【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜 作:ラグ0109
「まったく、毎度毎度ご苦労な事だ…」
「これが少なくとも三年間は続くんだろ?…パルクールやってるんじゃないんだからさ」
無事に追っ手を撒けた俺と一夏は、肩を落としつつも早歩きで更衣室へと向かう。
鍛錬だと思えばまだ苦にはならないが…最近奴等の動きが良いから何かしら対策を組まないと最悪詰む可能性が否定できん。
「ところで、狼牙…朝のアレは酷いんじゃないか?」
「まぁ、結果的にはな…たしかに悪かった」
一夏は不満顔で今朝の顔面叩きつけの件を抗議してくる。
「何となくお前の頭が柘榴になってしまう気がしてな…一夏、ラウラの敵意に殺意が少し混じっている」
「はぁ?理由は分からなくは無いけど、命狙われてるのか?」
やはり、ラウラの敵意に心当たりがあるようだな…。
俺は眉間を揉みながら続ける。
「こんな時期に軍属と思しき人物が転校してくるとなると専用機持ちの可能性がある。そこに加えて一夏に対する敵意と殺意だ…クラスのみんなにトラウマを植え付ける訳にもいくまいよ」
「千冬姉の手前そこまで過激にしなかったってところか」
「多分な…後でお前から聞きたい事がある。放課後の自主訓練後に時間を作ってくれ」
「……わかった」
俺と一夏が仲良く更衣室に入ると短い悲鳴が上がる。
「キャ…!な、なんだ織斑君達か…」
「ははは、女の子みたいな悲鳴をあげるんだな…一夏で良いよ。その代わりシャルルって呼ぶからさ」
「……」
制服からは中性的だとは思っていたが…。
シャルルはISスーツに身を包んでいる。
ISスーツは身体のラインがハッキリと出てくる。
シャルルには男性らしい…所謂ゴツさが無いのだ。
まぁ、人種的に…と言われればそれまでなのだが…以前の世界で、どう見ても骨格レベルで少女にしか見えん男性を見てきたせいかどうにも判別に困る。
だが…シャルルは…いや、よそう…せっかく増えた男子だ…男装で入学させるなどと言う馬鹿げた国があるわけが無い。
「兎に角急ごう、時間も無いしな」
「おう!」
さて、このISスーツ…実は全身に密着させる為、全裸で着替えなくてはならない。
なんせ、身体中の電気信号を元にISを動かすのだ…下着を着たままではラインが浮かび上がるし着心地も悪い。
……股間部分にサポーターが入っていて良かったと常々思っている。
「わわっ……!」
「さっきから何に驚いているんだ…女子の着替えを覗いた訳でもあるまいに」
シャルルは、顔を手で隠して指の隙間からこちらを伺っている…。
止めてくれよ…本当にそんなベタな展開は望んではいないんだ。
俺は内心を表に出さないように苦笑しつつ制服を脱いでISスーツ姿になる。
「ハハ、シャルルは恥ずかしがり屋か何かなのか?」
「あっ!えっと…ごめんね…あんまりこう言う事なくってさ」
「まぁ、いいさ…急ぐぞ」
ロッカーを閉め、俺は二人を置いて急いで第二グランドへと向かう。
時間も残り少ないからな…さて、三人のうち誰が天誅を受ける事になるのやら…。
俺はそれとは別の嫌な予感を胸に秘め盛大にため息を吐くのだった。
「三人とも遅いぞ!早く並べ!」
グラウンドに到着すると千冬さんが鬼神を背に仁王立ちしていた。
まぁ、なんだつまり俺たちは物の見事に遅刻したわけで…。
三人ともに出席簿ハンマーが振り下ろされる。
因みに俺は二回である…解せぬ…。
ありがたく天誅を頂戴した俺たちは、速やかに一組の待機列へと向かう。
「今日はまた、随分とゆっくりでしたわね…」
「奴等の連携の所為で二階から飛び降りる羽目になってな…」
「段々人間離れしてきていますわね…」
たまたま隣だったセシリアと軽い雑談を交わす。
いや、本当に彼奴らをどうにかせんと授業ごとに天誅が下ることになりかねん。
シャルルは未だに頭を抑えている。
「痛いよ…イチカ…」
「これが我がクラス名物の出席簿アタックだ…次からは気をつけような」
「あんた達も大変ねぇ…」
一夏の背後に偶々いた鈴が声を掛けるが、一夏は気付かずにキョロキョロと辺りを見渡す。
「一夏、後ろ後ろ」
「新手の忍か?」
「ふざけた事言ってるんじゃないわよ!バカなんじゃないの!?」
俺はセシリアと共に胸元で十字を切り、祈りを捧げる。
誰の授業か忘れたのか三人とも。
「バカなら私の目の前にいる…いい度胸だな貴様ら!」
千冬さんは光もかくやと言わんばかりに出席簿を四度叩き落とした。
何故俺まで…。
「今日の実戦訓練は基本動作と格闘及び射撃の訓練を行う!」
俺は腕を組み、授業内容を聞いている。
少し視界を逸らすとラウラが千冬さんと交互に俺を見てくる…一体何なんだ?
「イタイ…織斑先生コワイ…」
「一夏のせい一夏のせい一夏のせい……」
シャルルは頭を抑えながら半べそをかき、鈴は呪詛のように頭を抑えながら同じ事を繰り返し呟いている。
…鈴が悪いと俺は思うんだがな。
「まずは、戦闘の実演をしてもらう…凰、オルコット前に出ろ!」
「わ、わたくしもですか!?」
近接機対射撃機の実演か…?
たしかに過去の訓練で未だに鈴とセシリアは手合わせを行っていない…どういう戦いになるのか見ものだな。
「専用機持ちで実働時間を考慮した上でだ…いいから、来い」
「だからと言って…組むなら…」
「一夏のせい…」
セシリアは何やらゴニョゴニョと呟きよく聞こえない。
まぁ、何を言っているのか大体の想像はつくのだが。
鈴は鈴で相変わらず呪詛の様に呟いている…その呪いで一夏の鈍感が治ると良いんだが。
「……やれやれ、お前達耳を貸せ」
千冬さんは見るに見兼ねたのか二人に何やら助言を行っている。
千冬さんも大概酷いな…俺と一夏をダシにやる気を出させるか。
「ここはイギリス代表候補生である、わたくしの成長を見てもらうべきですわね!」
「まぁ、専用機持ちの実力を見てもらうにはいい機会ね!」
…ちょろいな、あまりにもちょろすぎる…セシリアには後でプレミアムプリンを買ってやるとしよう。
ん…?何やら空に覚束ない機動で飛んでくる物体があるな…。
「それで、わたくしのお相手は鈴さんでよろしいのですか?」
「ふふん、望むところよ!」
「まぁ、待て…相手はアレだ」
あぁ、これは直撃コースだな…一夏に。
千冬さんが指差した先にはラファールのマイナーチェンジ機…ラファールリヴァイヴ身に纏った山田先生が必死に逃げるように訴えている。
まぁ、アレだけ叫んでいれば…と思っていたのだが…。
「どいてどいてーー!!!!」
「へ?」
気の抜けた一夏の声と共に山田先生は激突…派手に土煙を上げながらゴロゴロと地面を転がっていく。
「い、一夏!?」
箒が土煙を払いながら一夏へと近づいて行く。
あぁ、これは何かヤバい前触れだな。
「あっぶねー…白式の展開が間に合わなかったら御陀仏だった…ん?」
「お、織む…ひゃんっ!?」
土煙が晴れると、其処には山田先生を押し倒し胸を揉みしだく一夏の姿があった。
……なんでこう、ピンク系のトラブルが此奴の周りで起こるんだ?
「い、いえ、その…困ります…こんなみんなが見ている目の前でなんて…あぁっでもこのまま結ばれれば織斑先生が義姉と言うことにっ…それはそれで美味しい…」
「い、一夏!早く離れろ!破廉恥だぞ!!」
箒が一夏の両肩を掴んで必死に引き剥がすと、山田先生が少しばかり残念そうな顔をする。
大丈夫なのだろうか…ウチの副担任は。
に、してもだ…デカイな。
「狼牙さん?」
「っ…!!??」
冷たい微笑を浮かべ、セシリアが顔を覗き込むように此方を見上げてくる。
その目には光が宿っていない…恐怖すら感じるな。
「何をお考えになっていたのでしょうか?」
「…いや、一夏は相変わらずだな、と…」
俺は若干顔を引きつらせながらセシリアから視線を逸らす。
セシリアは呆れ顔でため息をつく。
「まぁ、そういう事にしておきましょうか…」
「怖いぞ、セシリア…」
「まさかまさか、そんな…ホホホ…」
セシリアは白々しい笑いを上げながら視線を戻す。
俺はホッとしつつも一夏達へと視線を向ける。
「何を鼻の下伸ばしているんだ、破廉恥だぞ!」
「事故だって言ってるじゃないか、箒!」
一夏は顔を赤くしながら首を横に振っている。
まぁ、アイツも男だからな…一応そういった気持ちはあるらしい。
「い〜ちかっ!」
「り、り…ん…?」
鈴は甲龍を展開し双天牙月を連結させ、イイ笑みを浮かべている。
まさか…。
「おい、待つんだ鈴!!」
「死ネェッ!!!!」
鈴は俺の制止を振り切り、双天牙月を一夏目掛けて投擲する。
…多分、自身の胸部装甲には無いものに鼻の下を伸ばした一夏が許せなかったんだろうな…やりすぎだが。
俺は急いで天狼を展開し瞬時加速を使おうとしたその時、二発の銃声がグラウンドに鳴り響き鈴の足元に双天牙月が突き刺さる。
[五十一口径アサルトライフル『レッドバレット』ね。それにしても流石は教師って感じかしら?]
ん、調べ物が終わったのか…何を調べていたのかは分からんが。
山田先生は仰向けのまま双天牙月の刃を弾丸で弾き飛ばし、正確に鈴の足元まで戻したのだ。
「セシリア、お前も同じ事が出来るか?」
「いえ…弾き飛ばすことは出来ても、あそこまで正確に戻すのはちょっと…」
セシリアは山田先生の実力を見て目を大きくしている。
何せ普段が普段だからな…山田先生は本気で怒らせると怖いのかもしれない。
「何せ、山田先生は元代表候補生だからな。あの位は朝飯前だ」
「代表候補生止まりですよ…織斑先生には終ぞ勝てませんでしたし」
「謙遜するな」
山田先生は跳ね上がって立つと、はにかみながらズレたメガネを両手で直す。
あれだけの射撃の腕だ…実際はかなりイイ勝負をしていたのだろうな。
「さて、時間が勿体無いからな…さっさと始めろ」
「二対一…ですがよろしいのですか?」
「流石にそれは…」
セシリアと鈴は困惑した表情で千冬さんを見つめる。
「何、今のお前達では軽くあしらわれて終わりだろうさ」
千冬さんは涼しい顔で挑発する様に言う。
恐らく千冬さんの言い分が正しい…以前の訓練中セシリアは箒と組む事が多かったので、連携の大切さを知っているだろうが…。
ピリッとしたプレッシャーが俺に当てられる…成る程、助言はするな…か。
「まぁ、なんだ…頑張れよセシリア」
「わたくしの勇姿を見せてさしあげますわ!」
「やったろうじゃん!」
気合十分な二人は山田先生と共に上空へと上がる。
俺は心の中で合掌をしつつ、一夏達の元へと向かう。
「災難だったな」
「全くだぜ…狼牙も助けてくれりゃ良いのにさ」
「悪いが命は惜しいんでな」
「一夏がしっかりしていないからそうなるんだ!」
「箒よ…もう少し優しい言葉をかけてやれ…」
「銀には関係無い!」
いや、そう言われてしまったらお終いなんだが…恐らく自覚はしているんだろうな…。
自覚していることを他人から指摘されるとイラっとするからな。
「箒ちゃんは、男心が分かってないのよねぇ…一夏君はそれでもダメでしょうけど]
いや、全くだ…もう少し、こう…。
俺が胸中モヤモヤしていると、シャルルが山田先生のISの説明を始めている。
デュノア社製ISラファールリヴァイヴ…第二世代機ラファールの改良機。
世代こそ第二世代だが、その操縦の容易さや他機種にはない拡張性の高さで各国で使用率の高い名機だ。
[シャルルちゃんは、デュノア社の社長のお子さんみたいね]
ちゃん付けか…止めてくれ…不安の裏付けが取れているみたいではないか。
白はクスクスと笑いながらまた黙り込んだ…どうやら他所へと行ってしまったようだ。
そうこうしている内に上空の戦いは佳境へと向かっている。
山田先生は不可視の衝撃砲を何処に飛んでくるのかを読んでいるのか、のらりくらりと回避しつつセシリアのビットをアサルトライフルで撃ち射線を鈴、あるいはセシリア自身に向けている。
化け物か…ビットの発射タイミングはセシリアが握っているにも関わらず、射撃する直前にビットの向きを調整しているのだ。
完全に戦場を山田先生が支配している。
「やはりこうなったか…」
「どういう事だ?」
箒は俺の呟きを聞き、怪訝そうに見てくる。
「正直、鈴が突っ込みすぎてセシリアはビットを的確な位置に配置出来んのだ。セシリアは箒と一緒に一夏をシゴいていたから少しは連携することを学んでいるのだが…」
「あの、山田先生がそんな芸当を?」
「しているだろう?衝撃砲を撃つのも、鈴が撃ち込みやすい様にワザとやっている…だから避ける事が出来る。セシリアもセシリアで射撃戦に拘り過ぎているからな…余計に手数が減ってしまっている」
「すげぇ…」
箒は山田先生の動きを食い入る様に見つめ、一夏は口を開けたまま空を見上げている。
そろそろ詰みか…?
山田先生は両手に持ったグレネード付きのアサルトライフルでセシリアと鈴の回避を潰し、ぶつかった所でグレネード弾を発射する。
ものの見事に策に嵌ってしまった二人は仲良く爆発…煙から落ちてきて地面に激突する。
南無三…侮っていたのも、千冬さんの挑発に乗ってしまったのも敗因だろうな。
「鈴さんが突っ込みすぎるからですわ!」
「あんた格闘武器積んでるんだから、一緒に仕掛けなさいよ!」
「さて、銀…今回の二人の敗因はなんだと思う?」
「単純に山田先生を数的優位と侮っていたのと、互いの機体特性を活かさず好き勝手に戦っていたことが原因だろうな…」
俺はため息を吐きながら二人を諌めるように見つめる。
お前達は後で反省会をするべきだろう。
「これで連携の重要さと、IS学園所属教師の強さが分かったな?以後、教師には敬意を払うように!」
「「「「ハイッ!」」」」
「二人とも、後で反省会な」
「分かりましたわ…」
「分かったわよ…」
クラスメイトのクスクスと笑う声で我に返った二人は、俺の言葉にしょぼくれる。
連携を組む上で一番重要なのは、パートナーが何を出来るのかを把握する事だろう。
場合によっては連携を崩すのは、敵だけではない…自らなのかもしれないのだ。
「専用機持ちの織斑、銀、オルコット、ボーデヴィッヒ、デュノア、凰の六班に出席番号順に別れろ」
「織斑くん、手取り足取りヨロシクね!」
「うへぇ…セシリアかぁ…負けたのになぁ…」
「やった、シャルル君とだ!」
「凰さん凰さん…後で織斑君の事教えてね…」
「銀君、お手柔らかに…」
各々が各班に分かれ穏やかな雰囲気が流れる中、非常に重苦しい雰囲気の班があった。
言うまでもなくラウラ班である。
ラウラは兎に角見下した風に班のメンバーを見つめ声すらかけない。
俺は軽く眉間を揉み思案しラウラへと歩み寄ると、向こうもこちらに気付いたのか顔を向ける。
「何の用だ?」
「何、ぎくしゃくしているようだからな…織斑先生が見ているぞ」
「チッ……」
どうやら俺も例外なく嫌悪の対象らしい…舌打ちされ、顔を背けられる。
…手負いの獣か…?
俺は苦笑しながら離れると、漸くラウラは厳しい口調で指示を出し始める。
「訓練に使用する機体は打鉄三機にラファールが三機ですよー。早い者勝ちですからねー」
ふむ…メンバーは全員日本人だが、やはり操作性からラファールを選ぶべきか?
「銀君も使ってたし打鉄が良いなぁ」
「私達も賛成〜」
「承知した。では、打鉄を受領してくる」
俺は天狼を腕と足だけ部分展開して、山田先生から打鉄を受領してくる。
天狼は全身装甲…天狼の頭はソコソコ厳つい顔なので恐怖心を煽る可能性がある…今回はそんな必要がないので、部分展開のみに留めている。
「今回は全員にやってもらいますから、フィッティングとパーソナライズは行いません。午前中は、歩行などを行って操作の感覚を掴んでくださいね」
「と、いう事だ…では早速装着を始めようか」
「はーい」
俺は打鉄を座らせ、一人目に装着をさせる。
打鉄の手を取り立つ時の補助をしてやりながら俺なりに説明していく。
「つけた感覚で分かるだろうが、要はパワードスーツだ。視点が通常より高くなるが、落ち着いて動かせばバランスを崩す事もなかろう…そうだな、まずは足踏みから始めようか」
「は、はいっ!」
試験以来久々に使うISの感覚に戸惑っているのか、緊張してフラフラしている。
俺は打鉄の両手を掴み、同じように足踏みをして感覚を慣らしていく。
「自分が歩く感覚で構わない、ゆっくり歩くぞ」
「ふぅ…ふぅ…こ、こうかな?」
決して引っ張らず、あくまで支えるようにして付き添っていく。
次第に慣れてきたのか歩きが自然になっていく。
「調子が良さそうだな…手を離すぞ」
「えっ!?ちょっとま……ああっ!?」
俺が手を離した瞬間、驚いてしまったのか足を縺れさせて前のめりに倒れてきたのでそれを優しく抱き止める。
「大丈夫か…?」
「あ……う、うん…」
女子は顔を赤らめて、抱き着いたままこちらを見上げてくる。
すると俺の背後から刺し殺せそうな視線が向けられる。
言うまでもなく、セシリアである。
『狼牙さん、デレデレしすぎですわっ!!!』
『いや、転んだのを抱き止めただけだろうに…そう、怒るな』
『お、怒ってなどいません!優しすぎると言っているのです!!』
コアネットワークのプライベートチャンネルで、セシリアは抗議の声を上げてくる。
なんともいじらしいものである。
まぁ、プレミアムプリンでチャラにするつもりだが。
「いいか、落ち着いて歩けばいい」
「わ、分かりました」
俺は再び手を取り、歩くのが安定するまで歩いていく。
安定したら再び手を離し、受け止められる位置を維持して歩く。
「で、できた〜」
「よし、そうしたら今度は一人で一往復してこい。そうしたら次と交代だ」
「はいっ」
人間ちゃんと出来るようになると自信がつくもので、打鉄を纏った女子は笑顔で歩いていく。
「銀君の教え方って丁寧だねぇ…」
「出来ないことを最初からスパルタで教えても仕方あるまい…まぁ、次出来なかった時はスパルタで行くがな」
「あ、あはは…」
腕を組みながらニヤリと笑みを浮かべると乾いた笑い声があがる。
さて…ラウラ班は…。
一応訓練らしい訓練をしてはいるのだが、どうも海軍ばりのスパルタらしく班のメンバーの顔が青ざめている。
「どうにも、ラウラは厳しいようだな…千冬さんリスペクトか?」
「銀君のところで本当に良かった…」
「ただいまー」
歩行訓練から戻ってきた打鉄を立たせたまま女子が降りる。
「…これでは次が装着できんな」
「あ、ごめんごめん…ワ、ワザトジャナインダヨー」
「オーケーならば、今後はお前だけスパルタだ」
「ひぃっ!?」
ワザとか…全く…一応訓練なのだから、真面目にやらんとな。
「お、おねがいします」
「やれやれ…子供だが子供じゃないんだからな?」
俺は仕方なく次のメンバーを打鉄まで抱き上げて運ぶ。
セシリアから恨めしそうな視線が降り注ぐが、俺は努めて無視をする。
後は同じ様に訓練を繰り返すだけだ。
まさか、同じ様な事を全員に繰り返す事になるとは思わなかったがな…。
「すまない、銀…ボーデヴィッヒのサポートに入ってくれ」
「承知…まぁ、織斑先生は俺が言わんとしていることは分かってると思うが…後で一夏を交えて話がしたい」
「わかった…すまんが、アイツの事を頼む」
俺は班のメンバーを千冬さんに任せ、ラウラ班へと向かう。
「あ、銀君…」
「ボーデヴィッヒ、サポートに入る…と言うか俺が変わる…海軍じゃないんだ、厳しくしてくれるな?」
「フンッ、好きにしろ!」
「あまり邪険にするな…これから仲良くしていきたいのだからな」
「私は知らないからな」
取りつく島も無いようで、俺は肩を竦めて笑うしかない。
一夏との確執もある…どうにかせんと胃が痛くなる事態になりかねんな…。
俺はラウラ班のメンバーに歩行訓練を施しながら、一人頭を悩ますのだった。