【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜 作:ラグ0109
時は流れ五月。
結局俺は週末にだけ生徒会室で手伝いをしていた。
紅茶は確かに魅力的ではあったが、楯無の猛攻に折れたと言っても過言ではない。
愚痴つきのスキンシップが多かったのだ、
なんでメンバーを増やさないのかと…。
「さて、クラス対抗戦まで後一週間…明日からは対抗戦に向けて、アリーナの調整で使えなくなるからな。喜べ一夏…俺とはサシで、箒とセシリアには二対一でシゴいてもらえるぞ」
「うへぇ…実戦形式だろ?地獄じゃねぇか…」
「ですが、一夏さんは普通の訓練だと飲み込みが悪いではないですか」
「剣の腕だってまだまだなんだ、文句を言うな一夏!」
鬼教官三人の愛をしかと受け止めるが良い…。
「くっそー…今日こそ生き残ってやる…でもよ、少しは成長しているだろう?」
「えぇ、指導した甲斐がありましたわ」
「中距離射撃機の戦術理論が近接機の役に立つものか…」
「敵を知り己を知らば、だ…近接戦闘理論を教える為に箒が居て、対射撃戦の為にセシリアが居る…俺は、一夏をサンドバッグにするためだがな!」
「ひでぇよ、狼牙ぁ……」
「それはどうなんですの…狼牙さん…」
二人きりで訓練が出来ないことに不満なのか少々ふくれっ面の箒。
訓練にロマンスなんぞ無いぞ、箒よ…ましてやプロポーズの言葉を本当に言葉通りに受け取る男とそんな事が出来るわけあるまい。
そして、俺はそんな一夏に大変ご立腹なのでサンドバッグにするのである。
何故、ご立腹なのか?
長い時間かけても鈴が怒った理由が分からないからである。
本当に脳味噌が火星産なのかもしれん…ここまで来ると本当にどうしたら良いのか分からん。
「一先ずはセシリア達でボコボコにしてやれ…その後はリミッターを外した俺とだ…」
[フラストレーション溜まってるわねぇ]
嬉しい嫌がらせもあったんだ、此処で発散しておかんとなぁ…。
「頼んだぞ、箒…お前が居るお陰で剣筋も大分鋭くなってきたんだからな」
「ま、任せろ!私が一夏の剣を鍛えるんだからな!」
「セシリアは接近された時の対処がサマになってきたな…流石は代表候補生か。この調子で連携の練習も積んでしまえ」
「フフ、まだまだ踏み込まれた時が怖いですが…ありがとうございます。そうですわね…タッグマッチがあるかもしれませんし…意識してみましょう」
箒は一夏を任せておくと機嫌が良い…敵意も和らいで俺の胃に優しい。
俺の自業自得でもあるのだが。
セシリアは本当にISの操縦が上手い。
最初は瞬時加速を織り交ぜての踏み込みで幾度かは勝てては居たのだが対処法も会得し始め、遂には弱点の一つであった親機と子機の同時運用が可能になった。
嬉しい成果ではあるが、勝ちを求めるとなるとリミッターを解除せんと決め手に欠ける俺には辛い。
「セシリアのブルー・ティアーズにしろ箒の訓練機にしろ、
「俺なんか徒手空拳だぞ、文句を言うな」
「ごもっとも…むしろ武器の無い相手にボコボコにされてる俺って…」
「零落白夜に頼りすぎなんだ…この間戦闘記録見せてもらったが滅茶苦茶な燃費だったぞ?」
単一仕様の零落白夜…効果はエネルギー無効化。
つまり、絶対防御という最後の壁すら切り裂き無効化してしまう無双の刃。
しかし、多大な力と言うのは担い手にも相応の出血を強いるものだ。
その出血…弱点は零落白夜の使用時、白式のシールドエネルギーが凄まじい勢いで減っていくのだ。
普段一のエネルギーを使う所が、展開しただけで五も消費してしまう。
一夏の場合は展開してから斬りかかる戦法のため、どうしてもエネルギーロスが多くなってしまう。
これが白式の燃費の悪さの原因だ。
この弱点をカバーする為の方法を模索してはいるが…ソレができるかどうかは一夏次第だろう。
「千冬姉と同じ単一仕様なんだ…使いこなしてみせなきゃな」
「その前に近接ブレードでの立ち回りをしっかりと叩き込んでもらえ」
「おう!」
一夏の背中を盛大に叩き押し出すと、目の前にガイナ立ちするちびっ子が現れる。
言うまでもない、鈴だ。
そうか…漸く考え直してくれたか…。
「待ってたわよ、一夏!」
寧ろこの展開を俺が待っていたと言わせてもらおうか、鈴。
[お父さん、気にかけすぎよ]
母さんや、性分だと言っただろう?
セシリアは心配そうに見つめ、箒はやや敵意のこもった目で見ている。
「ここは関係者以外立ち入り禁止にしてあったはずだぞ?」
「なら、平気よ。あたし一夏関係者だもん」
箒は敵意のこもった声で威嚇するも、鈴はどこ吹く風だ。
不敵に笑いこちらを見てくる。
「屁理屈としてもちょっと苦しいと思いますわよ…?」
セシリアは箒を宥めつつ心配そうに一夏と鈴を見る。
一夏はげんなりとした顔で箒と鈴を見ている…あぁ、これは余計な事を考えているな。
「一夏…今、おかしなことを考えたな?」
「いえ、辻斬り注意報が俺の中で発令されていましてね…」
「馬鹿か…真面目にしろ、一夏…」
箒は顔を真っ赤にして怒り、俺は呆れて頭を抱える…千冬さん、あなたの実弟はとても馬鹿な様だ。
「今はあたしの時間なの。あたしが主役なんだから、一夏以外の脇役はすっこんでなさいよ」
「わ、脇役…っ!」
「鈴、お前は俺たちを煽りに来たのか?」
その発言は拙い…いつかのお嬢様を思い出し、俺は苦笑してしまう。
ついでに俺に言わせれば、ここに居る全員が主役で脇役だ。
人生とはそう言うものだろう?
「鈴、アリーナの使用時間は限られている…時間を提供するのはどちらなのか、よく考えてから物を言った方が良いぞ」
「今回ばかりは狼牙も引っ込んでなさいよ」
[色々気を回してたのが馬鹿らしくなってくるわね…]
取りつく島もないようだ…鈴は威嚇する猫の様に俺を睨み付けてくる。
俺は諦めて、セシリアと箒と一緒に下がる。
「銀、私はもう我慢できない!」
「落ち着け、箒…あの様子では何を言っても、何をしても相手にはされんよ…壁に向かって拳を打ち付けていた方がまだ建設的だ」
「だが…あそこまで言われて!」
箒はどうにも、自制が効かんな。
俺は首を横に振る。
「言わせておけ…鬱憤は一夏で晴らせ」
「狼牙さん…わたくし、嫌な予感がしますわ…」
「奇遇だな、俺もだ…」
[鈴って子、本当に猪突猛進ね…]
これさえなければ…これさえなければ…グヌヌ…。
俺は口の中が酸っぱくなるのを感じながら、様子を見守る。
流れに身を任せねばならんとはな…。
「でさ、一夏…反省した?」
「はぁ?」
理由が分からなければ反省するわけも無いだろう。
先月の俺の忠告を聞いていればこうはならなかったのかもしれん…。
「だーかーらっ!怒らせて悪かったなぁ、とか!仲直りしたいなぁ、とか!あるでしょ!?」
「そんなこと言われてもな…理由も分からないし、仲直りしたくても鈴が避けてて会えなかっただろ?」
一夏としても幼馴染との関係改善を望み思い悩んでいたが、肝心の鈴は一夏と会わなかったのだ。
タイミング的な問題もあったのかもしれんが、恐らく鈴から避けていたのだ。
例のプロポーズ事件の時にビンタしたと言っていたから、その負い目があったのだろうな…と思いたい。
で、なければ理不尽以外の何物でもないぞ…鈴よ。
「アンタねぇ…放っておいてって言ったら放っておく奴がどこにいるのよ」
「ここにいるぞ!」
ジャーンジャーンジャーン。
鈴、アウト。
ワザとか貴様…それでこの事態はなかろうよ。
俺はあまりもの衝撃に四つん這いになって崩れ落ちる。
「狼牙さん!?」
「どうしたんだ?」
セシリアと箒がこちらを心配そうに見てくる。
「友人が救いようのない馬鹿になってしまった気がしてな…あくまでロマンスを求めるか…」
[女の子だもの…私だって、ときめいた事あったわよ?]
あぁ、誘拐した時か…。
「変な事言ってるか?怒らせたことは分かる…俺は会ってくれないから、顔も見たくないくらい怒ったのかと思ったんだぜ?」
「そうだけど…無理矢理にでも会いに来る甲斐性みせなさいよ!」
一年ぶりに出会った幼馴染との再会で舞い上がっていたのだろうな…恐らく鈴は、中学時代の一夏の悪行を忘れてしまっている…。
俺はゆっくりと立ち上がり、深く溜息をつく。
「銀…詳しくは、聞いていないが凰は何に怒っているんだ?」
「簡潔にまとめると、鈴の告白の意味を履き違えて覚えていたんだ…お前の幼馴染は」
「んなっ…!?」
箒は顔を赤くしたり青くしたりと目まぐるしく表情を変えている。
怒りの矛先をどちらに向けるべきなのか分からないのかもしれん。
「し、篠ノ之さん落ち着いてくださいまし!」
「今はやめてくれよ…余計に話がこじれるからな…だが、覚えておけ…お前にも同じ事態が起こりかねないと言うことを…」
「くっ…一夏ぁ……」
忠告はしたぞ…一夏は懇切丁寧に説明しても理解しないだろうが。
「謝りなさいよ!!」
「だから!約束は覚えていただろう!?なんでそのことで謝らなきゃいけないんだよ!」
「まだそんな事言って…!約束の意味がちがうのよ!どうあっても謝らない気なの!?」
よし、そのまま全てブチまけてスッキリしてしまえ…。
これ以上騒ぎがデカくなるようなら、俺も我慢できんかもしれん。
[落ち着きなさい、ロボ…子供のじゃれ合いみたいなものじゃないの]
それで済めば良いがな…少なくとも鈴はセシリアと箒に迷惑をかけている状態だ。
「だから、説明してもくれなきゃ謝れないって言ってるだろ!?」
「それができないからこうして…あぁ、もう!来週のクラス対抗戦で勝った方が、何でも一つ言う事を聞かせられるって事にしましょう!」
「あぁ、良いぜ!俺が勝ったら説明してもらうからな!
「せ、説明は…その…」
なぁ、鈴…どっちに転んでも説明しなきゃならん事に気付いてないのだろうか?
セシリアは話が纏まりそうな雰囲気に安堵し、箒は未だに百面相状態だ。
「なんだよ、やめんのか?」
「そんなわけないでしょ!アンタこそ謝る練習してなさいよ!」
「なんでだよ、馬鹿!」
「馬鹿とは何よ、馬鹿!朴念仁!間抜け!阿保!!」
売り言葉に買い言葉だ、本当にありがとう。
そろそろ、一夏を解放してもらえんだろうか?
「うっさい、『貧乳』」
デデーン!一夏、アウト。
一夏の言ってはならない一言で爆発音と共に部屋が揺れた。
ついにやってしまったな、鈴。
これはいただけんよ。
鈴はISを右腕だけ部分展開して、壁に向けて何かを放ったのだろう。
顔は怒りと憎悪に染まっている。
[IS
「言ったわね…言ってはならない事を…!!」
胸部装甲如きで人の格が決まるとは思えんがな…。
鈴は所謂幼児体型…そういった女性らしさのある部分にコンプレックスを抱いている。
「す、すまん、今のは俺がわるかった!」
一夏は素直に頭を下げるがそれでも鈴は溜飲が下がらないらしい。
「今はじゃないわよ!今もよ!いつも一夏が悪いのよ!」
「鈴、お前も謝れ」
俺は一夏の隣に立ち鈴を見つめる。
「うっさいわよ!こいつは…」
「謝れと言ったぞ、中国代表候補生…凰 鈴音…まさか、今自分が怒りを表すために何を使ったのか分かっていないのか?」
生身相手に
「うっさいうっさい!関係ないのに、大人ぶらないでよ!馬鹿!!」
鈴は目に涙を溜め走り去る。
関係ないのに、か…少々傷付くな…。
「ろ、狼牙…」
「一夏、勝っても負けても謝ってやれ…最後の一言は余計だった」
「おう…」
いかんな、声が少し弱々しいか。
自嘲気味に笑い肩を竦める。
「時間もおしている、俺は管理人に説明してくるから二人に揉まれてこい」
一夏の肩を叩き、セシリア達に近づく。
「箒、ボコボコにしてやれ…言いたい事はあるだろうがな」
「あ、あぁ!」
箒はコクコクと頷き打鉄を纏いに向かう。
「では、後は此方で…」
「頼んだぞ」
セシリアの頭を撫で俺は管理人室へと向かう…適当に嘘をでっち上げておくか。