【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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エゴ

「羨ましいか…全く、感傷的になりすぎだな…」

 

俺は寮へは帰らず、楯無と初めて会話した海沿いの道のベンチに腰掛け空を仰ぎ見ている。

以前の世界でも、今の世界でも…俺には血を分けた家族がいない。

歌月荘の皆は確かに家族だ。

それこそ血を分けた家族のように接してくれていた。

その好意に俺は、ぎこちないながらも甘えることはできていたとは思う。

それでも、それでも俺は心の中で欲張っていたのかもしれない。

亡くなった両親に会いたいと。

 

[ロボ…大丈夫?]

 

ただのセンチメンタリズムな感情だ…少しすれば元通りだ。

俺は肩を竦めて鼻で笑う。

格好がつかなくて困るな。

 

[そういう部分を含めての貴方よ…恥ずかしがることなんてないわよ?]

 

男の子と言うのはそう言った部分が我慢ならんものなのだ。

ましてや、異性の目がある場所では格好をつけたくなる。

 

「子供のままだな…俺は」

[男はいつだって子供よ、ロボ]

 

いやはや、全くもって返す言葉もない。

結局、俺のやっている事は自己満足で…子供が大人ぶって諭しているだけなのだろうな。

 

「そんなことないわよ、狼牙君?」

「言いたい事は言えたのか?」

「は、はい…」

 

驚いたな…姉妹で俺の所に来るとは。

俺は立ち上がり更識姉妹を見る。

自然と笑みが零れる。

 

「まさか、簪もいるとはな…」

「ライバル宣言されちゃったわ」

「随分と思い切ったな。これはウカウカしていると次のイベントで負かされるかもしれんな」

「心配、かけたくないから…私は、頑張るよ」

 

簪は楯無とはまた違った美しい笑みを浮かべる。

まだ楯無とは距離があるとは言え、簪は姉の傍らにいる。

これから、姉妹としての時間を取り戻していくのだろう…きっとかけがえの無い時間になる。

 

「さて、早めに帰らんと寮長が怖いぞ更識姉妹?」

「一緒に帰りましょうよ」

「私も…今日は帰るから…一緒に、ね?」

 

両手に花、か…役得ではあるがな。

 

[ふふ、いいんじゃない…貴方も千冬にドヤされたくないでしょう?]

 

楯無は何故かドヤ顔で此方を見て、簪は不安そうに此方を見る。

俺は軽く肩を竦めて頷く。

 

「同伴させていただこうか」

「素直でよろしい」

「……」

 

楯無は綺麗に笑みを浮かべて、簪は顔を明るくさせる。

どうにもコントロールされそうで怖いな…。

 

「さて、行くとしようか…置いて行くぞ?」

 

笑みを浮かべながら、俺が歩き出すと二人が慌てて追いかけてくる。

 

「女性をエスコートすべきよ!」

「欲張りすぎじゃないかな…お姉ちゃん…」

「すまんがセシリア流しか知らんものでな?」

 

簪は首を傾げ、楯無は合点がいったのかニヤニヤと此方を見る。

こいつ…やはりセシリアとのデートの時に尾行していたな。

 

「簪ちゃん、こう言う事よ!」

 

楯無は躊躇なく俺の右腕に抱きついてきた。

この娘のアグレッシブさは一体どこから来るのだ?

 

「お、お姉ちゃん!?」

「ふふん、簪ちゃん…狼牙君逞しいわよ〜?」

 

鍛えてはいるからな…逞しいのは当然とも言える。

右腕に感じる女性特有の柔らかい物体から意識を逸らしながら、簪を見るとチラチラと此方を見てくる。

いいか、簪…姉のようなアグレッシブさは学ばなくても良いんだぞ?

 

「し、失礼します…」

「どうしてこうなった…」

「狼牙君の発言が原因だと思うな〜」

 

簪は、おずおずといった感じで俺の左腕に抱きついてきた。

此方は姉に比べるとまだ幼い感じだが、それでも柔らかい感触が伝わってくる。

簪は顔を赤くして俯き、楯無はニヤニヤと此方を見上げてくる。

 

「一応な…俺も男だから嬉しい状況であると言わざるを得ないのだがな?寮に着く前に離れてくれよ…頼むから」

[順調にハーレム構築してるわね…]

 

どうして、こうなったのやらな…?

 

 

 

 

学生寮屋上。

IS学園の立地上、海のど真ん中と言う事もあって夜空の星が綺麗に見える。

俺はフェンスに背を預け、星空を見上げていた。

この風景は、前世も今も変わらず世界に在り続ける。

もしかしたら、この宇宙の何処かに俺が居た世界があるのかもしれないな。

 

「狼牙さん…?」

「セシリアか…どうしたんだ?」

 

物思いに耽っていると、屋上の出入り口からパジャマ姿のセシリアが現れた。

 

「少し、外の空気を吸おうと思いまして…狼牙さんは?」

「俺も似たようなものだ…侭ならん事が多くてな」

 

セシリアは笑みを浮かべて俺の傍へと寄ってくる。

 

「偶には足を止めて休憩することをお勧めしますわ…時折不安になりますもの」

「不安…?」

「いつか…取り返しのつかない事態になってしまうのではないかと…」

 

ない、とは言い切れないかもしれんな。

無人機の襲撃事件があったばかりだ。

その際に俺は負傷している…にも関わらず、大して立ち振る舞いを変えていないからな。

 

「すまんな、不安にさせて…」

「本当ですわ…ご自愛ください…わたくしは…」

「理解はしている…だが、まだ言わんでくれ」

 

俺はセシリアの唇に指先で触れ、黙らせる。

卑怯者の臆病者だ…俺は。

セシリアや楯無、簪に対して俺はまだ今の関係でありたい。

あぁ、そうとも…俺は三人のことを好いていて選べないでいる。

 

「存外に臆病者だろう?幻滅しても俺は何も言わんさ」

 

優しく髪を梳くように頭を撫でていく。

指の間をすり抜けるブロンドの髪の毛がサラサラと心地よい。

 

「強くても弱くても…関係ありませんわ…きっと、狼牙さんにわたくしの言葉を聞かせてみせますわ」

 

歳不相応に艶やかに笑みを浮かべるセシリアは、こちらにしなだれかかる。

 

「ですが、これ位は許してくださいまし…」

「あぁ…構わんさ」

 

セシリアの体を受け止め、俺は空を見上げる。

いっそ、嫌われた方が気が楽だっただろうか?

だが嫌われたくもないと言う思いが俺の頭を駆け巡り、煮え切れないままでいる。

 

[後悔だけはしては駄目よ…ロボ…]

 

あぁ、分かっているとも…これ以上踏み躙ってはならないからな。

ただ、今はこの騒がしくも楽しい学園生活を送っていたい…今が幸せだと自覚しているから。

 

「ありがとうございます、狼牙さん」

「それはこちらの台詞だ、セシリア」

 

互いに笑みを浮かべて、セシリアは俺から離れていく。

温もりが離れ、幾許かの寂しさがある。

 

「あまり、夜風に当たらぬ様に…風邪をひいてしまいますわ」

「あぁ、気を付けよう…おやすみ、セシリア」

 

セシリアは頭を下げて、屋上を後にする。

誰も居なくなり再び静けさが屋上に戻ってくる。

俺は暫くしてから屋上から逃げる様に早歩きで寮内へと戻っていった。

 

 

 

「あ、銀君…丁度良かったです」

「山田先生…何か?」

 

部屋へと戻る途中で山田先生に呼び止められる。

はて…先生に呼び止められるようなことは…していたな。

 

「お部屋の引っ越しの件なのですが…」

「あぁ、一ヶ月は女生徒と…と言う話だったな」

 

山田先生が、何とも申し訳無さそうな顔で此方を見てくる。

まぁ、なんだ…想定の範囲内の事態ではある。

 

「ごめんなさい、諸事情で銀君は今の部屋割りのままになるんです」

「生徒会長が我儘を言ったんだな?」

 

俺は眉間を揉みながら苦笑すると、山田先生がサッと視線を逸らす。

 

「状況は理解した。文句は無いが、此方からも生徒会長には小言を伝えておこう」

「ありがとうございます…銀君」

「いや、先生には日頃世話になっているからな…すまなかった」

 

俺は楯無の代わりに頭を軽く下げる。

山田先生は首を横にブンブンと振る。

いや、凄いな…反応が。

何の、とは言わんよ?

 

「銀君が謝らないでください。先生ですからね!生徒の要望には答えなくてはなりませんし!」

「それとこれとは別問題だ。少々、悪戯が過ぎる時があるからな…生徒会長は」

 

はぁ、と溜息をつきつつ苦笑する。

山田先生も乾いた笑い声をあげている。

恐らく、千冬さんからも無理難題ふっかけられる事もあるのだろうな…。

俺は、山田先生と別れて部屋へと向かう。

いつものように部屋に入る前に扉をノックするが、返事がない。

 

「風呂に入っているのか…?」

 

暫く悩むが消灯時間も近いので部屋へと入ることにする。

部屋の中は明かりが灯っていなかった。

ベッドを見ると、何故か楯無が俺のベッドで眠っている。

寝かせん気か…こいつは…。

しかし、気持ちよさそうに寝ているところを邪魔するのも可哀想だとは思うので泣く泣くベッドで眠る事を諦める。

俺は椅子に座り、反省文を書き始めた。

こんなものは、手早く終わらせて提出してしまうに限る。

暗い部屋の中、シャーペンの音と楯無の寝息が部屋に響いていた。

 


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