだ。

許すことは、憎むことよりも遥かに難しい。

俺にだって、ちゃんとできることではない…。

 

「俺は…割り切れねぇ…割り切れねぇよ…」

「それでも良いさ…俺にだってできん。だがな…人が横道に逸れるには、それなりの理由がある筈だ。憎む憎まないは、それからでも遅くはないと思う」

「……」

 

そうであって欲しい。

生まれながらにして狂っていたなど…悲しいだろうに。

 

「敵わないな…」

「俺にはお前の生き方が眩しいがな」

 

一夏は真っ直ぐだ。

打算も何もなくシャルルを助けると言い切ったこの男の信念は、俺には眩しい。

これから様々な困難があるかもしれんが、それでもその心意気だけは忘れないで欲しい。

 

 

 

昼休み、俺は白に頼んで学園の監視カメラからラウラの居場所を割り出しそこに向かっている。

まさかの薔薇園である…似合うような似合わんような…。

俺は無造作に歩き、一人で紙パックのジュースを飲んでいるラウラへと近付いていく。

流石に気付いたのか、ラウラは立ち上がりこちらを睨み付けてくる。

 

「銀 狼牙…いったい何の用だ!?」

「タッグトーナメントのパートナーにお前を指名しにな」

 

ラウラは敵意を剥き出しで、今にも襲い掛かってきそうな剣幕だ…当然だな。

あれでも殺し合いをした仲だ…向こうはどう思っているのかは分からんが。

 

「貴様…どういうつもりだ?」

「どうもこうも、お前のお目付役だ…ボーデヴィッヒ風に言うならば、ファッションと勘違いしている連中ではお前を止められんからな」

「貴様も同様だ…貴様の欠陥機で私が止められるものか」

「停止結界か?タネが分かれば恐れるものではない」

 

俺は軽く肩を竦める。

白が言うには、あの停止結界の正式名称はアクティブ・イナーシャル・キャンセラー(AIC)。効果はごく至近距離の視認している範囲の空間の慣性を停止させ、動きを封じ込めると言うものだ。

しかし物体の大きさによっては相当な集中力がいるようで、俺が急降下踏み付けを敢行した時に使用しなかったのは痛みと混乱で集中を乱された為だったらしい。

弱点はその集中力と視認した範囲であること…つまり天狼のフルスペックの瞬時加速を視認できないラウラには、停止結界で捉えることができないのだ。

 

「我がドイツの機体を愚弄する気か!?」

「事実だ…視認できん物をどうやって止める気だ?」

「チッ…」

 

ラウラは舌打ちし忌々しげにこちらを見上げてくる。

強がっているが、その瞳の中に俺は恐怖の光を見た。

 

「今回のトーナメントはタッグ戦だ…そろそろ、お前は一人で出来ることの限界を知るべきだ」

「シュヴァルツェア・レーゲンの前では全てが有象無象でしかない。お前の手を借りずとも!」

「それではダメだ…軍に在籍しているのならば、連携の大切さを知っているだろうに…ワンマンアーミーを気取ってくれるなよ?」

 

はっきり言おう…二機がかりであるならば、連携さえ取れれば停止結界頼みのラウラを完封する事は可能だろう。

挟み撃ちになった際、停止結界で足を止めるわけには行かなくなるのだからな。

 

「それに今回のこのタッグは、千冬さんたってのお願いでもある…無碍にするか?」

「くっ…分かった…教官がそう言うのであれば組むが…もし、私の獲物に手を出すようならば貴様も撃つ」

「構わんさ…よろしく頼む」

 

俺は握手を求めるものの、手を払われてしまった…何とも気難しいものだな…。

 

「馴れ合うつもりはない。貴様と組むのは織斑教官が望んだからだ」

「そう刺々しくしてくれるな…怯えているように見える」

「誰がだ!私は強い!それこそ部隊を任される程にな!」

 

頭が痛くなってくる…ドイツ軍よ…いくらなんでも人選間違ってはいないだろうか?

俺は眉間を揉み思案する。

 

「では、隊長殿…互いに一機ずつ…片付いた方が手助けに向かうでよろしいか?」

「貴様は後ろに引っ込んでいろ」

「そういう訳にもいかんのでな…俺にも目的はある」

 

なんせ、このトーナメントで結果を残さないと楯無たちに隙を作ることになるからな…これでも必死だ。

 

「さっきも言ったが、邪魔するならば貴様を撃つ」

「もうそれで構わんよ…」

 

取り付く島もない…俺は擬似的に三対一をやらされる事が決定し、深く項垂れるのだった。


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