【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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夢と希望が詰まったそれは、パンドラの箱でもある。

ISは、女性にしか動かせない。

これはこの世界の不文律であり絶対的な常識である。

開発者の束さんに聞いた所…

 

「この天才束さんにも分かんないんだよね〜!でもでもいつか解明してみせるぜぃ!」

 

と返ってきた。

作った本人が分からないとか大丈夫なのか…?

兎も角、ISは女性だけにしか使えない。

白騎士事件……全世界のミサイル制御装置が一斉にハッキングされ日本に向けて一斉射され、その悉くを白騎士と呼ばれるISが全て撃墜。

これを重く見た各国が白騎士捕獲作戦を繰り出すも無力化され逃亡した事件…。

既存兵器を一蹴するISの性能に世界は心を奪われた。

束さんはISの心臓部となるISコアを467個用意し各国に分配するようにした。

結果としてISを管理運営するIS委員会が結成され、パワーバランスの元『均等』に分配された。

後にほぼ形骸化する事が目に見えているISの軍事利用を禁じるアラスカ条約の締結。

女性にしかISが使えない事から始まる女性優遇政策。

こうして出来上がったのは女尊男卑の世界であった。

 

「ねぇねぇねぇねぇ、ろーくんの事解剖して良いかな!?」

「勘弁してくれ、たば…たーさん。俺はまだ死ぬ訳にはいかん。あと近過ぎる」

 

孤児院では俺の身が危険、かつ孤児院の皆に面倒がかかると言うので政府の方々に連れられ厳重な警備がついたホテルの一室に、IS学園入学までほぼ監禁されていた。

現状世界で二人だけのIS男性操縦者。

しかも日本国籍持ちともなれば独占する為に日本国とて必死になると言うものなのだが…日本以外のIS委員会所属の各国から不満が噴出。

結果として俺と一夏は日本国籍を剥奪。国籍無しと言う非常に危うい立場となってしまった。

家無し子の次は国無し子とはな…人生とは面白いものだ。

だが、疑問に思わざるを得ない状況だと思った。

かたやブレード一本で世界一を取った女傑の弟。

かたや容姿が特殊なだけの一般人。

普通ホテルに俺を監禁するだろうか?

それこそ、研究機関などに連れ込んでやりたい放題なのでは無いのか、と。

そんな俺の疑問に勘付いたのか、先程から後ろから抱きついてくるウサ耳を付けたアリスの様な姿の女性、束さんが答えてくれた。

 

「凡人如きがろーくんのこと分かる訳ないじゃん。だからね、この束さんがろーくんの事を一手に引き受けたのだ〜!」

「感謝すべきなのだろうか…それとも嘆くべきなのだろうか…」

 

深い溜息と共に電話帳が如き厚さをもつIS参考書にカラーペンを走らせ、ノートに書き写していく。

ISに関する教育と言うものは、女性であれば小学生から始めているが、俺は生憎と男子。

圧倒的に足りない知識を、入学までの間に古い電話帳ばりに分厚いIS参考書から得なくてはならない。

必死に勉強しているときに、何処から入ってきたのか…恐らく通気口からだろうが、束さんが現れ後ろから抱きついているのである。

あぁ、背中に感じる柔らかいものなんてない。

無いったら無いんだ。

 

「お〜、青少年的に美味しい状態で嘆くのか〜?」

「まさかな…一先ず、離れてくれ…重いとは言わん、暑い」

 

背中に体を擦り付ける束さんを制し、離れさせる。

 

「え〜、い〜じゃんい〜じゃん!束さんと愛を育もうぜ〜!」

「久し振りだ千冬さん。実はな…」

「ちーちゃん呼ぶのはダメじゃないかな!?」

 

携帯で千冬さんに連絡し、引き取ってもらおうとするがその前に束さんが離れて向かい側に座る。

その後携帯の画面を見せ、連絡を取ってない事を知らせる。

 

「まさか…あの人呼ぶわけないだろう?一夏の事で大変なんだろうしな」

「いっくんもろーくんも大変だよね〜。まぁ、束さんとしてはIS関連で関わることが出来るからい〜けどね」

「たーさんは良いだろうさ…俺達はこれから珍獣扱いされるのは、ほぼ確定しているんだがな」

「え〜、凡人の視線なんかど〜でもい〜じゃん!あ、そうそう束さんの愛してやまないラヴリーな箒ちゃんもいるから仲良くしてあげてね〜!」

「俺が仲良くするのは構わんがな…たーさんは、さっさと関係修復すべきだろう?」

「ぐぬぬ…」

 

シャーペンで束さんを指差しながら溜息をつく。

曰くIS開発と発表の後、技術独占を企む世界から身を隠すために失踪した結果、不仲になってしまったそうだ。

まぁ、対話せずに失踪されれば置いて行かれたなり何なり思われて憎く思ってしまうのも致し方無いと言ったところか。

 

「ぐぬぬ…ではない。先延ばしにして良い問題でも無いだろう?入学した訳だし、入学祝いでも送ってみたらどうだ?」

 

人差し指を立てて提案してみる。

まずは触れ合い相互理解を少しでもするべきだろう。

ついでに人間認識境界線がもう少し緩くなってくれれば良いだろうが…無理だろうな…。

 

「おぉ!ろーくんその提案は良いね!折角束さんがプレゼントするんだから、やっぱりISプレゼントしなきゃだね!?うおぉ〜〜!!燃えてきた〜〜!!!」

「いや待て束さん!それは危険すぎるし、最悪な結果しか生みかねんから!」

 

がしっと肩を掴み必死に話を聞かせる。

 

「なんでさ?束さんが作る箒ちゃんのためのオンリーワンだよ?幸せになれても不幸になるわけないじゃん」

 

ぷくーっと頬を膨らませ睨みつける顔はどうにも子供っぽい…年上ってなんなのだろうか?

 

「一つ、まず現状束さんの妹が束さんに不信感を抱いているためにISなんて送られてもまず、拒否をするだろう。そうなれば束さんも傷つくし、仲なんぞ良くもならん…」

「……」

 

相変わらずムスッとした顔で束さんはこちらを睨みつけてくるが、怯むことなく続きを口にする。

 

「二つ、これは参考書なりを読んだ限りでしか分からんから、束さんに反論されたらぐうの音も出んのだがな…束さん、現状第三世代の試験機しか作られていない世の中において世代を超えた物を作って渡す気だろう?仮に受け取って乗りこなすにしても相当な時間が掛かる…ましてや、束さん謹製のISならば国や犯罪組織やらがあの手この手で手に入れようとするだろうし、結果として妹を危険な目に合わせることになる」

「性能が高ければそこら辺の凡人如きのISに束さんのISが負けるわけないじゃないか!」

 

境界線が生んだ歪みなのだろうな…足元を掬われるという事態に陥ったことがなければ言えん言葉だろう。

 

「道具は所詮道具だ。どんな名刀でも、使い手が未熟ならばそれはナマクラとそう変わらん…だから、せめて…ISに関してだけは妹が望んだ時に渡す方向で考えてもらえないだろうか?」

 

いずれ、人は傷付き死ぬ。

それは変えられん運命だが、傷付きたくも無いし死にたくも無い。

誰しもが心の何処かでそう思っていることだと思う。

束さんの妹にはそんな気持ちを味わって欲しいわけではないし、

また残され失ってしまった人も深く傷付く…束さんにはそれを味わって欲しくもないのだ。

ロボであった時も、狼牙である今も…両方味わった俺は心からそう思う。

立ち上がり、束さんの頭をポンポンと撫でる。

 

「別にくれてやるなと言う訳ではない…プレゼントする物が分からなければ一緒に考える」

「む〜…ろーくんが其処まで言うなら、今回はISは見送るよ」

 

一先ず納得してくれた事に安堵しホッとする。

所謂老婆心から来る気持ちなのだろうな、これは…等と思ったら、束さんが抗議の視線を向けてくる。

 

「ろーくんが束さんと箒ちゃんの事真剣に考えてくれるのは嬉しいけどね…たーさんって呼んでって言ったよね、ろーくん?」

「真面目な話なんだから今ぐらいはまともに名を呼んでもバチは当たるまいよ」

 

頭をひとしきり撫でた後そっと離れて席に着く。

 

「べつにい〜じゃ〜ん〜」

「話が締まらんと言う話しだ」

 

軽く肩を竦め首を横に振る。

少なくともあの朴念神や目の前の天災よりはまだマトモな人格だと思いたい。

 

「と、言うかだな、たーさんよ…そもそも何で此処にいるんだ?」

「え、ろーくんと愛を育むためだよ?何言ってるのさ」

「帰れ、俺は知識を詰め込むのに忙しいんだからな」

 

この天災考えているようで考えていない事が多い気がする…。

 

「おやおやおや〜、誰よりもISを知り尽くしている束さんを邪険にして良いのかな〜?」

「寧ろ一夏に教授すべきだろう…IS学園入学が決定した時、真っ白に燃え尽きてたぞ」

「ちーちゃんの痛い愛情が怖い」

 

チィッ…この天災、どうあっても離れん気か…

 

「…そのバイタリティを妹に向ければ良いものを」

 

諦めと共に出た溜息は部屋に消え、満面の笑みを浮かべる天災兎は過剰スキンシップと共に俺に知識を詰め込もうとしてくるのだった。

 

 

 

 

「よぅ、狼牙…遂に来ちまったなこの時が」

「久しいな一夏…IS適正試験、もとい検査以来だな」

 

時は流れてIS学園入学日。

IS学園の正門前でハイタッチをしつつ挨拶を交わした俺たちは、ただただ呆然と目の前の魑魅魍魎の住まう難攻不落の城を眺めていた。

IS学園は、その特殊な性質上国家機密が数多く集う為に警備は厳重な上、あらゆる国家はこの学園に対して干渉は御法度となっている。

そして本土と離れた埋立地に出来た此処は多数のISが集う難攻不落の城と言っても過言では無い。

だが、俺たちにはそんな事は些細な問題だ。

ISの特徴を思い出して欲しい。

例外である俺たち以外には女性にしか使えない。

必然的にこのIS学園は女性しか生徒が居ないのである。

弾は、この事を聞いた時羨ましいと泣き叫んでいたが、それと同時に御愁傷様とも言っていたな。

女子のネットワークと言うものは情報社会のソレとは一線を画す恐るべき代物だ。

不慮の事故でも起きてみろ、それだけで学園生活は地獄のようになるだろう。

だから俺は親友にこう告げた。

 

「一夏も恐らく寮生活になるだろう…だからな予め言っておく」

「お、おう…」

 

ゴクリ、と一夏が生唾を飲み込む。

 

「自身の一挙手一投足、発言に至るまで思考しろ…不慮の事故が起きては助けてやれん。俺とて自分の事で手一杯になるだろうしな」

「わ、わかった…」

「互いにこの戦場を3年間凌ぐ事に全力を尽くそう」

 

そうしてガシッと強く握手をした時、恐らく今日入学の女子達から黄色い声がチラホラあがっていたが努めて無視し、二人肩を並べて入学式会場である第一アリーナを目指す。

願わくば我等に平穏を。




次から原作始まります。

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