【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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パーティーナイト

「あ、銀くん来た来た!こっちこっち!」

 

寮に着くなり俺とセシリア、恐らくついでに楯無はクラスメイトに食堂まで案内される。

 

「織斑 一夏代表就任記念パーティ?」

 

食堂は手作り感溢れる装飾で彩られ、クラスメイト達に占拠されていた。

 

「楽しそうじゃない、私も一枚噛ませてくれたら良かったのに」

 

からからと更識は笑い会場を見渡す。

生来のお祭り好きなんだろう。

 

「狼牙さん、体調は大丈夫ですの?」

「招待されたんだ、四の五の言うのはナシだろう?」

 

セシリアの頭をポン、と撫で微笑む。

 

[あんまり強がっては駄目よ?]

「何、強がってはいないさ」

 

自分に言い聞かせるようにそう口にすると、セシリアが顔を真っ赤にして頭を抑えている。

…ウブだな、おい。

 

[悪い男だこと]

 

言ってろ悪女。

内心笑いながら、俺は会場隅の壁に腕を組んで凭れかかる。

 

「セシリアと更識は楽しめば良い。俺はこう言った立ち位置が一番好みなのでな」

[ロボは、いつもそうしていたわね]

 

あぁ、こうしているととても穏やかな気持ちになれるからな。

俺は皆がワイワイと楽しそうにしているのを眺めているのが好きだ。

その一瞬は平和で優しい世界だからな。

酒でもあれば尚良かったが、生憎と未成年の身…酒は我慢だ…そのうち酒造免許でも取ろう。

 

「あ、それじゃ織斑君玩具にしてくるわね!」

 

楽しそうに空気に飲まれている一夏の元へ向かう更識。

だが、セシリアは動かなかった。

 

「狼牙さんは、ご両親は…」

 

どうやら聞きたい事があるらしい。

周りのみんなは一夏に夢中でこちらにあまり気を配っていない。

 

「いや…幼少の頃に事故でな…」

「そうでしたか…わたくしも列車の事故で亡くしました」

 

成る程…それで家督を継いだ訳か…。

 

「父が狼牙さんの様に強く、優しい人ならばと思うのです」

「セシリア、それはどういう事だ?」

 

俺はセシリアの手を取り、テラスへと移動する。

あまり他人に聞かせるべき話でもないだろう。

 

「すみません…わたくしの父はいつも母に頭を下げていました。母だけでなく、他の人にも…」

 

俺は黙したまま先を促す。

きっと、この父親像が掴めればセシリアが頑なだった理由が見える気がしたのだ。

 

「誰にでも頭を下げていた父。今思えば、厳しかった当主である母はそんな父を見ても微笑んでいました。だから事故の時、一緒に居たのだろうと思います。父は、父は優しかったのでしょうか…強かったのでしょうか?」

 

男が頭を下げるべき時、それは誰よりも戦っている時だと俺は思う。

 

「セシリア、お前の父君は誰よりも強く、誰よりも誇り高い男だったのだと俺は思う」

「それは、何故でしょうか?」

「男はそう簡単に頭を下げるべきではないと言う事は、俺も理解している。女尊男卑が強く浸透していると言っても貴族社会だ…きっとセシリアの母君にも辛い立場である時があったのだろう」

 

古い伝統に倣うところは世情が反映されにくい。

女傑だったのだろう、オルコット前当主は。

力のある貴族からの嫌がらせもあったのだろうが…。

 

「男は愛する者の為ならば、命だって惜しくはない生き物だ。頭一つで愛する家族を守れるならば幾らでも頭を下げ、敵意を受けるべきならば敵意だって甘んじて受けるだろう」

 

セシリアの頭を撫でる。

悲しい思い違いだ。

きっと、生きている内に辛く当たってしまった事もあっただろう。

だが、それでも…愛しているならば、例え最愛の存在に詰られようとも…。

 

「あくまでも俺の想像だ…本当に情けない男だったのかもしれん。だがな、セシリア…もし、俺の言う通りの男だったのだとしたら…きっと世界中の誰よりも尊敬の出来るイイ男だったのだと思う」

 

俺はそう思いたい。

親であるならば…最愛の家族を持つ者ならば…。

 

「わたくしは…わたくしは…どうやって…」

「必死に生きろよ、セシリア…両親から受け継いだ、たった一つの生命なのだからな」

 

祖母に言われた大切な言葉。

人は受け継ぐ生き物だ。

命を受け継ぎ、想いを受け継ぎ、次代に託す。

それが良い事であれ悪い事であれ、未来へと受け継がれていくものなのだ。

 

「わかりましたわ…わたくしは…父を見つめ直してみたいと思います」

「あーっ!セシリア抜け駆けだー!!」

「者共出合え!出合え!!!」

 

シリアスな空気ぶち壊しだぞ、女子共。

俺は連行されるセシリアをハンカチを振って見送り苦笑する。

 

「ろ、狼牙さん、助けてくださいましー!!」

「まぁ、なんだ…親睦を深めるいい機会だ、行ってこい」

 

強くなれよ、セシリア。

 

 

会場に連行されるセシリアと共に戻ると更識が一人の女性と共にこちらにやって来る。

 

「へぇ、君がウワサの二人目ね。私は新聞部の黛 薫子(まゆずみ かおるこ)。たっちゃんの同居人で織斑 一夏君の親友である君にインタビューさせて!」

「構わんが…そう大して気の利いた事は言えんぞ?」

「大丈夫!その辺は捏造しておくから!」

「更識、友人は選べよ?」

 

まさかのゴシップ記者である…インタビューの意味はあるのか?

 

[いいじゃない、楽しそうだし]

 

お前はそれでも良かろうよ…。

 

「あら、薫子は私の親友よ?ちゃんと選んだ、ね」

 

開いた扇子には『唯一無二』。

あぁ、お前の性格ともピッタリだろうよ…。

 

「それじゃ!クラス代表になった織斑君に一言!」

「あれで、爆発力のある男だ。俺は期待している」

「つまんないわねー、適当に捏造しておくわね!」

 

せめて、それは本人の前で言わんでもらえるか?

 

「ほら、薫子…そこは『俺の倒すべきライバル()だから誰にも負けないでもらいたい』ぐらいの事書けば良いのよ」

 

なるほど、こうして捏造されている訳か。

 

「いいわねー!いただきよそれ!」

 

きゃっきゃと喜ぶ猫共…おのれ…。

 

「最後に専用機持ちで写真撮りたいから織斑君の所行ってきてねー!」

「承知」

 

頷き、行こうとするところで楯無に袖を掴まれる。

 

「さっき、何の話をしていたのかしら?」

「俺が父親だったら良かったと言われただけだ」

 

これ以上はプライベートな話だし、セシリアとしても胸に秘めておくべき事だろう。

 

「そう、他には?」

「楯無が思うような事は無い」

 

楯無の頭を撫でれば、少し嬉しそうにされる。

 

「そ、そう!それは良かったわ」

 

扇子を開くと『御満悦』と書かれている。

全く、何が良かったのやら、な。

 

[フフ、あまりからかっては可哀想よ?]

 

真っ直ぐに伝えてくるならば、それなりに応えるさ。

 

「一夏、ご苦労だな」

「おう、狼牙…次は勝ってみせるからな!」

 

拳を打ち合わせ笑う。

負けて悔しいからと言って相手に当たるでもなく、笑って次への決意を語る。

なんとも気風の良い男だ。

これで、箒や鈴の好意に気付ければ良かったんだがなぁ…。

 

「ど、どうしたんだよ…遠い目をして」

「あぁ…早く強くなってもらわんとな…と」

[そんなに酷いの…?]

 

白は、まだコイツの病気を知らんからな…おそらく、誰よりも女性の味方で誰よりも女性の敵の様な男だ。

 

[聞く限り軟派っぽく聞こえるけど…そうではなさそうね]

 

軟派だったらまだ苦労はせんよ…。

 

「じゃ、織斑君を中心にセシリアちゃんと銀君で両脇を固めてね」

 

セシリアがこちらに駆け寄ってくれば、指示通りに並ぶ。

周囲のクラスメイト達の目が鋭くなる…何をする気だ?

 

「7+7÷7+7×7-7はー?」

「50だろうに」

「ひっかからないかー」

 

パシャリ、と撮られる瞬間である。

一陣の風と共にクラスメイト全員が写真に写っているのである。

俺の横に更識が抱きついている。

それはまだ良い。

箒はちゃっかり一夏の前に陣取っている。

それも想定内だった。

何が驚きかと言うと、のほほんまで入っているのだ。

あのおっとり少女がである。

…意外とデキる女なのやもしれん…認識を改めねば。

 

「な、なんで皆さん…それよりも更識さんっ!?」

「ふふーん、良き抱き心地ね!」

「良いから、離れろ…」

「みんな修羅場がくるぞー!!」

「銀君は、女たらしと…」

[強ち間違いじゃないあたり否定できないわよねぇ…懐いてきたの女の子ばかりだったし]

 

止めてくれ…不名誉すぎる…。

セシリアと楯無は俺の両サイドで喧嘩を始め、一夏はそれを見て笑い、クラスのみんなは囃し立てる。

だが、不思議と幸せだとも思えるのだ。

願わくば優しい時間が続いてくれることを……。

 

 

 

 

「ぐ…ぅ…」

 

深夜、更識 楯無は魘される声に目を覚ました。

狼牙は時折悪夢に魘される。

 

「と、ぅさ…かあ…」

「大丈夫…すぐに良く眠れるわ」

 

楯無は虚空に伸ばされる狼牙の手を握り、そのまま抱き着く形でベッドに入る。

 

「く……し、ろ……」

 

白、と言う言葉を楯無は初めて聞いた。

一体何者の事なのだろうか?

 

「好きな人の名前だったら嫌ね…」

 

心にチクリと刺さる思いがして、それを忘れるように楯無は眠りについた。


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