【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜 作:ラグ0109
「午後からは、使用したISを利用して整備訓練を行う。午後の授業は格納庫で班ごとに集合しろ。専用機持ちは訓練機と自機を見るように…解散!」
午前の授業は、ラウラ班が手間取ったこともあって時間ギリギリまでかかってしまった。
どうにもラウラは協調性に欠け、孤高であろうとする傾向が強い。
俺がラウラ班の相手をしている間ラウラに注目されはしたものの、話し掛けてくることは無かった。
「あまり、気にせんようにな…転校したばかりで勝手が分からんだけだろうからな」
「う、うん…」
「何かあったら俺の所に来ても構わん…酷いようなら織斑先生に相談しよう」
不安そうなラウラ班のメンバーに声を掛け別れる。
打鉄を専用の台車に鎮座させ、人力で押していく。
さて、どうしたものか…。
[ああ言った子は、誰かの真似をしているものよ]
あの感じは間違い無く千冬さんの厳しい面のみだな。
…千冬さんに強い憧れがあると言う事なのだろう。
「おーい、狼牙ー?」
何にせよ、このままにしておくわけにもいかん…このままだとラウラが原因で事故が起きるかもしれんからな…。
「おい、狼牙!」
肩を掴まれ、思考が元に戻る。
俺は驚き肩を跳ね上げる。
「い、一夏か…どうしたんだ?」
「また考え事か…何かあったのかよ?」
「ラウラの事でな…ああ言った手合いは話を聞こうとせんしどうしたものかと…」
箒は、なんだかんだと反発はするものの反省して改善する位はしてくれる。
だが、千冬さんに憧れているであろうラウラには言葉は届かない。
理想とする人物の在り方を求めているからだ。
他人の言葉ではなく、千冬さんの在り方を示す事で酔っていると言える。
「ラウラ…なぁ…多分、俺のせいなんだよ…詳しい事は後で話すけどさ」
「千冬さんにも話を聞く約束をしている…訓練後寮長室に来てくれ」
「おう。それで昼飯なんだけどさ、シャルルも交えてみんなで食わないか?」
「承知した…場所は?」
「屋上だ。早く着替えちまおうぜ」
俺は打鉄を整備用ハンガーに設置し、一夏と共に更衣室へと向かう。
「そういや、ラウラって狼牙の事をチラチラ見てるんだよな」
「あぁ、やたらと視線を感じる…髪の色が同じだからか?」
「銀髪って珍しいからな…地毛なんだろ?」
「生まれつきなものだから親戚連中からは気味悪がられてたな」
一夏は申し訳なさそうにして目を伏せる。
俺は一夏の背を叩き笑う。
「気にするな、過ぎ去った時の話だ。俺は今満たされてるしな」
「敵わないな、まったく」
更衣室前に箒とセシリア、鈴それにシャルルが立っている。
「見ろ一夏、あれが出待ちという奴だぞ」
「いや、絶対違うだろ」
「「一夏!!」」
一夏が俺の肩を叩きツッコミを入れると、箒と鈴が声を張り上げ一夏を呼ぶ。
「遅いぞ一夏!急がないと昼食を取る時間が無くなるぞ!?」
「そうよ、一夏!約束の酢豚作ってきたんだから!」
「果たして酢豚は弁当向けなのか…?」
俺は鈴の言葉に首を傾げつつも微笑ましく箒と鈴を見る。
こういう時は中々どうして…息が合うな。
「ろ、狼牙さん…わたくしサンドイッチ作って来たので…」
[青春しているわねぇ]
「あはは、皆仲がいいんだね…」
セシリアはセシリアでバスケットを見せて、はにかんでいる。
いやはや、ありがたく頂かなくてはな。
「ふむ、では急いで着替えるとしようか」
「お、おう。直ぐに着替えるからさ」
俺たちは慌てて、更衣室へと入っていく。
待たせて時間が無くなっては後が怖いからな。
IS学園の屋上は、一般の学校と違って常に開放されている。
洋風の庭園と言った趣のある屋上は、おそらく轡木さんの趣味なのだろう。
どうも轡木さんはこう言った庭園や花壇を作るのが大の得意らしく、一手に引き受けているのだとか…何ともパワフルな方である。
正直、尊敬に値すると思う。
俺たちは円形のテーブルを囲むように座っていく。
箒と鈴は一夏の両サイドをキープし、俺はシャルルとセシリアに挟まれる。
「箒、サンキューな…弁当作ってくれるとは思わなかったぜ」
「べ、別に偶々…そう偶々作り過ぎただけだ!」
「一夏、これあんたの分よ!」
箒はお揃いの弁当箱を一夏に渡し顔を赤らめる。
もう少し、素直にならんとな…だが、進歩とも言えるか…?
鈴はタッパーを一夏に向かって放り投げる。
こちらはどこか男らしいな…一夏は気が強い女に惚れられているようで、大変だな…好意に気付いていないあたり本当に凄いと思うが…。
「ええと…僕同席して良かったのかな…?」
「俺たちとつるむとなると、大抵このメンバーでつるむ事になるからな…」
「そ、そうなんだ…」
「俺と鈴、一夏は中学からの付き合いで良く二組から一組に遊びに来る。セシリアとは朝の鍛錬を共にしている…基本的には皆とは仲が良い…さて…」
俺はセシリアから差し出されたバスケットを開き中身を見る。
中身はオーソドックスなクラブハウスサンドと言ったところか。
見た目は綺麗で良くできている。
「へぇ、オルコットさんは料理が上手なんだね」
「そ、そんなことありませんわ!」
「いや、美味しそうな見た目だ…ではありがたく頂戴しよう」
俺はサンドイッチを一切れ掴み、一口食べる。
……
………
…………
「せしりあ おまえも ひとくち くえ」
「へ?い、いえそんな……!」
俺は自分が口を付けたサンドイッチをセシリアの口元まで運ぶと、セシリアは顔を真っ赤にしてあたふたとする。
「銀君は、大胆だね…」
シャルルは口元を引きつらせている。
ははは、何を言っているんだ…セシリアにこの味を分からせるために決まっているだろう?
「い、いただきますわ」
一夏達全員が見守る中、セシリアは羞恥に耐えながら俺の噛り付いた所を食べると赤かった顔が青を通り越して白くなる。
「………」
セシリアは、どうやらあまりの不味さの気を失ったようだ。
何処かトリップしている感があるが。
「ちょ、ちょっと大丈夫なの!?」
シャルルがあたふたと俺とセシリアを見て、一夏達も異変に気付く。
「ろ、狼牙…?」
「何があったんだ?」
「ちょっと、味見させなさいよ」
俺は急いで鈴からバスケットを遠ざけて、化学兵器を胃の淵に収める。
「シャルル、みず もらうぞ」
「えっ…あぁ!?」
俺はシャルルが口を付けていたペットボトルを奪い取り、中身を一気に飲み干す。
[だ、大丈夫なの?バイタル安定してないわよ?]
すごく…冒涜的な味がした…俺でなければ皆気絶してしまうだろう…。
口に放り込んだ瞬間、絵の具の匂いがしたと思ったらくさやの香りがするんだぞ?
訳が分からん…一体何処をどうしたらこんな…。
シャルルが顔を赤くしたままこちらを睨んでくる。
「酷いじゃないか、飲んでしまうなんて」
「すまんな、 ああでもしないと、ひがいがふえそうでな」
俺は痺れる舌をなんとか動かし、言葉を口にする。
これは…少なくとも修行を積ませねばなるまい…。
「そんなに、酷いのか…?」
「つくった、ほんにんが、きぜつしてるだろう?したが、しびれる」
「あんた…漢気見せたわね…」
「む、無理をしなくても良かったんじゃないか?」
流石に箒も顔面蒼白の俺の顔を見て心配そうに見てくる。
常にそれだけ丸ければ、一夏とももう少し会話できると思うんだが…。
「せっかく、つくってくれたんだ…くわねば、もったいなかろう?」
「あんた、やっぱり馬鹿だわ」
[無茶するわね…本当に]
まぁ、後で禁止令は出すがな。
俺は気絶しているセシリアを膝枕をしてやりながら顔をしかめる。
「なにを、いれたら、こうなるのやら…」
「銀君、お腹壊さないでよ?」
シャルルは心配そうにこちらを見上げてくる。
何とも根が優しい子なようで、のほほん同様に貴重な清涼剤になってくれる事だろう。
「なに、からだに、かざあながあくよりは、マシだ」
俺は肩を竦めながら、苦笑する。
まさか、楽しい食事から化学兵器処理作業になるとは思わなかった…。
「いちか、しゃるる…よめは、めしがうまいやつに、しろよ…」
「お、おう…」
「う、うん…」
一夏は俺の鬼気迫る雰囲気に気圧されたのか、若干引き気味の笑みを浮かべながら何とも美味しそうに箒と鈴の手料理を食べている。
シャルルは対照的に若干浮かない顔で頷いている。
鈴と箒は顔を赤くしつつも対抗心を燃やしているのか、互いを牽制するように睨んでいる。
早めに正妻戦争に決着をつけてもらいたいものである。
「…あー…ようやく、痺れがとれて、きたな…」
「御愁傷様…銀君…」
「後で飲み物代は返す…すまなかったな」
シャルルの憐れむような視線に頭を下げつつ苦笑する。
一体、どうしたらあんな物ができるのやら?
「銀、セシリアはどうした?」
「体調を崩して寝込んでいる…今は保健室だ」
「全く…何をやっているんだ…仕方ない、セシリア班は出席番号順に各班に散れ」
「「「「はい!!」」」」
午後、結局気絶したまま起きなかったため、セシリアをお姫様抱っこで保健室まで運び預けてきた。
夕方に起きているようであれば、部屋で一緒に食事を作る方向で料理オンチを矯正していくつもりだ。
あのままでは何時事故が起きるか分からんからな…バイオハザードが起きても不思議ではないのだ。
俺はラウラ班と自分の班の間のハンガーに天狼を展開し、設置する。
すると、ラウラが此方へとやってきた。
「それが貴様の専用機か?」
「あぁ、名を天狼…武装が何一つない欠陥機だ」
俺は肩を竦めながらメンテナンスモードを起動し、背面のシールドをスラスターへと可変させ、稼働チェックを行う。
「ふん、IS発祥国と言えど欠陥機しか作れんようでは話にならんな」
「織斑先生曰く、ISは未完成品だから欠陥も何もない…らしいがな」
以前、千冬さんが一夏に零落白夜のレクチャーをしていた時に言っていた言葉だ。
束さんが未完成品をそのままにしているとは思えんし…何かあるのだろうか?
「…貴様は、ドイツに居たことは?」
「残念ながら生粋の日本人だ…朝の自己紹介の時から思っていたが、俺に何かあるのか?」
「…別に何もない。邪魔したな」
どうにも歯切れが悪い感じでラウラは顔を背けると自身の専用機の整備を始める。
[シュヴァルツェア・レーゲン、と言う機体だそうよ。見たまんま砲撃戦に特化している様に見えるけど…]
「隠し球ぐらいはあるだろう…何処も第三世代を開発しているからな」
だが、フランスだけはどうにも開発競争に遅れているらしく、第三世代開発に躍起になってはいるものの上手く行っていないらしい。
俺はシャルルの専用機を見る。
オレンジを主体にした鮮やかなカラーリングの機体は山田先生が愛用しているラファールに似ている。
[ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ…第二世代機のマイナーチェンジ機ね…デュノア社もヤキモキしているのでしょうねぇ]
思わせぶりに言うな…いい加減俺も現実を直視せねばなるまいよ…。
[お父さんの胃に良い感じにダメージ入るわねぇ…この学園]
仕方あるまいよ…皆が欲しがる男性操縦者だしな…。
俺はため息を吐きながら、機体のシステムチェックをしていると班のメンバーが此方へとやってくる。
「銀君、ちょっと分からないところがあるんだけど…」
「どうした?」
俺は一時システムチェックを中止し、打鉄の元へと向かう。
「空間ウィンドウでシステムチェック画面出したんだけど、反応しないんだよね」
「あぁ、前提からして間違っているからな」
「前提?」
俺は頷き、もう一つ空間ウィンドウを表示すると機体の状態が表示され、ある部分を指差す。
「システムが通常状態になっている…先ずはシステムを整備モードに変えんと内部チェック出来んぞ?」
「あっ、ごめんごめん…忘れてた」
「焦らんでも良いから、一つ一つ一緒にやっていこうか」
俺は班のメンバーと共に打鉄の整備を始める。
こう言ったところで、簪の手伝いが役に立ってくる。
形状が違うとは言え、打鉄の後継機である弐式と共通点は多いしな。
時折、簪の手伝いの時にやった失敗談を交えながら分かる範囲でレクチャーしていく。
「さて、俺が分かる範囲はこれくらいだ…もし、わからない部分があったら山田先生を頼ってもらっても構わんか?」
「ううん、とっても分かりやすかったよ!ありがと!」
「どういたしまして…では、俺は整備に戻る」
どうやら、上手く説明出来ていたようで俺はホッと一安心する。
[ここの教師でも目指してみたらどうかしら?]
俺としては宇宙に旅立ってみたいと思ってはいるんだが…なるほど、それが無理だった場合後発に夢を託すのも悪くはない、か?
俺は機材を操作しながら、夢の一つである宇宙に想いを馳せるのだった。