【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜 作:ラグ0109
俺がこの世に生を受けてから、実に10年以上もの時が経った。
今の俺は所謂親無しの人間であり、親戚と言う親戚を盥回しにされ、日本中を旅する根無し草の様な人生を今まで送っていた。
原因は俺の容姿にある。
本来日本人であれば、染めてでもいなければ…もしくは他人種との混血児でもなければ黒髪黒瞳が一般的ではあるのだが俺は前世の時同様に、白雪の様な銀の髪に金の瞳を持って生まれた。
朧げながらも覚えている両親は、それでも俺を他の子供と変わらないと笑い、優しく愛してくれていた。
今の世では考えられない強い父、誰にでも優しかった母。
幸せだったのだと思う。
そう、幸せだった…俺には勿体無いくらいに。
だが、そう続きはしなかった。
俺が小学校へ入学した時の話だ。
父と母に手を繋いでもらい、三人で喜びを分かち合いながらの帰り道…鮮明に覚えているのは其処までで、気付いた時にはミイラのように全身を包帯やらギプスで固定され病室で目が覚めた。
駆けつけてくれた祖母から聞いたことは
・目の前で起きた暴走トラックと乗用車の衝突事故に巻き込まれた事。
・既に事故から2ヶ月経っている事。
・両親も同様に入院していたが、亡くなってしまった事。
酷い、悪夢だと思った。
きっと…このまま幸せな世界が続くのだろうと。
きっと…した事もない親孝行が出来るのだろうと。
吼えた。
泣き叫んで、鳴き叫んで。
吼え続けた。
俺も殺してくれと!
両親の所へ行かせてくれと!
ただその時祖母に言われた一言で俺は考え直させられた。
必死に産んで、愛してくれた両親の為にもその命を全うしなくてはならない。
決して、一時の感情で命を投げ出してはならないと。
その言葉と共に俺は以前の冷静さを、生き方を思い出した。
別に死を恐れるわけではない。
だが、この命を全うするまで足掻き生き続けるのだと。
急に冷えた頭の中に生まれたのは、己を恥じる心。
そして、感謝。
俺は、受け入れてくれる世界がある事を知り、祖母に深く頭を下げ「ごめんなさい」と「ありがとう」を告げた。
俺は祖母の元へと引き取られた。
それからも大変だった。
引き取られて間も無く祖母も亡くなり、親戚中から容姿も相まって忌子だの何だのと詰られ転校を繰り返す。
引き取っては手放す。
何故それを繰り返したのか?。
答えは簡単だ。
両親と祖母の残した、子供にとっては余りにも多すぎる遺産が原因である。
無論大切な遺産を、あの様な薄汚い者達に俺が渡す訳もないが。
前世込みで考えれば、俺の年齢は人のそれを遥かに超える。
ただ馬鹿でも
盥回しは寧ろ願ったり叶ったりだった。
各地を転々とすれば見たいものも見れるし、友人もそれなりにできるからな。
もっとも、そんな旅人気分で居られるのも引き取り手がいるだけの間…。
そうして行き着く先は、似た者同士が集まる場所。
そう、孤児院だ。
其処で俺は、この先の人生に多大な影響を与えることになる男に出会うことになる。
「これから、よろしくお願いします」
「はは、そう畏まらんでくれ。君も今日からこの歌月荘の家族なのだから」
「ありがとうございます…篠原さん」
「これから、君が18歳になるまでの間だがよろしく頼むよ、銀 狼牙君」
俺…
院長の篠原さんは、柔和な笑みを浮かべる好々爺と言った風情のあるお爺さんだ。
ここから、俺は再びリスタートする。
一先ずやれそうな事を始めねば、と少ない荷物を整理し院長に一言言って外出する事にする。
何はともあれ此れから通う事になる学校への道やら周辺にある店なども把握しなくてはな。
メモに書かれた地図片手に散歩をしていると、目の前に此れから通う事になる中学の制服を着た三人組が現れた。
一人は赤い髪の…こう言ってはなんだが、少しチャラそうな男。
一人はツインテールの元気そうな娘…恐らく、一つ学年下なのだろう。
そして最後の一人、かなり整った顔付きをしている。テレビで見た事があるような気もする。
俺の勘が告げている…こいつは、女難の相が出ている…しかも他人の好意に気付きにくいと言う爆弾も抱えているようだ。
何故ならツインテが頬を赤らめながら、その男を見ているにも関わらずまるで素知らぬと言った感じで…チャラ男の方は、それに対して呆れた顔でいるのだから…っと三人が此方に気付いたらしく、じぃっと見てくる。
どうせ、学校で会うことになるのだろうし、道を聞くことにしよう。
「あ、あいどんとすぴーくいんぐりしゅ」
慌てた様子で怪しい英語で話してくるイケメン。
「ちょっ!一夏!?」
「そりゃないだろ…一夏さんよ…」
そして呆れたような顔をする残りの二人。
「いや、案ずるな…こんなナリだが、これでも生粋の日本人だ」
苦笑しながら首を横に振る。
やはり三人とも目を丸くするな…通過儀礼だ、俺は気にしない。
「マジかよ…夢なら覚め……ッ!?」
と驚くチャラ男。何処のノーカウントさんだ。
「はぁ!?あんた、それ髪とか目を染めてるんじゃないでしょうね!?」
とやはり疑うツインテ。だが、眼は染められんと思うのだ。
「よかったぁ〜英語喋れないからどうしようかと思ったぜ…」
と、安堵するイケメン。…貴公…。
「「そこじゃないだろ(でしょ)!!??」」
ふと思った。
このイケメンの友人達…苦労してるんだな、と。
「改めて自己紹介を…この街の孤児院で今日から世話になっている銀 狼牙だ」
「あたしは
「俺は
「
ふむ、織斑か…嗚呼、テレビで聞いたことがあるな。
「一夏…もしやお前の親族はあの?」
「あ、あぁ…
ん?どうにも歯切れが悪いし、弾は何処か庇うように一歩前へ。鈴は猫のように威嚇してくる。
うむ、地雷だな。
ここに来て、関係が最悪な状態になるのは望む所ではない。
「彼女の事に関して俺が言うべきことは無かろう…お上から言われているだろうし…何より、もし言うのであれば一夏に言わんでお前の姉に直接言う」
「へ?あ、あぁ…そう言う風に言ってくれるの弾と鈴以外に初めてだ」
「って言うか、あんた本当に同い年?台詞回しが子供のそれじゃないわよ?」
「古風っていうか…本当は三十路とかそんなんなんじゃ…」
「弾よ…そんなに老けて見えるだろうか……?」
ガックリと肩を落とし溜息をつく。
精神年齢で考えれば三十路どころではないがな!
そんな俺の様子を見た三人は、可笑しそうに笑う。
「ははは、狼牙もそんな顔するんだな。仏頂面だったからなんか意外だ」
ひとしきり笑った一夏は、先ほどの暗い顔を感じさせない、良い笑顔を見せる。
そんな笑顔を見て頬を赤らめる鈴。
顔の前で手を合わせ笑いながら謝る弾。
「良いものだな…」
「ん?何か言ったか?」
「いや、なんでも無いぞ一夏…ところで……」
そうして、俺は当初の目的道を覚える為に道案内を三人に頼んだ。
旅は道連れなんとやら、だ。
学校の位置を把握した後は弾の家にお邪魔させてもらい、門限まで三人と遊んでいた。
以前の世界でも中々味わえなかった時間は、この先でも俺の心に残るのだろう。
これが俺と世界初のインフィニット・ストラトス男性操縦者となる織斑 一夏との出会いになる。