【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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白と銀

「わ、私も放課後の一夏の訓練に付き合っていいか?」

 

今日の最後のSHR終了後、箒が此方に駆け寄り俺達に話し掛けてくる。

 

「構わんだろう、それに箒は剣道の大会で優勝する程の腕前だ。一夏に太刀筋のアドバイスだってできるだろうしな」

「あぁ、箒にはまだまだ世話にならなきゃいけない」

 

一も二も無く俺と一夏は頷くと箒は一瞬で俺に向ける敵意を消した。

…他にも友人が出来れば良いのだがなぁ…。

 

セシリアが此方へとやって来る。

 

「セシリア、今日は俺と一夏とで模擬戦をやらせて欲しい。箒と二人で問題点を洗い出して欲しいんだが」

「えぇ、分かりましたわ。アリーナの使用許可も得ていますから急ぎましょう」

 

時間は有限だ。

有効に使わないとな。

 

[ただいま、貴方のお友達だったわよ]

 

ISにコンタクトを仕掛ける友人…あぁ、束さんか。

プライベートでの覗き見は出来ないようにしておいてくれ。

 

[構わないけど…でも私、話してしまうわよ?]

 

直接見られるよりは、遥かにマシと言うものだ。

と、言うか白も興味の対象になったか…コアと直接会話できるともなれば当然か。

 

「浮かない顔をしていますわね」

「あぁ、色々と丸裸にされているようでな…」

 

軽く頭を抱える。

何とも末恐ろしいものだな、束さんよ。

 

[いいじゃない、情事だって見られたことあるんだし]

 

おい、馬鹿止めろ…随分と昔の話を持ち出したな…。

ゲンナリとした顔をして深い溜息をつく。

 

「げ、元気出せよ狼牙」

「不甲斐ない顔をするんじゃない、銀」

 

一夏は俺の背を叩きながら励まし、箒は箒で口調こそ厳しいが敵意は感じられない。

さて、アリーナに急ぐとしよう。

席を立ち、四人でアリーナへと向かった。

 

 

 

 

 

天狼を身に纏いアリーナ内へと飛翔し、空中で停止…腕を組み一夏を待つ。

観客席がまばらとは言え埋まっていた。

馬鹿な…半刻程前の話がもう広まっているのか…。

 

[女性は話題の男性操縦者に夢中なのよ?寧ろこれでも広まっている方じゃ無いと思うわ]

 

やはり、もう俺と一夏に気の休まる場所は無いらしい…。

最近女子達の連携具合が強化されて来ている…何か手を考えたいところだが、たった二人の為に教師陣も労力を割く訳にも行かんしな。

 

[白式のシールドエネルギー感知したわよ]

「待たせたな」

 

一夏が白式を纏い躍り出てくる。

授業で見せたような飛行では無く、しっかりしている…なるほど、本番で輝くか。

 

「何、大して待っていない…始めようか」

「負けないぜ、狼牙!」

「全力には全力で応えさせてもらおう」

 

 

ゆっくりと腕組みを解き拳を構える。

対する白式は雪片弐型を構える。

 

カウントスタート。

白、リミッターの解除の準備をしておけ…一度体感する必要がある。

 

[分かったわ、でも無理しては駄目よ?]

 

無理無茶無謀は昔も今も俺の専売特許だ。

試合開始のブザーと共に瞬時加速、一瞬で接近しながら加速の乗った回し蹴りを一夏の腹に叩き込むと身体がくの字に折れ曲がり、アリーナの壁に向かって弾き飛ばされていく。

 

「グァッ!!クソッ!!!」

 

一夏はPICを制御、壁に衝突する寸前で停止し痛みに顔を呻きながら此方へと突撃してくる。

俺は挑発するように手招きし、待ち構える。

 

「くぅらぁええええ!!!」

 

一夏は零落白夜を発動し、必殺の一撃を唐竹に叩き込もうとするが俺はそれを余裕を持って後退する事で掠らせる事なく避ける。

 

「単一能力に頼るなよ、燃費が悪いのを自覚しろ」

「ハァッ!!」

 

零落白夜は一撃必殺。

燃費が悪いのであれば、匂わせるだけで相手の行動を制御できることを覚えなくてはならない。

一夏は続けざまに零落白夜を発動させたまま踏み込みながら横薙ぎを放とうとするが、自分の身体のように馴染んでいる天狼を身に纏っている俺には真っ直ぐ過ぎる。

ほぼ同時に踏み込んで一夏の左腕を掴み足払いを行い天地を回転させ流れる様にローキックで顔面に蹴りを叩き込み、地面と衝突させる。

 

「刀に頼るなよ。武器を持ってるからといっても、間合いを真に詰められるからそうなる」

 

腕を組み、弾き飛ばさる一夏見つめる。

 

[お父さんは鬼教官ね]

 

くすくすと笑いながら茶化してくる。

強くなりたいのであれば、手段は選べない事も知るべきだろう。

無論、矜持に準じたやり方である必要はあるが。

 

「クソッ、なんで当たらないんだ!」

「お前のように真っ直ぐだからだ…他の奴らには通用しても俺には通用せん」

「俺は、負けられない…負けられないんだ!」

 

気迫があっても身体が追いつかない。

勝ちも負けも、全ては糧になるだろう。

だから…

 

「白、リミッターを解除しろ」

[アイ・アイ・サー]

 

狼の遠吠えの様な音と共に機体の各所のクリスタルが輝き、背面の円形シールドが二対の翼状の大型スラスターへと変化する。

 

「だから、一夏…全力で足掻けよ。足掻いて足掻いて、敗北も知って…そして誰よりも誇り高く強くあれ」

「狼牙…?」

 

俺の持てる、全力の爪と牙…受けると良い。

 

 

 

 

 

織斑 一夏は困惑した。

一撃も有効打を与えられないまま翻弄され、地に叩き伏せられ…。

本当に自分と同じIS初心者なのかと。

瞬時加速すら既にマスターしたのか容易く行い、『千冬の様』に一撃を叩き込んできた。

フルフェイスの奥の表情が読み取れない。

親友がどのような表情(カオ)をしているのかが解らない。

そもそも…目の前の男は銀 狼牙なのだろうか?

 

「だから、一夏…全力で足掻けよ。足掻いて足掻いて、敗北も知って…そして誰よりも誇り高く強くあれ」

 

暖かい声音が届くと銀の姿が爆音と共に消え、一夏の身体が弾き飛ばされる。

 

「んなっ…!!」

 

ハイパーセンサーを用いて天狼の姿を追う。

天狼は急制動をかけた瞬間に瞬時加速を用いて再び突撃を仕掛けてくる。

 

「そこだぁっ!!」

 

しかし、一夏が雪片を振るう前に再び弾き飛ばされる。

幾度も幾度も繰り返される瞬時加速による突撃は、狼の群れに襲われているように一夏に感じさせた。

前から襲いかかってきたと思えば右から現れて、左から来ると思わせれば後ろからやってくる。

 

「クソッ…!」

 

目が慣れてきたのか刀で攻撃を防ぐが、対応に手一杯になり零落白夜を使用した事により少なくなっていたシールドエネルギーがどんどん削られていく。

 

「これで終いだ」

「まだだぁっ!!」

 

イチかバチか…一夏は、ハイパーセンサーに映る銀影の移動先を直感で先読みし刀を振るう。

対する天狼はそれすらも読んでいたのか直前で急制動をかけると、片翼だけで瞬時加速をかけて回転しながら回り込み後頭部目掛けて回し蹴りを叩き込み、白式のシールドエネルギーを削り切った。

 

 

 

 

[随分と無茶したわね]

 

無理無茶無謀は専売特許と言ったはずだ。

俺は天狼を身に纏ったまま、一夏を見下ろす。

一夏はアリーナの地面を殴りつけ悔しがっている。

伸び代がある、だからきっと強くなれるだろう。

 

俺はコアネットワークのプライベートチャンネルでセシリアに連絡を取る。

 

「すまんが、俺は反省会をパスさせてもらう。後は、頼んだぞ」

「え、えぇ…その、大丈夫なのですか?」

 

俺はセシリアとの連絡を切りピットへとゆっくりとした速度で入っていく。

 

[貴方は人間なのだから、無理をしてはいけないわ]

 

肝に銘じよう…ISのバイタルコントロールですら抑えきれない吐き気に耐えながらピットに入れば天狼を待機状態に戻し、更衣室へと入る。

 

「成る程、人が乗るように出来ていない」

 

ベンチに倒れ込み吐き気に呻く。

幸いにして、骨には異常が出ていない。

これはISスーツの機能とISの保護機能のおかげだろう…だが…。

 

「白、とりあえず束さんが接触してきたら…馬鹿かと罵ってやろう」

[作ってもらってそれは酷いんじゃないかしら?]

 

普通はこんな馬鹿な物は作らんだろうに。

吐き気に耐え兼ねた俺は、胃の中身を吐き出す。

ISを使うときは前もって食事を抜かんとな。

吐き切った後、着替えもせずにボンヤリとしていると扉からノック音が響く。

 

「セシリアです。大丈夫ですか?」

「反省会はどうした?」

 

大して時間が経っていないので不思議に思う。

 

「篠ノ之さんが、面倒を見ると引っ張っていってしまいまして…」

 

一夏…強く生きろよ。

箒は、もう少し協調性を覚えてくれ。

 

「すまなかったな、セシリア…お前の意見も重要だと思っていたのだが」

「いえ、気になさらないでください。待っていますので一緒に帰りませんか?」

 

提案はありがたいが…今の情けない顔も見られたくはない。

 

「…先に帰っていろ、着替えも済んでいないのでな」

 

あまり情けない姿を見せたくもない。

 

「ですが…」

「格好ぐらいは、つけたい年頃なのでな」

「わかりました」

 

セシリアが扉から離れていく気配を感じれば、俺は急いでシャワーを浴びて制服に袖を通す。

あまり悠長にしていると、アリーナが閉められてしまうからだ。

少々覚束ない足取りでアリーナを出ると更識とセシリアが待っていた。

 

「さ、狼牙君…おねーさん達と帰りましょうか」

「えぇ、えぇ…有無は言わせませんわよ?」

「セシリアは分かるが、どうして更識がここに居る?」

 

セシリアが簡単に引き下がったので待っていたのは分かってはいたが…。

 

[愛されてるわねぇ…]

 

好意は分かるが、明確に伝えられてはいないのでな。

 

[意地悪なのね、ロボ]

 

軽く肩を竦めて苦笑する。

 

「おねーさんもさっきの訓練風景見てたのよ…狼牙君みたいに筋肉の鎧があっても、ISの保護機能があっても辛いのはお見通しよ」

「あの様な瞬時加速をされれば、誰だって不安になりますもの」

[本当よねぇ…身体は大切にしてもらいたいものだわ]

 

正直、白には決して言われたくない。

 

「仕方あるまいよ、ああ言う機体なのだからな…突っ立っている訳にも行かん…帰るぞ」

 

深い溜息と共に俺は歩き出し寮へと向かうと二人も並んで挟み込むように歩く。

 

「とにかく、帰って寝よう…流石に疲れた」

「おねーさんが膝枕してあげよっか?」

「だ、駄目ですわ!!」

 

眉間を揉みながら溜息をつく。

頼むから喧嘩しないで欲しい…。

星が夜空を彩る中、からかう声と荒げる声…そして溜息が帰路に響くのだった。


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