【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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集いしもの達と兄妹

時は流れて六月。

所謂梅雨の時期である。

じめっとした湿気は夏の準備を感じさせ、降り続ける雨は何とも憂鬱にしてくれる。

余談ではあるが、俺はこの梅雨の時期が一番嫌いだ。

屋外での鍛錬に支障が出るからだ。

部屋の中でやると、汗と熱気で部屋の空気が最悪になる。

同居人が居なければ、気を使わなくても済んだのだがな…。

ともあれ、休日である今日は梅雨にあるまじき快晴である。

 

「で、お前はこの天気が良い時にゴロ寝か?」

「い〜じゃない…昨日まで生徒会室にカンヅメだったんだから…」

 

俺が朝のトレーニングから戻ってくると、俺のベッドでタンクトップにホットパンツと何とも青少年の腰にキそうな格好の楯無が寝ていた。

何のための自分のベッドなのか分からんな…。

俺は眉間を揉みながらどうしたものかと思案する。

ふむ…少し連れ出すとするか。

俺はコアネットワークで一夏と鈴を呼び出す。

 

『おはよう、手短に用件を済ませる。ルームメイトが余りにも不健康なんでな…外に遊びに行かないか?』

『俺は構わないぜ、部屋に居ても今は一人だしな』

『こっちも良いわよ。今日は予定も無いし…あ、お昼はあそこ行きましょ』

 

俺たち三人で今日の予定を手短に詰めていく。

この辺りはツーカーの仲だな。

なんせ、中学時代はいつも一緒に居たのだ。

 

『では、二時間後に校門で落ち合おう』

『『ラジャー』』

 

さて、こっちは楯無に準備をさせないとな。

俺は首をコキコキと鳴らしゆっくりとベッドへ近寄り、腰掛ける。

 

「ふっふっふ、このベッドは占領したも同然…狼牙君にお昼寝はさせないわよ」

「寝るなら自分のベッドを使え。それより、俺は一夏達と出掛けるが一緒に来ないか?」

「あら、デートのお誘いかしら?」

「便宜上は、お前を連れ出すと言う所だがな…まぁ、午後になったら二手に分かれる算段を鈴とつけている」

「そう言う事なら、このベッドを開放してあげるわ!」

 

楯無は嬉々とした表情を浮かべてベッドから飛び起き、洗面所へと向かう。

まぁ、偶には良かろうよ…この間の埋め合わせも済んでいないしな。

 

「二時間後に校門で一夏達と合流…昔馴染みの定食屋で腹拵えして街を散策して帰る」

「狼牙君にエスコートしてもらえるのかしら?」

「二手に分かれたらな」

 

俺は、黒のワイシャツにジーンズを履き、革靴を用意する。

この季節、汗をかくと透けるからな…。

三つ編みを丁寧に編み直し、適当なゴムで留めれば前に垂らす。

 

「先に出ているから、ゆっくりと準備して来い」

「わかったわ、それじゃ校門で」

 

俺が部屋を出ると偶然にも簪と鉢合わせた。

 

「何処かに、お出掛け?」

「あぁ、一夏と鈴、それと引き篭もりになりかけたお前の姉を連れてな」

「むぅ……」

 

簪は頬を膨らませ顔を背ける。

こればかりはタイミングが悪かったとしか言えんな。

 

「そんな顔をするな…帰ってきたら、弐式の組み立てを手伝いに行くから」

「…おねえちゃんばかりズルい」

 

知り合った頃に比べて簪は大分表情が豊かになってきた。

それだけ、心に余裕があると言う事なのかもしれん。

 

「そう言ってくれるな…少し、困ってしまうのだが…」

「私にも何かしてほしい、かな…」

 

まぁ…この反応も仕方がないのかもしれんな。

楯無はルームメイト、セシリアはクラスメイト…簪は少し接点が少ないのである。

と、言うかアレだな…三股かけてるダメ男そのものではないか…。

 

「では、こうしよう…次の休みは簪と何処かへ出かける…それで良いか?」

「行く場所は、私が決めるね…楽しみにしてる」

「あぁ、分かった…ではまた後でな」

 

俺は簪の頭を撫でてやり、コーヒーでも飲んで時間を潰そうと食堂へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

「へぇ、三人はこの辺りに住んでいたのね?」

「あぁ、と言っても知っての通り俺は短い間だったがな」

 

校門で一夏達に合流後、俺たちは地元の住宅街を歩いていた。

楯無は白のミニスカにニーハイを身に付け、上もフリルの付いたシャツと何とも活動的である。

あぁ、太腿が眩しいとも…。

 

「この辺りも一年じゃあんまり変わんないわねー」

「そんなにコロコロ街の風景が変わるってのも怖いな」

 

鈴はタンクトップにミニスカ、スパッツと此方も此方で鈴らしい格好である。

一夏達と並んで歩いていると次第に見慣れた看板が見えてきた。

 

「ここが行きつけの?」

「あぁ、友人の祖父が経営している五反田食堂だ」

「相変わらず、繁盛してるみたいね」

「弾達元気にしてるかな?」

 

正面の扉を開くと聞きなれた友人の声が響く。

 

「いらっしゃい!って一夏!鈴と狼牙も!」

「久しぶりだな、弾」

「相変わらずチャラいわね…元気そうじゃん」

「趣きあるわね…いい匂い」

 

お嬢様は中々寄り付かん様な店だろう。

興味深げに楯無は店を見渡している。

嬉しそうに一夏達と喋っていた弾は楯無を目に止める。

 

「で…そちらのお嬢さんは…」

「今日は狼牙君のコレって事で!」

 

と、楯無は俺の腕に抱き付いてくる。

あぁ、最早慣れてしまった自分が恐ろしい…。

特に表情を変化させなかった俺を見て、弾は崩れ落ちてメソメソと泣き始める。

 

「金髪お嬢様の次は活発系お姉さんかよ!!」

「うるせぇぞ!仕事しやがれ!」

 

精神的なダメージを受けた弾は、祖父である(げん)さんから投げられたオタマが頭部にヒットする。

 

「相変わらず勇ましい限りだな、厳さん」

「ハッ!学園に行って腑抜けたんじゃねぇだろうな?」

 

俺は厨房前のカウンターまで行き、厳さんに声をかける。

五反田 厳さんは、この五反田食堂を切り盛りする御歳八十歳のご老体だ。

しかし、老体と言って侮るなかれ。

その肉体はそこらの若者よりもタフだ。

具体的にはメイト◯ックス大佐並である。

 

「まさか、キチンと鍛錬は積んでいるさ」

「鈴ちゃんと狼牙くん久しぶりねぇ」

 

奥から出てきたのは、年齢不詳の弾と蘭の母親である(れん)さんだ。

二十八歳から歳を取らんと言うが…石仮面を使っているのかもしれん。

 

「お久しぶりです。お元気そうでなによりです」

「蓮さんも相変わらずで何よりだ…」

 

俺と鈴は頭を下げ笑みを浮かべる。

うむ、やはり懐かしい空気が此処にはあるな。

 

「おら、飯食いに来たんならとっとと席に着きな」

「そうさせてもらおう」

 

俺は素直に頷き、四人掛けのテーブルへと向かう。

俺の隣に楯無、向かい側に一夏と鈴だ。

 

「オススメは何かしら?」

「やはり、業火野菜炒めだろう…ここの名物だしな」

「ここの鉄板メニューだしな。弾、業火野菜炒め四つな」

「あいよー」

 

弾が注文を取って厨房へと向かうと、入れ替わるようにして店に弾の妹が入ってきた。

 

「ただいまー…出前おわ…った…」

「お、久しぶり」

「邪魔してるわよー、蘭?」

 

弾の妹の五反田 (らん)…店のエプロンを身に付け持っていたオカモチを落とした。

 

「い、一夏さんに鈴姉!?」

「俺もいるが…これがな」

 

尚、言うまでもなく蘭は荊の道を歩む者(一夏にゾッコン)だ。

時折一夏の事で目の前が見えなくなってしまうことがあり、そう言った点では鈴とソックリな性格をしている。

 

「狼牙さんまで…全寮制だって聞いてたんですけど」

「今日は休日だからみんなで出掛けようってなってさ」

「あたしも久々だし、狼牙のルームメイトを連れ出そうって事になって此処に来たのよ」

「そ、そうだったんですか…」

 

蘭は、鈴が一夏の隣に居ることが気になって頬をひくつかせている。

俺と弾は目配せして肩を竦める。

 

「修羅場展開くるのかしら?」

「飯食う時に昼ドラは望んでないんだがな…」

「業火野菜炒め定食お待たせー」

 

弾が四人分の定食を器用に持ってくる。

この辺は流石、定食屋の息子…孫?な事だけはある。

 

「いい匂いねー…でも食べきれるかしら?」

「量も多いからな…残すようなら俺が食う」

「普段からそんだけ食いなさいよ?」

「ほう…つまり、フルフェイスの奥がどうなっても知らない、と?」

 

鈴の言葉に苦笑しながら肩を竦め割り箸を割る。

冷めてしまっては折角の料理が勿体無いからな…ありがたくいただくとしよう。

 

「ところで、一夏…メールで言ってた昔の幼馴染と再会したって?」

「あぁ、箒なー」

「箒…?」

「こいつの幼馴染よ…少し前まで同じ寮の部屋に居たのよ」

 

鈴の言葉に蘭は立ち眩みでもしたのか、フラッとする。

 

「なんで、狼牙さんとじゃないんですか!?」

「お上の御要望という奴でな…俺は未だに隣の猫と同居中だが」

「あら、美人と同居なんて夢みたいでしょ?」

「ところがどっこい、これが現実…と。まぁ、不満はないがな」

 

俺と楯無が朗らかに笑っていると、鈴が頬をヒクつかせて此方を見てくる。

 

「夫婦みたいな会話してんじゃないわよ…」

「やーだー、鈴ちゃん嫉妬ー?」

「ち、ちがうわよ!?」

 

鈴は顔を真っ赤にして首を横に振る…一夏とこう言う会話は中々難しいだろうに。

なんせ朴念神…後、人の事は言えんが時折ネタも古い。

 

「お兄…後でお話しがあります…」

「ハッハイィッ!」

 

弾は蘭の尻に敷かれている…どうにも妹に頭が上がらんようだ。

蘭は手をグッと握りしめ強く頷く。

 

「私決めました…来年、IS学園を受験します!」

「な、何を言いだすんだよ!お前の所エスカレーター式で大学まで面倒みて…!」

「あら、いーじゃない五反田君…蘭ちゃんが決意したならおねーさんは応援すべきだと思うなぁ」

「あ、ありがとうございます…えーっと」

「更識 楯無よ…IS学園で生徒会長してるの」

「現ロシア国家代表だ…これでもな」

「含みのある言い方じゃない?」

 

恐らく楯無は俺が何を考えているのか分かりきっているのだろう。

楯無は正の面を教えてやればいい。

俺は負の面を教えてやるとする。

 

「蘭は賢いからな…恐らく筆記も実技もパスするだけの努力は怠らんだろう」

「もちろんです!」

「ではな、その上で聞くが…ISをどう見ている?」

「それは…スポーツに使う道具、ですよね」

「狼牙…?」

 

一夏は怪訝そうな顔をしていて、鈴は何かを察したのかやれやれと首を横に振る。

 

「あぁ、その認識は一つの見方としてとても正しい…だがな、道具は道具でも兵器運用可能な道具だぞ」

「私としては蘭ちゃんと同じ見方をして欲しいけどね」

「どうにも、物事を冷たく見てしまうものでな…」

「そんな…だって、ISは安全だって」

 

言うべきかどうか迷うが、一つの姿を知る事もまた蘭には必要だろう。

 

「俺はこの間殺されかけたがな…」

「ど、どういうことですか…?」

「男嫌いな奴らが徒党を組んで狼牙にリンチしかけたのよ…私も方法までは聞いてないけどね」

「具体的には、強烈な衝撃の走る弾丸と近接武器で囲んで滅多打ちだ…一歩間違えれば俺は今頃空に輝くお星様と言ったところだな」

 

絶対防御とは言え衝撃が突き抜ける時は突き抜ける…そのための徹甲弾やパイルバンカーだ。

今にして思えばセシリアには悪い事をしたものだと反省するばかりだ。

 

「もちろん、ISにはエネルギーシールドや絶対防御って言うものがあるから、早々怪我なんてしないんだけどね…」

 

一夏は腕を組んで考え込む。

零落白夜は絶対防御すら切り裂く無双の刃だ。

その真の意味を理解した時、一夏はそれをどう使っていくのだろうか?

 

「兄ちゃん…賛成してやりたいけどさ…蘭には今のままでいて欲しいって思ってるんだよ」

「……でも、私は受験したい」

 

弾は心配そうに蘭を見つめている。

それでも蘭は首を横に振る。

一夏に憧れて、か…?

それは危険だ…俺には賛成できない。

 

「お前の一生だから口出す権利はないのだろう。しかしな、お前の憧れが届かなくなってしまっていた時…お前は何を目標に学園で頑張るのだ?」

「あ…それは…」

「もちろん、学園で生活する中で目標を見つけても良いしね。私の妹なんかIS組み立てて私に勝つなんて言うくらいだし」

 

蘭は賢い子だ…だからこそ一時の感情に流されて、道を一つに絞っては欲しくない。

 

「ま、あたしは蘭なら大丈夫だと思うけどね」

「それでも…だ、受験までは時間もあるし、よく考えて結論を出すと良い」

「後輩になるってんなら、俺たちで面倒みてやれば良いしな」

 

一夏は思考を切り替え蘭に微笑みかける。

鈴は、少し不機嫌そうな顔になるが気を取り直す様に深呼吸する。

 

「そんな、心配するような事は無いわよ…今の所は、ね」

「む…でも、分かりました…少し、考えてみます」

 

鈴と蘭は視線を交わらせ、互いに牽制をするが直ぐにそれを止めて頭を下げる。

 

「悩めよ少女…まだまだ時間はたっぷりあるからな」

「「「「だから幾つなんだって」」」」

 

一夏、弾、鈴、楯無はセリフをハモらせてこっちを睨む。

知っているだろうに…特に楯無は。

俺は肩を竦めて苦笑する。

 

「ピチピチのティーンエイジャーだ」

「嘘くさいのよねぇ…」

 

楯無はニヤニヤと笑いながら肘で脇腹を突いてくる。

知っててこれである…態度を変えないと言うのはありがたいものだ。

その後、厳さんの堪忍袋が切れるまで、俺たちは雑談に花を咲かせるのだった。




獣人さんご提供のネタでございました。
ありがとうございました。

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