【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜 作:ラグ0109
医務室に着いて簡単な検査を受けた後、問題なしと太鼓判を押されて俺は一夏達と合流する。
「し、銀君…大丈夫なの?」
「大丈夫だそうだ…肋に皹が入ってるという話だが。段々人間離れしてきている気がする…」
「ラウラは?」
「千冬さんが仲裁に入ってドローだ…一方的に、とは行かなかったな」
今思えば千冬さんはIS用の近接ブレードを素手で振り回していたのだが…一夏よ、やはりお前の姉上は人間を止めているぞ…。
そう言えば箒が居ないが…大丈夫だろうか?
「箒なら一人で訓練するってさ…狼牙の闘いを見ていて負けられないってさ」
「勘弁してくれ…畜生の様な闘い方だったんだからな…」
あまり俺の闘い方は褒められたものではない。
IS自体ではなく、操縦者本人を直接狙う様に攻め立てた。
殺す気でだ。
…らしくないと言えば、らしくないな。
さて、とりあえずだ…目の前のお嬢さん方の機嫌が非常によろしくない。
「別に助けてくれなくたって…」
「あのまま続けていれば勝ってましたのに…」
むっすーとした顔でセシリアと鈴は顔を背けている。
代表候補生としての矜持があるせいか俺たちの横槍は非常に不本意だったようだ。
他にも理由はありそうだが。
「怪我は大したことが無いそうだ…無事で良かったが…どうしてボーデヴィッヒとやり合っていたんだ?」
「確かに…ボーデヴィッヒさんが彼処に居たのは不思議だね」
そう、アリーナの使用権限があの時のラウラは無かったはずなのだ…まぁ、無くても乱入してきただろうが。
「どうしてなんだ、二人ともさ?」
「あいつ…一夏の事を馬鹿に…」
「狼牙さんの事を侮辱されました…」
成る程…俺たちの名誉のために戦ってくれていたのか…嬉しいが…嬉しいんだが…。
「分かりやすい挑発に乗って、連携が取れなかったわけか…気持ちはありがたいんだがな…」
「「うぐっ」」
セシリアと鈴は気まずそうに顔を背ける。
「でも、ありがとうな…鈴」
「べ、別にあんたのためじゃないわよ!」
俺はセシリアの頭を無言で撫で苦笑する。
まぁ、俺も同じ事が起きれば怒るだろう…気持ちは分からんでもない。
自分が侮辱される分には気にしないさ…だが、もしセシリアや更識姉妹が侮辱されでもすれば俺は烈火の如く怒るだろうよ。
「青春してるなぁ…いいなぁ…」
シャルルは羨ましそうに俺たちを見つめてくる。
安心しろ、すぐにお前もできるようになるぞシャルル。
すると、医務室の外から猛牛の群れでも来たかのような足音が響いてくる。
「な、何だ?」
「これは…面倒なやつだ…」
「こ、この学園の女性は凄いからね」
医務室の引き戸が文字通り蹴破られ吹き飛ぶと、数十名の女生徒が雪崩れ込んでくる。
弁償は一体誰がするんだろうか?
「織斑くん!」
「デュノアくん!」
「銀くん!」
非常に活きの良いゾンビの如く俺たち男子組を女子達が取り囲み、一斉に手を伸ばしてくる。
あまりの異様な光景に、一夏とシャルルは顔を引きつらせ俺の方へと後ずさってくる。
押すな…頼むから、押さんでくれ…目の前の女子が近付く俺に満面の笑みを浮かべている。
「い、一体何の騒ぎなのよ!?」
「一応医務室ですのよ!?」
良い雰囲気をぶち壊されたせいか、セシリアと鈴は大変ご立腹のご様子…しかし、周囲の女子は構うことなく報せの書かれた紙を突き出してくる。
「「「「これ見て!!」」」」
「えーっと…学年別タッグトーナメント?」
報せの内容はこうだ。
学年別トーナメントをより実戦的な内容にするために、二人一組のタッグバトルへと変更する…と言うことだ。
恐らく、クラス対抗戦の時のようなハプニングに対応するためだろう。
アリーナ内に四機のISが居れば大概の問題には対処できるだろう。
「私と組もう!織斑くん!」
「私と組んでください!デュノアくん!」
「お願いします!お父さん!」
おい、誰だお父さんとか言ったのは!?
俺は何とも渋い顔をして周囲を見渡していく。
何れの女子も目当ての人間に頭を下げて手を差し出している。
婚活か何かか?
一夏とシャルルは顔を見合わせ、意を決したかのように頷く。
「悪い、皆…俺はもうシャルルと組むことにしてるんだ」
「ごめんね…」
こいつら…俺を生贄に逃げたか…。
一斉に女子達が俺の方を見つめてくる。
…爬虫類じみた目で見つめてくるのは止めて欲しい。
「銀くんは!」
「だれかと!」
「組んでるの!?」
「いや、俺は初耳でな…」
ぐいぐいと迫ってくるものだから俺は後退り、思わずセシリアの寝ているベッドに腰掛けてしまう。
「狼牙さんは、わたくしと組むのです!みなさん引き下がりなさい!」
「いや、お前…その怪我ではセシリアが良くても俺は承知せんぞ…」
「一夏もシャルルとじゃなくて私と組みなさいよ!」
「お前も出れる体ではなかろうに…」
セシリアと鈴は全身打撲だらけで、大会の時までに完治できるものではない。
俺個人としては心意気を買いたいが、体を大事にしてもらいたい。
「ダメですよ、銀君の言う通りです。オルコットさんと凰さんのISのダメージレベルがCに達しています。暫くはISを修理に専念させないと、後々重大な欠陥が生じますよ?」
山田先生が女子達を掻き分け医務室にやってくる。
その顔は真剣そのもので今までと雰囲気が異なる。
「軽傷とは言え、怪我人がいるんです。皆さん退室してください!」
「「「「はーい……」」」」
山田先生の毅然とした態度に姦しい女子達も一旦諦め、医務室から出て行く。
一先ず、俺は蹴破られた扉を出入り口付近に立てかけておく。
「お二人の今後が掛かっていますから、今回はトーナメント参加は見送ってください」
「わかりました…」
「不本意ですが…先生に従いますわ…」
「素直で良いですね」
セシリアと鈴が渋々と言った感じで頷くと、山田先生はいつもの様な朗らかな笑みを浮かべている。
「銀君も…天狼のフルスペックは、なるべく控えてくれないと困りますからね?」
「承知している…そう何度も吐血していられんからな」
俺は静かに頷き軽く自身の胸を撫でる。
徐々に徐々にと天狼による加速Gに体を慣らしているが、ラウラの時のように瞬時加速を多用すると血を吐き出してしまう。
やはり人間が乗るように出来ていないぞ…たーさんや…。
「狼牙さん…ボーデヴィッヒさん相手に?」
「ブチ切れてたぜ…狼牙」
セシリアの言葉に一夏が答えると、セシリアは顔を俯かせてしまう。
思う所あるのだろうが、気にせんでも良かろうに。
「天狼のフルスペック…確かに凄いよ…無事なのが不思議なくらい」
「シャルル…正直、俺は人間を止めているかもわからんぞ?」
「あはは、やだなぁもう…冗談に聞こえないよ?」
「兎に角!銀君は体を大切にしてくださいね?クラスのみんなが心配してしまいますから!」
「充分に気をつけるとしよう」
俺は素直に頷くが、有事の際は躊躇する事なくフルスペックで対応することだろう。
「ところで先生…なんでダメージレベルが高いと展開しちゃダメなんだ?」
「織斑くん、それはIS基礎理論の蓄積経験値についての注意事項第三ですね」
「一夏、ダメージレベルが高い状態で展開しちゃうとISがその時の異常なエネルギーバイパスを記憶しちゃって、修復後に悪影響が出ることがあるんだ。これは
「その通りです。デュノア君は博識ですね」
山田先生が手放しで褒めるとシャルルは照れたように頬をかく。
一夏は納得できたのかうんうんと頷く。
「一先ずお前達は一晩ここで休め…決して無理はするなよ?」
「わかりましたわ」
「わかったわよ…」
二人とも意気消沈として横になり、疲れていたのかすぐに寝てしまう。
強がりも程々にせんとな?
「では、寮に戻りますよー」
「「「はい」」」
山田先生に先導され、俺たちは医務室を後にするのだった。
部屋に戻り、俺は白からの報告を聞いて眉間を揉んでいた。
デュノア社長夫人イヴェットの爛れた生活の一部始終を聞いた為だ。
政府高官に対する賄賂に始まり、愛人の数や貢いだ総額…更には会社からの横領まで事細かに聞かされゲンナリとしてしまう。
「強欲の塊だな…ここまで酷いとは思わなかった…」
[見た目は良いけど中身がどす黒い典型よね…アラン社長の自業自得だけども、憐れよね]
「それで、アラン社長とは接触してきたのか?」
[えぇ、IS学園の暗部所属と言う事を聞いたらシャルルちゃんの事で取り乱していたわね…あの分なら娘への愛情はあるでしょう]
ふむ、やはり企業経営には向いていなかったのだろうな…シャルルは父親に対して懐疑的に感じているだろうが…まぁ、その辺はIS学園に来れたら二人でじっくり話すといい。
社長と妾の娘でなく。
父と子として…。
「たっだいまー」
「今日は大浴場だったか…全く、羨ましい限りだな」
「今月末辺りから男子にも開放されるわよ?」
「ほう…それは楽しみだ」
楯無は寝間着姿で戻ってきて、ベッドに荷物を投げると俺に後ろから抱きついてくる…心頭滅却…。
「白からの情報は見たか?」
「そっちは学園の上層部とで情報を精査中…ま、白蝶のお仕事は丁寧だったから問題ないでしょう。近々社長からも連絡があるって話だし…」
シャルルの問題は一先ず丸く収まりそうだ…後は大人たちに任せておくとしよう…。
「すまんな…頼ってしまって」
「そう言う事言っちゃダメ…もし、負い目を感じているならこう思いなさい。今回の件は、私と簪ちゃんの仲を取り持ってくれたお礼だって」
「…そう言ってもらえると助かるな」
楯無はニッコリと笑みを浮かべた後に直ぐに視線を厳しいものにする。
「ラウラちゃん相手に本気を出したそうね…体は平気なの?」
「肋に皹が入ってる以外は問題ないそうだ…」
「事の経緯は聞いたけど…ドイツには今、イギリスと中国から抗議の電話が引っ切り無しにかかっているでしょうね」
「ボーデヴィッヒには関係あるまいよ…祖国よりも千冬さんにしか目に入っていないからな」
俺は深く溜息を吐くと頭を撫でられる。
少しだけ目を閉じ心を落ち着かせる。
「気にしても仕方ないわよ…狼牙君なりに決着はつけるんでしょう?」
「酷い厄介ごとになりそうな気がするがな…」
俺は楯無の腕を引き剥がし、ベッドに横たわる。
楯無はさも当たり前のように俺のベッドへと入ってくる。
「もう突っ込まんぞ…」
「この間みたいに抱き合って寝て欲しいなー」
「知らん」
俺は背を向けたまま眠ろうとすると、楯無が俺の前に来る。
最後の抵抗と言わんばかりに俺は再び背を向けるが、楯無は諦めずに再び前へ来る。
「…今日だけだからな?」
「ふふ、やっぱり優しいわねー…おやすみなさい、ろ、狼牙」
「あぁ、おやすみ…刀奈」
俺は諦め、楯無の体を抱き締め眠りにつく。
温もりは体に染み込み、不思議とその夜は夢を見ることがなかった。
段々と、と言うか既にサブタイトル考えるのが苦しくなってきたぜぇ…