【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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ささやかな休息

日曜日。

俺は、白のワイシャツに黒のスラックスを履いて校門前で人を待っていた。

何故制服ではなく私服なのか?

答えは単純にして明快。

所謂デートである。

先日セシリアに埋め合わせをすると約束していたからな。

英国貴族が満足するようならデートプランかは分からんが。

 

「来るならそろそろか…」

 

待ち合わせ十分前。

俺はそれよりも早く待機して待っていた。

女性を待たせるわけにもいかんだろうさ。

 

「早いですわね…わたくしの方が早く待ってると思っていたのですが」

「何、女性を待たせては紳士の名折れ、とな。良く似合っている」

 

愛機のカラーリングを意識したのか、青いワンピースを身に纏ったセシリアが笑顔でやってくる。

 

「ありがとうございます。普段は制服姿かジャージ姿しか見てませんから、狼牙さんの私服姿は新鮮ですわね」

 

セシリアはクスリと笑い俺の腕に抱きついてくる。

 

「さぁ、行きましょう。故郷ではこうして女性をエスコートするものですのよ?」

「あぁ、わかった…では向かおうか」

 

ダウトだセシリア…顔が真っ赤だぞ。

かく言う俺も顔は赤かったかもしれん…腕に感じる柔らかな感触を気にしないように平静を装い、セシリアに合わせ歩き始める。

さて…どうしたものやら?

 

 

 

IS学園からモノレールで一駅。

学園の近くとあってか、街は発展し大小様々なビルが立ち並ぶ。

普段学園内で缶詰状態の俺には些か新鮮に感じる光景だ。

今年の三月頃にオープンしたばかりの大型ショッピングモール『レゾナンス』は、様々な服飾や雑貨を取り扱う店が立ち並ぶ。

ウィンドウショッピングだけでも、かなり楽しめることだろう。

 

「色々ありますわね…まずはどちらから行きましょうか?」

「一先ずは、腹拵えだな」

「わかりました、では向かいましょう」

 

周囲に知らん人間が多いと逆にどうどうと出来るな…変な噂に気を使わんで良いと言うのは助かる…。

……後にこの考え、見通しが甘かったと痛感させられる事になるのだが。

レストランエリアへと向かう中それなりに視線を浴びる。

 

「やはり、目を引くものか…」

「銀髪と言うのも珍しいですから…」

「いや、俺と言うよりセシリアが、という気がせんでもないが」

 

通り過ぎる男性が皆同じように振り返るのだ。

顔だけでなくプロポーションも良いともなれば、仕方ない気はするがな。

 

「そうでしょうか…女性からの視線が凄いですわよ?」

「他にいい顔の男はいるだろうに」

「あまり卑下するものではありませんわ」

 

俺は空いた手で眉間を揉み苦笑する。

美人からそう言われると何とも気恥ずかしいものだ。

兎に角、今は学園での事を忘れて楽しむことにしよう。

 

 

 

特に待たされることもなく、昼食を終えた俺たちはセシリアが服を見たいというのでファッションエリアへと向かう。

服と言っても様々なブランドがあるもので、店が所狭しと並んでいる。

セシリアに連れられて、あっちへフラフラこっちへフラフラだ。

 

「こちらはどうでしょう?」

「何分、女性を褒めると言うのが苦手でな…良く似合ってるとしか言えんよ」

 

満面の笑みを浮かべながら、服を試着しては俺に見せつけてくる。

楽しそうでこちらとしてもありがたい。

 

「ん…?」

 

僅かばかり、情念の篭った視線を感じ振り返るが誰もいない…気の所為か?

俺が首を傾げていると、セシリアから声がかかる。

 

「今日はわたくしだけを見ていてください、狼牙さん?」

 

若干修羅の影を見せる笑みを浮かべるセシリア。

なるほど、これが恋する乙女か…。

 

「すまんな、セシリア…お前の言う通りにするとしよう」

「わ、わかっていただければよろしいんです!」

 

顔を赤くして試着室のカーテンを閉めるセシリア…何とも可愛らしい反応である。

その後俺は、セシリアが購入した物を片手にセシリアを連れ立って歩く。

 

「さて、少し見たいものがあるのだが付き合ってもらえるか?」

「えぇ、それではどちらへ?」

「水彩絵具を切らしてな…それを補充したいんだ」

 

ネット通販でも構わんのだが、IS学園と言う場所の性質上手続きがかなり面倒で時間もかかる。

自分で直接店に行って購入した方が早い場合があるのだ。

セシリアと他愛ない会話をしていると、前方に見慣れた赤い髪の毛の男を見つけた。

これは…不味い気がするな。

なんせ、あいつは顔が良くても性格が三枚目なのだ。

あぁ、いい人ってだけなんだよねと女子に言われてたのを見て目頭は熱くなったのもいい思い出だ。

 

「どうかしましたか?」

「いや、今は会いたくない旧友がいてな」

 

だが、願いは通じなかったようだ。

人混みでセシリアは見えないのだろうが、俺を見つけた友人…五反田 弾がこちらへと笑顔でやってくる。

 

「おーい、久しぶりじゃないか…元気にして、た…か」

 

弾は、こっちに来るなり段々と表情が絶望としたそれへと変化していく。

 

「ろ、狼牙……そちらの、彼女さん、は…?」

「彼女だなんて、そんな…」

 

弾の言葉に『腕に抱きついたまま』照れて体をくねらせるセシリア。

 

「彼女はセシリア・オルコット…クラスメイトでな…」

「ろ、狼牙の裏切り者ぉっ!!」

 

弾は涙を滝のように流し崩れ落ちる。

そんなだから女日照りが続くんじゃなかろうか?

 

「落ち着け、弾…まだそういう関係ではない…」

「でも、随分親密な感じじゃないか?」

 

弾は気を取り直して立ち上がり、セシリアと俺を見る。

セシリアはセシリアで一転してムスっとした顔をしている。

事実だろう?

 

「否定はせんがな。セシリア、こいつは五反田 弾。鈴と一夏の友人でもある」

「よろしくお願いします」

「ども…弾って呼んでください。狼牙、今鈴って言ってたが…」

「あぁ、今IS学園に来ている…相変わらずだったよ…こっちは胃が痛む毎日だ」

 

俺の言葉に弾は乾いた笑い声を上げる。

 

「にしても、そうか…アイツ帰ってきたのか…」

「今度また四人でつるむとしようか」

「はは、そりゃ良い…今度一夏連れてウチに来いよ」

「そうさせてもらおう…ご家族には、よろしく伝えておいてくれ」

「あいよ、またな」

 

軽く手を振り弾と別れ再び歩き始める。

 

「彼も…その一夏さん絡みで?」

「あぁ、恐らく俺よりも周囲のフォローに駆け回っていたかもしれん」

 

ああ見えて弾は面倒見が良い兄貴分だ。

一夏がトチり、鈴がキレ、弾が宥める。

これがアイツらの日常だった。

最早トリオでお笑いをやれる程には息がピッタリだろう。

 

「彼も苦労なさっていたのですね」

「全くだな…俺よりも上手く立ち回っていたかもしれん」

 

お目当ての画材屋を見つけ中へと入る。

足りない絵具をカゴに入れ、ふと思案する…喜んでもらえるだろうか?

 

「セシリア、似顔絵で良ければ描かせてもらえるか?」

「似顔絵、ですか?」

「気まぐれだし、今日の思い出だ…どうだろうか?」

 

まぁ、駄目と言うならばゲームセンターへ行くのもアリではあるだろう。

するとセシリアは一も二もなく頷く。

 

「えぇ、えぇ、お願いします。綺麗に描いてくださいまし」

「承知」

 

色紙と色鉛筆をカゴに入れて会計を済ませる。

セシリアは上機嫌で笑みを浮かべている。

下手に失敗できんな、これは…。

 

 

 

レゾナンスでも海が一望できる広場へとやってきた俺たちは、セシリアをベンチに座らせた。

 

「少し時間がかかるが動いてくれるなよ?」

「えぇ、よろしくお願いします」

 

たおやかな笑みを浮かべるセシリアに周囲の通行人が食い入るように見てくる。

実際、いい笑みをするようになったものだ。

 

「学園はどうだ?」

「どう…とは、どう言う意味でしょうか?」

 

俺は色鉛筆を走らせ、淡い色使いでセシリアを表現していく。

 

「随分と綺麗な笑みを浮かべるようになったからな…見ている世界が変わったのだと思った」

「そう…ですね…」

 

ふふ、とセシリアは笑うが動かない。

肖像画のモデルもやったことがあるのだろうな。

 

「以前、薔薇園で仰っていた質問に今なら明確に答えられる気がしますわ」

「そうか…聞いてもいいか?」

 

聞くまでも無い事だが、彼女の口から聞きたかった。

彼女が出した答えならば、雰囲気からではなく彼女自身の言葉で知るべきだろう。

 

「私にとって、今までは灰色の世界でした…醜い大人達は、わたくしを侮り…弱い男性は媚びへつらう…他愛もない世界だと…」

 

黙したまま色紙に色鉛筆を走らせる。

彼女は表情を変えない。

だが、作り物のようにも見えなかった。

 

「IS学園への出向が決まった時も、どうしてわたくしが…と思ったものですわ。でも、この学園へ来て…貴方達に出会った。貴方に諭されクラスメイト達と触れ合い、わたくしの中の世界の有り様が変わっていきました」

 

セシリアは、一息つき此方を真っ直ぐに見る。

 

「きっとこの世界は醜くも美しい世界があるのでしょう。きっと色鮮やかに映るのでしょう。…短剣を持たずに、両手で抱き合える世界もあるのだと…わたくしは、そう思い始めています」

「そうか…そう思えてくれるなら嬉しいものだ」

 

思わず口元が緩む…三年間だけとは言え、この少女も少女らしく青春を謳歌できるだろう。

良いも悪いもなく、大人になった時に良かったと言える思い出が作れるかもしれない。

 

「ありがとう、セシリア」

「ふふ、こういう風に思えるようになったのは狼牙さんのおかげですわ…こちらこそ、ありがとうございます」

 

 

暫くして絵を描き終えセシリアの隣に座り、色紙を手渡す。

淡い色でセシリアは笑みを浮かべている。

中々上手く描けたとは思う。

 

「ありがとうございます。額に入れて飾るとしますわ」

「どうにも、恥ずかしいなそれは…だが、喜んでもらえた様で何よりだ」

 

軽く肩を竦め、微笑む。

セシリアは満面の笑みで色紙を眺めている。

 

「この、サインのLoboと言うのは…」

「あぁ、思い入れのある名前なのでな…狼王の物語が好きなんだ」

 

気高い狼王…決して屈しないその姿は美しい。

それに以前の俺の名だ…思い入れが生まれない訳がない。

 

「幾度も繰り返し読んだものだ…誇り高く孤高だ」

「そう言う顔を見ていると年相応に見えますわね」

 

どうやら、子供のように笑みを浮かべていたようだ。

少し気恥ずかしくなって頬をかく。

 

「さて、そろそろ学園の門限になるし戻ろうか」

「名残惜しいですわね…」

 

俺は立ち上がりセシリアの頭を撫でる。

 

「そう言ってくれるな…また来ればいい」

「ふふ、そうですわね」

 

セシリアの手を取り、立ち上がらせると腕に抱きつかせる。

 

「そちら風のエスコートなのだろう?」

「え、えぇ…そうですわ!」

 

今更気恥ずかしくなることもあるまいに。

俺とセシリアは、そのまま学園まで帰っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「銀 狼牙さん…フフ…」

 

ルームメイトが寝静まった夜、天蓋付きのベッドの上でセシリアは似顔絵が描かれた色紙を眺めていた。

あの、薔薇園での一幕があってからと言うもののセシリアは狼牙の動向を見つめ続けていた。

同年代とは思えない落ち着きを見せるかと思えば、子供のように巫山戯る。

子供のように巫山戯るかと思えば、クラスメイト達を慈しむ様に眺めているのだ。

 

「きっと、わたくしは…」

 

イギリス国家代表を目指し、英国の名門貴族に名を連ねる自分はこの想いを秘めていなければならない。

そう思うセシリアは、せめて…せめてこの学園(せかい)にいる間は、と思い静かに眠りにつくのだった。




えぇ、私に甘いものなんて書けるはずがないんですよ…orz

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