【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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ちょっとした説明会ですので、退屈です……


友、西より来りて
優しき日常


「――この時、銀君の行っていたこの移動法は瞬時加速と言って――」

 

SHRを終え、一時限目。

ISバトルにおけるルールや戦闘に関するISの機能の授業だ。

PICやスラスターの機能を昨日の戦闘映像を用いて説明をしていく。

これが中々に小っ恥ずかしい。

戦闘中の会話ログまで公開されるのだ。

白との会話は流石に無かったが、瞬時加速を行う際の独り言がバッチリ出ていた。

耳まで赤くなる。

なんと言う拷問か…しかも専用機持ちになれば、高確率で授業に使われることになる。

努めて鏡を見ないようにしていたのだが、ISを操縦する際に補助の役割を持つISスーツ…俺のものは頼んで露出を少なめにしてもらったが、とにかく露出が多いのだ。

しかもボディラインのはっきり出るもので、女子達から時折黄色い声が上がる。

 

「すごい、たくましー」

「ぐはっ…!」

「メディック!メディーーック!!」

 

だがな、女子共…喜んでいるのも今の内だ。

実践訓練の時にISスーツを着ることになるのだからな。

深いため息と共にノートに山田先生の発言をメモしていく。

瞬時加速、使いこなせれば面白そうだな。

 

「ISバトルのルールは、シールドエネルギーをゼロにするか制限時間切れの時の残存シールドエネルギーの差で勝敗が決まるのは皆さん知っていますね?このシールドエネルギーにはリミッターが付けられていて、ISの総エネルギー量の半分は残るようになっています。これは――」

 

ISはどこまでいっても兵器の扱いだ。

人を殺せる、そう言った道具だ。

特殊な防御能力…絶対防御と呼ばれる人体に決してダメージを通さないこの能力もシールドエネルギーに依存している。

シールドエネルギーが無くなった時、身を守る術が無くなるのである。

スポーツと化しているISバトルにおいてこれは拙い。

そのためのリミッターなのだろう。

 

「織斑君の白式の近接ブレード雪片弐型(ゆきひらにがた)は織斑先生の現役時代の愛刀雪片の後継機で、単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)も同じエネルギー無効化の零落白夜(れいらくびゃくや)です。単一能力と言うものはコアと操縦者が最高相性の時に使用できる能力で本来は二次移行(セカンド・シフト)したISが発現しやすいのですが、それでも世界的に見ても発現している例は少ないんです」

 

単一仕様能力か…現在世界で開発を始めている第三世代機は単一仕様能力を機械的に再現して兵器化したものなのだそうだ。

こうなると第四世代は何を目指すのか気になるところだ。

宇宙を目指したものが次代になると喜ぶと思う。

主に一人アリスが。

 

 

 

予鈴が鳴り一時限目が終了、休憩時間となりセシリアと箒がやってくる。

 

「狼牙さん、一夏さんのISスーツとは違うものを着ていましたわね」

「そうだな、なんでなんだ?」

 

箒がやや不機嫌そうにしながらもセシリアの言葉に頷く。

何で不機嫌なんだ?

一夏のISスーツはお腹周り剥き出しの露出のあるものだが、俺のものは全身を覆うウェットスーツみたいなデザインなのだ。

 

「あぁ、昔の事故でちょっとな…ここが男子校であれば気を使わんのだがな…女子が見てもいい気分はせんだろう」

「結構酷いもんだったからな…人造人間かと思ったぜ」

 

ハハハ、こやつめ。

まぁ、事実手術痕やら裂傷痕やらで本当に酷い。

同室の楯無にも気を使って着替えも気が休まらない。

 

「そ、そうなのか?」

 

箒がじっとこちらを見てくる。

俺は制服の袖を捲り腕に走る縫合痕を見せる。

 

「まぁ、こんな具合だ。お陰で夏も薄着ができん」

「苦労なさっていたのですね」

「大したものではない、生きているのだからな」

 

そう、生きている…失ったものは大きいが、胸を張って俺はこの世界で生きている。

 

「本当、狼牙は強いよなぁ…」

「虚勢に過ぎんと言ってるだろうに」

「「うそだな(ですわ)」」

 

ええい、敵しかおらんのか此処には。

 

「わたくしの狙撃に躊躇せず瞬時加速で突っ込んできた殿方の言う台詞ではありません」

「千冬さんとまともに殴り合いしているのも見ているぞ!」

 

ぐ…返す言葉も無いな…

 

「絶対強いよな、狼牙」

 

一夏の言葉に頷くクラスメイト達。

 

「強いとは言うが、セシリアに負けたしな…精進せねば」

 

努力は人を裏切る、と言った妖怪がいるそうだが無駄にはならんと思う。

そうだ、努力と言えば。

 

「あぁ、そうだ…セシリア、一夏を代表戦まで鍛えてくれないか?」

「わたくしがですか?」

 

胸元に手をあてて首を傾げる。

セシリアはどうにもポーズをつけてしゃべる癖があるようだ。

 

「い、一夏の訓練は私がやるんだ!」

「箒、一夏もセシリアも専用機持ちだろう?未だに訓練機の貸し出しが申請できんのだから、セシリアにIS訓練を頼むのは道理と言うものだ」

「まぁ、そうなるよな…」

「一夏!!」

 

箒の機嫌がみるみる悪くなる。

分かってはいるが、代表に選ばれたのであれば…戦いに臨むのであれば勝ちを求めねばな。

 

「なに、代表戦までの話だ…放課後を訓練に当てて、朝を箒と一夏の時間に使えば良いではないか」

「…分かった…」

 

納得していないのか目を逸らし俯く箒…どうにも、面倒に育ってるぞ束さん。

 

「では、セシリア…すまんが頼めるか?」

「は、はい、狼牙さんの頼みとあらば鬼教官にだってなってみせます!」

「お、お手柔らかに頼むぜ、セシリア」

 

舞い上がるような雰囲気で席に戻っていくセシリア。

それとは対照的にイライラとした様子で席に座る箒。

すまんな、箒…だが、一夏の望みを叶えるためでもあるからな。

 

「なんで、箒はあんなにイラついてるんだ?」

「お前と放課後に剣道ができんからだろう…朝やれ朝」

 

こう…ヒントを出しても気付かんのが一夏ブレインだ…箒も箒でアピールが女の子らしくないのが原因か…。

さ、次は千冬さんの授業だ…無駄話を止めて授業に取り組むとしよう。

 

 

 

昼休み、千冬さんに職員室に呼ばれ扉をノックする。

 

「銀だ。入らせてもらう」

「来たな、お前の専用機について話がある」

 

扉を開け職員室に入ると一斉に女性職員の目がこちらに向く。

男日照りの影響なのだろうか…そんなに熱い視線で見られても困るのだが。

内心溜息を吐き出しつつ千冬さん元へ向かう。

 

「例の話はどうなったのだ?」

「倉持側も興味を持ったのか交換することを了承してくれた。コアネットワーク経由で情報が送ることになっているが…」

 

やはり、データは欲しいらしい。

コアそれぞれに心があるが、ハッキリと対話したと言う例はゼロに近い。

倉持は専用機用にセットしたコアの初期化まで行ってくれていたが、こちらの提案に軽く乗ってくれたようだ。

 

「で、あれば嬉しい…ありがとう織斑先生」

「可愛い教え子のワガママぐらいは、偶には聞いてやらんとな」

 

微笑を浮かべながらこちらを見上げてくる千冬さん。

いやはや、頭が上がらん思いだ。

 

「今日の夕方に搬入されるから、明日の授業中にフィッティングを行ってもらえるか?」

「承知」

「では行っていいぞ」

 

頭を下げ職員室を出ると一夏が待っていた。

 

「なんだ、昼は食べたのか?」

「おう、ただなぁ…千冬姉に呼ばれたって聞いたからさ、心配で」

 

その友人思いの感情を異性の好意に気付く事に向けるべきだろう。

 

「専用機が来るから、明日の授業でフィッティングの実演をして見せろと言われただけだ」

一次移行(ファースト・シフト)すると生き物みたいに機体が変化するんだぜ…あれは何か凄かったな」

「ほぅ、楽しみにしておこう」

 

白の宿るコアの一次移行…どうなる事やら…

 

「どんなISなんだろうな」

「どうせゲテモノだろう…案外武装らしい武装が無いかもな」

 

格闘戦がマトモにできれば俺としては文句はない。

どうにも射撃と言うのは意識的に苦手だ。

引き金が命の重さになりそうで…それの忌避感なのかもしれん。

 

「ゲテモノって…まぁ、俺も大概だけどさ」

 

聞いた話だと一夏の白式はやたらとエネルギー効率が悪い上に、単一仕様能力の零落白夜は更にエネルギーを食うと言うのだ…しかも武器は近接一本…実に男らしいな。

いや、コアに性別があるのかは分からんが

 

「随分とピーキーな機体だったな…白式は」

 

一夏の右腕に装着されているガントレットを見る。

白式の待機形態だ。

専用機は何かしらのアクセサリーになるそうなのだが、一夏はガントレットだった…それはアクセサリーでは無いだろう。

色々と規格外だな、一夏は。

 

「本当だよな、でも此奴と一緒に強くなって見せるさ」

 

そう言ってガントレットを撫でながら笑う一夏の背を軽く叩いて、気合をいれてやる。

 

「代表戦まで時間があまり無いからな、頑張れよ」

「おう!」


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