【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

31 / 152
知りたがりたち

朝、グラウンド

 

「俺は剣道なんぞ、かじったことも無いが…?」

「剣道と言うよりも剣術の範疇だ…付き合ってもらう」

 

 

さて、何故箒と相対しているのか…?

朝、いつものメニューをセシリアと楯無とでこなしていた時だ。

箒が何故か竹刀を二本持ってこちらにやってきたのだ。

 

「おはよう、箒」

「おはよう、ございます…篠ノ之さん…」

「おはよう、箒ちゃん。どうしたのかしら?」

 

俺と楯無は大して息切れもせず、各々のメニューをこなし、セシリアは慣れてきたとは言えまだ呼吸が乱れている。

 

「すまない…銀、頼みがある」

「例の件か?」

「違う…私はお前を知りたいんだ、銀」

 

最近の箒は一体どうしたと言うのだろうか?

俺は鍛錬を止め、箒に向き直る。

 

「知りたい、とはどういうことなんだ?」

「お前は常々自分を弱いと言っている…一夏からも銀は自分の事を卑下していると聞いている」

「あぁ、それは間違いようのない事実だな」

 

俺は静かに頷く。

 

「わたくし達はそんな風には思っていませんが…」

「そうそう…あんなピーキーな機体乗りこなしてる訳だしね」

 

やはりと言うか何と言うか、セシリアと楯無は反対意見の様だ。

力があっても守れんものはあるものだ。

時間が原因のもの。

距離が原因のもの。

それは様々な要因だ。

 

「力が強いだけでヒトが強いというのは早計と言うものだ。理想無き武力は暴力、武力無き理想は夢想と言ってな…俺のもつ強さと言うものは、暴力に近しいものだ」

 

大層な願いがあって力を求めているのではない。

ただ、自分が苦しくないために求めている。

 

「臆病者だ、俺は」

「口だけならば何とでも言えるんだ…だから、私は手合わせをしたい」

 

視線から感じるものは純粋な好奇心か。

俺は肩を竦め頷く。

 

「嫌われていると思ってたんだがな」

「あぁ、私は銀を嫌っている。だが、一夏に言われて…」

 

なるほど…色男(ロメオ)の仕業か。

俺の何を話したのやらな?

 

「いいだろう、そのための竹刀か」

「あぁ、ここで構わないか?」

 

俺は頷き、セシリアと楯無を見る。

 

「すまんな、今日は箒と手合わせだ」

「構いませんわ…竹刀を持つ狼牙さんと言うのも珍しいですし」

「徒手空拳が狼牙君のスタイルだものね」

 

二人は少し離れた位置まで行き此方を見守る。

箒がして竹刀を此方へと投げ渡す。

 

「私は、お前が嫌いだ。私の思い出を汚された気がしたから」

「俺は嫌っておらんよ…嫌う理由も無いしな」

 

俺は竹刀を右手で肩に担ぐ様にして構える。

 

「俺は剣道なんぞ、かじったことも無いが…?」

「剣道と言うよりも剣術の範疇だ…付き合ってもらう」

 

箒は刀を中段で構え、摺り足で間合いを取り始める。

対して俺は、体の力を抜き待ち構える。

 

「だとするならば、無頼剣術と呼べるものになるな…一夏に教えたような、な」

「一夏には必要なかった筈だ」

「いいや、必要な力だ…あいつには守るための力がいる」

 

俺は目を鋭くさせる。

箒は、凝り固まってしまっている。

自分の世界だけしか見ていなかったから。

折角の学園だ…新しい世界も知るべきだろう。

 

「私と一緒に学んだ剣道があれば…!」

 

気迫を伴った大振りの袈裟斬り。

俺はそれを半歩下がって避ける。

 

「篠ノ之は銃を持った相手に刀で立ち向かえるか?」

「それがどうした!?」

 

袈裟から切り上げを俺は渾身の振り下ろしで受け止め、動きを止める。

 

「ISバトルはそう言う世界だ。一つの戦い方しか知らないのと、多数の戦い方を知るのとでは生き残りやすさは段違いだ」

「一夏には、零落白夜が…!」

「あんな諸刃の刃、まともに振るっていられるわけがないだろう?」

 

刀一本で世界を取ったブリュンヒルデ以外にはな。

 

「一夏は模索している…自身の戦い方を。それこそ様々な戦法、戦術を身に付けるだろう。剣道もその一つに過ぎんと言うことだ」

 

俺は竹刀を外し拘束を解き後退する。

時間も無いな…お話も此処までにするか。

 

「それでも私には、一夏との思い出しか…!」

「過去に縋るなよ…お前にはこの学園でのこれからがあるだろうに…!!」

 

以前、俺に叩き込んだ唐竹割りを素早く竹刀でかち上げ、首筋を竹刀で撫でる。

 

「首級を置いていけ、とな…俺の勝ちでいいな?」

「……あぁ、すまなかった…銀…」

 

俺は箒に竹刀を差し出す。

 

「思い出だけで世界を見るなよ…この世界はそんなに狭くも狭量でも無いだろう?」

「……」

 

箒は竹刀を受け取ると頭を下げて去っていく。

 

「アレだな、以前のセシリアに近くなったな」

「だからやめてくださいまし!」

「この学園は敵ばかりと言うわけではないさ、キリリッ」

「なんで楯無さんが知っているんですの!?」

 

いいか、セシリア…楯無はデバガメ癖があるんだ…意外とお前の独り言も聞かれてるかもしれんぞ?

 

「フフン、生徒会長は神出鬼没なのよセシリアちゃん?」

「うぅ…あんまりですわ…」

 

セシリアは顔を赤くして頭を抱えている。

まぁ、なんだ…同情はしてやらんでもない。

 

「一先ず、解散して身支度を済ませて登校しよう」

「わかりましたわ…うぅ…」

「じゃ、先にシャワーもらうわねー」

 

セシリアは頬を染めたまま歩き出し、俺と楯無はそれを見てクスリと笑うのだった。

 

 

 

身支度を済ませた俺は、まっすぐ教室へと向かう。

教室に入ると一夏と何故か鈴が居た。

 

「おはよう、どうした…クラスから、はみ出したか?」

「そんなわけないでしょ?おはよう、狼牙」

「おう、おはよう」

 

俺は鈴の頭をポンと撫でて席に着く。

 

「仲良しこよしでお父さんは嬉しいがな」

「本当に幾つなのよ…あんたは」

「老けてるよなぁ…」

 

失敬な…これでもまだティーンエイジャーだと言うに…。

 

「ところで、一夏…お前、箒に何か言ったのか?」

「大したことは言ってないと思うんだけどな…昔話位しかしてないかな?」

「中学時代ってのも何だか懐かしいわね…」

「そうだなぁ…最近は忙しいし、余計になぁ」

 

そんな昔でもないのに随分と前の様な気がしてくるな…。

それだけ、この学園の生活が濃いと言う事なのだろうが。

 

「狼牙ってさ、他人の悪意とか敵意とかを簡単に流すんだよな。鈍感とかそんなんじゃなくて、気付いてて受け流す。その上でそう言った感情を向ける奴のことも気に掛けてるって…そう言う話はしたかもしれない」

「要するにお人好しって事よね。あたしだったら無理だもん」

「なるほど…それで、俺と言う人間が分からなくなったのか…箒は」

 

腕を組み一人納得する。

 

「何かあったのか?」

「箒に手合わせを頼まれてな…嫌われてるとは思っていたのだが…」

「あの子、不器用よね。古風って言ってもいいのかもしれないけど」

「それが箒なんだし、あいつは良い奴なんだよ」

 

ニッと笑ってみせる一夏。

対して鈴は少々不機嫌な顔だ。

まぁ、箒は恋敵そのものだしな…仕方あるまい。

 

「視野が狭いからな。もう少し友人でも出来れば色々と変わってくるやもしれん」

「ほんと、年齢詐称してんじゃないの?」

「鈴には言われたくないな」

「どういう意味よ!!」

 

まぁ、ほら…まだ中学生でも通用する体型だしな…。

俺は肩を竦めて笑みを浮かべる。

 

「さて、な…そろそろ戻らんとSHRが始まるぞ?」

「ったく、もう…それじゃまたね」

「おう、またな鈴」

 

鈴は言うほど怒ってもいないのか、気持ちの良い笑みを浮かべて出て行く。

鈴と箒を足して二で割ると…いや、余計に酷い人格ができそうだな。

 

「ああして話してると中学時代が懐かしくなるよな」

「そう感じてしまう位には、この学園の生活が濃いと言う事だ…悪い話でもないさ」

 

あぁ、本当に濃かったな…まだ一ヶ月とちょっとしか経ってないと言うのに。

SHRの予鈴が鳴り、気を引き締める。

 

「静かにしろ、SHRを始めるぞ!」

 

さて、学生の本分を全うするとしようか。

 

 

 

 

「へーい!ろーくん!!」

「なんで、たーさんがいるんだ…」

 

昼休み、気分転換にと人気の無い屋上へ出ると、一人アリスこと束さんが体当たり…もとい抱きついてきた。

 

「やー、箒ちゃんのIS作成で煮詰まっちゃってねー!」

「で、癒しを求めて此処に来たと…自分の立場をもう少しだな…」

「さぁ、存分に束さんの頭を撫でるんだよ!」

 

話を聞かんなぁ…この人は…。

 

[面白いわよね、この人]

 

まぁ、向こうにはいないタイプの人間ではあるな。

俺は、溜め息を吐きながら束さんの体を抱き頭を撫でてやる。

 

「と、言うか寝ていないな?」

「フフン、箒ちゃんのためだからね!!」

 

この人は…どうにも不器用だ。

分かってもらう事を放棄してしまってるとも言える。

分かってもらえなくても良いから、自分のする事で喜んでもらいたい…そう考えているのだろう。

 

「それで、たーさんが体を壊してしまっては心配する」

「へっへー、ろーくんは優しいなぁ〜」

「それで、本来の目的はなんだ?」

 

ただ、俺と接触するだけが目的ではあるまい…。

俺は腕の中の兎を見下ろし見つめる。

 

「そりゃぁ、もちのロンさ!天狼見せてくれるかな!?」

「それは構わんが…白からデータは受け取っているんだろう?」

「実際に触らなきゃ分からないこともあるからね〜」

[待機状態でも実機の損耗状態確認できるって凄いわよ…流石は生みの親よね]

 

俺は首から待機状態の天狼を外す。

 

「ヒャッハー!はーちゃんゲットだぜ!!」

「いや、返せよ?」

 

束さんは、天狼にコードを繋ぎ空間ウィンドウを無数に表示しはじめる。

 

「フラグメント……稼働状況…関節…へぇ……」

 

束さんは全てを見てすぐに処理を行っていく。

キーボードも呼び出し、神速もかくやと言う速度でタイプしていく。

 

「随分、楽しそうな顔だな?」

「もっちろん、だって凄いよー。ろーくんの適正値がCからAになってるしね」

 

ほう、やはり馴染む馴染むと思ってはいたが…。

IS適正値は高ければ高いほど良い。

その分ISを動かす時のラグが減るため動かしやすくなるのだ。

 

「名前からして思い入れがあるからな」

「天狼って名前に何かあるのかな〜?」

「白にでも聞いてみるんだな」

 

束さんは知識の貪欲者だ。

知りたい事はとことん調べ上げなければ気が済まない。

前世云々の話をした時、一体どうなる事か…解剖は免れんかもしれん。

束さんの善意に…善意に…うん、期待しておこう。

 

「ブー、はーちゃんも殆ど教えてくれないんだよねぇ。ぽろっと変なこと言ったりするんだけどね〜」

「秘密のある男と言うのも良いものだろう?」

 

壁に背を預け腕を組み束さんを見つめる。

束さんは後手で手を組み前屈みで此方を見てくる。

 

「本当に、君は何者なんだろうねぇ〜。あの時から、ずっと気になってるんだよねぇ」

「俺は銀 狼牙で、それ以上でもそれ以下でもない…今の所はな」

 

俺は穏やかに笑みを浮かべて、束さんを見つめる。

ふらふらーっと束さんは寄って来て、再び俺に抱きつく。

 

「フッフッフッ、いつか君を知り尽くさせてもらうよ?」

「さて、どうなるかな…たーさん?」

 

俺はポンと束さんの頭を撫でる。

 

「ところで、千冬さんには会いに行かないのか?」

「今はまだその時じゃないかなー…痛い愛が怖いし」

「スキンシップが過剰だからそうなるんだ…」

 

俺は眉間を揉みながら、苦笑する。

千冬さんも千冬さんなりのスキンシップなのだが、束さんに対してはとにかく暴力的なのだ。

時折束さんが可哀想にも思えるが…。

 

「さーってと…ろーくん、束さんはいつでも見てるよ!!」

「さらっと恐ろしいことを言うな」

「バイビー!!!!」

 

束さんは俺に天狼を首にかけると屋上から飛び降りて消える。

やはりステルス迷彩か…恐るべし天災テクノロジー。

 

[嵐の様だったわねぇ…]

 

本当だな…休憩にならんかったな…。

俺は深いため息を吐きながら、屋上を後にするのだった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。