【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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狂信者と憤怒のケダモノ

ラウラ・ボーデヴィッヒは織斑 千冬を神聖視していた。

彼女は遺伝子強化試験体(アドヴァンスド)…人工的に作り上げられた闘う為の存在だった。

しかし、ある時適合性向上の為に行われた処置によって自身の存在が脅かされることになった。

 

「力だ…力を示せばきっと教官は我が祖国に戻ってきてくれる…私と私の部隊の為に…!」

 

もはやラウラを縛る呪詛となった在り方は、彼女を突き動かし続ける。

一心に母親の愛情を求めるかのように…。

アリーナに入るとセシリアと鈴が模擬戦をしようと武器を構えていた。

 

「丁度いい…彼奴らを完膚なきまでに叩きのめせば、きっと教官は認めてくださる…」

 

ラウラは舌舐めずりし、青とくすんだ黒を見つめる。

シュヴァルツェア・レーゲン(黒い雨)を身に纏い宙を舞う。

狂信者は嗤う、黒い雨の中で。

狂信者は嗤う、その先に何があるのか分からぬままに。

 

 

 

放課後、俺は箒と一夏を連れ立ってアリーナへと向かっていた。

今日はセシリア、鈴、シャルルを含めての合同訓練だ。

様々な相手との戦闘訓練は、必ず箒にとっての糧になる。

鈴には難色を示されたが、訓練でアピールするチャンスだと適当な事を言ったら途端にやる気を出してきた。

チョロいなぁ…一夏が絡むと…。

 

「銀、体調が悪いのか?」

「いや、友人達の今後が少し心配になってな…」

「狼牙は少しでいいから自分の事も考えろって…」

「聞いたら、入学したての時から色々やっていたって布仏さんが教えてくれたよ」

 

三者三様に心配そうな眼差しを向けられる…何とも居心地が悪いな…。

しかし訓練を始めてからというものの、箒から敵意が薄れているのは本当にありがたい。

真摯に向き合い、俺を少しでも認めてくれたのだろうか?

 

「そう言えば、休み時間のほほんさんと話してたけど…何かあったのか?」

「い、いや…本音は友人になろうと言ってきてくれてだな…でも勝手が分からなくて…」

「篠ノ之さんは実直なんだね…そんな難しく考えなくても良いじゃないか。こうして話してるだけで、僕たちはもう友達なんだよ?」

「そう言う…ものなのだろうか…?」

 

箒は腕を組み唸り声を上げている…何とも不器用な娘だ…しかし、本音が友人になればその後の人間関係も上手く行くはずだ。

俺は状況が好転して行く事を感じ取り笑みを浮かべる。

 

「以前言っただろう?笑って、話せば作れるものだと…箒は美人なんだ、笑みを浮かべるだけで円滑な関係を築けるだろうさ…なぁ、一夏?」

「おう、箒はもっと笑うべきだって…勿体無いぜ?」

 

この時ばかりはお前のその色男スキルに深く感謝するばかりだ。

箒は顔を真っ赤にして顔を背けるが満更でもないようだ。

箒を除いた三人は笑い声を上げ、箒は更に不機嫌になる。

 

「な、何がおかしい!!」

「いや、案外大和撫子と言っても可愛らしい花だと思ってな…悪気があった訳ではないさ」

「フフッ、やっぱり篠ノ之さんは笑っていた方が美人だよ?」

 

和気藹々と話していると前方から千冬さんが歩いてくる。

 

「探したぞ、篠ノ之…すまないが大切な話がある」

「私に…ですか?わかりました」

「箒、俺たちは先にアリーナに行って待ってるぜ?」

「分かった。話を聞いたらすぐに行く」

 

千冬さんが箒に…と言う事は、束さんお手製の専用機絡みか…。

つい、俺は千冬さんへと心配そうな目を向けると笑みを浮かべられる。

大丈夫…なのだろうか?

俺は後ろ髪引かれる思いをしつつも、箒と分かれ一夏達とアリーナへと向かうのだった。

 

 

 

 

「篠ノ之…束から専用機について完成したから持っていきたいと言う話をされた」

「ほ、ほんとうですか!?」

 

篠ノ之 箒は専用機完成の報せを聞いて心が湧き立つ。

だが、それと同時に本当にこれで良いのだろうか…とも思う。

実姉の作ったISは、きっと全てを凌駕する性能を持つだろう…そうすれば今度の学年別トーナメントを勝ち抜き、優勝することもきっと夢ではないだろう。

だが、それは本当に望んだ形での優勝と言えるのだろうか?

憂さ晴らしの様に竹刀を振り回し、大会に優勝した時と変わらないのではないか、と。

 

「だが、私は今のお前に専用機を持たせることに不安を持っている」

「どういう、ことでしょうか?」

 

織斑 千冬は箒の耳元に口を近付け耳打ちする。

 

「お前の専用機には468個目のコアが使われている…その所属は日本と言う事になるが、お前の扱いを巡って各国で政治的な争いが生まれる」

「その事と、私にどんな影響が…?」

 

千冬は首を振り頭を抱える。

専用機、その意味を理解していない小娘にどうやって説明すべきか困るが、ストレートに話すことにした。

 

「最悪、日本に戻れなくなると言っている」

「そんな!?」

「束は機体と共にコアに箒の生体データによるロックを掛けていると言っていた…つまり、お前が居なければ専用機が動かない…仮に他国に渡ってみろ、篠ノ之も一緒に行かなくてはならなくなる」

 

箒は足元が崩れ去っていくような気がした…まさか、自分が望んだ専用機に首を絞められる事になるとは思わなかったからだ。

だが、これは千冬による入れ知恵だった。

狼牙から聞く範囲で、箒は専用機の存在を軽く見ている傾向があると言う事を理解していた為、束を言いくるめてそう言うプロテクトを組み込ませたのだ。

ISと一蓮托生…専用機持ちは理解している事実を、物理的に突き付ける。

そうする事で自分が持つ物の重さを理解させたのだ。

 

「そして、私もすぐにひよっこにISを渡すつもりはない」

「何故ですか!?一夏や銀はどうなるんです!?」

「あいつらは男性操縦者のデータ取得目的で専用機が渡されている…女性であるお前と違ってな」

「くっ…!」

 

箒は強く歯を食い縛る。

専用機は確かに自身の首を絞める…しかし、今の箒には抗い難い魅力が確かにあるものなのだ。

一夏の隣に立つ為に。

そして…そして…?

心の中に靄がかかる…自身の先行きに不安を覚えるがそれを払拭する。

 

「これは私からの課題だ。学年別『タッグ』トーナメントで相応の実力を示せ…それを元に私が判断し、来月の臨海学校で専用機を渡す」

「元より優勝を目指しています…千冬さん、貴女を認めさせてみせます!」

「良いだろう…どこまでやれるか見せt…!?」

 

突如一夏達が向かったアリーナから警報が鳴り響く。

これはアリーナの遮断シールドが破られた事を意味する。

 

「篠ノ之!お前はアリーナ内にいる人間の避難を誘導してくれ!」

「わかりました!」

 

千冬と箒は駆け出す。

警報にかき消された遠吠え響くアリーナへと。

 

 

 

「今日はアリーナが俺たちで貸切状態らしいな」

「何とも運の良い話だ」

 

アリーナへと入り一夏と二人で笑う。

シャルルもつられて笑うが何処か不思議そうな顔をしている。

 

「確かに運が良いけどこんな事ってあるの?」

「ハハハ、アルニキマッテルジャナイカー」

 

俺は棒読みで返すと何かを察したのかシャルルは顔を引きつらせる。

そう、実はこの貸切状態ウラがある。

生徒会長である楯無が根回しを行い、この日限定ではあるが貸切状態になるように他のアリーナに使用権を分散してくれたのだ。

流石、学園の頂点に立つだけあって融通が利く…まぁ、後で俺が美味しいと言うか酷いと言うか…そういった目に合うのだが、必要経費だろう。

 

[ふー、良い仕事したわぁ]

 

随分と久々な気がするな…お疲れ様だ、白。

どうやら、色々と良いネタを仕入れてきたようだ。

 

[楯無ちゃんにデータ送ったから、後は反応を待つだけね…それとラウラちゃんの事なんだけど…]

 

少し待て…何かアリーナが慌ただしい…さっきから観客席へと向かう生徒が多い。

 

「何があったんだ…?」

「一夏、銀君…ピットへ向かってからじゃ遅いから観客席へと行ってみよう?」

「そうだな…セシリアと鈴がガチバトルをしているかもしれん」

 

観客席へと足早に向かうと爆発音が響き渡る。

 

[ちょっと…なんで三人がやり合ってるのよ?]

 

爆煙から二つの影が出てくる、装甲が脱落し損傷が目立つ甲龍とブルー・ティアーズだ。

 

「鈴!セシリア!?」

 

一夏は観客席から声を張り上げ呼ぶが、訓練時のアリーナの遮断シールドは観客席からの声をも遮断してしまう。

 

「ドイツの第三世代機…!」

 

シャルルが指を指した先には、目立った損傷を見せない漆黒の機体…シュヴァルツェア・レーゲンを纏ったラウラが二人を冷たく眺めている。

こちらに気付いたのか冷淡な笑みを浮かべ、俺と一夏へ顔を向ける。

 

「マズイな…ボーデヴィッヒは力を誇示する気か」

「どういうことだよ…狼牙?」

 

俺は歯を食いしばり遮断シールドを殴り付けるがビクともしない…まぁ、当然の結果ではあるが。

白、解析をしておけ…ネタを割っておきたい。

 

[任せて…]

 

そうこうしている内にラウラは鈴とセシリアをワイヤーブレードで巻き取り、殴り、蹴り、踏みつけ…そしてワイヤーを首に巻き付かせ絞め始めた。

 

「一夏ぁっ!!!」

「おおおおおおお!!!」

 

俺と一夏はISを緊急展開し、一夏の零落白夜で遮断シールドを斬り裂きアリーナへと躍り出る。

 

「お前は二人を連れて離脱しろ!」

「だけど!!」

「…頼む」

「貸しにしておくぜ!?」

 

俺と一夏はラウラを挟み込むようにして突撃をあえて仕掛け、鈴とセシリアを盾代わりに使わせる。

一夏は鈴のワイヤーを斬り裂き、俺はセシリアを掴み乱暴だがセシリアごとラウラを振り回しワイヤーを離させる。

 

「漸く来たか織斑 一夏…お前を倒し、証明してみせる」

「それはトーナメントまでお預けだぜ、ラウラ」

「何…?」

 

俺は優しくセシリアの頭を撫で一夏へと渡す。

 

「すまんが、お前には見せられん闘い方をするからな…」

「狼牙…無理だけはするなよ?」

 

一夏は歯を食い縛り、怒りに耐え二人を抱えてピットへと向かうが背後をラウラが狙い撃とうとする。

 

「闘え!織斑ぁっ!!」

「ボーデヴィッヒ…お前、二人を殺す気だったのか?」

 

俺はボーデヴィッヒの射線に割り込み、放たれた弾丸を踵落としで地面に叩き落す。

 

「フンッ、あの様な雑魚は生きていようが死んでいようが…」

「あぁ、もう良いぞ口を開かなくて」

 

アリーナに遠吠えが響き渡った瞬間、俺はラウラの脳天に踵を落とし大地に叩きつける。

 

「舌を噛むからな…」

 

俺はそのまま急降下し、頭を踏み砕く為に加速と重量の乗った蹴りをラウラへと叩き込もうとするが直前で瞬時加速を使いラウラは逃げる。

 

「どこへ行くのだ…俺は貴様を逃さんよ…」

 

だが、天狼はそれよりも早くラウラの背後へと瞬間的に移動し片手を背骨に這わせ一気に打ち込む。

寸勁…外面的な破壊では無く内面的な破壊に特化した拳は、絶対防御で実害が無いとは言え相当な衝撃を直接操縦者へと送り込む。

再び俺は弾き飛ばされた先に回り込みラウラの腹へと勢いの乗った膝蹴りを叩き込む。

 

「ぐはっ…!!調子に乗るなマガイモノがぁ!!」

 

俺はラウラがしていたように首を絞めてやろうと腕を伸ばすが、身体がピクリとも動かなくなる。

瞬時加速すら封じられている…?

 

「ゲホッ…停止結界の前で私に勝てると…思うなぁっ!」

 

ラウラは体液でぐちゃぐちゃの顔を愉悦に歪めプラズマ手刀を展開して俺に斬りかかろうとするが、目の前に黒い影が飛び込みIS用の近接ブレードで受け止める。

 

「やれやれ…銀、お前はもう少し大人だと思ったんだがな…ガキの相手は疲れるんだが?」

「…俺にも譲れんものがあるのでな…」

 

リミッターが作用したのかウイングスラスターは盾へと戻るが、俺は殺気を隠そうともしない…するつもりはない。

俺はフルフェイス越しに視線を向けるとラウラは竦んだように後ずさる。

 

「っ……」

「模擬戦をやるのは構わんが、遮断シールドを破壊する事態までなると教師として黙認できん!この戦いの決着は学年別タッグトーナメントでつけてもらう」

 

ラウラは了承したのかISを待機状態に戻す。

 

「教官がそう仰るならば、今回は退きます」

「銀、お前はどうだ?」

「……良いだろう」

 

存外に俺も冷たい声が出せるものだな…ぼんやりとそう考えているとラウラが立ち去り、俺はISを解除した瞬間地に這い蹲り血が混じった胃液を吐き出す。

 

「ガハッ…ゴホッ…チッ…まだ保たんか…」

「っ!銀を医務室へ!!」

 

千冬さんは医療班を手配し、俺は駆け付けた医療班に担架に寝かしつけられる。

 

[全力機動でぶん回せばそうなるわね…停止結界…効果範囲を調べておくわ]

 

次は奴の喉笛に齧り付く…分からせてやる必要があるからな。


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