【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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狼とちびっ子

早朝、グラウンドにていつもの鍛錬に闖入者が現れた。

 

「ハァッ!!」

「シィッ!!」

 

互いに渾身のハイキックを交差させ拮抗する。

そう、千冬さんである。

 

「今日こそ勝たせてもらうぞ!」

「ガキに勝たせてやる程、私は優しくないぞ!?」

「「アワワワワワ……」」

 

俺と千冬さんの背後に龍虎が見えたのか、セシリアと楯無が抱き合って怯え…いや、多分セシリアだけ怯えている。

黒のジャージに身を包んだ千冬さんは、そのまま鋭い蹴りでバリエーション豊かにこちらを攻め立ててくる。

 

「クッ…!」

「どうした!?底力を見せてみろ、狼牙!!」

 

俺も同じように蹴りを幾度も交差させ拮抗させる。

このままでは埒が開かん…。

 

「狼牙君、よく織斑先生に対抗できるわね…」

「入学式の日にもやっていたと聞いてはいましたが…」

 

楯無がセシリアを慰めながら、感心している。

 

「ほらほら!どっちが勝つか賭けた賭けたぁっ!!」

 

だから賭博は気が滅入ると……。

俺は拮抗している状態を変えるために敢えて踏み込み、千冬さんの足をガードしそのまま掴みながら引き寄せて裏拳を叩き込む。

 

「チッ…!!」

「どうした、決まったとでも思ったのか?」

 

だが、千冬さんに足を離した隙に裏拳を受け止められてそのまま関節を極められ、組み伏せようとされる。

 

「まだだ!!」

 

俺は持ち前の筋力をフルに使って身体を振り回し、千冬さんの身体を逆に地面へと叩きつけて拘束を解き、一足跳びで間合いを開ける。

 

「馬鹿力め!」

「これでも男の子なんでな!」

 

互いに余力もなく、次の一撃で決まるだろう。

拳を構え千冬さんに向かって渾身のストレートを叩き込もうとするが、すれすれで避けられてしまう。

 

「お前も大概馬鹿正直だからな!」

「チィッ!!」

 

そのまま腕を引こうとするが、その前に腕を掴まれ一本背負の要領で投げ飛ばされ、強かに背中を地面に打ち付ける。

 

「クッハッ……参った…」

「いい運動になった。ここに来てから随分と動きが良くなったな」

 

勝利したことに悦に入ったか、千冬さんはご機嫌だ。

 

「だ、大丈夫ですの!?」

「記念すべき五十敗目だ…」

「いや、織斑先生とあれだけ張り合えるって自慢しても良いと思うわよ?」

 

俺は肩を落とし溜息を吐きながら、セシリアたちを見る。

 

「セシリアと更識も千冬さんに揉まれてみたらどうだ?」

「い、いえいえいえいえ、謹んで辞退させてもらいますわ!」

「あ、私生徒会の仕事があるんだったー」

 

セシリアは顔を青くして首を横に振り、楯無は棒読みで口笛吹きながら立ち去ろうとする。

 

「お前達も組手をしたかったのか、そうかそうか」

 

セシリアと楯無の肩を掴んでイイ笑顔の千冬さん。

活きのいいサンドバックだ。

セシリアは近接戦に不安を抱えている…強者との手合わせは必ずスキルアップに繋がるだろう。

楯無はこの間の仕返しだ…重々反省する事だな。

 

「さ、始めるぞ!」

「「いやーーーー!!!」」

 

早朝の爽やかな風の中、少女たちの悲鳴が響き渡った。

 

[ロボ、体の具合はもう良いみたいね]

 

まぁな…あの時、白が出力を調整したのだろう?

 

[最初の一撃の時はしてなかったのだけれどね…一夏君には瞬間移動したようにしか見えなかったんじゃないかしら?]

 

確かに初撃は、 普通では俺でも反応しきれなかった…ISに積まれたハイパーセンサーが無ければタダの体当たりを繰り返すだけだったかもしれん。

セシリアと楯無が俺の両脇に投げ飛ばされて地に倒れ伏す。

結果として、骸が二つ出来上がっただけだったようだ。

これを機会にセシリアには、近接格闘戦の訓練にも力を入れてもらいたいものだ。

 

「手…手も足も出ない…」

「当主なのに…当主なのに…」

「小娘にやられる程落ちぶれてはいないさ」

 

フッと爽やかに笑い、髪の毛をかき上げてうつ伏せに倒れている二人を眺める千冬さん。

周囲で観戦していた女子から黄色い悲鳴が上がる。

愛されているなぁ、千冬さん。

 

「そら、小娘共!早く朝食を済ませて登校しろ!遅刻したらタダじゃおかんぞ!」

 

手をパンパンと打ち鳴らし声を張り上げる千冬さんは、僅かに笑みを浮かべている。

 

「早く準備をすませるぞ」

 

落ち込んで動かない二人を両脇に抱え歩き始める。

 

[女の子に対する扱い方じゃないわよ、それ]

 

構わんだろうよ、どちらにしろ早くせんとシャワーを浴びる時間すらないからな。

 

「セシリアは、もう少し近接格闘を鍛えろ…弱点をカバーできる程距離の開け方を上手になるよりも安心できる」

 

例えば瞬時加速等の高速移動で距離を踏み潰す方法があるし、トラップやチーム戦での連携で追い込まれることがあるやもしれん。

 

「わかりましたわ…ところでですね、狼牙さん」

「なんだ?」

 

セシリアと楯無がこちらを見てくる。

不満だと言わんばかりに。

 

「もう少し女性の運び方があると思うのですけれど…」

「お米担いでるんじゃないのよ?」

 

ふむ、元気は十分あるようだな。

俺は歩いたままセシリアと楯無を落としていく。

 

「ちょっと!狼牙さん!?」

「女の子の扱い方を学ぶべきね!」

「喧しい、早く部屋行って準備してこい。朝食抜きで行くつもりか?」

 

軽く眉間を揉みながらため息をつく。

楯無には急いで入ってもらわねばならんのだ。

 

「くぅっ!仕方ありませんわ!」

「今度私達の要求飲んでもらうわよ!」

 

良いからはよ行け。

俺は溜息と共に二人を見送り、楯無がシャワーを出るまで時間を潰している時…

 

「んん?」

[あら、どうしたのかしら?]

 

視界の端に見慣れたツインテールが映ったのだ。

 

[知り合いかしら?]

 

いや、ありえんな…アイツは一年程前に中国に引っ越してしまったからな…。

 

[転入かしら?]

 

この学園の途中編入の試験は相当に厳しいと言う話だ…可能性はあるかもしれんが。

しかし鈴だとしたら…。

一夏周りがかなり騒がしくなりそうだな…。

 

[千冬が気を回し過ぎって言っていたでしょう?]

 

そうなのだがなぁ…性分なのは知っているだろうに…。

 

「狼牙君いいわよ〜」

「あぁ、分かった」

 

扉を開けるとタオル一枚の楯無が居間に居た…。

だからな、目に毒なんだって言っているのが分からんのか。

 

[あら、目に毒なんて酷いじゃない]

「時間が勿体無いんでしょ?さぁ、入った入った」

 

楯無はクスクスと笑いながら、まだ上気した肌を晒し手招きしてくる。

 

「あぁ、そうだな…まったく、魅力的なんだからもう少しだけ配慮してもらいたいんだが」

 

呟くように言い、俺はバスルームへと向かう。

楯無が制服に着替えても頬が真っ赤だったのは、まぁここだけの内緒にしておこうか。

 

 

「見慣れない女生徒が居た、ですか?」

「あぁ…どうにも嫌な予感がな…」

 

一年の教室がある階の廊下をセシリアと歩く。

SHR五分前だ。

結局俺は朝食を取らなかった。

前日の無茶な機動が祟ったようだ。

走る程でもないのでセシリアとのんびり雑談しながら歩く。

 

「中学時代、一夏にゾッコンだった奴にソックリでな…元気なのは良いんだが…」

「何か問題がおありなのですか?」

「箒とは別ベクトルで活動的でな…胃が痛くなりそうだ」

「織斑先生もおっしゃってましたが、気を回し過ぎですわ…もう少しご自愛くださいまし」

 

皆同じ事を言うな…だがな、そうせねば円満にならんのであればそうせざるを得まいよ。

 

「なんてこと言うのよあんたは!!??」

 

あぁ、やっぱりこいつか。

 

「そうら、鈴…SHRの時間になるぞ!」

 

教室に入るなりツインテールの背が低い少女を両手で抱き、所謂高い高いをする。

 

「ぎゃー!!やめなさいよ!!って言うか誰よ!!?」

「ほーら、たかいたかーい」

「ローロー、私にもやって〜!」

 

のほほんが羨ましそうにこちらを見ている。

まぁ、後でな。

鈴は喧しいぞ、これ位せんと釣り合わん。

 

「な、な何をしているんですの!?」

「狼牙ね!?狼牙なのね、こんな事をするのは!」

「煩い、席に着け!」

 

俺とセシリアの頭に鋭い痛みが走る。

俺はおとなしく鈴を下ろし、頭を撫でる。

 

「久しぶりだな、鈴」

「あんたねぇ…!」

「うぅ…狼牙さんの所為ですわ…」

 

セシリアは頭を抑えながら席に着き、鈴は目の端に涙を浮かべながら見上げて睨んでくる。

 

「凰、貴様は二組だろう。さっさと行け!」

「ち、千冬さん…」

「織斑先生だ」

 

俺と鈴に出席簿が叩き込まれる。

解せんな。

 

[席につかないからよ]

 

あぁ、そうかもな。

俺は大人しく席に座り、溜息を着く。

 

「また後で来るからね!逃げないでね一夏、狼牙!!」

 

鈴は捨て台詞を残し去っていった。

さて…箒よ…お前に強力なライバルが現れたぞ。

なんせ、アイツはお前よりもコミュニケーション能力が数段も上手だからな…一夏以外。

 

 

 

 

昼休み。

俺は一夏と箒、セシリアを連れて食堂に向かっていた。

 

「久々に一緒に飯が食えるな」

「いつもは絵を描いていたからな…すまん」

「いいって、休み時間は個人の自由だしな」

 

笑いながら一夏と並んで歩く俺。

通行の邪魔になるのでその後ろを箒とセシリアが歩いている。

 

「幼馴染は私だけじゃないのか…?」

「まぁまぁ、篠ノ之さん…」

 

箒は此方…特に一夏に、敵意の篭ったような目を向けているのが背中越しに分かる。

幼馴染はお前だけの称号でも無かろうに…。

 

「昨日の機動が祟ったみたいで、夕方から今まで何も口にしていないんだ」

「あれ、凄かったからな…目で追うのがやっとだったぜ」

「今日の放課後にでもセシリアと一緒に教えてやる。瞬時加速はお前には絶対必要だからな」

「頼んだぜ、狼牙…それにセシリアも」

 

一夏は此方と後ろに視線を送り笑う。

敗北を糧に強くなれ。

 

「…私はたいせつじゃないのか…?」

 

そんな箒の呟きが聞こえたような気がした。

食堂に入るなりちびっ子がトレーにラーメンを乗せて仁王立ちしていた。

 

[ちびっ子は酷いんじゃないかしら?]

 

なら、お前はなんて呼ぶんだ?

 

[名前が分からなければおチビちゃんね]

 

あまり変わらんではないか…。

 

「待ってたわよ、二人とも!!」

「ブレんなぁ…お前は…」

「待っててくれたのは嬉しいけどな、通行の邪魔だぞ鈴」

 

俺は軽く頭を抱え、一夏は嬉しそうにしながらも呆れている。

 

「わ、分かってるわよ!良いから早く食券渡してこっちに来なさい!」

「い、一夏!一体何者なのだ!?」

 

箒は我慢できずに声を荒げる。

 

「俺の幼馴染だよ、詳しいことは飯食いながらにしようぜ?」

「ぅ…わ、分かった」

 

一夏は日替わりランチ。

今日は鯖の味噌煮がメインのオカズのようだ。

味噌の香りが胃袋を刺激し、米がさぞかし進むことだろう。

箒はきつねうどん。

お揚げが大きくふっくらとしていて何とも食欲を誘う。

セシリアは洋風ランチ。

バゲットとグラタンのセットで、グラタンからは熱々の湯気と香ばしいチーズの香りがしてくる。

そして、俺は…。

 

「やっと来たわね。席取っておいたわよ」

 

俺たちは鈴と合流しテラス側の席に腰掛ける。

一夏を挟んで箒と鈴、向かい側に俺とセシリアの席順だ。

それぞれが席に着き、テーブルに並ぶ俺の本日の昼食を見る。

 

「狼牙…あんた、胃袋がおじいちゃんにでもなったの?」

「鈴、これも全部瞬時加速ってやつのせいでな」

「ただの自爆じゃないのよ…寧ろ瞬時加速しただけでどうすれば内臓にダメージ行くのよ…」

 

本日のメニュー

白粥、付け合せに沢庵とちりめん山椒。

胃に優しくしたいんだ、俺は…。

 

[おじいちゃん、しっかりしなさいよ]

 

いやはや、面目無い。

ともあれ、楽しい昼食の始まりである。

 

「それにしても久しぶりだなぁ…一年ぶりか、元気そうで良かった」

「あんたも元気そうじゃない、たまには怪我とか病気になりなさいよ!」

「いや、それはいかんだろうに」

[この子結構空回りしちゃうタイプ?]

 

あぁ、そしてもう一人の友人と苦労したものだ。

 

「それにしても、いつの間にこっちに来たんだよ?」

「昨日の内よ、受付の場所分からなくて参ったわよ」

「いや、それよりもだな、自己紹介してやれ」

 

粥を一口食べ味わう…うむ、塩加減が絶妙で大変美味しい…胃は労らんとな。

 

「一夏も狼牙もまだ話してなかったの?中国代表候補生の凰 鈴音よ。面倒だし、鈴で良いわよ」

「イギリス代表候補生のセシリア・オルコットですわ。貴女とは良いライバルになれると良いですわね」

「一夏の幼馴染の篠ノ之 箒だ」

「フフン、あたしは強いわよ?」

 

セシリアと鈴はがっちりと握手をする。

こっちは良い関係が築けそうで安心できる。

なんせ代表候補生同士だ。

国の威信をかけて競い合う間柄になるかもしれんのだからな…良い事だ。

問題は恋敵と言う様な目で見る箒だ…。

 

「幼馴染ってどういう事よ、一夏?」

「知らなくて当然だろうな。箒は俺が小四の時まで一緒の学校に通ってたんだよ。言うなればファースト幼馴染が箒でセカンド幼馴染が鈴だな」

 

その表現は…あぁ、箒が何か特別感を感じているな。

 

[女の子はいつだって好きな人の特別でありたいものよ]

 

時と場合と言うものはあるものだ…特に箒は言動が抜き身の刀の様な時があるからな。

鈴は、鈍器だ。

 

「その、鈴さんは一夏さんと交際していらっしゃいますの?」

「べ、べべ別にそんなんじゃないわよ……」

「そうだぞ、幼馴染だって言っただろ?」

 

セシリアの発言に、鈴は舞い上がるような思いをするが一夏の一言に地の底に叩き落される。

箒は安堵している…だがな、その場所で胡座をかくわけにも行くまいよ?

セシリアは若干顔を引きつらせアイコンタクトを送ってくる。

 

(これは酷いですわね)

(あぁ、こんな調子だから中学時代も…)

(ご愁傷様ですわ)

 

「しっかし、何でアンタ達IS使えんのよ?ニュース見たときお茶を吹き出したわよ?」

「それが分かれば今頃男共の大反乱になってるだろうよ…」

 

女尊男卑の世界で男性がISに乗れる術が分かった時、良からぬ事を企てる輩がゴマンと現れるだろう。

そうせん為にも、いずれ分かる事とは言え……。

後ろ向きすぎて頭を抱えたくなるな。

 

[考え過ぎよ、ロボ…世界は優しくないけど、情が無いわけでは無いはずだもの]

 

そう信じたいものだ。

 

「ところで一夏、あんたクラス代表だって言うじゃない」

「決闘に勝っちまったからなぁ」

「わたくしに勝ったのですから、もう少しシャンとしてくださいまし」

 

セシリアは苦笑しながらも一夏を叱咤する。

情けない戦い方なんぞ許されんからな。

 

「あ、あのさ…ISの操縦、あたしが見てもいいけど…」

「本当か?そりゃぁ助か…」

「待て、一夏…今は敵同士だ…塩を送られても受け取れんよ」

「ちょっと、どういう意味よ狼牙!?」

 

まぁ、予想通りと言うか噛み付いてきたな…。

 

「五月のクラス代表戦…それまでは学友であり、敵だ。それに今は俺からセシリアに頼んで、一夏を鍛えてもらっている…一夏も考えろと言っただろう?俺の顔にそう、泥を塗ってくれるな」

 

軽く肩を竦めながら一夏を諌めつつ鈴を見る。

 

「それに鈴は他のクラスだ…そんな事をすれば転入したばかりなのにクラスメイト達と良い関係が築けまい」

「わりぃ、狼牙」

「それも、そうね…いいわ、今回は引き下がってあげる」

「二人とも、分かればよろしい」

 

満足げに頷き笑みを浮かべる。

 

[本当にお父さんねぇ]

 

これも円満な学園生活のためだ…俺が楽しめるような、と言うと少し下種な感じがするか。

 

「そ、それじゃ…放課後、空いてない?二人きりで話したいんだけど…?」

「放課後か?放課後は…」

「放課後、一夏は訓練で忙しいんだ!」

 

いや、箒が言うべき台詞ではないのではなかろうか?

 

「セシリア、寮の門限前に時間は取れるだろう?」

「えぇ、問題無いと思いますが…」

「だ、だが!」

 

不安なのだろうな…杞憂に過ぎんのだが。

 

「箒、お前とて同じ立場に立ってみろ…少し心に余裕を持て。心の炉に…とは言ったが燃え上がるものをそのままにしては、自身すら焦がすぞ」

「ぐ……わかった…」

 

悲しい思いはしたくなかろうよ。

俺の顔に何を思ったか鈴はクスリと笑い目礼する。

気にするな、勝手にやっているだけだ。

 

「心の炉に…とは何ですの?」

 

あぁ、セシリアには話していなかったな。

 

「『心の炉に絆をくべろ、想いは伝えて意味を成す』だ。何かを失い何かを得ろと言う言葉でもあるな」

 

本当に良い言葉だと思う。

漫画の台詞だがな。

 

セシリアは俺の言葉を反芻し、思案している。

 

「ありがとうございます。確かに良い言葉ですわね」

「そう言ってもらえると俺も嬉しいものだ」

「それじゃ、訓練が終わった後食堂に来てよ一夏」

「おぅ、待ってろよ」

 

席を立ち上がり去っていく鈴を見送る。

さて、時間はまだあるな…。

 

「すまんが、一夏、セシリア…先に戻っていてくれ。箒に話がある」

 

少し、顔が怖かったかもしれん

 

「わ、わかった…また後でな」

「あまり、無理はなさらないでくださいまし」

[お手柔らかにね、ロボ]

 

二人が立ち去るのを見て深く息を吐く。

 

「なぁ、箒…お前にとって一夏はどんな存在なのだ?」

「何が言いたい?」

 

私は何も悪くない、という顔だ…だがな、いくら子供でも十五歳にもなれば譲り合いも知る。

 

「ただの幼馴染と言う関係であるならば、他の人間と話していると言うだけで不機嫌になるのは止めろ。一夏は一夏のものだと言う事を知るんだ」

「巫山戯るな!何故お前にそんな事を言われなくてはならない!姉さんの差し金か!?」

 

テーブルを叩き立ち上がる箒。

その目には再び敵意が湧いてくる。

 

「悪いが俺の意志だ。俺が思い、想い、お前に知って欲しいと願った俺の意志だ」

「お前に願われる筋合いはない!」

 

箒はそう言い、足早に立ち去っていく。

 

「知らねば、お前が傷ついてしまいそうでな…」

 

箒の背を見送り深く溜息をつく。

 

「ローロー…」

「のほほんか…心配するな…俺は慣れているからな」

 

全て見ていたのか不安そうな顔でのほほんがこちらに近寄ってくる。

俺は安心させるためにのほほんの頭をクシャクシャと撫でる。

 

「きゃー、やめてー」

「ははは、こやつめ」

 

我がクラス癒し担当だ。

本当に感情の機微に敏感だ。

白も好きになれるんじゃないか?

 

[そうねぇ、妹キャラよねぇ]

 

「のほほん、難しいかもしれんが箒と友達になってやってくれ」

「おー、お任せあれー」

「では、この飴を進呈してやろう」

 

俺はのほほんに飴を渡し立ち上がる。

のほほんが首に抱きつきぶら下がる。

 

「ローローレッツゴー!」

「承知」

 

俺はのほほんをぶら下げ歩く……馬鹿なっ!こいつの胸部装甲は化け物か!?

 

[あら…やったじゃない青少年]

 

くすくすと笑う声が聞こえてくる…これは下手な拷問よりキツイな。

俺は背中の感触に耐えながらも教室へと向かった。

クラスの皆に生暖かい目で見られたのは言うまでも無かろう。




お気に入りが100件突破してました…本当に本当にありがとう…みんな…それしか言う言葉が見つからない…

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