【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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ランチタイム

「ふぅむ…」

 

翌朝SHR前、俺は席に着いて物思いにふけっていた。

楯無と簪の不仲と言うのは中々根が深い問題なのだ。

簪が忌避している、と言う点だけは良かったかもしれない。

箒のように無視を決め込んでいる、と言うのもまだ良かった。

俺の知る双子の姉妹は妹が姉に殺意を抱き、殺し合いにまで発展してしまっていた。

 

[あの子達を比較対象にしてはいけない気がするわよ?]

 

ご尤も…しかもロクな最後ではなかったな。

その点白の所は仲が良かったものだ…。

 

「おはよ〜、ローロー」

「む、おはようのほほん」

 

のほほんは相変わらず、ポヤポヤとした雰囲気を纏っている。

 

「のほほんよ、お前は姉とは仲が良いのか?」

「おねえちゃんとは、りょーこーであります」

 

だろうなぁ…ある意味テンプレ的な姉キャラと妹キャラの姉妹だ。

 

「お前の所のお嬢様姉妹は何とも儘ならんものでなぁ…」

「ローロー…聞いたの〜?」

「簪にあった後に更識から聞き出した…なんと言うか不器用に育ったものだな、と思ったよ」

 

俺は苦笑しながら肩を竦める。

 

「おじょうさま達には仲良くしてほしいんだけどね〜…」

「まずは、未完成機を動かせるようにせんとならんだろうな…楯無は真意を話せず、簪は真意を聞き出せず…だ」

「おはよう、狼牙、のほほんさん…また狼牙は悩んでるのか?」

 

一夏は俺たちに挨拶しながら隣に座ってくる。

 

「おはよー、おりむー」

「おはよう…まぁ、そんな所だ。セシリア達にも呆れられてはいるんだがな…」

[気を回し過ぎなのよねぇ…何時もの事だけども]

「まったくです…偶には自分の事だけ考えるのも大事ですわ」

 

セシリアは教室に入って来るなり、俺の言葉を聞いてたのか叱るように言ってくる。

どうにも味方がいないな…友達思いなのはありがたいが。

 

「せっしーおはよ〜」

「おはよう、セシリア。あー、でも狼牙すごいんだぜ…中学時代に殴り合いの喧嘩を仲裁に入った時なんだけどさ…」

「おー、ローローの新しい情報〜」

「何があったんですの?」

 

…あぁ、あったなそんな事…。

俺は、眉間を揉み深く溜息をつく。

 

「あんまり止まらないから、間に入ったら二人の拳が狼牙の顔面にヒットしてさ〜…普段温和だった狼牙が珍しくキレたんだよ。…怒らせない方が良いぜ…『いい加減にせんと…殺すぞ』って言ってアイアンクローで二人の頭を掴んで持ち上げてたんだよ…」

「やめてくれ…あの時はイライラしていただけなんだ…」

「きゃー、こわ〜い」

「わたくしも一歩間違えたら…」

 

セシリアは千冬さんとやり合ってる所を見ているからな…リアルに想像して顔を青ざめさせている。

学園でキレたのは、無人機襲撃事件の時ぐらいだ。

巫山戯た真似をする輩にはお灸を据えてやらねばならんだろうよ。

 

[あら、怖いわねぇ…]

 

白はクスクスと笑っている。

なに、教育的指導と言うものだ。

 

「早々怒ったりはせんよ…一方的に感情をぶつけた所で互いに納得できるわけでもないからな」

「セシリアや箒、鈴の時も怒ってなかったもんな…俺も狼牙みたいになれるか?」

「どうだろうな…だが、自分の姿に他人の影を追い求めるのは止めた方がいい。自分自身が死ぬ…自分のなれるものは、あくまで自分だけだからな」

「ローローは同い年って感じしないよね〜」

「少しだけ濃い人生を送っているだけだ」

 

そう、多少濃い人生なだけだ…今の人生ではな。

経験と言う点だけで言えば、この世界の誰よりも経験を積んできたとは思える。

無論俺が得てきた経験がこの世の清濁全てとは思っていない。

人生の先輩…等と偉ぶるつもりは無い。

 

「SHRを始めますよー、席についてくださーい」

 

山田先生が、いつものように優しげな声で教室へと入ってくる。

 

「さ、一日がはじまる…頑張ろうか」

「おー!」

「ふふ、ではまた後ほど…」

 

セシリアとのほほんは、笑顔で席に戻っていく。

 

「なれるのは、自分だけ…か…そっか…」

 

一夏は呟くように言うとグッと拳を握り締める。

まぁ、しっくりきているのならばそれはそれでいい。

一夏の目標には千冬さんが入っている。

千冬さんの強さに憧れを抱いているのだ。

一夏は一夏なりに強くなって、千冬さんと同等に強くなれば良い。

一夏の強さで並び立つ事が出来れば、素晴らしいことだと思うのだ。

 

 

 

「のほほん、簪の居るクラスは分かるか?」

「四組だよ〜、一緒に行く〜?」

「あぁ、よろしく頼む」

「わたくしもご一緒しますわ!」

 

昼休み、一先ずは簪と親睦を深めようと昼食に誘う事を思いつく。

ただ、俺だけだと確実に警戒されるとは思うので、知り合いであるのほほんを誘う。

一夏はいつもの様に箒と鈴に連れ去られてしまった。

正妻戦争は激化の一途を辿り、これ以上惚れる人間が増えないことを祈るばかりである。

そうこうしているとセシリアが慌ててやってきた。

 

「狼牙さんが昼食と言うのも珍しいですわね…?」

「知り合った奴と親睦を深めるのも悪くあるまいよ」

「ローローもおりむーの事あんまり言えないよね〜」

[本当よねぇ…]

 

セシリアは、ぷくーっと頬を膨らませ不満顔だ。

そんなセシリアの頭をポンと撫で、苦笑する。

 

「そんな顔をするな、美人が台無しだぞ?」

「うぅ…あまり真顔でそう言う事を言わないでくださいまし」

「ローローは、たらしの素質があるな〜」

[完全に同意するわ〜]

 

白よ…それはあんまりではなかろうか。

 

「さて、な…それでは簪を迎えに行くとしようか」

「おっけ〜」

「はい、参りましょう」

 

昼休みも有限だからな…有意義に使っていかなくては。

俺はのほほんとセシリアを連れて四組までやってくれば扉をノックする。

 

「すまんが、更識 簪は居るか?」

「ゲェッ!!銀君!?」

「狼牙君が何でこんなところに!?」

「いや、更識 簪をだな…」

 

俺が来ることでクラス内は騒然としてしまう。

迂闊だったな…ここは女子校と大差ない…そもそも一組のクラスメイト達と反応が同じだと思い込んでしまっていた俺の落ち度か…。

 

「かーんちゃん、一緒にご飯食べよ〜」

「本音…その呼び方はやめて…」

 

のほほんは、マイペースなまま四組に侵入して席に座り込んでいた簪に話しかけている。

こういう時、のほほんのスニークスキルがあると助かるな。

 

「本音さんは本当にマイペースですわね…」

「だが、侮るなよ…先月のパーティの時にきっちり写真に入り込んでいたからな。奴は、デキる女だ」

「普段が普段なので信じがたいですわね」

 

二人で乾いた笑いをあげながら待っていると、のほほんが簪を引っ張ってきた。

 

「れっつごー、かんちゃん!」

「すまんな、昼食に付き合え」

「ダメ、でしょうか?」

 

簪を見つめ返答を待つ。

いきなりの誘いだからな…フラれるだろうが、それはそれで仕方がないだろう。

 

「…わかった…いく…」

「では、急ぐとしよう…時間は有限だからな」

「「「更識さん!帰ってきたら話を聞かせてもらうわよ!」」」

 

すまんな、通過儀礼だと思って諦めてくれ…。

俺は苦笑しながら食堂へと向かうのだった。

 

 

 

今日も賑わいを見せる食堂へとやってきた。

一角から聞きなれた声が聞こえてくる。

俺は巻き込まれるのはゴメンなので努めて無視をし、食券を購入する。

 

「セシリアは相変わらず洋食か…折角だから、和食にチャレンジしても良いのではないか?」

「お箸が苦手でして…使えないわけではないのですけれど…」

「まぁ、他国の人間には馴染みがない食器ではあるからな」

 

美味しく食べるならば、使い慣れた食器で食べる方が確かに良いだろうな。

俺は一人納得して頷く。

 

「いずれ使いこなせれば良いだろう…箸も中々便利な物だからな」

「フフ、努力いたしましょう」

 

何でもソツなくこなす娘だ…すぐに使いこなせるようになるだろう。

俺たち四人は一夏達から離れた席に着く。

のほほんは麦茶漬けと生卵。

その組み合わせは…なんと言うか怖いものがあるな。

さっきも言ったがセシリアは洋食ランチ。

オムライスとオニオンスープのセットで、半熟卵のオムライスにかけられたデミグラスソースのコントラストが何とも食欲を掻き立てる。

簪はかき揚げうどん。

コシの効いたうどんに鰹出汁の透き通ったスープ、そこにカラッと揚がったかき揚げを染み込ませると普通に食べる時と違った味が楽しめるだろう。

俺は相変わらずお粥。

慣れてきているとは言え、負担はかけられんからな。

 

「その…男の人の食べる量…じゃない…」

「天狼は速度特化の突撃機だからな…ISの慣性制御やスーツの生体維持機能があってもキツイんだ」

「凄いですわよ…全スラスターを使用した時の瞬時加速は見えませんもの」

「おりむーの事轢いてたもんねー」

「轢いてはいないぞ、蹴りなり拳なりは叩き込んでいる」

 

簪は信じられないと言うような顔で此方を見ている。

まぁ、無理もあるまいよ…速度の出るラファールでも、俺の様な状況にはならんからな。

 

「欠陥機…?」

「否定はせんよ。第三世代兵器のおかげで後付兵装のみならず基本兵装も無いからな…」

「純粋な格闘機ではあるのですけれど…乗りこなせる人は早々いないでしょうね」

[馬鹿げた機体よねぇ]

 

倉持はこんな欠陥機よりも簪の機体を優先すべきだっただろうな。

皆思い思いに昼食に舌鼓を打つ。

こういった時間というのは、やはり楽しいものであまり表情を変化させない簪の顔も幾分穏やかには見える。

 

「天狼の第三世代兵器って…?」

「機体の各所にクリスタル状の装甲がソレらしいのですが…」

「なんでも、あの部分に圧力や衝撃が走るとエネルギーに転換して蓄えるらしい」

「おりむーのと違って燃費がいいんだよね〜」

 

俺は頷きながら溜息をつく。

どうにもロマンを追い求めすぎて出来上がった機体、と言う気がしてならん。

装甲各所の矮星の能力に、スラスターに化ける物理シールド…束さんも一枚噛んでると言うだけの事はあるとは思うが。

 

「燃費が良くても攻撃力がな…低燃費高加速力で翻弄するのは良いが決め手に欠けるからな」

「それでも、狼牙さんは何とか乗りこなしてるではありませんか」

「対抗戦の時…風みたいだった…」

「おりむーとの訓練の時は本当に見えなかったしねー」

 

その加速力に体が慣れなければ、真の意味で天狼を乗りこなした事にはならんのだろうな。

性能におんぶに抱っこでは、何れ強さに限界がくる。

 

「あ、そうだ…本来の目的を忘れるところだったな」

「かんちゃんとご飯食べることじゃなかったの〜?」

「でしたら、一体…?」

 

簪が不思議そうに此方を見てくる。

簪自身もその様に思っていたのだろうがな…俺の本来の目的は楯無に対する意趣返しも含まれている。

 

「簪、連絡先を教えてもらえるか?」

「いいけど…」

 

俺は簪に連絡先を教えてもらうと直ぐにメールでとある画像を添付する。

 

「いいか、簪…これから見せるのは、一つの真実の姿でもある…まぁ、気分の良くない物ではあるだろうがな」

「一体…なに、を…」

 

簪は届いたメールを開き画像を見る。

そう何を隠そう添付した画像は、以前楯無が俺のベッドに潜り込んできた時の写真である。

額に肉と書かれヨダレを垂らし寝ているあの姿だ。

やはりと言うか、簪は目を丸くしている。

 

「これを…どこで…?」

「さて、な…まぁ、話のタネにはなるだろう?」

「ローローの顔が悪い顔になってる〜」

「これは…楯無さんが可哀想と申しますか…なんと申しますか…」

 

セシリアは、簪のメールを覗き見て顔をひくつかせる。

 

「なに、奴も覚悟の上でやった事だろう…文句は言わせんよ」

「噂は…聞いていたけど…お姉ちゃんとは…」

 

簪は顔を俯かせるも上目遣いでチラチラと顔を見てくる。

まぁ、気になるところではあるだろう…回し者と思われているだろうしな。

 

「仲は良いが、別に簪の面倒を頼まれた覚えはない。何分世話焼きな性格なものでな」

「ローローは、おとーさんみたいなんだよね〜」

「そう…なんだ…」

 

俺はセシリアと顔を見合わせ肩を竦める。

どうにも簪は、姉を遠ざけようとしている気がする。

不信に陥ればそうもなってしまうのだろうが…。

 

「狼牙さんは、きっと病気なのですわ…誰かを気に掛けていないときっと死んでしまうのです」

「そんな恐ろしい病気があってたまるか」

 

いや、本当に怖い病気だな…そんなものがあるならば。

 

「どうして…私に構うの…?」

「ふむ…」

 

俺は腕を組み思案する…本当の事を言ったらどう反応されるだろうか…?

ふと、時間を見ると昼休憩の終わりまであと僅かだった。

 

「すまんな、簪…その話は放課後でも構わんか?」

「…分かった…今日は、アリーナの整備室に居る…」

「承知した。さて、織斑先生にドヤされては生き残れんからな…急いで戻るぞ」

「おっけー」

 

さも当然の様にのほほんは俺の首にしがみついて運んでもらおうとしてくる。

心頭滅却…夢と希望なんて背中には感じないのだ。

 

「本音さん!離れてくださいまし!」

「やーだー」

「良いから急ぐぞ、五十キロも走らされたくはあるまい?」

「後で追及させてもらいますわ!」

「せっしーこわーい!」

 

姦しいものだな…悪くはないが。

 

「では、放課後にな」

「うん…」

 

俺は本音とセシリアを伴って、急いで教室に戻るのだった。

 

 

 

 

 

「どっちが本当のお姉ちゃんなんだろう…?」

 

更識 簪は自身に送られてきた、姉のあられもない姿に疑問を覚える。

簪はある日を境に楯無が…酷い言い方をすれば魔物の様に見えていた。

完成された美しさ、卓越した頭脳に身体能力…そして皆の尊敬を集めるカリスマ性…。

自身には無いものを全て持ち、そしてあの日言われた一言で見捨てられてしまった。

しかし、この画像の楯無はどうだろうか?

寝ているとは言え、普通の女子と変わらないのだ。

自分が見ている姿との違いに簪は頭を悩ませる。

加えて、自分をヒーローさながらに身を呈して助けてくれた銀 狼牙の存在。

話を聞く限りでは、楯無と親密な関係であると言う噂が届いていた。

姉と近しい人物は怖い…しかし、自身の見るアニメや特撮のヒーローの様に自分を助けてくれた彼に憧れを抱いていた。

自身を構ってくれる理由が聞きたかった。

姉の影に怯える自分を救ってくれる…そう言った淡い期待を胸に秘めていた。

クラスメイト達から尋問があるという事は、すっかり忘れてしまっていた。

 


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