【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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狼、邂逅す

さて、無事旅館でのチェックインを済まし、荷物も部屋に置いて自由行動と相成った。

部屋は今回も臨海学校に引き続き千冬さんと一夏と相部屋と言う形だ。

セシリア達に恨みがましい目で見られたものの、一応学園の旅行なので寮内の様に一緒にする訳にもいかないだろう。

班ごとで行動する事にはなっているものの、学園の規則に縛られない時間と言う事で、ギリギリまで観光しようと言う班があれば逆に長旅の疲れを癒すために周辺の散策に留める班もある。

俺の班は後者に該当する…と、言うのもセシリア達が俺の体を気遣ってくれたからだ。

明日の昼頃、この京都の地下に設けられたISアリーナにて二代目ブリュンヒルデと相対する事を明かしたからだ。

千冬さんに並ぶ実力者…どのような性格の人間かは知らんが、侮って良い相手では無かろう。

寧ろ、俺の事を侮ってもらっていれば、その分気が楽と言うものだ。

ともあれ、美人からの指名だ…精々楽しんでもらえる様に頑張るとしよう。

ラウラの体を抱きかかえて肩車をしてやりながら、セシリア達と出発する。

旅館の近くには小さな通りがあり、観光地から離れていると言う事もあって人通りが少ない。

道の両脇に植えられた紅葉が鮮やかな赤に染まり、ひらひらと落葉していく。

その何処か幻想的な道をセシリア達と一緒に散策していく。

 

「狼牙さんに大物からの指名…嫌な予感しかしませんわね」

「どこ行ってもトラブル塗れだ…昔から変わらんが、そろそろ平凡な生活に戻りたいが…」

「…そう言う、星の下に生まれてる、のかな?」

 

正確には白蛇の干渉マシマシの結果である。

この干渉が無ければ、セシリア達と知り合う機会が無かったかもしれないと思うと恨むに恨めないが。

ラウラが落ちてくる紅葉を手に取って、太陽にすかす様にかざして見つめている。

さして珍しいものでもないと思うのだが…?

 

「…四季と言うものに私は無頓着過ぎたかもしれないな」

「ラウラ、どうしたの…?」

「毎日訓練訓練また訓練…訓練が終わったら味気ないご飯を食べて体を休める。軍に居れば当たり前の事なのだが、こうして季節の巡りを楽しむ事はこの国に来てからが初めてなんだ」

 

勿体ない事をしていた…そうラウラは言って、はにかむ様に笑う。

そんなラウラの言葉を聞いて、俺は思わず笑みを浮かべてしまう。

自分が変わった…そう認識して、受け入れているからこその言葉。

転入してきた時では考えられないその思考は、ラウラが学園生活で何かを感じ取り、何かを得たと言う事だ。

もし、それが俺のお陰なのだと言うのならば…これほど嬉しい事も中々無いだろう。

 

「フフ、余所見している余裕が無ければ尚更ですわね。わたくしも、季節の変化と言うのは気にしていませんでしたし」

「私も、かな…狼牙が居てくれなきゃ、今でもお姉ちゃんとの蟠りは、解けてなかっただろうし…」

「結局、父様が…狼牙が居てくれなければ、私達は変わる事が無かったのかもしれないな」

 

三人とも俺の事を見てクスリと笑う。

俺が居たから…と言う事も無い気はするんだがな…。

セシリア、簪、ラウラ…ついでに今この場に居ない楯無…いや、刀奈もそうだが、皆本質は素直な娘達だ。

固定観念を崩す事さえできれば、すぐに打ち解ける事はできるだろう。

そして、その役目は別に俺でなくとも良い…今回、偶々俺がその役目を担ったと言うだけの事なのだから。

ただ、まぁ…役得よな。

そう言った役目があったからこそ、心を交わし、絆を結び、愛を育んでこれたのだから。

 

「肩肘張らずに、自然体で居られる様になったからだろう。お前達の本質が変わっているわけでは無いと思うがな」

「そう、かなぁ?」

「そうだとも…皆、良い子だからな」

「その言い方ですと、狼牙さんがお父様みたいですわ」

「フフフ、私の父様だからなっ」

 

対等の恋人関係であると同時に、こればっかりは仕方ないのだが、時折年寄り臭い事を言ってしまいがちだ。

それが余計にクラスのファザコンを刺激していると言うのも理解はしているのだが…性格上今更曲げられんな。

そんな表に出さない懊悩とは裏腹に、ラウラは何処か誇らしげに胸を張って笑みを浮かべる。

…父様、父様と慕ってくれていたが、その内ラウラは俺の事をそう呼ばなくなるかもしれん。

少しばかり寂しいと思うのは、父親目線で見ていた所為なのだろうか…?

 

「ラウラ、恋仲になっても父呼びは変えないの?」

「簪、適材適所だ…それっぽい雰囲気になったら名前呼びを敢行するのだ」

「ブレッブレですわねぇ…」

「あぁ…確かにブレてるな…」

「ぐぬぬ…しかし、しかしだ…今更父様呼びを止められないと言うのを私は悟ったのだ!」

 

どうやら、ラウラの父呼びと言うのは今しばらく続きそうでホッとしてしまう辺り、俺もラウラの事は強く言えんな…。

暫く他愛ない会話をしつつ石焼き芋の屋台が通りがかったので、出来立ての焼き芋を二本購入して四人で分ける。

本格的な石焼き芋の窯を見るのはラウラは初めてな様で、興味深々と言った表情でラウラは見つめていた。

焼き芋と言うと、俺が企画したレクリエーションの時以来だったか…また、ああ言った催し物をやってみたいとも思うのだが…う~む?

 

「父様、石焼き芋は以前食べた焼き芋とは少し違うな?」

「あぁ、あれは焼き芋と言うより蒸かし芋に近いからな」

「こっちは焼いた石で直接焼いていくから、皮がカサカサしてる。この間のは、濡れた新聞紙とアルミホイルで包んでたから蒸されてしっとりしてるの」

「あの時のお芋も美味しかったですが、此方のお芋も美味しいですわね…」

 

二人で一本ずつと言う事で、焼き芋を手で割ってそれぞれに渡したのだが…この芋、熟成してから焼いているのかやたらと濃厚な蜜がたっぷりと詰まっている。

サツマイモは熟成させることで実の中に糖分を大量に蓄える…それが焼かれた時に溶け出して、まるで蜂蜜の様にドロリとした蜜となって溢れ出すのだ。

蜜の溢れるサツマイモは頬張ると、しっとりとした食感と共に強烈な甘さが口の中を支配していく。

 

「…渋めの緑茶が欲しいな」

「ん~、わたくしは紅茶が…」

「いや、ココアだろう」

「お抹茶が、いい…」

 

セシリア達に付き合って甘いものをよく食べるようになったが、それでも俺は甘いものがあまり得意ではない。

嫌い、とは言わんが…この喉が渇く感覚がどうにも苦手でな…。

ただ、女性陣はそれでも甘いもの×甘いものと言う組み合わせで、胃袋に詰める事が出来るのだから大したものだ。

 

「とりあえず、自販機のジュースで我慢だな…紅茶にココア、簪は俺と同じ緑茶でいいな?」

「うん…私が行くよ?」

「いや、構わんよ」

 

ラウラを肩から降ろして、懐から財布を取りだしつつ近くの自販機へと歩み寄る。

時期がら暖かいものがあって助かるな…流石に屋外でコールドドリンクは手がかじかむ。

硬貨を自販機へと投入していくと、足元に猫が擦り寄ってくる。

綺麗な毛並みのその白猫は、どうも俺の事が気に入ったようなのか体を擦り付けてくる。

 

「にゃぁ」

「ふむ…どこの子か…?」

 

片手で四人分のジュースを抱えつつ、軽くしゃがみ込んで白猫の頭を優しく撫でてやる。

ゴロゴロと気持ちよさそうに喉を鳴らしながら目を細める白猫に、思わず笑みを零す。

綺麗な首輪にペンダントトップが付いている…名前は…。

 

「『シャイニィ』…か?キチンと勉強しているんだが、英語はどうにも苦手だな…」

「にゃぁ~」

 

白猫はクスリと笑う様に目を細めて、俺の手から逃れていく。

猫は気まぐれなものだからな…俺も何かと白猫には悩まされたものだが…。

白猫シャイニィは、小走りに路地を歩いたかと思うと此方を振り返ってじぃっと見つめてくる。

…猫の観光案内か。

随分と洒落たものだが、生憎と班行動中…そうおいそれと単独行動をしてしまうと、セシリア達にこってりと絞られてしまう。

 

「なにか、ありましたか?」

「ん…あぁ、白猫がな?」

「白猫…?」

 

あまりにも遅いので心配になったのかセシリア達が此方にやってくる。

俺はセシリア達にジュースを渡しつつ、未だに此方を見ている白猫を指差す。

 

「懐かれた様でな…俺に懐く猫なんぞ、二匹くらいしか知らなかったのだが…」

「ずっと、こっちを見ているの…?」

「どうだろう、時間もまだあるしあの白猫について行くと言うのは?」

「あまり時間を掛けては狼牙さんが大変では…?」

 

ラウラの提案にセシリアは難色を示すものの、俺はそれを手で制して首を横に振る。

シャイニィは俺に用があるのだろう…で、あれば付き合ってやるのもまた面白い。

 

「そこまで俺は病弱ではないぞ、セシリア?」

「そ、そうですが…万全で戦っていただきたいですし…」

「気持ちはありがたいが…主目的は観光だ。で、あれば猫の観光案内に乗るのもまた一興と言うものだ」

「狼牙って、たまにロマンチックな事、言うよね?」

「存在がロマンチックだからな」

 

前世云々とか…昔の女、とかな?

皆がおとぎ話だと思っているような世界に住んでいた身としては、自身の事をロマンチックな存在と言わざるを得んよ。

とは言え、少しばかり気恥ずかしくなってしまって、俺はソッポを向いて頬をかきながら歩き始める。

 

「あ、逃げた」

「逃げてない、逃げてないからな?」

「うむ、逃げたな」

「逃げましたわ」

「味方が、欲しいな…」

 

今後、結婚云々は別にして共同生活を送っていくうえで確実に尻に敷かれそうな気がしてならないな。

セシリア達と歩きながら、少し先を歩く白猫の後をついていく。

京都の街は区画整理されている為、網目状に道が入り組んでいる。

念のため、GPSを用いてマップを見ながら歩いているものの、まるで迷路に迷い込んだかのように右へ左へと彷徨っている。

しかし、シャイニィはしっかりとした足取りで京都の路地裏を歩いていく。

まるで日々の散歩コースを歩いているだけだと言わんばかりだ。

 

「大昔の街並みがそのまま残っているのだろう?しっかりとした都市計画の元に作り上げられたのだな」

「えぇ…道こそ狭いですけども…風情と言いますか…今では感じられない雰囲気を感じますわ」

「ただの散歩が、探検みたいになってきたね」

「しかし、かれこれ三十分程か…そろそろ夕刻になるが…」

 

冬の日照時間と言うものは短い…滅多な事は起こらないだろうが、俺は悪目立ちしがちだ。

変に絡まれるような状況になるまえに旅館に引き返すべきか、と思案していると前方から凛とした声が聞こえてくる。

 

「おかえり、シャイニィ」

「にゃぁ~」

 

思考の海から戻り、立ち止まって声の主へと目を向ける。

鮮やかな赤の髪、刀の鍔の眼帯を右目につけ、綺麗な紅の染物の着物を着崩して着ている所為で肩から胸元まで大胆に露出している。

しかし、そこにいやらしさは一遍も無く、言ってしまえば芸術的な美しさがある。

目についたのは、肌蹴た着物の右肩辺りに古いものだが火傷痕…なにより右腕を欠損している。

すらりと伸びた足も美しい…花魁下駄を改造してピンヒールにしているのは些か奇怪ではあるが。

まぁ、和服の上に革ジャンを着るような人間がいるんだ…ピンヒールくらいは何てことないだろう。

総じて、美しく危険な匂いのする女、と言った所か…。

セシリア達は口をパクパクとさせながら、シャイニィを右肩に乗せた女性を見つめている。

 

「ヘェ…日本の狼は絶滅したって聞いてたけどサ…中々良い面構えじゃないカ」

「生憎と、人間しかここには居ないが…?」

「ん~案外つまらない男カナ?冗談サ。それより、シャイニィと遊んでくれたみたいだネ」

 

左手で綺麗な彫り物が施された煙管…所謂銀延べと呼ばれる全て金属でできた煙管で紫煙をくゆらせながら、女性は人懐っこい笑みを浮かべる。

…時折喧嘩を売られているような気配が叩きつけられるんだが…それに、セシリア達が押し黙っているところを見ると…この人が、そうなのか…?」」

 

「君の疑問に答えてあげようカ?」

「そんなに俺は心が読まれやすいのか…鉄仮面でも用意せねばな」

「う~ん、いいネぇ…銀 狼牙。そこらの腑抜けよりかは楽しめそうな面構えサね」

 

どうも、目の前にいる女性が、二代目『世界最強』のアリーシャ・ジョセスターフの様だな。

俺が気付いたと分かった瞬間、殺気とは異なる気配…言ってしまえば闘気とかそう言った類のヤる気満々の気配をぶつけてくる。

俺はただ、柳の様にそれらを風の様にいなしていくだけだ。

…世界最強はどちらもバトルジャンキーか何かなのだろうか…?

 

「明日を楽しみにしてるヨ」

「あまり期待せんでもらいたい…だが、貴女に勝つ為に八方手尽くさせてもらおう」

「そうでなくっちゃネ。それじゃぁ、明日、アリーナで」

 

アリーシャはそれだけ言うと、煙管を口に咥えたまま歩いて立ち去って行く。

…あれは狩りにも全力で挑む獅子の様な女だ。

適当に流すつもりは無いが、相応に覚悟のいる相手だろう。

俺は、アリーシャの背中が見えなくなるまで目をそらさずに見つめ続けるのだった。




や、本当に更新遅れて申し訳ない…

ハンターの悪夢でハンターに狩られたり、ルドウィークと対峙したり啓蒙高めたり
本能寺がぐだぐだと燃えてたりと…さらにモンスター狩りに行かなきゃでして(最低

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