【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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優しい友人達

本日は土曜日とあって授業は午前中のみ。

前日の体罰による痛みもすっかり消え、俺はホッと胸をなで下ろしている。

 

[楯無ちゃんが間に合って良かったわよ…もう少ししたら本当に玩具にされるところだったもの]

 

全くだな…しかも勝手に脱がせておいて気持ち悪いだのなんだのと吐き捨てそうだ。

まぁ、奴らも当分は出て来れまい。

なんせ、千冬さんの愛情たっぷりの教育的指導が入ったからな。

以前、俺と一夏の戦闘訓練の際にアリーナの観客席を利用して商売していた女子は、千冬さんにバレて数日出てこれなくなっていたことがある。

 

[幸い天狼のダメージレベルはB程度…軽い整備で済むでしょうし、簪ちゃんに見てもらったらどうかしら?]

 

ふむ…確かに、俺の整備知識は少々拙い所がある…簪のISの組み立てを手伝う条件で掛け合ってみるか。

 

「狼牙、本当に何ともないのか?」

「あぁ、問題無い…お前だったら複数戦がトラウマになってたかもしれないがな」

 

なんせ、衝撃力の高いアンチマテリアルライフルとパイルバンカーのコンビネーションによるフクロだ。

ISの保護機能により怪我は負わなくても、心に傷跡位はつくかもしれん。

 

「狼牙に擬似的に囲まれた時も相当だけどな…」

「ちょっと!狼牙!!あんたなんで隠してるのよ!!」

 

一夏と二人で爽やかに笑っていると、猪娘の鈴が教室のドアを乱暴に開け肩で風を切りながら入ってくる。

 

「五体満足だしな…それに、犯人どもは千冬さんのハートフルな指導で更生しているだろうさ」

「だからって…心配させなさいよ!」

「断る…お前は元気に笑っているのが一番だからな」

「落ち着けよ、鈴…狼牙もこう言ってるしさ。無事だったんだから良しとしようぜ」

[ちびっ子ちゃん良い子になったわねぇ]

 

一夏が絡まなければ基本的には良い奴だ。

姉御肌で、仲が良い友達からも慕われていたしな。

 

「ほんとにもう…でも、あいつら思い切った事やるわね。大方、狼牙を守ってる奴はいないから〜なんて考えてたんだろうけど」

「はは、結構俺の家と付き合いがあるなんて知れてると思ってたんだけどな」

「千冬さんと良く組み手しているからな…まぁ、同じ女性だから大目に見てもらえるとでも思ってたのかもしれんが」

 

現実は非情である。

なんせ、千冬さんは今の世の中のそう言った傾向に辟易している。

これはあの上級生達の見込みが甘すぎたと言う他無いだろうな。

 

「三機に囲まれてると聞いた時は、心臓が止まる思いをしたのですからね?」

 

セシリアが遅れて此方へとやってくる。

昨日は消灯時間まで三人に寮の部屋に移ってからも世話を焼かれた。

その際に上半身の傷を見られて、何とも言えない空気になったのは言うまでも無かろう。

簪に至っては涙目だった。

それで良いのか暗部の家系…楯無がハァハァ言ってたのが少し気にはなる。

 

「頭に血が上り気味だったからな…冷静に戦況を見極められればあそこまでの痛手は避けられたのかもしれんが」

「それでも逃げに徹するべきでしたわ!」

「そうよ!何も恥ずかしい事なんてないんだから!」

 

セシリアと鈴は抗議の声を上げる。

対して一夏は何とも言えない顔だ。

 

「そう言うなよ、吹っ掛けられた喧嘩を買った手前そんな事したら矜持に関わるぜ?」

「俺が憂さ晴らしに使おうとしたと言うのも問題だったんだがな」

「狼牙は抱え込み過ぎだって…もっと俺たちにも話してくれよ」

 

俺は本当にいい友を持ったな…。

俺は申し訳なくなり頭を下げる。

 

「すまなかったな…どうにも、話し辛いこともあってな」

「なによ…そんなに大きな問題抱え込んでるわけ?」

「あぁ…何処かの天災殿が張り切ってるおかげでな」

 

箒の専用機問題は先日の俺の様な事を引き起こしかねない。

考え過ぎかもしれんし、このクラスにはその様な莫迦がいないと思いたい。

 

「束さんが…?」

「篠ノ之博士ですか…と言うことは篠ノ之さんも関わっているのですね?」

「そんなにヤバいの?」

 

俺は静かに頷く。

頷くだけでこれ以上は話さない。

壁に耳あり障子に目あり。

人の口には戸口を立てられぬ。

妙な事を言い出す輩が居ないとも限らんからな…。

 

「千冬さんには伝えてある案件ではあるが、漏れたら漏れたで面倒だからな…すまん」

 

俺は再び頭を下げる。

 

「お人好しよね…狼牙は」

「そう言ったところがわたくしは素敵だと思いますが」

「一部じゃ影でお父さんとか言われてるんだぜ?」

「この歳で子持ちか…末恐ろしいな、おい」

 

俺が頭を抱えると三人がクスクスと笑ってくる。

確かに前世では子供に懐かれてたし、面倒を見ることも多かったがな…今は、逆に精神的ダメージがデカいな。

そんなに老けて見えるだろうか?

 

「老けて見えるのではなく、雰囲気がその様に感じさせるのですわ」

「狼牙がお父さんとか…親バカになりそうよね」

「ハハ、それはありえるかもな」

 

言いたい放題だなお前ら…。

 

[あら、事実だと思うわよ?寝かしつけるときなんか、いつも添い寝してあげてたじゃない]

 

毛並みに自信があったからな…寝かしつけるにはアレが一番だった。

俺は肩をすくめて笑う。

 

「これでもスパルタ派なのでな…いざ、子供を持った時嫌われているかもしれん」

「いや、絶対飴と鞭の使い方上手いって」

「良いことは良い、悪いことは悪いってハッキリ言うしね」

「子供…子供…」

 

セシリアは頬を赤くして体をくねくねと動かす。

あぁ、これは想像しているな…色々と。

 

「さて、そろそろ昼飯食わんと食堂が閉まるな」

「やっべ、話し込み過ぎたな。おーい、箒ー…っていないのか…」

「部活あるからさっさと行ったんでしょ?ほら、セシリアも行くわよ!」

 

セシリアを妄想から呼び戻すために、鈴は背中を思いっきり引っ叩く。

容赦がないな…。

 

「いった!何をするんですの!?」

「良いから、昼飯行くぞ」

「わ、わかりましたわ」

 

顔を赤くして怒るセシリアを頭を撫でて宥める。

これが一番手っ取り早く場を治められる。

 

[ほんと、悪い男になったわねぇ]

 

言ってろ…お前には敵わんさ。

俺は自然と笑みを零す。

 

「……セシリア、お互い頑張りましょ」

「……えぇ」

 

鈴は何やらシンパシーを感じ取ったのかセシリアと握手している。

だがな、俺は一夏と違っていて気が付いているものでな。

俺は軽く肩を竦めるだけで一足先に教室を出るのだった。

 

 

 

 

食後、鈴と遊びに行くと言うセシリアと別れ俺は第三アリーナの整備室へと向かった。

天狼の整備の為である。

基本的にISには自己修復機能があるが、そのまま放置しておいても良いものではない。

必ず人の手で最善の状況にしておかなければ、ISが悪い状態を記憶してしまい二次移行(セカンド・シフト)に悪影響が出てしまうのだ。

それに日頃から使う愛機を自分で手入れできんと言うのも問題ではある。

必ず整備班の手が借りられる訳ではないのだ。

で、あれば自身で学び覚えていかなければなるまい。

 

「精が出るな簪…差し入れだ。その様子では昼ご飯を食べていないのだろう?」

「銀君…うん、少しいい調子だったから…ありがとう」

 

俺は簪へと近寄り、袋を差し出す。

中身は食堂のスタッフにお願いして作ってもらったサンドイッチとペットボトルの紅茶だ。

これならば片手間でも食べられるからな…カードゲーム好きの貴族に感謝しておこう。

 

「今日はどうしたの?」

「天狼の整備だ…問題ない範疇ではあるが、整備しておかないと問題になった時に困るからな」

「良い心がけ…」

「と、言っても素人の付け焼き刃の知識では危ないのでな…そちらを手伝う代わりに、色々と教えてもらいたいんだが…」

 

迷惑な申し出ではあるだろう。

何せ、こちらに構えば能率が下がるからな。

 

「…わかった、けれど…もう一つ条件」

「なんだ?」

 

ふむ、大それたものでなければ構いはしないだろう。

簪はチラチラと此方を見ながら顔を俯かせている。

 

「お姉ちゃんや、セシリアさんみたいに…名前で呼びたい」

「のほほんみたいに変な呼び方でなければ構わんよ…」

「本音は…誰にでもそうだから…」

 

二人してクスリと笑い、俺は手を差し出す。

 

「すまんがよろしく頼む、簪」

「うん…こちらこそ」

 

俺は簪と握手をして、簪が開発中の専用機打鉄弐式の隣のハンガーに天狼を設置する。

すると、白がコアネットワーク経由で俺たちに話し掛けてきた。

 

[貴方達だけだし、別に喋っても構わないわよね?]

「え…?」

「構わんだろう…簪が知らんと言うのも仲間外れみたいだしな」

「狼牙…どういう事…?」

 

あれだな、簪は本来強かな娘なのだろう…呼び捨てか。

イメージと合わぬ名の呼び方にクスリと笑う。

 

「名を白蝶。俺のコアの心だ」

[よろしくね、簪ちゃん?]

「そんな…こんなこと…」

[目の前で起きてるでしょ?]

 

白はクスクスと笑う様な声で簪に話し掛けている。

 

「信じる信じないは自由なんだがな…まぁ、十中八九信じないだろうが昔の…前世の頃の嫁だ」

「…い、今は?」

 

妙に食い付きが良いな…こういう話は好物だったのか?

俺は首を横に振る。

 

「生憎と無機物と恋愛できるような変態でもないのでな…仮にヒトだったとしても友人止まりだったろうよ」

[あら酷いわね]

「昔は昔、今は今…とな」

「そうなんだ…」

 

簪はホッとした様に胸を撫で下ろす。

俺は、機体のコネクターと空間ディスプレイを同期させ内装系統のデータを呼び出す。

 

「電波気味の話をしてすまんな…これはセシリアと楯無しか知らん話だ…与太話になるだけだから…」

「大丈夫…誰にも、言わない」

 

ニコリと簪は微笑み、遅めの昼食を始める。

俺はエネルギー管理画面を出し、全体のエネルギー効率を見てみる。

 

[最適化しているつもりだけども…何かあったかしら?]

「瞬時加速を多用するからな…無駄を削ぎ落とせればその分闘いやすくなる」

「見せて…」

 

簪が俺の前に出ると、コンソールを動かし始める。

 

「スラスターの配分も問題ないし…これ以上は、無理」

[燃費が良いから後付武装があれば良いのだけれど]

「拡張領域が目一杯…本当に、欠陥だね」

「気が滅入ってくるな…まぁ、文句を言っても始まらんが」

 

俺は眉間を揉み苦笑する。

燃費だけで勝てる程甘くは無いからな…ISバトルは。

 

「でも、昨日の戦闘記録見たけど…すごかった、よ?」

「代表候補生にそう言ってもらえると助かるな」

 

俺は簪の頭をポンと撫で微笑む。

簪は気持ちよさそうに目を閉じ頬を僅かばかり上気させている。

 

「さて、内装系に問題も無いようだし…時間まで打鉄弐式の組み立てを急ごうか」

「うん…ありがとう」

「気にするな…勉強になるしな」

 

結局俺たちは山田先生が見回りに来るまで、時間を忘れてISの組み立てに集中するのだった。


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